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はじまりの10歳
3.お母様と話します
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「まあ、それじゃヴィンスの話していたことは本当だったのね!」
あれから、お父様から話を聞いたらしいお母様が、詳しく聞きたいとわたしの部屋にやってきたのはつい先程。
こちらとしては真剣に語ったのに、なぜか嬉々とした様子でお母様が言った。
娘が不幸になるかもしれないというのに、なんでそんなに嬉しそうなの?
思わずジト目になると、お母様はほほほと笑いながら扇子を扇いだ。
「あらあら、なにを考えているのか分からないけど、それはきっと誤解よ。わたしが喜んでいるのは、この辺境伯領に立ち塞がる敵を倒すことについてよ」
「敵? どういうことですか?」
お母様の言いたいことがよく分からなくて、わたしは首を傾げる。
「あなたを侮辱する者は、辺境伯家を侮辱する者と同義。それなら、排除するのは当然のことでしょう。攻撃は最大の防御よ」
おお、頼もしい。
やっぱりお父様に相談したのは正解だった(ちょっとかわいそうだったけど)。頼るのがお父様じゃなくて、お母様だというのがあれだけど。
まあ、最終的には辺境伯であるお父様が出てくることには変わりないんだけどね。
それに、最悪お母様の母国である隣国に逃げてしまえば、あのクズどもとは関わらなくてよくなる。持つべきものは王族の流れを汲む公爵令嬢のお母様だなあ。
しみじみとそんなことを思っていると、お母様はベルを鳴らして、侍女にお茶の用意を言いつけた。
「まあ、あなたも一度にそんなことを思い出したのは大変よね。少し休んだ方がいいわよ」
「そうですね。脳が疲労した時には甘いものですよね」
ちょうどその時、侍女がケーキをワゴンで運んできたので、わたしはそれに目を奪われながら言った。
すると、お母様が少し目を瞠ったけど、なんだろ?
「……あなたの元の人格は、ひょっとしてお医者様かなにか?」
「ええっ、まさか!」
わたしは医大どころか三流大学の出だよ!
お母様のまさかの飛躍っぷりに驚いたわたしは思わずのけぞった。
「当然のように人体のことを話してるから、てっきりそうなんだと思ったわ。さっきの話の内容はぶっ飛んでいたけれど、端々に学を感じさせたし」
お母様の言葉でわたしは納得した。
でも、お母様もいい勝負では。普通の貴族夫人は『ぶっ飛ぶ』なんて言わないと思うよ。
「……ああ。わたしが前世生まれ育った国は教育制度が整っていましたから、そのおかげかもしれません」
「あら、そうなの。詳しく聞きたいところだけど、それは今度ね」
「はい」
わたしはにっこりすると、目の前の苺のショートケーキに向かった。
この世界、普通に前世よく見た洋菓子が登場する。
苺のショートケーキは、前世世界的にはそうメジャーなものじゃなかったらしいけど、そこは日本基準でここの世界が成り立っているのだろう。
さすがに和菓子は見ないけど、もしかしたら他国に行けばあるのかもしれない。
まあ、どらやきくらいならここでも作れるし、問題ない。
そんなことを考えながら、わたしは美味しいケーキをもぐもぐする。もちろん真っ先に上に載った苺を食すのも忘れない。
「おかわりください」
三個目を侍女に要求すると、お母様が焦ったようにわたしを止めた。
「ちょっと、食べ過ぎ。そんなに食べたら太るわよ」
「子供は代謝が良くて太りにくいので、運動するとか少し調整すれば大丈夫です」
「く……っ。中身はそう変わらないくせに……」
お母様が心底悔しそうに呻いた。うん、まあ、代謝が落ちるお年頃だしね。
わたしも前世ケーキバイキングに行った後の大変さを知っているから、その気持ちは良く分かるんだけど。
恨めしそうに見てくるお母様を気にせずに、三個目のケーキを完食したわたしは、なんだか眠くなってきた。
「眠くなってきたので晩餐まで休みます」
「本当に太るわよ……」
お母様が呆れたように言ってくる。確かにこのペースで食っちゃ寝していたら太りそう。明日の朝、庭に出てランニングでもするかな。
「まあ、今はゆっくり休みなさい。ファディル達には知らせたらまずいこと以外は話しておくから」
あー、お兄様達にも知らせるのか。監禁はともかく、陵辱のことはさすがに隠すだろうな。
シスコンのお兄様達にそのこと知らせたら、ヒロインと攻略対象者がまだなにもしていないのにも拘わらず、血の雨が降りそうだし。
──まあ、それはともかくとして、今はなにより睡眠欲が勝ってるのでベッドにダイブすることにする。ぐぅ。
あれから、お父様から話を聞いたらしいお母様が、詳しく聞きたいとわたしの部屋にやってきたのはつい先程。
こちらとしては真剣に語ったのに、なぜか嬉々とした様子でお母様が言った。
娘が不幸になるかもしれないというのに、なんでそんなに嬉しそうなの?
