誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依

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「どういうことですか、父上! まるでわたしが罪人のような言いぐさではないですか!」

 あれだけ言われたにも関わらず、デニスは国王を再び父と呼ばわった。
 国王がギロリとデニス達を睥睨へいげいすると、彼らは竦み上がる。

「あれだけのことをしておいて、罪人ではないと? 無実の公爵夫人に婚約破棄を叫んだことも国の恥であるが、一番の問題はそれではない。諸外国の要人の前で、未来の王太子妃たる公爵夫人を突き飛ばしたことだ」
「あ、あれは、グレゴリーが!」
「で、殿下! あれは殿下がやれと命じたのではありませんか!」

 罪を突きつける国王の前で、デニスと騎士団長の次男が見苦しいやりとりをする。

「そ、それではわたし達は罪にはなりませんね!」
「そうです! 僕達は無関係です!」

 宰相の三男と祭司長の末子が嬉々として主張したが、国王は冷酷なまでの瞳でそれを撥ねつけた。

「……これほどまでの卑劣な者達を今まで野放しにしておったとは、己が情けないわ。懐妊している夫人を突き飛ばし嘲笑したとあれだけの騒ぎになったというのに、おまえ達はまだ事の重大さが分からぬのか?」
「ですが、メリッサは実際には身籠もっていませんでした! ですからわたしは無罪です!」
「──この愚か者めが!!」

 空気を震わすような大音量で、国王が一喝した。

「たとえ公爵夫人が身籠もってなかろうと関係ない。諸外国の重鎮があれを見て、『王位を継げぬ王子が、当てつけで王太子妃になる夫人の子を流そうとした』と受け取るのは必至。彼らは間違いなくそれぞれの王にそう報告するであろうよ」
「そんな……! わたしにそんな意図はありませんでした!」
「意図があろうとなかろうと、未来の王になるかもしれぬ子を流そうとしたと思われることをしたのだ。おとなしく罰に処されるのだな」

 にべもなく言い切る国王に、デニス達が愕然とする。しかし、何を思ったかデニスが昂然と頭を上げて叫んだ。

「メリッサの子がどうなろうと構わないではないですか! わたしは父上の唯一の王子です! わたしこそが未来の王と呼ばれるのにふさわしい!」

 こんなに説明してもまだ理解できないのかと、周囲の者達は脱力する。
 無能者の烙印を押されたのに、なぜここまで自分が王になれると思いこんでいるのか。

「──陛下、先程申した三公家のお話が中断されているようなのですが、彼にはそこから話した方が良いのでは?」
「あ、ああ、そうだな。そういえば、話しそびれておったわ」

 モスカート公爵が間に入ってきて、国王は重要なことを伝えていなかったことを思い出した。

「──我がマーベリン王国では、国王はモスカート公爵家、マヌエル公爵家、ハイランダー公爵家の三公爵家から選ばれる。ただし、一代限りだとなにかと外交面で不便であるし、余程問題のない限りは、数代は王が選出された公爵家が王家とされる。……たまたま王家に生まれたからといって、そのまま国王になれるものではないのだ」
「なっ、そんな、王家が絶対のものではないなんて……! 三公家だと……? そんな制度知らない……!」

 驚愕の表情で叫ぶデニスを周りの者達は哀れな者を見るような目でみつめた。

「その三公家での会議で、おまえは普段の振る舞いから、王位継承権の資格なしとされた。……まあ、順当だな。身分におごって周囲に威張り散らし、そのくせ王子としての勉学もろくに修めず、理解していなければならぬ三公家のことも知らぬ始末とは、教育係が嘆くのも当然だな」
「なっ、わたしは……っ!」

 父である国王ならびに周囲の評価がそのようなものであったと知ったデニスは屈辱感からか顔を真っ赤にする。
 かつての息子に国王は溜息を一つ付くと、いかめしく表明した。

「立太式は流れたが、この宣言をもって、マヌエル公サヴェリオを正式に王太子とする。──そして、一月ひとつきの後、我は退位することとする」
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