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第3話
策略(3)
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メイヒェンとの対面を終えたアーチたちは昼食を摂るために街へと繰り出していた。大都会なだけあって飲食店だけでもかなりの数があり、却ってどこに行けばいいのか迷うほどだった。食べ歩きができる出店などもあったがどうせなら腰を落ち着けて食べたかった。そこで街の人にお勧めの店を聞き込んだ結果、一軒の大衆食堂を見つけた。人が集まる大通りが交差する十字路の一角に位置するひと際繁盛している店だった。
「うわぁ、中も人がいっぱい」
現地住人のお勧めでありなおかつ昼時真っ只中ということもあって、店内はほかの客でごった返していた。簡素だが貧相ではない内装。いくつも並べられた木製の円テーブルの周りには、そのほとんどに客たちが座り食事を楽しんでいた。
「ここ! ここ空いてるわよ!」
パラァが店内奥のカウンターの手前で手を振っている。満席かと思われたが、幸運にもひとつだけ空席のテーブルが残っていた。アーチとミョウザがこれ幸いと席に着くと、若い女性のウェイトレスがにこやかに寄ってきた。
「いらっしゃいませ。何にします?」
ウェイトレスに渡されたメニュー表に目を通すアーチ。しだいにその眉間にしわが寄っていく。
「多すぎて逆に悩む……」
「でしたらこちらのヤミー牛の骨付き肉はいかがでしょう? 当店の一番人気です」
「じゃあそれで!」
「わたしはお水がもらえればいいわ」
それからほどなくすると注文したものが到着した。
一言で言えば、肉の山。ひとつひとつは片手で持てるくらいの程よいサイズの骨付き肉が、皿の上に大盛にされていた。食欲をそそる香ばしい臭いがアーチたちの鼻腔をくすぐる。もともと空腹だったアーチとミョウザは食欲に駆られるまま各々手に取った肉に齧りついた。
「美味っ! え、うんまぁ~!」
「たしかにこれは、一番人気なだけある」
肉にむしゃぶりつき舌鼓を打つアーチとミョウザ。パラァはコップに注がれた水を手で掬って喉を潤していた。
「パラァは本当に食べなくていいの?」
「そもそもフェアリー族は。肉食じゃないから。さっきのエルフ族の人みたいに果物とか、あとは鼻の蜜くらいしか食べないの」
「そっかぁ。あとで果物ないか聞いてみよ」
「いいわよ。さっきも言ったけどあんまり食欲ないのよ。なんだか最近」
「おい見ろ、半ドラだ」
近くにいた客がそう言うと、周囲にどよめきが広がった。
異変にに気付いたアーチも、ほかの客たちが視線を向けている入り口を見た。
そこには一人の大柄な男が立っていた。男が入店してくると、さっきまで和やかな空気だった店内に緊張感が走る。
「どうしてこんなところに」
「なんて恐ろしい」
「見ちゃいけません」
周囲からは恐れや嫌悪を含んだ呟きが聞こえてくる。中にはこっそり退店して逃げ出す者もいた。
アーチはこの静かな恐慌状態を生み出した張本人を見る。
男は客たちの反応など気にしておらず、彫刻のように硬質な無表情。その顔は右半分に緑色の鱗が斑に覆われていて、服から覗く首元や手にも同様の鱗が確認できた。アーチから見ても男が普通の人族ではないことは明らかだった。
カウンターに近付く男の前に、恰幅のいい髭面の男が立ち塞がった。髭のほうの男は店主らしく、背後からウェイトレスたちが不安そうに様子を伺っていた。
「おやおや、ラゴースがうちの店にくるとは珍しいな」
「人を探している。ここに怪しい奴が来なかったか」
「怪しいやつぅ? どうだったかな。そういえば見たような気もするなぁ」
「なんでもいい。そいつに関する情報を」
「あー、すまないがご覧の通り今は忙しくてな。客じゃない奴と雑談をしている余裕はないんだ」
「なら注文しよう。それでいいだろう」
「残念ながら今は満席だ。そこで立って飯食うつもりか?」
店主の男は子馬鹿にした様子でいやらしい笑みを浮かべた。そのやり取りを聞いていたほかの客たちも店主に同調し、嘲笑染みたせせら笑いが伝播していく。店主は最初から男──ラゴースを追い出すつもりだったのだ。しかし直接言わずにわざわざ遠回りな嫌がらせを仕掛けてきた。ラゴースという男がどういう人間なのかは不明だが、住人たちには好かれていないことは確かだった。
