3 / 7
3
しおりを挟む
「──取り返しのつかないことをしてくれたな。デニス、おまえ達のしたことは、もはや庇いようがない」
デニス王子達が押し込められた部屋にて、国王が罪人達に重々しく告げた。その周りには、険しい顔で王妃とモスカート公爵、そしてその妻が佇んでいる。
「なっ、なぜですか!? メリッサはキャロルを虐めたのです! あれは当然の制裁で……!」
「マヌエル公爵夫人の身分なら、平民一人虐げようともなんの問題もないが? そもそも彼女にはそこの平民を虐める理由など一つもない」
「そ、そんなひどい! そんなのって差別よ!」
国王の言葉に、いかにも傷つきましたというように、キャロルが泣き真似をした。
それを慌ててデニス王子とその取り巻き達が慰める。その様子を周囲の者が冷ややかに見やった。
「身分制度とはそういうものだ。……しかし、それを無視してそこの平民は公爵夫人を侮辱したな。むしろ、虐げたのはそこの平民だと思うが」
「なっ、なんでそうなるのよ! あたしを虐めたのはメリッサよ! 馬鹿なの!?」
──不敬も不敬。
国王相手に無礼な口をきくキャロルにさすがの取り巻き達も青ざめる。
「素行不良のデニスを監視する一環で、親しくしているそこの平民の所行も既に明らかになっておる。自作自演で公爵夫人の罪を捏造し、デニス達にあのような場で糾弾させるなど、許されることではない」
「そっ、そんな! 確かにあたしはメリッサに虐められて!」
「そ、そうです! メリッサはわたしの寵愛を受けるキャロルに嫉妬して彼女を虐めたんです! このような暴挙こそ、とても許されることではありません!」
「──我が息子ながら、呆れますわね」
大きな溜息をついて、王妃が冷ややかに呟いた。
「母上はあの女狐に騙されているのです! どうか目を醒まされてください!」
「目を醒ますのはあなたの方ですよ。そもそも彼女は公爵と結婚していますし、幼い頃から彼と想い合っているのは有名な話です。なぜあなたがそのような馬鹿げた妄想をしているのか不思議でなりませんわ」
「な……っ」
「うむ、嫉妬どころか、マヌエル公爵夫人はおまえを嫌っているしな。婚約者がいるのに、なぜか執拗に体の関係を強要されてぞっとしたと申しておったわ」
「なっ、なっ、無礼な!」
国王夫妻に現実を突きつけられて、屈辱からかデニス王子が顔を真っ赤にする。
「無礼なのはおまえの方だ。おまえは地位こそ王子だが、王位継承権はない。しかし、公爵夫人は王位継承権第四位。おまえは自分より身分が上の者を公の場で侮辱し、危害を加えたのだぞ」
「なっ、馬鹿な! なぜメリッサなどに継承権があってわたしにはないのです!」
知らなかったらしい事実に、驚愕を隠せずにデニス王子が叫んだ。キャロルや取り巻き達も息を呑んでいる。
「──まさかとは思いますが、デニス王子は三公家から王が選出されることを知らないのでは? 普通では考えられないことですが」
それまで事の成り行きを見守っていたモスカート公爵が口を挟む。それに対して、国王が目を瞠った。
「いや、まさか王子ともあろうものが……いや、しかし……」
「父上、その三公家とはなんなのです? 王が選出とはいったい……次代の国王は王子たるわたしのはずです!」
自分の息子がそこまで愚かだったとは思いたくない国王がぶつぶつと呟くと、彼のその苦悩をぶち壊す形でデニス王子が叫んだ。
「……まさかここまでとは、呆れてものも言えぬわ。そもそも、王族としてふさわしい振る舞いの出来ぬおまえが、王位継承権から外れたことは文書でも伝えてある。おまえはそれに目を通さなかったのか?」
「えっ!? いや、それは……っ」
「……見ていなかったのだな。父と思って、国王の書状を軽んじたか」
うろたえるデニス王子を睨めつけると、一拍の後、国王は重々しく宣言した。
「──今日この時をもって、第一王子デニス・ハイランダーを王族籍から抹消する。おまえはそこの無礼な娘と同じ身分といたすから、存分に仲良くすると良い。……できるのならばな」
デニス王子達が押し込められた部屋にて、国王が罪人達に重々しく告げた。その周りには、険しい顔で王妃とモスカート公爵、そしてその妻が佇んでいる。
「なっ、なぜですか!? メリッサはキャロルを虐めたのです! あれは当然の制裁で……!」
「マヌエル公爵夫人の身分なら、平民一人虐げようともなんの問題もないが? そもそも彼女にはそこの平民を虐める理由など一つもない」
「そ、そんなひどい! そんなのって差別よ!」
国王の言葉に、いかにも傷つきましたというように、キャロルが泣き真似をした。
それを慌ててデニス王子とその取り巻き達が慰める。その様子を周囲の者が冷ややかに見やった。
「身分制度とはそういうものだ。……しかし、それを無視してそこの平民は公爵夫人を侮辱したな。むしろ、虐げたのはそこの平民だと思うが」
「なっ、なんでそうなるのよ! あたしを虐めたのはメリッサよ! 馬鹿なの!?」
──不敬も不敬。
国王相手に無礼な口をきくキャロルにさすがの取り巻き達も青ざめる。
