上 下
389 / 465
第三部2章 消える魔導 双生の煌めき編

3.旦那さま奮戦!生まれ来る子は実は……?!③

しおりを挟む



「ぅ、ん……」
「アヤ?」

腕の中、軽く身じろぎ小さく呻いたアヤに、俺は抱き抱える腕を直し見降ろす。
すーッと、また深く眠り込む。頬に手を当てると、柔らかく温かい。

「魔導はだいぶ戻ったか…目覚めんのが気になるが、苦痛を感じてるようでないのが幸いか……」

アヤを着替えさせ、厚手の柔らかい敷布に包み込み、オーキッドに乗り込んですぐ魔大陸へと向かい数時間。
アヤが倒れ眠りについてからはもっと経つように感じる。
腕にはラァムの実を抱き抱えたまま。着替えさせる時にもなかなか離さず苦労した。
一体、何があったのか…ーーーーー

「急いだ方が良さそうだ。オーキッド、少し早めろ」

俺の指示に、やや不満そうながらも、オーキッドが速度を上げる。

            *
            *
            *
            *
            *

            *
            *
            *
            *
            *

魔大陸に着き、犬狼の村近くの湖。
着陸し、俺たちが降りやすいよう伏せたオーキッドから、アヤを抱えて降りる。

「オーキッド、ここで待て。さすがに、お前は連れて行けん」

グルルと鳴き、ついとアヤを見るオーキッドの気持ちは分かる。

「心配するな。これがお前の大切な主人であるように、俺にとっては大切な伴侶だ。何があっても俺が守る」

オーキッドが、じっと俺を見やった後、グクゥっと鳴き目を伏せその場に座り込んだ。
それに小さく頷き、アヤを抱え直し村に向かい歩く。

「前に来た時より、瘴気が薄いな…闇の支配から抜けたからか?」

闇黒の塔で、邪神ラゼルが画策していた時より、淀んだ空気はなくなった。
魔大陸だから、多くの魔のものが住まう地だ。が、人が住む大陸とは隔絶に近い為、必要以上の負の魔導を出す必要は本来ならない。だから、これが通常の状態と言えるだろう。

「ラゼル……か」

ふと思い出した。
ラゼルを退けられたのは良かったが、結局、あの時の圧倒的な力の正体は分からず終いだ。
『知らずとも良い』そう言って砕け散った邪神。ラゼルほどの神を、軽く払い退ける力……
腕の中の存在を見降ろす。
長い苦悩と、渇望の末に手に入れた唯一の光。

ー女神の光の魔導の命運は苛酷。

一体、どれだけのものを背負わされているのか?

「アヤ…………」

眠り続ける伴侶の額に小さく口付け、犬狼の村に向かい歩を進めた。

            *
            *
            *
            *
            *

            *
            *
            *
            *
            *

            *
            *
            *
            *
            *

犬狼の村の入り口。
真っ白な犬狼が、腕に抱いた赤子をあやしている。

「ユフィカ」
「ふえ?え、あ、、皇太、子、殿下?!」

振り返った白い犬狼、ユフィカが目をまん丸にし、慌てて駆け寄ってきた。

「殿下、どうなさったのですか?一体、急に……」
「聞きたい事があってな」
「さようで、すか…えっ?あ!アヤ?!殿下、アヤが……!?」

一旦落ちついてから、俺に抱かれたアヤに気づき、ユフィカが再び慌てふためく。

「眠ってるだけだ。それについても中で。とりあえず、村に入れろ。あと、ラトナは居るか?」
「は、はい…!中へどうぞ!」

弾かれたように村に促し、ユフィカが駆け出す。それを見送り、俺もまた、アヤを抱え直し歩き出した。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...