「なんだが嫌な感じね」
パラァの呟きにアーチも同意する。事情はわからないが、現在この店を覆っている空気はアーチにとって好ましくないものだった。
嫌味な顔つきの店主が「どうする?」と促すとラゴースは踵を返して店主に背を向けた。
「……邪魔をした」
諦めて帰るつもりだ。そう察したアーチは咄嗟に手を上げ、
「ここなら空いてるけど?」
と言った。円テーブルにはひとつにつき四つの椅子が用意されていて、アーチ達のテーブルはパラァを
一人と換算してもあと一人分の空席があった。
まさか引き留める奴がいるとは思わなかったのだろう。周囲から戸惑いのどよめきが起こる。ラゴースは足を止めて振り返り、店主が「余計なことを」と言いたげな視線を向けた。
「ちょ、アーチ本気か?」
「なんで? なんか問題ある?」
アーチはミョウザにというより店主への当てつけのように答えた。
「いいのか?」
「いいっていいって~。ご飯は大勢で食べたほうが美味しいって言うっしょ~」
「……なら相席させてもらおう」
大きな図体を小さな丸椅子の上に落ち着かせるラゴース。店主が止めようとしたが、上手い言い訳が思いつかなかったのか言葉が続かなかった。
「おじさーん、この人の分のお肉追加でお願いしまーす」
「くっ……少々お待ちを」
店主は悔しそうな渋面で厨房へと消えていった。ほかの客たちも戸惑いつつも諦め半分でそれぞれ食事に戻った。
「すまない、気を遣わせた」
「あたしああいう陰湿なの嫌いなんだよねー。ざまぁみろって感じ」
「そうか」
ラゴースはそれだけ言うと腕を組み沈黙してしまった。親切にされたからといって友好的にするつもりはないらしかった。ミョウザが「なんとかしろ」と目で訴えかけてくるのでアーチは「えーっと」と切り出した。
「人を探してるって言ってたけど」
「そうだ」
「それってどんな人? あたしたちはここに来たばっかだから力にはなれないかもだけど、とりま聞かせてよ」
「女だ」
「女……」
「奇妙な青い鎧を着た女だそうだ。それに仲間のフェアリー族と、人族の……少年……」
話しながらラゴースはアーチを、それからミョウザとパラァを見た。自分が挙げている特徴が目の前に
いる人物たちそのものであることに気付いた。アーチ達もどう考えても自分たちのことだとわかりお互いの見合わせる。
「もしかして、もう解決しちゃった?」
「……悪いが死んでもらう」
「へ?」
「うわぁ、中も人がいっぱい」
現地住人のお勧めでありなおかつ昼時真っ只中ということもあって、店内はほかの客でごった返していた。簡素だが貧相ではない内装。いくつも並べられた木製の円テーブルの周りには、そのほとんどに客たちが座り食事を楽しんでいた。
「ここ! ここ空いてるわよ!」
パラァが店内奥のカウンターの手前で手を振っている。満席かと思われたが、幸運にもひとつだけ空席のテーブルが残っていた。アーチとミョウザがこれ幸いと席に着くと、若い女性のウェイトレスがにこやかに寄ってきた。
「いらっしゃいませ。何にします?」
ウェイトレスに渡されたメニュー表に目を通すアーチ。しだいにその眉間にしわが寄っていく。
「多すぎて逆に悩む……」
「でしたらこちらのヤミー牛の骨付き肉はいかがでしょう? 当店の一番人気です」
「じゃあそれで!」
「わたしはお水がもらえればいいわ」
それからほどなくすると注文したものが到着した。
一言で言えば、肉の山。ひとつひとつは片手で持てるくらいの程よいサイズの骨付き肉が、皿の上に大盛にされていた。食欲をそそる香ばしい臭いがアーチたちの鼻腔をくすぐる。もともと空腹だったアーチとミョウザは食欲に駆られるまま各々手に取った肉に齧りついた。
「美味っ! え、うんまぁ~!」
「たしかにこれは、一番人気なだけある」
肉にむしゃぶりつき舌鼓を打つアーチとミョウザ。パラァはコップに注がれた水を手で掬って喉を潤していた。
「パラァは本当に食べなくていいの?」
「そもそもフェアリー族は。肉食じゃないから。さっきのエルフ族の人みたいに果物とか、あとは鼻の蜜くらいしか食べないの」
「そっかぁ。あとで果物ないか聞いてみよ」
「いいわよ。さっきも言ったけどあんまり食欲ないのよ。なんだか最近」
「おい見ろ、半ドラだ」
近くにいた客がそう言うと、周囲にどよめきが広がった。
