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2.手に入るであろうものを捨て去ることになったとしても……①

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「……リオ?エーリオ?」

呼ばれてたことに気付き、ハッとなる。
ラキティスから手当てを受け、ギクシャクしたまま別れ、そのままフラフラ歩いていたらアヤに捕まった。
顔色が悪いと言われ、何でもないと平静を装う僕に構わず、半ば強引に連れてきて、こっちが辟易へきえきするくらい構ってくる。
これが、別な人間なら、構うなと突っぱねられる。
が、アヤ相手だと上手くいかない。
まぁ、実際は、突っぱねたところで、この大がつくくらいのお人好しで、良い意味でも悪い意味でも世話上手な光の魔導様は引かないんだけど……
最初の出会いからは裏腹、いつの間にか、アヤには冷たく当たれなくなった。
何度も言ったと思うけど、あんな仕打ちをした人間に対するには、アヤは無防備すぎる。
こちらが心配になるくらいだっていうのに、当の本人は……小さく溜め息をつき、アヤを見ると、我に返ったはずがすぐにボーっとなった僕を責めるように、こちらを拗ねたようにジトと見る瞳に捕まる。

「お茶冷めちゃったじゃん!花実の茶だけど、嫌いなのか?別のにしよっか?」
「………ぁ、いいよ。別に。っていうか、こんな高級茶滅多に飲めないんだよ?嫌いもなにもあるわけないでしょ?」

目の前には少し冷めかけたお茶のカップ。ふわりと柔らかなほんのり甘い香りがするそれは、上級階級くらいしか飲めない代物だ。
僕は貴族とはいえ、下級も下級。こんな高級茶どころか、本来なら城仕えも許されないくらいだが、そこは強力な後ろ盾で……
そこまで考えて嫌な気分になり、そっと息を吐く。
いつまで経っても、の側仕え気分が抜けない。
もう関係ないのに。
新しい生活は始まっているのに。
キリッと唇を強く噛み締める。
痛みにざわつく気持ちが落ち着く。
ふと部屋を見渡し、それに気づいた。

「そういえば、侍女2人は?」

アヤの側仕えの侍女2人、アリッサとローレンが居ない。

「他国から使者が来てるから、それの仕えに行ってる」
「使者?」

他国から使者が来るという情報は入ってない。
もっとも、王侯貴族側の侍従を外れたので、情報が入りにくくなったのは当然だ。

「何でアヤの侍女を?他にも居たんじゃない?」
「接待を失敗できない使者だかららしい。アリッサもローレンも有能だからさ。まぁ……その、趣味はともかく?」
「たしかに、ね」

あの2人の趣味は僕も知ってる。
当事者であるアヤはたまったものじゃないだろうけど……

「で?使者ってどこの国なわけ?」
「サラタータだよ」
「ッッ!!」

まさか、その名前を今聞くとは思わなかった。
あまりの不意打ちに思わず動揺してしまったが、よく考えたら、何で僕が動揺する必要があるのかと、それにも狼狽うろたえてしまう。

「エリオ、平気?」
「な、何が⁈全然、平気だし!大丈夫だよ!」

心配そうにこちらを見てくるアヤに返すが、声は上擦りつっかえで、自分で言って聞いても散々だ。
一体何が、「平気」で「大丈夫」なわけ⁈
意味が分からない。
駄目だ。思ったより、自分でも気持ちが騒ついてる。

「エリオ、さ……キサと何かあった?」
「………何かって何?」
「いや…だって、2人とも、変」
「変って、何なわけ?………何もないよ」

嘘だ。
自分で自分に内心、舌打ちする。

嫌だ………

嫌だ嫌だ嫌だ!

自分が本当にッッッ、嫌だッッッ!!!

もう、装う必要ないのに!
隠し事する必要もない!
自分を良く見せようとする必要もない!
疑って身を守ろうと、誰彼構わず攻撃する必要ももうないのに、いまだに僕は……
内心、ギリギリとした痛みに悲鳴をあげる心に無理矢理蓋をし、冷めた茶のカップを取り上げ、平静を装って殊更ことさらゆっくりと中身を飲み干す。
甘く香り高いはずのそれはまったく味を感じない。
何もかも、お前には過剰かじょうに過ぎた物だらけだと言われた気がし、フッと可笑おかしくなり笑みが漏れた。

「エリオ?痛っ⁉︎」

こちらを訝り見るアヤの鼻を指で弾く。
目を白黒させる様に、クスと自分でも上手く笑えた事に安堵あんどし、不自然にならないように視線を外す。

「なぁ~んて顔してんの?元々美人でもないんだから、変な顔しないでよね。殿下の趣味疑われても知らないよ?」
「なっ!ひっで!!ボンヤリしてるから心配したんじゃん!何だよ、元気じゃん!心配して損した!!」
「心配されるような事なんかないよ。あのね?僕だって、ちょっと疲れたなぁってなる時くらいあるの。第一!僕が弱い隙なんか見せると思うわけ?」
「あ~あ~、はいはい!そうだよな。エリオは強いですね~!これでいい?」
「分かればいいの。じゃ、お茶ご馳走様。まだ、仕事あるから、僕は行くよ?」

不貞腐れるアヤにクスクス笑い、ソファから立ち上がり、部屋の扉へ向かう。
背後で揺れる気配を感じたが、振り返らない。
視線と何かを問いたげな空気を感じたが、無理矢理振り切るように部屋を出た。













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