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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 28 王家の森 1
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午後からは、実技だ。
入学試験は学科試験だけではない。
実技は、ダンス・剣技・馬術の三科目。この国のアカデミーは、騎士だけでなく、貴族の令嬢であっても剣技があり、馬術もある。
剣技や馬術にはまったく馴染みのないエレオノーラは、実技にかなり苦戦していた。
アンナマリーの入学準備のため、各科目家庭教師が来てくれているが、馬術と剣技は幼いころから身に着けているアンナマリーの足元にも及ばない。
最近、稽古の前に少し早めに行って、剣の素振りをしている。
普段のドレスとは違い、騎士の見習いのように上は白いシャツ、下皮の編み上げブーツに黒のタイトなトラウザーズを身に着けて騎士団の稽古場へ向かう。
午後は、騎士団はそれぞれ任務があり、騎士団は誰一人いない。
だだっ広い訓練場の端の方で、一人素振りをするエレオノーラだが、手にはまめができ、腕は筋肉痛で思うようにあがらない。
「お嬢様、あまり無理されない方がいいのではないですか?」
お供のフレデリックがやってきて、心配そうに手元をのぞき込む。
「そういうわけにはいかないのよ。だって奨学金もらわないと、ここで生きていく計画が最初の段階で躓くのよ?」
「……お嬢様、昼食は食べました?」
「……」
エレオノーラはフレデリックを無視して、素振りを続ける。
昼食を食べずに剣を振り回しているのがわかっているようだった。
剣技は昼食後すぐに始まるので、食べると気持ち悪くなって動けないのだ。
食べる時間を、素振りに充てていた。
「……食べないと、大きくなれませんよ。」
たしかに、それまで栄養状態が悪かったのか、背も小さく痩せていた。
王宮での生活で、食べて寝て、ごろごろしていたら背丈がぐんぐん伸び、アンナマリーと同じくらいの年恰好になっていた。
手に布で模擬剣を縛って素振りをする姿に、フレデリックはため息をついた。
「もう、剣をつかめないんでしょう。」
あと半年で、なんとか形にしなければならないという焦りから、無理をするエレオノーラに、
「ちょっと剣技はお休みにして、馬術の訓練がてら森の方へ行ってみましょう」
そう言って、模擬剣をはずされ、馬場に連れていかれた。
年若い馬丁がフレデリックを見つけて、笑顔で寄ってきた。
「フレデリックさん!」
フレデリックも笑顔で手を挙げて答える。
「おでかけですか?エメリー出しますか?」
エメリーとは、フレデリックの愛馬である。少し、大型でスタミナがある。
「ああ」
短く答えると、エレオノーラを連れてエメリーのもとへ向かう。
「フレデリック、私じゃエメリーは乗りこなせないわ」
普段の馬術の授業では、かなり小型でおとなしいアラン号で練習している。
「ええ、わかってます」
そう言って、エメリーに鞍をつけ、腹帯を締め動かないように固定した。
「どうぞ」
エレオノーラを乗せた。と、次の瞬間、フレデリック自身もその後ろに乗った。
「え?!」
「どうせその手じゃ、手綱握れませんって」
「……」
ボロボロの手のひらをエレオノーラは見つめた。
(でも、二人乗せてエメリー号大変なんじゃないかしら)
エレオノーラの心配をよそに、エメリーの勢いがすごい。
やる気に満ち溢れているようだ。
「さあ、行きますよ!こいつは、大型でスタミナもあるので、二人ぐらい乗せたって平気です!久しぶりに乗るので、喜んでますよ!」
フレデリック自身も嬉しそうに、手綱を握っている。
出発する二人を一頭に、先ほどの若い馬丁は、かぶっていた帽子を振って、にこやかに見送った。
王家の森まで、走りながら軽く流している。
エレオノーラでは、到底出せないスピードだ。
「ねえ、早くない?」
「そうですか?ちょっとした散歩ですよ」
普段乗りなれないスピードと高さで、恐怖心が増すエレオノーラ。つい、鞍の先端にしがみついてしまう。
「そんなに、しがみつかなくても大丈夫でしょ。慣れましょう、怖がると、馬になめられますよ」
ちょっと、馬鹿にしたようにフレデリックに言われた。
確かに、最近アラン号以外の馬にはばかにされているような気がしていた。
アラン号のお世話をするために、馬房を通りがかると、髪を結っているリボンを食べられたり、鼻息を吹きかけられたり、馬にからかわれているような気がしていたのだ。
ただ、その時はフレデリックはいないはずだ。
アカデミーの入学準備が始まって、家庭教師が同席進ようになってから、フレデリックが同行することがかなり減った。
「……フレデリックって、いないときのこともよく知っているのね。」
「どこに行っても、お嬢様は目立ちますからね~。噂はよく耳にしますよ」
「どうせ、いい噂じゃないんでしょ」
「そんなこと、あります……かね?」
「どういう意味よそれ!」
わざとむくれてみるエレオノーラ。フレデリックの前だと気持ちがつい子供にかえってしまう。
「まあまあ。」
