上 下
431 / 465
最終章 彩色師は異世界で

1.次代に繋ぐ③

しおりを挟む



「後悔は……してない。けど、、」

バルドの体に伏せていた身を起こす。軽く見下ろす形で見つめ合い、居た堪れずに顔を逸らす。

「縛られるの意味をあの時、あの場所で知ってたら、絶対に拒否した。それだけは後悔してる」

泣きそうになるのを我慢し、横目に睨む。当のバルドは、俺のそれに堪えた様子もなく笑う。
ムッとして睨みつけるが、全く、意に介さない。手首をやんわり掴まれ引かれるが、頑として拒む。
苦笑し、バルドが自分から体を起こして身を寄せてきた。

「それが分かってたから話さなかったんだ」
「ひどい奴……」

縛られる。
魂、理ごと。
バルドがルーに願いでたのはそれ。
文字通り。自分の魂、理を、

「お前と一緒で、転生は暫く叶わん。が、箱庭の再生が終わり、核から解放されれば再び転生する。水の魔導は普通に生まれる。問題ねぇだろ?」
「問題なくない!!魂、理全部ッ、俺に結ばれた!転生も終生も、俺と一緒なんだぞ⁈俺と一緒に生まれて、一緒に死ぬんだぞ⁈離れられないのに、問題ないわけないじゃん!!」

結び目は溶けて混ざり、すでに繋がりきってしまい離れる事はない。

「嫌だったか?」
「…………………ッ!!」

耳元で囁かれ、一瞬の怒りでバッと背けていた顔を向ける。
顔を見たら、もう駄目だった。泣きたくもないのに、泣くつもりもなかったのに、涙が溢れる。

「嫌じゃねぇよ!だけど、嫌だ!!」
「どっちだ?」

笑いながら抱き寄せられ、抵抗したが軽く払われた。腕に囲い込まれ身動ぐが、振り解けず、しばらくして諦める。

「怖い…んだよ」
「うん?」
「今はいい。俺はとして、一緒に居られる。だけど、転生繰り返したら?すっげえ、嫌な奴だったら?とんでもねぇ、不細工だったら?……バルドが後悔するかもしれない。離れたくても離れられない…バルドに、そんな風に思われたらって考えたら…怖い」

嫌われたくない。

俺、最低だ。自分の事しか考えてない。箱庭の事とか、箱庭に生きる者たちの事なんか一切考えず、目の前の、大切な人バルドの事だけ……

「そんな事か?」
「な⁉︎そ、んな事⁈バルドにとって、これってそんな事なのか!俺は……ッッ!」
「下らん事を考えるな」
「ッッ!!」

絶句した。あまりにあまりな言葉に声が出ない。
抱き込まれた胸に手をつき、思いっきり突っ撥ねる。

「俺が馬鹿だった!一人で悩んで、悩んで、悩んで悩んで悩んで!なのに……バルドにとって、俺って」
「アヤ…」
「つい先日だよな?これ、教えてくれたの…もっと、早く教えてくれてたら…バルドの事、ルーに頼んで…」
「それこそ無意味だな」
「何でだよ⁉︎」
「お前と離れたら、俺の世界は終わる。光を失えば、俺は死ぬ。目は見えていても、何も映さん。心臓は動いていても、ただそれだけだ。ただ、それだけ。生きていても死んだ器に成り下がる」
「そ、、んなの…転生すれ、ば」

ひた、と視線が合わさり息を呑む。

「同じだ。何度、転生しようと、目の前にお前がいなければ……この腕の中にいなければ」
「意味、分かん……」
「分からんか?じゃ、分かるようにな。お前は、俺が皇子で皇太子だから好きになったのか?」
「………な、わけねぇじゃん」

出会った時にはそんな事知らなかった。
知った後だって俺は王侯貴族じゃない。そういうの必要とする理由も利害もない。
好きになった奴が、たまたまそうだっただけだ。

「俺がいい男だから好きに?」
「………………………」

自分で言うかよ?
呆れた顔で見るが、当の本人は素知らぬ顔だ。

「可愛い女の子は好きだけど…男の顔の良し悪しなんか興味ねぇよ」

俺は、バルドが……………

「あ、れ?」
「分かったか?」

顔を覗き込まれ、目線を合わせられた。

「何度転生しようが、お前がお前である限り、俺の光は変わらん。俺が惹かれ、愛し、好きになったのはお前の中の光で、アヤがアヤだという事実。変わるのは姿形のみ。本質が変わらなければ、俺にとって、お前はお前だ」
「でも…」
「くどいぞ?例えどんな姿だろうと、俺にとっては、お前だけが唯一の光だ」

