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第三部3章 思惑の全能神と真白き光の眠り姫 編
6.女神、帰還への序章①
しおりを挟む『あ、あ、あああぁあぁぁーーーーーーーーッ!!』
悲鳴というには生ぬるい。ほとんど、咆哮とも言えるとてつもない叫びが喉から迸った。
体中が業火に包まれたかのように熱い。
見開いた瞳が紫と白の明滅の光に煙る。
「アヤっッ!」
名を呼ばれた。油が切れた機械仕掛けのようなぎこちなさで、呼ばれた方へ顔をゆっくり向けていく。
『バ、ル、ド』
俺の口から出たのは、およそ、俺の声じゃない。
涙が溢れていく。
「アヤ、魔導を静めろ!このままじゃ、暴発する!」
『ム……リ、、カラダ、言ウゴ、ト…キカ、、』
苦しくて顔が歪む。
震える声で言った俺の目尻の辺りで、プツンと何かが切れたような音がした。
頬を伝うそれが、途中から硬い感触に変わったのを感じた瞬間、目の前が一瞬でブラックアウトした。
*
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*
目の前で起きた光景に、呆然と立ち尽くす。
煌めく紫色の小さな欠片が散らばる地面。
恋人で伴侶……唯一の光。絶対的存在が居た。
その場所に居たはずだった。
「アヤ?アヤ!?アヤーーーーーーッッ!!!!!馬鹿、な!」
目の前で消えた。
煙のように、溶けるかのように消えた。
体が震えだす。自分の手の平を見下ろした。
先程まで、この腕の中にあった存在がない。触れた肌の感触も冷めやらない手が、カタカタ震える。
「殿下ッ!」
不意に呼ばれ、そちらへ目をやると、青褪めた顔でユフィカが走ってくる。
「殿下!アヤの……アヤと殿下のラァムの実が消えました!!」
「なっ!?」
目を見開く俺に、ユフィカが両手を合わせて震える。
「ユフィカ!どういう事だ!?」
「も、申し訳、ありません!僕も、何故とか分から、なくて……」
「分からない?!分からないってのは何だ!?」
ユフィカが悪いわけではない。分かっていても、目の前で伴侶が消え、ラァムの実まで消えたとなれば、俺の感情も益々苛立つ。
怒りで目の前が真っ赤に染まりそうだ。
ビリビリと魔導が揺ら立つ。尖っていくそれに、ユフィカがビクリと震えて泣きだす。
後ろから些か乱暴に肩を掴まれた。
「落ち着け、グレインバルド!詳しくは知らぬが、人の弟を責めるな!」
険しい顔のラトナに制され、ギリリッと奥歯を噛み締め、一度目を閉じ息をゆっくり吐く。
目を開けながら、魔導を落ちつけていった。
「手を離せ…ラトナ」
「……………」
感情を押し殺し、ゆっくりと言い放つ俺に、ラトナが無言で肩を掴んだ手を離す。
ラトナがユフィカに歩み寄り、優しく肩を抱く。
ヒックヒックとしゃくりあげて泣くユフィカに、頭に上った血が冷めた。
アヤがこの場にいれば、おそらく烈火の如く怒ったであろう光景だ。
「許せ……」
「………申し訳…あ、ません。で、んか」
「ひとまず屋敷へ……ここでは落ち着けんし、埒があかん」
ラトナに言われ、屋敷に入った。
ゆっくり落ち着いている場合じゃねぇが、だからといって感情に任せても何も解決しない。
部屋のソファにユフィカを座らせ、隣にラトナが座る。俺も向かいの席に座った。
「何があった?先程の異様な魔導の波動と、恐ろしいほどの揺らぎに関係するか?」
「………アヤが、消えた」
「何?!どういう事だ!?」
「分からねぇ…目の前で、急に…魔導が溢れ出したと思ったら…」
触れて触れられてた存在が、忽然と姿を消した。
「………ラァムの実も」
「ユフィカ?」
両手をぎゅっと握りしめ、すんすんと鼻を啜りながらユフィカが口を開く。
「子供たちが見てる前で消えたって……ネアも」
「何?!イヴァン……ネアも一緒にか?」
「はい……急に浮き上がったラァムの実を、ネアが慌てて引き止めようとして、一緒に消えたようです」
ネア…イヴァンもとなると。偶然か?
どちらにしても、今は確かめる術がない。アヤと子供を取り戻すのが先決。
「グレインバルド。どうする気だ?」
「塔へ行く」
「何?」
「ギルゼルトのところへ。あそこから、女神に接触できる」
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