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第三部1章 嫁取り騒動再発 逃避の蜜月編

5.想い合うが故に……何か違う???②

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開けた穴から外に飛び出す。すぐ側は林で、迷わず飛び込んだ。

「あ、アヤ様ッ!!痛っ、痛いですわ!」
「我慢しろッ!捕まったら、痛いじゃ済まないぞ!?」

手首を掴み走る俺に、イザベルが文句を言うが怒鳴り返して黙らせる。

「そ、んなの……わ、かってます、わ!!でも、貴方魔導なら……」
「悪いけど、ないッッ!だから逃げるしかないんだよ」

更に言い募るイザベルの言葉が途切れがちになるが、言いたい事は分かり即答した。
他の、バルドたち魔導ならそうだろうが、には攻撃系の魔導はほぼない。ないというか、あるにはあるが、おいそれとは使えない類の魔導。
第一、これくらいの動きで息も絶え絶えの深窓の令嬢を守りながら、なおかつ、魔導を使うなんて俺にはできない。
できるのは精々逃げる事これくらいだ。
林を抜け、岩がゴロゴロした岩石地帯に出る。

「く……苦し…ッ!」

ゼェゼェハァハァ苦しそうな声が聞こえる。
見るとイザベルが顔を顰めている。走るなんて無縁のお嬢様だ。無理もない。俺だって苦しい。
大きな岩石の岩陰を見据え、陰に入り込む。
お互い大きく息を吐き、座り込んだ。

「あ、あんまり…で…すわ。何故……くしが、こ、……な目…」
「文句は……あいつらに、言え」

息が上がる。こんなに走ったのは久しぶりだ。
しばらく、ハァハァやり、息を整える。

「アルヴィースって、言ってたけど……知ってるか?イザベル」
「………顔を見たわけではありませんから、断言できませんけど……その名で思いつくなら、アルヴィース=ノット。私と同じく、貴妃候補の最終に残った、ノット家の嫡男の名ですわ」

フゥフゥと息を吐きながら、イザベルが応えた。
貴妃候補に挙げられるくらいだから、名門なのだろう。

「最終に残った、ってのは?」
「私たち、フォーチュン家とノット家の二家だけですわ。僅か、こちらが優位ですけど…」

何か、なんとなく読めてきた。それも、くだらなくも嫌な方向に……

「とにかく…屋敷に帰らなきゃ。イザベル、た………
ッッあ、く!!」
「何ですの?!きゃあぁっ!!」

立てるかと言いかけた俺の言葉が途切れる。水のリングみたいなものが両手首に絡みつき、岩肌に磔のように固定される。
イザベルは取り囲むように刺さった六本の水の槍に体を竦ませて動けなくなっていた。
しまった!長居しすぎた。

「まったく、手こずらせてくれる…大人しくすれば、楽に死ねるものを」

苛ついたように、俺たちに追いついた男たちが、ゆっくり姿を現した。

「アルヴィース=ノット!!わ、私たちへの無、無礼は許さなくてよ!フォーチュン家の方が……」

ブルブル震えながらイザベルが言う。
イザベルの言葉に、白仮面の男、アルヴィースがふうっと溜め息をついた。

「ぎゃあッッッ!!!!!う、ぐっ、、、ごッッ…」

訝しむ俺たちの前で、アルヴィースが手にした細身の剣を、黒仮面の男の一人の喉に突き立てた。

「なっ!?」
「きゃあっ!」
「まったく!お前が名を呼んだりするから、正体が知れた。無能者は要らん!」
「ア…ヴィー、、ス……ま!ぐ、がッッ」

アルヴィースが剣を横に引く。ぶしゃっと血飛沫が上がる。
あまりの惨さに、俺は目を閉じて顔を背ける。イザベルは声も上げられず、口元を両手で覆い、涙が浮かぶ目を閉じていた。
絶命し、どうっと地面に倒れこむ男。他の男二人も、ややたじろぎながらも、君主であるアルヴィースに逆らわず、倒れた男にはもはや目もくれない。

「…非道い。ここまでやるか?そんなにまでして、クレイドルに入りたいか?」
「愚問だな。クレイドル帝都に血を入れることが出来れば、栄誉栄華は約束されたも同然。我が姉が、皇太子の子を産めば更によし!皇太子の今の妃は、光の魔導と聞いているが、男だという。どんなに寵愛深かろうと、所詮、男では子はできん!美しき、我が姉が取って代わるのが当然だ」

傲慢に言い放つアルヴィースに、俺は二の句が継げない。
ムカムカしてくる。なんでこうも…………

「どいつもこいつも…口、開けば『子ども子ども』って!!それしか頭にねぇのかよッッ?!」
「何を言う?それが一番だろう?それに、死にゆくお前らには関係ない。イザベル嬢。貴女個人に恨みはないが、フォーチュンを背負ったのが運と思い死んでくれ」

クスクス笑いながら、アルヴィースが剣を振りかぶった。

「イザベルっっ!!」

思わず叫ぶが、完全に腰が抜けてしまったイザベルは立ち上がる事すら出来ない。
水のリングを外そうともがくがビクともしない。
白刃が煌めく。
月の光に、アルヴィースの髪が鈍く、暗いシルバーに光る。
やっぱり、こいつが……ッ!
だが、今はそんな事はどうでもよく。
イザベルを…………

「や、めろーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

「い、、や……!い、い、…………ッッ!!」

凶器と狂気が迫る。

「いやぁああぁぁッッ!!助けてッ!!ユリウスーーーーーー!!」

涙を溢れ出させ、イザベルが叫ぶ。
イザベルの口から出た予想外な名に、俺が目を瞠るのと同時に、辺りが一瞬で水の魔導に覆われた。

「アクア・シックレイン、、、ブレイク」

静かに響いた声により、、ーーーーーーーーーーーー









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