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第二部4章 表裏一体 抱く光は闇 抱く闇は光の章
9.融合①
しおりを挟む場が元に戻る。
時間差としては、ほんの一瞬だったらしい。バルドとギルは気づいてない。
気づいているのは…………
「我を退ける算段はつきやったか?」
相変わらず不敵に微笑むラゼルに、俺は口を噤む。
「アヤ……」
俺の竦みを感じて、バルドが抱き寄せてくれる。ラゼルの気は、俺にはやっぱり強い。バルドたちみたいに、上手く閉じる事ができないから、油断するとあてられる。
「弱いな。使い物になるや?のぉ?アウフィリアよ」
『心配してくれなくて結構よ!ラゼル。私の子だもの。馬鹿にしないで頂戴!』
ラゼルの問いに、空が歪み、例の姿の女神が現れた。
両腕を組み空に浮かんだまま、不遜にラゼルを睨めつける。
「いつぶりか?アウフィリア」
『さぁ?興味ないわね。できれば、あんたになんか二度と会いたくはなかったわ』
「つめたい事よ……我が妻よ」
は??な、何て??
ツマ?つま?………………………………………………
「妻ーーーーーーーーーーーーーーーッッ???!」
あまりの事に、俺は絶叫。バルドとギルも開いた口が塞がらないと絶句している。
女神、アウフィリアが、苦虫を噛み潰したように顔を
盛大にしかめる。
『やめて頂戴!何億年前の話?あなたも私も一時の戯れだっただけだわ。すぐに、二人とも飽きてやめたでしょ?』
「……やれ、ほんにつめたい事よな」
『ラゼル…話を混ぜっ返さないで!そんな事実、爪の先も興味ないくせに!話をややこしくするためだけに、持ち出さないで頂戴!』
キーキー怒る女神にも、ラゼルはどこ吹く風だ。受ける印象は、完全に水と油。これで夫婦だったとはとても思えない。
「アヤ…何があった?いきなり、女神が現れたのも解せんし………」
「アストラルに連れてかれてたんだ。ラゼルを退ける策を、女神がくれるって……」
コソと話しかけてくるバルドに、俺も静かに返す。
喧嘩(傍目には痴話)を始めた神二人。
これからバトルとはとても思えないんだけど……大丈夫か?
「ラゼルを……まさか!」
「違う違う!……神殺しの事だろ?女神から聞いた。それは、女神がさせないって……そうならない策があるみたいなんだ」
「…いまいち、信用ならんのだがな」
いや…ま、ね。それは、俺もそう思うけど。
やる事なす事、破天荒な女神だから…
うっかり、ラゼルを消滅させて、神殺しを背負い込むなんて事も、無きにしも非ずってとこで。
「アヤ…グレインバルド。台座を止めるなれば、今だ」
ギルがそっと寄ってきて言う。
確かに…今なら、ラゼルは女神といがみあってるから、チャンスだ。
ただ、問題は……
「台座がラゼルの後ろ…気づかれる可能性が大って事だな」
「俺と、ギルゼルトで注意を引く。アヤは台座に走れ」
「でも………」
「おそらく、それしかあるまい。ラゼルは抑える。行け、アヤ」
二人に押され、迷いながらも頷いた。
とにかく、今は台座だ。あれを何とかしない事には、話が進まない。
「アイシクル・バイン!!」
「……!?」
バルドの氷が、ラゼルの足を床と繋ぎとめる。足留めなので、もちろんこれでラゼルがどうにかなるわけないが、意表を突くには十分。
「シャドウ・スナップ!」
動作が遅れた一瞬に、ギルが陰を縛る。
これも足留め。でも、時間的には十分だ!台座まで一気に走る。
台座に手をかけた。
いける!後は、鍵の宝珠を……!!
「下等な虫ケラが…!小賢しい真似をするでないわッッ!!!」
「えっ!?わ、あぁぁぁッッ!!!」
ラゼルが軽く手を振り言い放つと、俺の肌が一気に闇の紋様に彩られた。
見開いた両目が、ぼうっと熱を持つ。
右目は湖面の蒼、左目はアメジストのそれに。痛みと苦しさに溢れる涙に煙る。
「アヤーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
バルドの叫ぶ声が耳に響く。
神化させられ、光と闇の均衡が崩された。
光が……呑まれる。
『ラゼルッッッ!!あんた、よくもッッ!!!』
「永遠の静寂、混沌の闇、無の世界……それが、我がこの世界に求めしもの。如何なる者にも邪魔させぬ」
ラゼルが笑い、女神が激昂。
体が痛みに痺れていく。痛覚が麻痺してきた。
キィィ、ンと耳鳴りがし始め、すべての音が小さくか細くなっていく。
目の前が暗くなる。目が……光を失う。
「アヤ……!………ャッ!………ーーーーーー!!」
バルド?どこ??
見えない……見え、ないんだ…………
………バルド…怖い、よ…
助けて……………………………………………………
体の感覚という感覚が失われていき、恐怖と絶望に、一番求める者を求め、手が空を掻いて彷徨う。
何かが口から体の中に入り、胃の腑が奥の方から冷たくなっていく。
「ーーーーーーーーッッッ!!!!!」
叫びは声にならなかった。
温い、生暖かいものに体が包まれると同時に、意識は暗い淵へと落ちていった…ーーーーーーーーーーーー
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