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はじまりの10歳
4.晩餐
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「なぜ、わたくしをお呼びしてくださらなかったのです」
ガミガミと怒るのは、わたし付きの侍女、タチアナだ。
まだ十七歳と若いのに、眉を神経質そうにしかめている。痕になっちゃうよ。
「奥様からお嬢様の性格が変わられたと伺って半信半疑でいましたが、まさかこのような粗忽者になられるとは……!」
粗忽者って酷いなあ。
まあ、以前のブランシュはそこそこお嬢様してたけど。
「ご、ごめんね。あまりにも眠くて、我慢できなかったの」
保身のため、一応以前のブランシュっぽい喋り方をしてみる。
「ですから、そのような時はわたくしをお呼びください。ほら、ドレスが皺になっているではありませんか! これ、元に戻すの大変なんですよ!」
……無駄な抵抗だったようだ。
小姑よろしくタチアナはわたしを注意してくる。
「ともかくお嬢様、お召し替えをお願いします」
「え、これでいいじゃない」
自分の家なんだし、何度も着替えるなんてめんどくさいよ。
「お嬢様?」
「着替えよろしくお願いします」
こわっ! 室内の気温が三度くらい一気に下がったよ。
なるべくタチアナは怒らせないようにしよう、うん。
それで、タチアナに着替えさせてもらったんだけど、ピンクのふんわりしたドレスを着せられたと思ったら、化粧までされた。
家族とご飯食べるのに化粧はいらんだろ、とはなぜか言えず。タチアナ怖い(ブルブル)。
でもまあ、髪が白いせいか、ドレスの色はあまり選ばないみたいだ。原色系はあまり着ないみたいだけど。
髪と瞳の色合い的に、アルビノなのかと思ったけど、別に太陽の光が苦手なわけでもないし、体が弱いわけでもない。
辺境伯の一族では、たまにこの色合いの人間が出るらしく、当主にもいたっていうから、身体的にはなにも問題ないんだろう。
体弱くちゃ、辺境伯なんて務まらないからねえ。
「──ああ、ブランシュ来たね」
だだっ広い晩餐室に行くと、六歳上のファディルお兄様がにっこりしながらわたしを出迎えてくれた。
うん、実に将来が楽しみな美少年だ。
「お待たせしてしまってすみません」
「いいんだよ。休んでたんだろう? 疲れは取れた?」
「はい、おかげさまで」
わたしもファディルお兄様ににっこりと返すと、下のお兄様達が不満そうに会話に入ってきた。
「ずるいぞ、兄上。俺もブランシュに癒されたい」
そう言ったのは次男のランバートお兄様。わたしの四つ上の十四歳だ。
……それにしても、癒し?
ノーマルカップリング至上主義なため腐女子ではなかったが、擦れたオタクだったわたしには荷が重い役割だ。
「僕だってブランシュと話したいよ。ファディル兄様ばかりブランシュを独占して酷いよ」
ファディルお兄様にそう抗議するのは、ランバートお兄様の一つ下の十三歳のナジムお兄様。
……わたしを独占って、ちょっと話してただけだよ? ナジムお兄様、将来ヤンデレになりそうで、ちと怖い。
「ああ、それは悪かったね。さあ、席に着こう」
「そうですね!」
苦笑したファディルお兄様に同意すると、わたしはランバートお兄様とナジムお兄様に両脇からすっと手を差し伸べられた。
嫌みなくらい広い室内だからエスコートも許されるけど、妹と食事するだけで大袈裟すぎないか?
成り行きで二人のお兄様達の手を取ったけど、この状態って、わたしがもっと小さかったら、まるで捕らえられた宇宙人だな。
わたしが遠い目になってると、お母様がにこにことにやにやの中間の顔で微笑んだ。
……それにしてもこの人、公爵令嬢だったにしては感情豊かだな。こんなんで腹芸とかできるんだろうか。
「まあ、いつもながら両手に花ね」
ああ、そういう捉え方もできるんだね。もしかしたら、この世界には宇宙人という概念がないのかもしれない。
別に兄にときめいたりはしないし、特に嬉しくもないけど。
……それにしても花か。フルールは花って意味の名前だな。ブランシュは見たまんまだけど。
そういや、他国の王に嫁いだのに冷遇されて幽閉のあげく、若くして亡くなったフランス王女が同じブランシュだったな、などと不吉ことをわたしは思い出す。
「ブランシュどうしたんだ? やっぱり具合悪いのか?」
「無理そうなら部屋に戻る?」
足を止めたわたしをランバートお兄様とナジムお兄様が心配そうに見てきた。
「そうだな。後でスープでも運ばせるよ」
「──それは困る!」
「え」
ファディルお兄様の言葉に速攻でわたしが答えると、お兄様達が固まった。
「わたしは大丈夫です。ぴんぴんしてます。健康優良児です。さあ、ご飯を食べましょう!」
「あ、うん……」
わたしが主張したら、なぜかお兄様達は引き気味になった。……あれ、ちょっと強く言い過ぎたかな?
わたしは無事席に着くと、目の前の料理にごくりと唾を呑み込んだ。前世では数回しか味わったことのないフルコースだ。
苺のショートケーキがとても美味しかったから、以前のブランシュの記憶もあって期待していたけど予想以上だ。美味しそう。
ああ、この世界が日本基準で作られてて、ほんとによかった。
これで中世ヨーロッパみたいに、食事手掴みとか、味付けもせずそのまま焼いただけのステーキとか出てきたら泣いちゃうところだった。
「あれだけケーキ食べたのに、食べる気満々ね……」
ちょっと呆れたようにお母様が溜息を付いてきた。
確かにきらっきらした目で料理を見てたけど、お母様には、あれがハンターの目に変換されて見えたのか?
ブランシュに転生して最悪だと最初は思ったけど、ここの食生活は素晴らしいの一言に尽きる。
わたしはにこにこしてナイフとフォークを握った。
──さあ、いざ行かん。美食の世界へ!
ガミガミと怒るのは、わたし付きの侍女、タチアナだ。
まだ十七歳と若いのに、眉を神経質そうにしかめている。痕になっちゃうよ。
「奥様からお嬢様の性格が変わられたと伺って半信半疑でいましたが、まさかこのような粗忽者になられるとは……!」
粗忽者って酷いなあ。
まあ、以前のブランシュはそこそこお嬢様してたけど。
「ご、ごめんね。あまりにも眠くて、我慢できなかったの」
保身のため、一応以前のブランシュっぽい喋り方をしてみる。
「ですから、そのような時はわたくしをお呼びください。ほら、ドレスが皺になっているではありませんか! これ、元に戻すの大変なんですよ!」
……無駄な抵抗だったようだ。
小姑よろしくタチアナはわたしを注意してくる。
「ともかくお嬢様、お召し替えをお願いします」
「え、これでいいじゃない」
自分の家なんだし、何度も着替えるなんてめんどくさいよ。
「お嬢様?」
「着替えよろしくお願いします」
こわっ! 室内の気温が三度くらい一気に下がったよ。
なるべくタチアナは怒らせないようにしよう、うん。
それで、タチアナに着替えさせてもらったんだけど、ピンクのふんわりしたドレスを着せられたと思ったら、化粧までされた。
家族とご飯食べるのに化粧はいらんだろ、とはなぜか言えず。タチアナ怖い(ブルブル)。
でもまあ、髪が白いせいか、ドレスの色はあまり選ばないみたいだ。原色系はあまり着ないみたいだけど。
髪と瞳の色合い的に、アルビノなのかと思ったけど、別に太陽の光が苦手なわけでもないし、体が弱いわけでもない。
辺境伯の一族では、たまにこの色合いの人間が出るらしく、当主にもいたっていうから、身体的にはなにも問題ないんだろう。
体弱くちゃ、辺境伯なんて務まらないからねえ。
「──ああ、ブランシュ来たね」
だだっ広い晩餐室に行くと、六歳上のファディルお兄様がにっこりしながらわたしを出迎えてくれた。
うん、実に将来が楽しみな美少年だ。
「お待たせしてしまってすみません」
「いいんだよ。休んでたんだろう? 疲れは取れた?」
「はい、おかげさまで」
わたしもファディルお兄様ににっこりと返すと、下のお兄様達が不満そうに会話に入ってきた。
「ずるいぞ、兄上。俺もブランシュに癒されたい」
そう言ったのは次男のランバートお兄様。わたしの四つ上の十四歳だ。
……それにしても、癒し?
ノーマルカップリング至上主義なため腐女子ではなかったが、擦れたオタクだったわたしには荷が重い役割だ。
「僕だってブランシュと話したいよ。ファディル兄様ばかりブランシュを独占して酷いよ」
ファディルお兄様にそう抗議するのは、ランバートお兄様の一つ下の十三歳のナジムお兄様。
……わたしを独占って、ちょっと話してただけだよ? ナジムお兄様、将来ヤンデレになりそうで、ちと怖い。
「ああ、それは悪かったね。さあ、席に着こう」
「そうですね!」
苦笑したファディルお兄様に同意すると、わたしはランバートお兄様とナジムお兄様に両脇からすっと手を差し伸べられた。
嫌みなくらい広い室内だからエスコートも許されるけど、妹と食事するだけで大袈裟すぎないか?
成り行きで二人のお兄様達の手を取ったけど、この状態って、わたしがもっと小さかったら、まるで捕らえられた宇宙人だな。
わたしが遠い目になってると、お母様がにこにことにやにやの中間の顔で微笑んだ。
……それにしてもこの人、公爵令嬢だったにしては感情豊かだな。こんなんで腹芸とかできるんだろうか。
「まあ、いつもながら両手に花ね」
ああ、そういう捉え方もできるんだね。もしかしたら、この世界には宇宙人という概念がないのかもしれない。
別に兄にときめいたりはしないし、特に嬉しくもないけど。
……それにしても花か。フルールは花って意味の名前だな。ブランシュは見たまんまだけど。
そういや、他国の王に嫁いだのに冷遇されて幽閉のあげく、若くして亡くなったフランス王女が同じブランシュだったな、などと不吉ことをわたしは思い出す。
「ブランシュどうしたんだ? やっぱり具合悪いのか?」
「無理そうなら部屋に戻る?」
足を止めたわたしをランバートお兄様とナジムお兄様が心配そうに見てきた。
「そうだな。後でスープでも運ばせるよ」
「──それは困る!」
「え」
ファディルお兄様の言葉に速攻でわたしが答えると、お兄様達が固まった。
「わたしは大丈夫です。ぴんぴんしてます。健康優良児です。さあ、ご飯を食べましょう!」
「あ、うん……」
わたしが主張したら、なぜかお兄様達は引き気味になった。……あれ、ちょっと強く言い過ぎたかな?
わたしは無事席に着くと、目の前の料理にごくりと唾を呑み込んだ。前世では数回しか味わったことのないフルコースだ。
苺のショートケーキがとても美味しかったから、以前のブランシュの記憶もあって期待していたけど予想以上だ。美味しそう。
ああ、この世界が日本基準で作られてて、ほんとによかった。
これで中世ヨーロッパみたいに、食事手掴みとか、味付けもせずそのまま焼いただけのステーキとか出てきたら泣いちゃうところだった。
「あれだけケーキ食べたのに、食べる気満々ね……」
ちょっと呆れたようにお母様が溜息を付いてきた。
確かにきらっきらした目で料理を見てたけど、お母様には、あれがハンターの目に変換されて見えたのか?
ブランシュに転生して最悪だと最初は思ったけど、ここの食生活は素晴らしいの一言に尽きる。
わたしはにこにこしてナイフとフォークを握った。
──さあ、いざ行かん。美食の世界へ!
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