異変にに気付いたアーチも、ほかの客たちが視線を向けている入り口を見た。
そこには一人の大柄な男が立っていた。男が入店してくると、さっきまで和やかな空気だった店内に緊張感が走る。
「どうしてこんなところに」
「なんて恐ろしい」
「見ちゃいけません」
周囲からは恐れや嫌悪を含んだ呟きが聞こえてくる。中にはこっそり退店して逃げ出す者もいた。
アーチはこの静かな恐慌状態を生み出した張本人を見る。
男は客たちの反応など気にしておらず、彫刻のように硬質な無表情。その顔は右半分に緑色の鱗が斑に覆われていて、服から覗く首元や手にも同様の鱗が確認できた。アーチから見ても男が普通の人族ではないことは明らかだった。
カウンターに近付く男の前に、恰幅のいい髭面の男が立ち塞がった。髭のほうの男は店主らしく、背後からウェイトレスたちが不安そうに様子を伺っていた。
「おやおや、ラゴースがうちの店にくるとは珍しいな」
「人を探している。ここに怪しい奴が来なかったか」
「怪しいやつぅ? どうだったかな。そういえば見たような気もするなぁ」
「なんでもいい。そいつに関する情報を」
「あー、すまないがご覧の通り今は忙しくてな。客じゃない奴と雑談をしている余裕はないんだ」
「なら注文しよう。それでいいだろう」
「残念ながら今は満席だ。そこで立って飯食うつもりか?」
店主の男は子馬鹿にした様子でいやらしい笑みを浮かべた。そのやり取りを聞いていたほかの客たちも店主に同調し、嘲笑染みたせせら笑いが伝播していく。店主は最初から男──ラゴースを追い出すつもりだったのだ。しかし直接言わずにわざわざ遠回りな嫌がらせを仕掛けてきた。ラゴースという男がどういう人間なのかは不明だが、住人たちには好かれていないことは確かだった。
「なんだが嫌な感じね」
パラァの呟きにアーチも同意する。事情はわからないが、現在この店を覆っている空気はアーチにとって好ましくないものだった。
嫌味な顔つきの店主が「どうする?」と促すとラゴースは踵を返して店主に背を向けた。
「……邪魔をした」
諦めて帰るつもりだ。そう察したアーチは咄嗟に手を上げ、
「ここなら空いてるけど?」
と言った。円テーブルにはひとつにつき四つの椅子が用意されていて、アーチ達のテーブルはパラァを
一人と換算してもあと一人分の空席があった。
まさか引き留める奴がいるとは思わなかったのだろう。周囲から戸惑いのどよめきが起こる。ラゴースは足を止めて振り返り、店主が「余計なことを」と言いたげな視線を向けた。
「ちょ、アーチ本気か?」
「なんで? なんか問題ある?」
アーチはミョウザにというより店主への当てつけのように答えた。
「いいのか?」
「いいっていいって~。ご飯は大勢で食べたほうが美味しいって言うっしょ~」
「……なら相席させてもらおう」
大きな図体を小さな丸椅子の上に落ち着かせるラゴース。店主が止めようとしたが、上手い言い訳が思いつかなかったのか言葉が続かなかった。
「おじさーん、この人の分のお肉追加でお願いしまーす」
「くっ……少々お待ちを」
店主は悔しそうな渋面で厨房へと消えていった。ほかの客たちも戸惑いつつも諦め半分でそれぞれ食事に戻った。
「すまない、気を遣わせた」
「あたしああいう陰湿なの嫌いなんだよねー。ざまぁみろって感じ」
「そうか」
ラゴースはそれだけ言うと腕を組み沈黙してしまった。親切にされたからといって友好的にするつもりはないらしかった。ミョウザが「なんとかしろ」と目で訴えかけてくるのでアーチは「えーっと」と切り出した。
「人を探してるって言ってたけど」
「そうだ」
「それってどんな人? あたしたちはここに来たばっかだから力にはなれないかもだけど、とりま聞かせてよ」
「女だ」
「女……」
「奇妙な青い鎧を着た女だそうだ。それに仲間のフェアリー族と、人族の……少年……」
話しながらラゴースはアーチを、それからミョウザとパラァを見た。自分が挙げている特徴が目の前に
いる人物たちそのものであることに気付いた。アーチ達もどう考えても自分たちのことだとわかりお互いの見合わせる。
「もしかして、もう解決しちゃった?」
「……悪いが死んでもらう」
「へ?」
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