「素行不良のデニスを監視する一環で、親しくしているそこの平民の所行も既に明らかになっておる。自作自演で公爵夫人の罪を捏造し、デニス達にあのような場で糾弾させるなど、許されることではない」
「そっ、そんな! 確かにあたしはメリッサに虐められて!」
「そ、そうです! メリッサはわたしの寵愛を受けるキャロルに嫉妬して彼女を虐めたんです! このような暴挙こそ、とても許されることではありません!」
「──我が息子ながら、呆れますわね」
大きな溜息をついて、王妃が冷ややかに呟いた。
「母上はあの女狐に騙されているのです! どうか目を醒まされてください!」
「目を醒ますのはあなたの方ですよ。そもそも彼女は公爵と結婚していますし、幼い頃から彼と想い合っているのは有名な話です。なぜあなたがそのような馬鹿げた妄想をしているのか不思議でなりませんわ」
「な……っ」
「うむ、嫉妬どころか、マヌエル公爵夫人はおまえを嫌っているしな。婚約者がいるのに、なぜか執拗に体の関係を強要されてぞっとしたと申しておったわ」
「なっ、なっ、無礼な!」
国王夫妻に現実を突きつけられて、屈辱からかデニス王子が顔を真っ赤にする。
「無礼なのはおまえの方だ。おまえは地位こそ王子だが、王位継承権はない。しかし、公爵夫人は王位継承権第四位。おまえは自分より身分が上の者を公の場で侮辱し、危害を加えたのだぞ」
「なっ、馬鹿な! なぜメリッサなどに継承権があってわたしにはないのです!」
知らなかったらしい事実に、驚愕を隠せずにデニス王子が叫んだ。キャロルや取り巻き達も息を呑んでいる。
「──まさかとは思いますが、デニス王子は三公家から王が選出されることを知らないのでは? 普通では考えられないことですが」
それまで事の成り行きを見守っていたモスカート公爵が口を挟む。それに対して、国王が目を瞠った。
「いや、まさか王子ともあろうものが……いや、しかし……」
「父上、その三公家とはなんなのです? 王が選出とはいったい……次代の国王は王子たるわたしのはずです!」
自分の息子がそこまで愚かだったとは思いたくない国王がぶつぶつと呟くと、彼のその苦悩をぶち壊す形でデニス王子が叫んだ。
「……まさかここまでとは、呆れてものも言えぬわ。そもそも、王族としてふさわしい振る舞いの出来ぬおまえが、王位継承権から外れたことは文書でも伝えてある。おまえはそれに目を通さなかったのか?」
「えっ!? いや、それは……っ」
「……見ていなかったのだな。父と思って、国王の書状を軽んじたか」
うろたえるデニス王子を睨めつけると、一拍の後、国王は重々しく宣言した。
「──今日この時をもって、第一王子デニス・ハイランダーを王族籍から抹消する。おまえはそこの無礼な娘と同じ身分といたすから、存分に仲良くすると良い。……できるのならばな」
525
お気に入りに追加
4,819
あなたにおすすめの小説
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。


妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

ここはあなたの家ではありません
風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」
婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。
わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。
実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。
そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり――
そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね?
※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

婚約破棄ですか……。……あの、契約書類は読みましたか?
冬吹せいら
恋愛
伯爵家の令息――ローイ・ランドルフは、侯爵家の令嬢――アリア・テスタロトと婚約を結んだ。
しかし、この婚約の本当の目的は、伯爵家による侯爵家の乗っ取りである。
侯爵家の領地に、ズカズカと進行し、我がもの顔で建物の建設を始める伯爵家。
ある程度領地を蝕んだところで、ローイはアリアとの婚約を破棄しようとした。
「おかしいと思いませんか? 自らの領地を荒されているのに、何も言わないなんて――」
アリアが、ローイに対して、不気味に語り掛ける。
侯爵家は、最初から気が付いていたのだ。
「契約書類は、ちゃんと読みましたか?」
伯爵家の没落が、今、始まろうとしている――。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」


母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる