1 / 13
1
しおりを挟む
──王立学園の卒業パーティ。
華やかな会場内で、わたくしは今この国の第一王子であるマブロゥ様と彼と親密である男爵令嬢のコリンヌ嬢と向き合っています。──ええ、いわゆる修羅場というものです。
「セレーネ・アウグスト! 貴様は公爵令嬢という身分をかさに着て、わたしに愛されぬ嫉妬からコリンヌ・バチール男爵令嬢を虐げた! よって、わたしは貴様との婚約を破棄し、コリンヌと婚約を結ぶことにする!」
「はあ……そうですか」
──馬鹿だ馬鹿だと思ってましたが、こんなことをしでかすとは。
思わずため息が出そうになるのをわたくしは扇子の陰で押し殺します。
まるでわたくしがあなたのことを愛しているかのような言いぐさですが、わたくしはあなたとの婚約を政略としか思ってませんよ?
そもそも陛下がどうしてもと頭を下げられたので、しかたなくこの馬鹿と婚約したものをなぜこのような公の場で辱められなければならないのですか? 陛下、恨みますよ。
「なんだ、その気の抜けた返事は! わたしは貴様との婚約を破棄すると言っているんだぞ!」
「……婚約破棄なら喜んでお受けしますわ。わたくしはあなたと婚約なんてしたくなかったのですもの。父もきっと喜ぶでしょう」
「なっ、な……っ!」
わたくしが内心を吐き出すと、それが思ってもいないことだったのか、マブロゥ様は真っ赤になってわなわなと震え出しました。
それを無視してわたくしは続けます。
「ですが、このような公の場でわたくしを侮辱したのは許せませんわね。婚約者がいるにもかかわらず浮気した分際で、なにを堂々と居直っているのでしょうね? お二人がわたくしに支払う慰謝料は、いったいいくらになるかしら。少なくとも安くはないでしょうね。コリンヌ嬢のおうちで払えるのかしら?」
「なっ、どっちが居直ってんのよ、この悪役令嬢が! わたしをいじめたんだから、慰謝料なんて絶対払わないわよ!」
自分の絶対的有利を信じていたのか、それまで嘲笑を浮かべていたコリンヌ嬢が口汚く怒鳴りました。……見た目だけは可憐だったのに、台無しですね。
「わたくしはマブロゥ様と結婚したくなかったのですもの、あなたをいじめる理由がありませんわ。……そもそも、いじめられたと主張するにはその物言いはおかしいと思いませんの? これではまるで、わたくしがあなたにいじめられているようですわ」
わたくしの反論が癪に障ったのか、コリンヌ嬢は猿のように歯茎をむき出しにして叫びました。
「うっ、うるさいうるさい! あんたなんか国外追放にしてやるんだから! さあ、マブロゥ様、この女に罰を与えてやってください!」
男爵令嬢が公爵令嬢にこのような口をきくだけでも不敬罪なのですが……。まさかコリンヌ嬢知らないのかしら? 虎の威を借る狐はみっともないですよ。
コリンヌ嬢に呼びかけられて、それまで呆然としていたマブロゥ様がはっとしました。
「あ、ああ、セレーネ! 罪人のくせにわたしに逆らうとは無礼千万! 王太子であるこのわたしが貴様に国外追放を言い渡す!」
マブロゥ様がそう言い放った途端、ざわついていた会場が恐ろしいほど静まり返りました。
それをなんと受け取ったのか、どうだと言わんばかりにマブロゥ様は得意げな顔になります。……会場が静かになったのは、あなたがあらぬことを口走ったからですよ。
「……まあ、あなたがいつ王太子に冊立されたのです?」
「くだらぬことを聞くな。わたしは第一王子なのだから立太子されるのは当然だろう!」
はあ、そのように思っているから、このような馬鹿げたことをしでかしたのですね? 自分の立場を分かっていたら、普通はまずできないことですもの。
ふんぞり返っていますが、これを伝えて後ろに倒れないといいですね。
「なにを言ってますの? あなたに王位継承権はありませんよ。そしてその継承権から言えば、あなたよりわたくしのほうが立場はずっと上です」
華やかな会場内で、わたくしは今この国の第一王子であるマブロゥ様と彼と親密である男爵令嬢のコリンヌ嬢と向き合っています。──ええ、いわゆる修羅場というものです。
「セレーネ・アウグスト! 貴様は公爵令嬢という身分をかさに着て、わたしに愛されぬ嫉妬からコリンヌ・バチール男爵令嬢を虐げた! よって、わたしは貴様との婚約を破棄し、コリンヌと婚約を結ぶことにする!」
「はあ……そうですか」
──馬鹿だ馬鹿だと思ってましたが、こんなことをしでかすとは。
思わずため息が出そうになるのをわたくしは扇子の陰で押し殺します。
まるでわたくしがあなたのことを愛しているかのような言いぐさですが、わたくしはあなたとの婚約を政略としか思ってませんよ?
そもそも陛下がどうしてもと頭を下げられたので、しかたなくこの馬鹿と婚約したものをなぜこのような公の場で辱められなければならないのですか? 陛下、恨みますよ。
「なんだ、その気の抜けた返事は! わたしは貴様との婚約を破棄すると言っているんだぞ!」
「……婚約破棄なら喜んでお受けしますわ。わたくしはあなたと婚約なんてしたくなかったのですもの。父もきっと喜ぶでしょう」
「なっ、な……っ!」