強く熱のこもった目で見つめられ、それ以上は必要なくなっていく。
やんわりと引き寄せられた。今度は拒まない。
ごく近く、吐息がかかる。
目を閉じかけて、ふと視線を感じた。
まぁるい、バルドと同じ色の大きく滾れ落ちそうな瞳が見つめていた。

「サ、サフィ!」
「父しゃま、母しゃま、なかよち?」

キョトンとして聞いてくる。
あぁ、可愛い♡

「じゃ!なくて!!サフィ、あのな…」
「そうだぞ、サフィ。父様と母様は仲良しだ」
「バルド⁉︎」

言い繕おうとした俺の体が引っ張り寄せられ、バルドの膝に横抱きに座らされる。

「サフィ。父様から、お願いがある。聞いてくれるか?」
「おにぇがい?なぁに?」
「父様は、これから母様ともっと、も~~~~~っと、仲良ししないといけないんだ。だから、今日は父様に母様を貸してくれるか?サフィは今日は母様とお眠できんが、いい子にできるか?」
「父しゃま、サフィもおにぇがいあゆの。サフィね、いもうちょ欲しいなぁ」

ふくふくの両手が、ピンク色のほっぺに当てられはにかむ。
いもうちょ?妹か?
が、何で今?
俺とバルドが仲良くして、妹が欲しいとは?

「兄しゃまたちが言っちぇたの。父しゃま母しゃまなかよちちて、サフィができたの」

うふ♡と可愛らしく笑うが、言ってる内容に驚愕だ。

「サ、サ、サフィ⁈」
「カインとシアンがそう言ったのか?」

うん!と大きく頷く我が娘。
がっくりし、こめかみを抑える。
頭がいたい……
カイン・シアンは双子皇子。俺とバルドの息子たちだ。七の歳になるが、要らん知恵ばかりつけてきて、ちょっと困っている。

「サフィ、とりあえず兄様たちが言った言葉は…」
「妹だな?分かった、約束だ」
「バルド⁉︎」

きゃあ♡と嬉しそうにはしゃぎながら走っていく愛娘。それを見送りながら、唖然としてしまった。

「ちょっ、何、勝手にんな約束……ッ!」
「ラァムの実は…確か、あと三つくらい残ってたな?全部使えば、一人くらい姫になるだろ。三人くらい増えても問題ない。お前の子なら、皇子だろうと姫だろうと、可愛い事には変わらんからな」
「バルド!バルドってば!!聞けよ!」

一人言って一人納得する旦那に怒る。
サフィに言った事もそうだが、ラァムの実全部使う気か⁉︎
冗談じゃないと、プリプリ怒る俺に、バルドが不敵に笑む。

「ここのところ、お前はサフィにかかりっきりだ。少しは俺も相手しろ」
「子どもかよ⁉︎サフィは仕方ないだろ?まだ、手がかかるし。ナ・コルテスに移ってから、バルド政務で忙しくて疲れてる。サフィ、夜泣きすげぇんだよ。一緒に寝てたら絶対起こしちゃうからさ…だから、寝るの別々にしたまでで……」
「長く一人寝に耐えられるような抱き方はしてこなかった筈だがな?」
「…………………馬鹿皇子!また、そういう事、言うし!」

出会った頃と変わらない。
羞恥に耐えられず、膝から降りようとしたが阻まれる。

「やだぞ?」
サフィのお許しは頂いたが?」
「俺は許可してねぇ…」
「夫婦が愛し合うのに許可はいらんな」
「じゃ、何でサフィに許可とるよ?」
「それは簡単な事。”母親”から”妻”に戻ってもらう為だ。言葉にせんと、お前は自覚できんだろう?」
「ムカつく……」
「何とでも?」

手を差し出される。無言で睨みつけるが、小さく笑われるのみ。
手を取るのは癪に触るが……
当て付けるように溜め息を吐いてやる。

「三つも使うな。やり殺されんのは御免だ……」

乗せた手を握り込まれ、手のひらに口付けられる。

「分かった。一つ、だな?姫に当たる事を、一緒に祈ろうか?」








*あと、三~四話で終了予定です!長らくお付き合い頂きありがとうございます&ございました!(*´꒳`*)


しおりを挟む
感想 459

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

王太子が護衛に組み敷かれるのは日常

ミクリ21 (新)
BL
王太子が護衛に抱かれる話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

パパの雄っぱいが大好き過ぎて23歳息子は未だに乳離れできません!父だけに!

ミクリ21
BL
乳と父をかけてます。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...