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女神選抜試験

第34話 ギルバートの告白イベント

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 クリスはハーヴェイに見送られて、火の魔術師ギルバートの部屋のドアを叩いた。

「ギルバート様、クリスティアナです。お話に参りました」

 すると、侍従でなくギルバート本人が出てきた。

「クリスティアナ待っていた。ほら中へ来い」
「はい」

 熱烈に歓迎されていると思うのは、クリスの気のせいか。
 ギルバートに応接セットのソファに座るように言われて、クリスは素直に従った。

「コーヒーでいいか? 紅茶もあるが」
「わたくしはどちらでも……ギルバート様のお好きな方で結構ですわ」

 するとギルバートは頷いて、それならばコーヒーにしようと言って、侍従に持ってくるように命じた。
 そういえば、以前にもギルバートはコーヒーを出してきた。それが好きなのだろう。

「さて──」

 侍従がコーヒーを出したところでギルバートは本題に入ってきた。

「ハーヴェイとつき合っているんだったな。あいつのどこが気に入ったんだ」
「……始めはハーヴェイ様のお姿がわたくしの理想そのものでしたので、あの方が気になっていたんですの」

 すると、ギルバートはため息をついた。

「まあ確かに女の好きそうな顔ではあるな。……だが、あいつは無愛想だろう」
「わたくしには育成初期の記憶がないので、そこはなんとも申し上げられないのですが、ハーヴェイ様はお優しいですわ。笑顔も素敵ですし」

 ハーヴェイの優しい笑顔を思い返していて、クリスは思わずぽっと頬を染めた。
 すると、ギルバートがむっとして彼女を見た。

「……話題を変える。楽園の様子はどうだ」
「魔物討伐は、ルーカス様とクライド様のおかげで非常にうまくいっておりますわ。飢饉対策もそろそろ植えたジャガイモが収穫できる頃ですし」

 いろいろ問題はあるが、楽園の育成は大変順調だ。クリスはそれを再確認して、笑顔になった。
 すると、ギルバートの愛情度と親密度が上がった。

「──惜しいな」
「はい?」

 ギルバートがなにを言いたいのか分からず、クリスは首を傾げた。

「あんたをあの無愛想なハーヴェイのものにしておくのがだ。あいつの傍にいるのはさぞかし退屈だろうに」

 この言葉はどうやっても放っておくことが出来ずに、クリスは憤慨して反論した。

「まあっ、ハーヴェイ様はそんなではないですわ! 今のお言葉は取り消してくださいませ!」

 頬を赤く染めて抗議するクリスがギルバートには意外だったようで、少々後ろに引いた。

「……あんたは結構気が強いんだな。──気に入った」
「は?」

 ハーヴェイの話から突然そんな話に変わってクリスの目が点になった。
 見ると、ギルバートの両方の数値が100MAXになっている。

「まあ、あいつのことについては取り消しておこう。……だがあんたをあいつに渡すには惜しすぎる」

 ギルバートのその言葉に、なんとなくここにこれ以上いるのはまずい気がして、クリスはソファから立ち上がった。

「あ、あの、申し訳ございませんが、わたくしこれで失礼させていただきますわ」

 すると、ギルバートも立ち上がって、クリスの傍へとやってきた。

「来たばかりじゃないか。まだ逃がさないぞ」

 逃がさないってなんですか、とはクリスは恐ろしすぎて聞けなかった。
 クリスはあっという間にギルバートに手を引かれると、彼の腕の中に収まった。

「お、お離しくださいませ。わたくしはハーヴェイ様と恋人同士ですのよ」

 クリスはなんとかギルバートの腕から逃れようとするが、彼にぎっちり抱きしめられていて無駄だった。

「……クリスティアナ、あんたが好きだ」

 ギルバートの告白に対して、クリスは彼を愛してはいないと伝えようとして上を向いた。

「わたくしは……っ、んんっ」

 クリスはギルバートの唇に口を塞がれ、思わず涙を流してしまった。

 ──こんなのは嫌。
 わたくしの好きなのはハーヴェイ様だけなのに──

 そう思うのに、ギルバートのキスは止まらない。

「い、や……っ、おやめ、くださいまし……!」

 その途端、クリスから光が溢れて、彼女は違う場所に出た。



「クリスティアナ……!」

 出たのはハーヴェイの部屋だったらしい。
 どうやら、ハーヴェイがクリスに迫る男性対策を彼女に施していたようだった。
 クリスが涙を流したままでいると、ハーヴェイは眉を寄せて、指で彼女の涙を拭った。

「ハーヴェイ様……!」

 クリスは迷わずハーヴェイの胸へと飛び込んだ。

「ハーヴェイ様……、ごめんなさい。ごめんなさい……」

 クリスが肩を震わせながら、泣いて謝ると、ハーヴェイはその背を安心させるようにポンポンと軽く叩いた。

「……ギルバートになにかされたか」
「キス、されてしまいました……。ハーヴェイ様、本当にごめんなさい」

 更にぽろぽろと涙を流すクリスに、ハーヴェイは大丈夫だ、と彼女の頬に口づけた。
 それにほっと息をつきながら、クリスはハーヴェイの背に手を回した。
 すると、侍従が申し訳なさそうにハーヴェイに声をかけてきた。

「ギルバート様がお越しですが、いかがなされますか?」

 それを聞いて、クリスはビクリと体を震わせた。
 ハーヴェイは彼女を安心させるように背を撫でると、侍従にはっきりと言った。

「帰らせろ」
「──かしこまりました」

 侍従はハーヴェイに頭を下げると、ギルバートに引き取ってもらうように伝えたようだ。
 それからハーヴェイはクリスを応接セットに案内した。
 クリスはハンカチで涙を拭うと、泣きやんだ。
 それを見て、ハーヴェイがほっとしたように微笑む。

「ギルバートのことだが……そなたは気に病むな。ただ、これから他の男のことも注意しなくてはいけなくなったがな」
「……ハーヴェイ様、申し訳ございませんわ」

 クリスが形のよい眉を下げて言うと、ハーヴェイは首を横に振った。

「気にするな。そなたに迫ろうとする男はなんとかするようにするから、そなたは安心していろ」

 それを聞いてクリスは目を瞠った。
 果たしてそんなことが可能なのだろうか。
 それが本当だとしたら、随分と安心できる。

「はい、ありがとうございます」

 ようやくクリスが微笑んだことで、ハーヴェイもほっと息を付いたようだった。



 ──結局その日のクリスは、ハーヴェイと歓談した後、彼に育成をしてもらって、寮まで送ってもらった。

 ギルバートにキスされたことは痛かったが、ハーヴェイとたくさんの時間を過ごせて、クリスの気持ちも上向いたのだった。
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