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01『出会いとはじまり』

旅人さん。

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鳥の鳴き声でベットから起き上がる事が日課になった。
足だけを下ろして座る姿勢をとるとそろそろご飯の時間かなと思ったので…とりあえずメイドが部屋に来るのを待っていた。

とそこに何処からか謎の気配を感じた。

それは、今までに感じた事のない気配であり敵が味方かは今の僕にわかりそうもない。

なので僕はキョロキョロと体を動かし音は無いか探りを入れてみた。

(…なんだ人じゃないのか)

それなら警戒してもいいか。
僕は動きを止めて前へ向き直った。
ちょうどそのタイミングで部屋にある唯一の扉がギシギシと音を立て開くとメイドが来た事がわかった。


「おはようございます、シエラです。お食事お待たせいたしました」


彼女は最近入ったという僕付きのメイド。

名はシエラと言い歳も僕と近いのだと教えてくれた。
メイドの仕事は初めてと聞いたが欠かす事なく挨拶をくれるけどちょっとドジで優しい子だ。


「おはよう、シエラ」
「おはようございます。本日も先輩方がご飯を誤魔化そうとしていたのでその前に奪い取ってまいりました!」
「シエラは頼もしいね、ありがとう」
「お礼なんていいですよ!私は、メイドですから当然です!」


そう言ってくれるがシエラのおかげで弱っていた体力はゆっくり変化が現れたと思う。
気持ちの問題もある、でも…それでもおかげで呪いが体に広がる事が減りとても助かっている。


「机に置いておきますね、温かいうちにお召し上がり下さいませ」


シエラはそう言って机へ食事を運んでくれた。
その後はいつものように「では、これで失礼しますね」と声をかけ部屋を後にした。

ガタゴト音が聞こえたのは言うまでもない…。
相変わらず塔を上るにも下りるにも騒がしい人だなと、見えないながらに感じた。
塔一階に位置する大きな扉を閉める音を聞いた後、ベットから隣の机へ移動する為にベットから椅子へ手を伸ばす。

よいしょっと。
お、今日はいつもよりスムーズに体を椅子に座らせる事ができた。

そのまま前へ手を伸ばし手探りで机と食事の位置を確認後椅子を机へ近づけ、食事をとった。
朝なので食事はパンとスープのみ。

(…いい匂い)

朝だから仕方なけいどもう少しお肉が食べたいなとお腹をさすった。
食事は残さず完食した後「ご馳走様」と椅子からベットへ戻ろうと立ち上がった、その時。


「なんじゃお前さん目が見えんのか…」


なんの気配もなく声だけが聞こえた。


「難儀なやつだな」


また、聞こえてくる。 


「貴方は、誰?…父様の使者??」


驚きは隠せず動揺しつつもベットの端へ移動して座ったお同時のタイミングで質問を投げかけた。


「たわけ」
「えっと…たわけ?」
「はぁ…言葉をあまり知らぬのか」


とてとてとて……とてとて…。
幻聴か、扉がある場所とは反対側から微かに可愛らしい音がした。


「……ここは塔の最上階だよ」
「その様だな」
「それならどうして貴方はここに居るの?」


声は聞こえるの。
だけど何故か気配はない。
なのに不思議と音は聞こえてる。

一見すると不気味だが、久しぶりのメイドのシエラ以外と会話をしている事を思うと内心ワクワク状態。


「面白い匂いを辿ってきてな。したら此処へ辿り着いたという訳じゃ」
「面白い匂い…そんなのするかなぁ…」
「なんだい、その反応は」


とてとてとて……とてとて……。

また、音が聞こえた。
幻聴ではない……はず。


「おい子供」
「それは僕のこと?」
「そうだ」

足跡は僕の方へと近づいてきた。

「待って待って」
「…なんだ」
「僕は貴方のことをなんて呼べばいいの?」


その後に、くくっと妙な声が聞こえた。


「わたしに名などない」
「名前が、無いの?」
「して言うならば、わしは旅人とでも言っておこう」
「…たびびと?」


僕にとって初めて耳にした言葉だった。


「そう、旅人、だ」


それは何?と聞きたかったがとてとてと先ほどから聞こえる音はより僕の直ぐ近くまで近づいてきていた。
その音に気を取られていたうちに、その旅人と名乗る人はまた話しだした。