軽く笑って受け流すフレデリック。この軽いやり取りが、エレオノーラは気に入っていた。
そうこうしているうちに、馬は王家の森の泉まで進み、二人は一度馬を降りた。
入学試験は学科試験だけではない。
実技は、ダンス・剣技・馬術の三科目。この国のアカデミーは、騎士だけでなく、貴族の令嬢であっても剣技があり、馬術もある。
剣技や馬術にはまったく馴染みのないエレオノーラは、実技にかなり苦戦していた。
アンナマリーの入学準備のため、各科目家庭教師が来てくれているが、馬術と剣技は幼いころから身に着けているアンナマリーの足元にも及ばない。
最近、稽古の前に少し早めに行って、剣の素振りをしている。
普段のドレスとは違い、騎士の見習いのように上は白いシャツ、下皮の編み上げブーツに黒のタイトなトラウザーズを身に着けて騎士団の稽古場へ向かう。
午後は、騎士団はそれぞれ任務があり、騎士団は誰一人いない。
だだっ広い訓練場の端の方で、一人素振りをするエレオノーラだが、手にはまめができ、腕は筋肉痛で思うようにあがらない。
「お嬢様、あまり無理されない方がいいのではないですか?」
お供のフレデリックがやってきて、心配そうに手元をのぞき込む。
「そういうわけにはいかないのよ。だって奨学金もらわないと、ここで生きていく計画が最初の段階で躓くのよ?」
「……お嬢様、昼食は食べました?」
「……」
エレオノーラはフレデリックを無視して、素振りを続ける。
昼食を食べずに剣を振り回しているのがわかっているようだった。
剣技は昼食後すぐに始まるので、食べると気持ち悪くなって動けないのだ。
食べる時間を、素振りに充てていた。
「……食べないと、大きくなれませんよ。」
たしかに、それまで栄養状態が悪かったのか、背も小さく痩せていた。
王宮での生活で、食べて寝て、ごろごろしていたら背丈がぐんぐん伸び、アンナマリーと同じくらいの年恰好になっていた。
手に布で模擬剣を縛って素振りをする姿に、フレデリックはため息をついた。
「もう、剣をつかめないんでしょう。」
あと半年で、なんとか形にしなければならないという焦りから、無理をするエレオノーラに、
「ちょっと剣技はお休みにして、馬術の訓練がてら森の方へ行ってみましょう」
そう言って、模擬剣をはずされ、馬場に連れていかれた。
年若い馬丁がフレデリックを見つけて、笑顔で寄ってきた。
「フレデリックさん!」
フレデリックも笑顔で手を挙げて答える。
「おでかけですか?エメリー出しますか?」
エメリーとは、フレデリックの愛馬である。少し、大型でスタミナがある。
「ああ」
短く答えると、エレオノーラを連れてエメリーのもとへ向かう。
「フレデリック、私じゃエメリーは乗りこなせないわ」
普段の馬術の授業では、かなり小型でおとなしいアラン号で練習している。
「ええ、わかってます」
そう言って、エメリーに鞍をつけ、腹帯を締め動かないように固定した。
「どうぞ」
エレオノーラを乗せた。と、次の瞬間、フレデリック自身もその後ろに乗った。
「え?!」
「どうせその手じゃ、手綱握れませんって」
「……」
ボロボロの手のひらをエレオノーラは見つめた。
(でも、二人乗せてエメリー号大変なんじゃないかしら)
エレオノーラの心配をよそに、エメリーの勢いがすごい。
やる気に満ち溢れているようだ。
「さあ、行きますよ!こいつは、大型でスタミナもあるので、二人ぐらい乗せたって平気です!久しぶりに乗るので、喜んでますよ!」
フレデリック自身も嬉しそうに、手綱を握っている。
出発する二人を一頭に、先ほどの若い馬丁は、かぶっていた帽子を振って、にこやかに見送った。
王家の森まで、走りながら軽く流している。
エレオノーラでは、到底出せないスピードだ。
「ねえ、早くない?」
「そうですか?ちょっとした散歩ですよ」
普段乗りなれないスピードと高さで、恐怖心が増すエレオノーラ。つい、鞍の先端にしがみついてしまう。
「そんなに、しがみつかなくても大丈夫でしょ。慣れましょう、怖がると、馬になめられますよ」
ちょっと、馬鹿にしたようにフレデリックに言われた。
確かに、最近アラン号以外の馬にはばかにされているような気がしていた。
アラン号のお世話をするために、馬房を通りがかると、髪を結っているリボンを食べられたり、鼻息を吹きかけられたり、馬にからかわれているような気がしていたのだ。
ただ、その時はフレデリックはいないはずだ。
アカデミーの入学準備が始まって、家庭教師が同席進ようになってから、フレデリックが同行することがかなり減った。
「……フレデリックって、いないときのこともよく知っているのね。」
「どこに行っても、お嬢様は目立ちますからね~。噂はよく耳にしますよ」
「どうせ、いい噂じゃないんでしょ」
「そんなこと、あります……かね?」
「どういう意味よそれ!」
わざとむくれてみるエレオノーラ。フレデリックの前だと気持ちがつい子供にかえってしまう。
「まあまあ。」
軽く笑って受け流すフレデリック。この軽いやり取りが、エレオノーラは気に入っていた。
そうこうしているうちに、馬は王家の森の泉まで進み、二人は一度馬を降りた。
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