思わずジト目になると、お母様はほほほと笑いながら扇子を扇いだ。
「あらあら、なにを考えているのか分からないけど、それはきっと誤解よ。わたしが喜んでいるのは、この辺境伯領に立ち塞がる敵を倒すことについてよ」
「敵? どういうことですか?」
お母様の言いたいことがよく分からなくて、わたしは首を傾げる。
「あなたを侮辱する者は、辺境伯家を侮辱する者と同義。それなら、排除するのは当然のことでしょう。攻撃は最大の防御よ」
おお、頼もしい。
やっぱりお父様に相談したのは正解だった(ちょっとかわいそうだったけど)。頼るのがお父様じゃなくて、お母様だというのがあれだけど。
まあ、最終的には辺境伯であるお父様が出てくることには変わりないんだけどね。
それに、最悪お母様の母国である隣国に逃げてしまえば、あのクズどもとは関わらなくてよくなる。持つべきものは王族の流れを汲む公爵令嬢のお母様だなあ。
しみじみとそんなことを思っていると、お母様はベルを鳴らして、侍女にお茶の用意を言いつけた。
「まあ、あなたも一度にそんなことを思い出したのは大変よね。少し休んだ方がいいわよ」
「そうですね。脳が疲労した時には甘いものですよね」
ちょうどその時、侍女がケーキをワゴンで運んできたので、わたしはそれに目を奪われながら言った。
すると、お母様が少し目を瞠ったけど、なんだろ?
「……あなたの元の人格は、ひょっとしてお医者様かなにか?」
「ええっ、まさか!」
わたしは医大どころか三流大学の出だよ!
お母様のまさかの飛躍っぷりに驚いたわたしは思わずのけぞった。
「当然のように人体のことを話してるから、てっきりそうなんだと思ったわ。さっきの話の内容はぶっ飛んでいたけれど、端々に学を感じさせたし」
お母様の言葉でわたしは納得した。
でも、お母様もいい勝負では。普通の貴族夫人は『ぶっ飛ぶ』なんて言わないと思うよ。
「……ああ。わたしが前世生まれ育った国は教育制度が整っていましたから、そのおかげかもしれません」
「あら、そうなの。詳しく聞きたいところだけど、それは今度ね」
「はい」
わたしはにっこりすると、目の前の苺のショートケーキに向かった。
この世界、普通に前世よく見た洋菓子が登場する。
苺のショートケーキは、前世世界的にはそうメジャーなものじゃなかったらしいけど、そこは日本基準でここの世界が成り立っているのだろう。
さすがに和菓子は見ないけど、もしかしたら他国に行けばあるのかもしれない。
まあ、どらやきくらいならここでも作れるし、問題ない。
そんなことを考えながら、わたしは美味しいケーキをもぐもぐする。もちろん真っ先に上に載った苺を食すのも忘れない。
「おかわりください」
三個目を侍女に要求すると、お母様が焦ったようにわたしを止めた。
「ちょっと、食べ過ぎ。そんなに食べたら太るわよ」
「子供は代謝が良くて太りにくいので、運動するとか少し調整すれば大丈夫です」
「く……っ。中身はそう変わらないくせに……」
お母様が心底悔しそうに呻いた。うん、まあ、代謝が落ちるお年頃だしね。
わたしも前世ケーキバイキングに行った後の大変さを知っているから、その気持ちは良く分かるんだけど。
恨めしそうに見てくるお母様を気にせずに、三個目のケーキを完食したわたしは、なんだか眠くなってきた。
「眠くなってきたので晩餐まで休みます」
「本当に太るわよ……」
お母様が呆れたように言ってくる。確かにこのペースで食っちゃ寝していたら太りそう。明日の朝、庭に出てランニングでもするかな。
「まあ、今はゆっくり休みなさい。ファディル達には知らせたらまずいこと以外は話しておくから」
あー、お兄様達にも知らせるのか。監禁はともかく、陵辱のことはさすがに隠すだろうな。
シスコンのお兄様達にそのこと知らせたら、ヒロインと攻略対象者がまだなにもしていないのにも拘わらず、血の雨が降りそうだし。
──まあ、それはともかくとして、今はなにより睡眠欲が勝ってるのでベッドにダイブすることにする。ぐぅ。
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