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夜会の準備
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夜も更け、アンナマリーは、本当に言いたいことを言えないまま、ついにお茶会は終わってしまった。
(エレオノーラと出会ったのは本当に偶然なのかしら)
女性でありながら、王位を継ぐために自分の時間も、望みも犠牲にして、よき王をめざしてがんばってきた。それなのに、今になって正当な王位継承者が現れたら、と思うと、生きた心地がしないのだ。
宝物庫にあった女性王太子の肖像画、リュシアンの部屋にあった本の姿絵、それはアンナマリーが探し求めている人物、そしてエレオノーラにつながるのではないか、という懸念だ。
何も確認できないまま、エレオノーラは明日、この王宮を去ってしまう。
(いいのよ、このまま王宮を去ってくれたほうが……だってエレオノーラはフラワーエメラルドのことも知らなかったのよ、きっと私の勘違いだわ)
今まで、気の置けない友人が出来たようでただ嬉しかったアンナマリー。ずっとそばにいてほしいと思っていたけれど、今は少し恐ろしい。
「エレオノーラ、あなた……いったい何者なの?」
一人複雑な思いを抱えて眠りにつく、アンナアリーだった。
それから、エレオノーラはリュシアンの屋敷に移った。
リュシアン邸は、王族である割に小体な屋敷だった。装飾も華美ではなく、白を基調とした上品な建物。庭園も備えてはいるが、申し訳程度の広さの小さなものだった。
「驚いた?こんな質素な暮らしの父さんでごめんね」
などと言っていたが、王宮と比べれば、の話で、一般の貴族の屋敷としては充分な作りだ。しかも、一人暮らしとなればなおさらだろう。
“父さん”と言われて、エレオノーラの胸がチクリと痛んだ。エレオノーラの中では父はたった一人。どうしても“お父様”と呼ぶことが出来ない。
リュシアンは、決して強要せず、無理して呼ぶ必要はない、と言ってはくれるが、エレオノーラは申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだ。
「どこでも好きな部屋を使ってくれていいのだけど、南向きの大きめの部屋を用意したよ」
そういわれて案内された部屋は、白と薄いブルーを基調としたかわいらしい部屋だった。カーテンからベッド、家具に至るまでレースや装飾がこれでもかというほどに凝らされており、リュシアンの「年頃の女の子」のイメージで作られたのだろう、ということが一目で分かった。
「わあ、素敵なお部屋!ありがとうございます」
エレオノーラは嬉しくてたまらなかった。こんなに女の子らしい部屋に暮らしたことはなかったのだから。
「喜んでくれて何よりだよ」
そう言うリュシアンは嬉しそうだ。目を輝かせて部屋のあちこちを見て回るエレオノーラを眩しそうに見つめていた。
それから、アカデミーの試験までは王宮に毎日リュシアンと通う日々が続いた。毎日の馬車の中では、リュシアンの優しい人柄もあり、他愛のない話だが、楽しい時間を過ごす頃が出来た。特に、リュシアンは王宮調合師たちの毎日を事細かにエレオノーラに話すのだ。おかげで、会ってもいないのに、調合室のメンバーのほとんどの名前を言えるようになってしまった。
「お披露目の夜会ももうすぐだね」
リュシアンの屋敷で、娘となるエレオノーラのお披露目の夜会が開かれるのは一週間後となった。これがエレオノーラの社交界デビューとなるのだ。
リュシアンは、王宮での仕事も忙しいというのに、かいがいしくエレオノーラの社交デビューに心を砕いていた。
「こんなにしていただくなんて、申し訳ないです」
「何を言っているの、一生に一度だよ!?できることはすべてしてあげたいよ!!」
はしゃぐリュシアンをほほえましく見るエレオノーラ。
誰かに、世話を焼いてもらうのは少しくすぐったいが、リュシアンが楽しそうに準備をしていることが嬉しくてたまらない。
「身に着ける装飾品を選んでくれるかな?決めきれなかったでしょう。ドレスに合わせて、靴やネックレス、髪飾りは揃いのものを一式作ったほうがいいとおもうのだよ」
「でも……」
ドレス工房のデザイナーがやってきたとき、ドレスに合わせた装飾品の話をされたが、すべてオーダーで、つくることに抵抗があったのだ。アカデミーを卒業したら、ここから出て働くつもりだ。いくら養女とはいえ、社交界でのお付き合いも最低限になるだろう。かくいうリュシアンも、ほとんど夜会などには出ていないらしい。
(一度きりしか使わないのに、オーダーで作っていただくのは申し訳ないわ)
そう思って固辞したのだが、リュシアンも譲らない。
「仕方ない、今日は街へ出て、いろいろな装飾品を見てくるといいよ。良い品が見つかったら決めてしまってもいいからね」
リュシアンは、今日も王宮勤めがあるため、一人で街へ出て、宝石店をはしごしなければならない。
屋敷にいた侍女と護衛に共をお願いして、街へ出ることになった。
(憂鬱だなあ、こんなところ初めて来るし、敷居が高そう……)
貴族御用達の店がずらりと並ぶ。エメラルドの産出国だけあって、宝石関係の店も多い。中でも、ひと際大きく、派手で一目を引く建物があった。
(リュシアン様が最初に行きなさいとおっしゃったのはここね)
侍女と護衛もいるにはいるが、こんなあか抜けない少女が付き人を連れて相手にしておらえるのだろうか、と不安になる。
しかし、ここで立ち止まってはついてきてくれた二人に気を使わせてしまう。
「……入りましょう」
覚悟を決めて中へと入る。
建物の中は、天上が高く吹き抜けになっていた。どこもかしこも磨き抜かれており、まばゆいくらいだ。足元の大理石は歩くたびに足音を響かせる。
「ようこそ、お嬢様。お話は伺っておりますよ、こちらへどうぞ」
名乗りもしないのに、すでに店主はエレオノーラのことをわかっているようで、別室に通された。そこは、金色の縁取りがされた猫足の椅子や緑色のビロードが張られたソファ、などが置かれていて、エレオノーラが促されて座ると、すぐに金色の冷えた飲み物が運ばれてきた。
「今日は、どのようなものをお探しですか?」
「ええと……」
雰囲気に戸惑ってしまう。
と、そこへ、もう一人通された人物がいた。
てっきり自分だけだと思っていたので、エレオノーラは驚いて見上げると、そこには……
(エレオノーラと出会ったのは本当に偶然なのかしら)
女性でありながら、王位を継ぐために自分の時間も、望みも犠牲にして、よき王をめざしてがんばってきた。それなのに、今になって正当な王位継承者が現れたら、と思うと、生きた心地がしないのだ。
宝物庫にあった女性王太子の肖像画、リュシアンの部屋にあった本の姿絵、それはアンナマリーが探し求めている人物、そしてエレオノーラにつながるのではないか、という懸念だ。
何も確認できないまま、エレオノーラは明日、この王宮を去ってしまう。
(いいのよ、このまま王宮を去ってくれたほうが……だってエレオノーラはフラワーエメラルドのことも知らなかったのよ、きっと私の勘違いだわ)
今まで、気の置けない友人が出来たようでただ嬉しかったアンナマリー。ずっとそばにいてほしいと思っていたけれど、今は少し恐ろしい。
「エレオノーラ、あなた……いったい何者なの?」
一人複雑な思いを抱えて眠りにつく、アンナアリーだった。
それから、エレオノーラはリュシアンの屋敷に移った。
リュシアン邸は、王族である割に小体な屋敷だった。装飾も華美ではなく、白を基調とした上品な建物。庭園も備えてはいるが、申し訳程度の広さの小さなものだった。
「驚いた?こんな質素な暮らしの父さんでごめんね」
などと言っていたが、王宮と比べれば、の話で、一般の貴族の屋敷としては充分な作りだ。しかも、一人暮らしとなればなおさらだろう。
“父さん”と言われて、エレオノーラの胸がチクリと痛んだ。エレオノーラの中では父はたった一人。どうしても“お父様”と呼ぶことが出来ない。
リュシアンは、決して強要せず、無理して呼ぶ必要はない、と言ってはくれるが、エレオノーラは申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだ。