わたくしが内心を吐き出すと、それが思ってもいないことだったのか、マブロゥ様は真っ赤になってわなわなと震え出しました。
それを無視してわたくしは続けます。
「ですが、このような公の場でわたくしを侮辱したのは許せませんわね。婚約者がいるにもかかわらず浮気した分際で、なにを堂々と居直っているのでしょうね? お二人がわたくしに支払う慰謝料は、いったいいくらになるかしら。少なくとも安くはないでしょうね。コリンヌ嬢のおうちで払えるのかしら?」
「なっ、どっちが居直ってんのよ、この悪役令嬢が! わたしをいじめたんだから、慰謝料なんて絶対払わないわよ!」
自分の絶対的有利を信じていたのか、それまで嘲笑を浮かべていたコリンヌ嬢が口汚く怒鳴りました。……見た目だけは可憐だったのに、台無しですね。
「わたくしはマブロゥ様と結婚したくなかったのですもの、あなたをいじめる理由がありませんわ。……そもそも、いじめられたと主張するにはその物言いはおかしいと思いませんの? これではまるで、わたくしがあなたにいじめられているようですわ」
わたくしの反論が癪に障ったのか、コリンヌ嬢は猿のように歯茎をむき出しにして叫びました。
「うっ、うるさいうるさい! あんたなんか国外追放にしてやるんだから! さあ、マブロゥ様、この女に罰を与えてやってください!」
男爵令嬢が公爵令嬢にこのような口をきくだけでも不敬罪なのですが……。まさかコリンヌ嬢知らないのかしら? 虎の威を借る狐はみっともないですよ。
コリンヌ嬢に呼びかけられて、それまで呆然としていたマブロゥ様がはっとしました。
「あ、ああ、セレーネ! 罪人のくせにわたしに逆らうとは無礼千万! 王太子であるこのわたしが貴様に国外追放を言い渡す!」
マブロゥ様がそう言い放った途端、ざわついていた会場が恐ろしいほど静まり返りました。
それをなんと受け取ったのか、どうだと言わんばかりにマブロゥ様は得意げな顔になります。……会場が静かになったのは、あなたがあらぬことを口走ったからですよ。
「……まあ、あなたがいつ王太子に冊立されたのです?」
「くだらぬことを聞くな。わたしは第一王子なのだから立太子されるのは当然だろう!」
はあ、そのように思っているから、このような馬鹿げたことをしでかしたのですね? 自分の立場を分かっていたら、普通はまずできないことですもの。
ふんぞり返っていますが、これを伝えて後ろに倒れないといいですね。
「なにを言ってますの? あなたに王位継承権はありませんよ。そしてその継承権から言えば、あなたよりわたくしのほうが立場はずっと上です」
154
お気に入りに追加
4,987
あなたにおすすめの小説

ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

わざわざパーティで婚約破棄していただかなくても大丈夫ですよ。私もそのつもりでしたから。
しあ
恋愛
私の婚約者がパーティーで別の女性をパートナーに連れてきて、突然婚約破棄を宣言をし始めた。
わざわざここで始めなくてもいいものを…ですが、私も色々と用意してましたので、少しお話をして、私と魔道具研究所で共同開発を行った映像記録魔道具を見ていただくことにしました。
あら?映像をご覧になってから顔色が悪いですが、大丈夫でしょうか?
もし大丈夫ではなくても止める気はありませんけどね?

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

ごきげんよう、元婚約者様
藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」
ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。
手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。
※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。
※ 3/25 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

ここはあなたの家ではありません
風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」
婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。
わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。
実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。
そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり――
そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね?
※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる