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2.手に入るであろうものを捨て去ることになったとしても……③
しおりを挟む「な、んだったんだ?あれ………」
突然、声をかけられたのと同様に、突然話が終わった。意味が分からない事この上ない。
考えたくない、考えないようにしている時に限って、サラタータが出てくる。いや、むしろ、出てくるのは……
「どうしてこう……もう、いいや。帰ろ」
口に出して言いかけ、最後まで続けず、溜め息で無言を押し出す。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
考えを纏めたいのに、次から次へと話に入って来られる。
考え事にも耽らせてもくれない。
溜め息をつき、ふと、背中の痛みが和らいでいる事に気付く。
「お礼……言い損ねた」
痛み止めを飲みに戻るつもりだったが、必要なさそうだ。よほどいい薬を塗ってくれたのだろうか?
そういえば、安っぽい薬特有の、くどい匂いを感じなかった。スッとごく滑らかに肌に伸びて、ほんのり冷たく、熱を持って腫れた傷に……
「ッッッ……………!」
そこまで考えて、余計な事を思い出してしまう。
ラキティスの指が肌を辿る感触。
護衛騎士らしく、指は少し硬くて…………………
「バカっ!何、思い出してんだよ!もう……余計な事ばっかり」
可愛くない態度ばかりとって呆れさせたくせに、考えるのはラキティスの事ばかりだ。
だったら、素直になればいいのになれない。
結局、僕はいつも肝心なところで……
自分がどうしてラキティスにそんななのかは分かる。
自分が何を恐れているのかも。
分かっていても、どうしようもない。
いや、どうすべきなのかは分かっている。
ただ…………………………………………
「ええ?本当に~?」
「本当だって~!城下街の方に売ってるらしいわよ」
「ふ~ん?でも、ちょっとやりすぎって言うか、そこまでやったらあからさま過ぎて引かれないかしら?」
「大丈夫でしょ!ルイザとローズも、意中の方に渡して、着けて下さったらしいわよ?」
前方から、侍女がお喋りしながら歩いてくる。
人見知りなどはしないが、特に親しくもない侍女なので、目線は向けない。
侍従や侍女の間にも、政治関係は存在する。どこの誰でどう繋がっているか分からないのなら、お互い干渉せずが城に仕える者の鉄則だ。
「でも、素敵ね!自分の瞳の色の石がついたピアスを相手に渡して、相手が着けてくれたら、恋人同士になりましたの目印になるなんて。着けてくれなければ、悲しすぎるだけだけど」
「まぁ、そうなんだけどね。でも、私も渡す予定よ」
「ええ~、いいなぁ。でも、石の色が被ったら、誰が誰の相手か分からなくなりそうよ?」
「大丈夫よ!装飾が1組ずつ違うから、同じ物は一つもないらしいわ」
そうなの~などと、きゃいきゃい言いながら侍女達が通り過ぎていく。
彼女達と干渉する事なく通り過ぎ、立ち止まってふ~と息を吐く。
完ッッッッッッ全に!聞き耳立ててた!!
あまりの恥ずかしさに、自分で自分を殴りたくなる。
「何やってんの?僕!あんな事、聞いてどうする気だよ?もう、何なんだよ!」
自己嫌悪に落ち入りまくり、最早、溜め息すら出ない。
駄目だ。
ラキティスの事ばかり考えてしまう上に、余計な事ばかり横入りしてきておかしな事になってる。
「帰ろ……………………」
ともかく、1人ゆっくりできる自室へ早く帰ろうと、極力、心を無にして歩き出した。
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