「どこでも好きな部屋を使ってくれていいのだけど、南向きの大きめの部屋を用意したよ」
そういわれて案内された部屋は、白と薄いブルーを基調としたかわいらしい部屋だった。カーテンからベッド、家具に至るまでレースや装飾がこれでもかというほどに凝らされており、リュシアンの「年頃の女の子」のイメージで作られたのだろう、ということが一目で分かった。
「わあ、素敵なお部屋!ありがとうございます」
エレオノーラは嬉しくてたまらなかった。こんなに女の子らしい部屋に暮らしたことはなかったのだから。
「喜んでくれて何よりだよ」
そう言うリュシアンは嬉しそうだ。目を輝かせて部屋のあちこちを見て回るエレオノーラを眩しそうに見つめていた。
それから、アカデミーの試験までは王宮に毎日リュシアンと通う日々が続いた。毎日の馬車の中では、リュシアンの優しい人柄もあり、他愛のない話だが、楽しい時間を過ごす頃が出来た。特に、リュシアンは王宮調合師たちの毎日を事細かにエレオノーラに話すのだ。おかげで、会ってもいないのに、調合室のメンバーのほとんどの名前を言えるようになってしまった。
「お披露目の夜会ももうすぐだね」
リュシアンの屋敷で、娘となるエレオノーラのお披露目の夜会が開かれるのは一週間後となった。これがエレオノーラの社交界デビューとなるのだ。
リュシアンは、王宮での仕事も忙しいというのに、かいがいしくエレオノーラの社交デビューに心を砕いていた。
「こんなにしていただくなんて、申し訳ないです」
「何を言っているの、一生に一度だよ!?できることはすべてしてあげたいよ!!」
はしゃぐリュシアンをほほえましく見るエレオノーラ。
誰かに、世話を焼いてもらうのは少しくすぐったいが、リュシアンが楽しそうに準備をしていることが嬉しくてたまらない。
「身に着ける装飾品を選んでくれるかな?決めきれなかったでしょう。ドレスに合わせて、靴やネックレス、髪飾りは揃いのものを一式作ったほうがいいとおもうのだよ」
「でも……」
ドレス工房のデザイナーがやってきたとき、ドレスに合わせた装飾品の話をされたが、すべてオーダーで、つくることに抵抗があったのだ。アカデミーを卒業したら、ここから出て働くつもりだ。いくら養女とはいえ、社交界でのお付き合いも最低限になるだろう。かくいうリュシアンも、ほとんど夜会などには出ていないらしい。
(一度きりしか使わないのに、オーダーで作っていただくのは申し訳ないわ)
そう思って固辞したのだが、リュシアンも譲らない。
「仕方ない、今日は街へ出て、いろいろな装飾品を見てくるといいよ。良い品が見つかったら決めてしまってもいいからね」
リュシアンは、今日も王宮勤めがあるため、一人で街へ出て、宝石店をはしごしなければならない。
屋敷にいた侍女と護衛に共をお願いして、街へ出ることになった。
(憂鬱だなあ、こんなところ初めて来るし、敷居が高そう……)
貴族御用達の店がずらりと並ぶ。エメラルドの産出国だけあって、宝石関係の店も多い。中でも、ひと際大きく、派手で一目を引く建物があった。
(リュシアン様が最初に行きなさいとおっしゃったのはここね)
侍女と護衛もいるにはいるが、こんなあか抜けない少女が付き人を連れて相手にしておらえるのだろうか、と不安になる。
しかし、ここで立ち止まってはついてきてくれた二人に気を使わせてしまう。
「……入りましょう」
覚悟を決めて中へと入る。
建物の中は、天上が高く吹き抜けになっていた。どこもかしこも磨き抜かれており、まばゆいくらいだ。足元の大理石は歩くたびに足音を響かせる。
「ようこそ、お嬢様。お話は伺っておりますよ、こちらへどうぞ」
名乗りもしないのに、すでに店主はエレオノーラのことをわかっているようで、別室に通された。そこは、金色の縁取りがされた猫足の椅子や緑色のビロードが張られたソファ、などが置かれていて、エレオノーラが促されて座ると、すぐに金色の冷えた飲み物が運ばれてきた。
「今日は、どのようなものをお探しですか?」
「ええと……」
雰囲気に戸惑ってしまう。
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