「その反応からして旅人の意味をわかってないな」


わかっていないと言われる事が僕にとってわからなかった。
なんなら何もかも初めて聞く言葉を並べられた所で…仕方がない。


「まあ良い、望むなら教えてやろう」
「嬉しいありがとう」 

 
旅人とは一つの場所にとどまらず各地を旅する者をそう呼ぶのだとか。


「楽しそうだね」
「楽しいばかりではないがな」
「それでも色んな場所に行けるなんて…」


僕からしたら夢のような話。


「それよりお前さん」
「どうしたの?旅人さん」


先程まで話していた声とは一変し低い声が。


「何故視力がない、何故変な匂いを漂わせているんだ?」


視力は呪のせいにしても、臭いわ知らない。
…その匂いとは何のことなのか。
僕の中でまた謎が生まれる。


「旅人さんは呪い師って知ってる?」
「変な宗教に身を捧げた哀れな奴らのことだな」
「…それは、知らないなぁ」


僕は声を出しははっと笑った。
そして続けて。


「その呪師から僕は呪を受けたんだ、まだ生まれて間も無い頃に……」


視力はそのせいで徐々に見えなくなったと。
けど、匂いはわからないと、淡々と言葉にした。
別に辛くはないよ、と。
視力の回復に幾度と時間がかかろうと僕は何一つ諦めていない、と言う事も。


旅人さんからは「そうか」とだけ返事が返ってきた。
その後長く沈黙の様になったもののその間を壊したのは旅人さんの一言だった。


「その視力…わたしが治してやろうと言えばどうする…お前さん」



  ◯       ◯        ◯



瞼を閉じろと言われ瞼を閉じると温かい温もりが頬に触れる感触がして安心していると直ぐにもう良いぞと言われた。


「あの」
「なんじゃ」
「…もう良いとは」
「そのままの意味だ、ゆっくりと目を開けてみると良い」


僕は言葉のお取り、本当にゆっくりと、重たい瞼を開いた。


「え…あっ……うそ」


それは視力を失う最後に見た光景と同じ景色。
本棚と食べ終えた食事が置かれたままの質素な机とベット方向へ向いたままの椅子と古びた扉が。

それだけで嬉しくて目から水が溢れ頬をつたい次々と流れ落ちる。

旅人さんにお礼が言いたいのに泣くのに必死で中々言葉が出てこなくて、またいろんなものが見える見えるんだって感じれば感じるほど涙は止まる事なく溢れ続けた。
気持ちが落ち着くまでとベットへ顔を突っ伏した状態に。



「あ、やばい!」

やっと落ち着いた頃には体は正直でそのまま寝落ちてしまっていた。
外は既に暗闇。

上体を起こし机の上を確認するとありがたい事に机の上には食事が運ばれた後だった。
僕はやらかした、と後悔した。
最悪だ……昼を食べ損ねてしまった。

…勿体無いことをした。
すぐにベットから飛び起き椅子へと腰を落とす。


「良かった、まだ温かい」


お皿を持ち上げれば微かにまだ温もりが残っていてスプーンを手に取り一口掬い上げ、口へと運ぶ。
心の底から美味しい美味しいと言葉が溢れ出た。
僕は言葉通り美味しい食事を綺麗に全て完食した。

ずっと目が見えなくて何も出来ないでいたけど。
初めて食事を済ませた後古びた扉を開け、食べ終えた食器を入り口横へと運んでみることに。


「ようやく元気になった様だな」


真後ろから、旅人さんの声が聞こえてきた。


「もうお前さんにはわたしが見えるはずだ」


そうか。
そうだもう、見えるんだと思うと部屋中隈無くまなく僕は旅人さんの姿を探した。


「まだか~」
「…声は聞こえるのに」
「本人は見えないと?」
「うん、わからない。何処にいるの…」
「わたしは此処から動いてはいないと言うのに」
「本当に僕にも見えるんだよ…ね?」
「灯りがなくとも闇でも見える様にしてやったはずだ、まだなのか?」


とは言われても僕には自分以外の人がこの部屋に居るのか?と疑ってしまうレベル。


「此処だ」
「え、なんだって?」
「わたしは此処だと言っている!」


よく目を凝らせと呆れた物言いが飛んできた。
僕はまた部屋中を何回も何回も見回す。
それでもそれらしい姿を見つけ出せることはなかった。僕には旅人さんの声だけが聞こえるだけなんだけど…と。

が、ふと気が付いた。

先ほどまで使用していた机の上に黒い何かがいると。
僕は動きを止めその机へ体を向き直ると影を凝視した。


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