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7.貧乏王家
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「どうしてですか!?」
晩餐室にデシリーの声が響く。
不作法なそれに、国王と王妃は眉をひそめた。
「……食事中ですよ。静かになさい」
「でも! なぜ婚礼衣装が王妃様のお古なんですか!? 国を挙げての式なんですから、ちゃんと新しく作るべきです!」
王妃への口調もなっていないデシリーをかばうようにフェルナンドが口を挟んだ。
「そうです! 何度も申しますが、王太子であるわたしとデシリーの結婚は、王家の威光を示すものでなくてはなりません! それを古着で済ますなど愚の骨頂です!」
そのもののおまえに言われたくないと、国王夫妻がフェルナンドに剣呑な目を向ける。
「……わたくしもあなたのような方に思い出の品を譲りたくはないのですよ。ですが、新たに衣装を作る余裕はないのです。諦めなさい」
「ひ、ひどい! 王妃様、嫁ぐ前から嫁いびりですか!?」
「母上! いくらなんでもひどすぎます!」
抗議するフェルナンドたちに、国王夫妻はため息を隠せなかった。
「ひどいのはあなたたちの所業でしょう。そもそもの原因のあなたたちが文句を言うなど、何様のつもりですか?」
「そんな! そ、そうだわ、王妃様のご実家に支援してもらえばいいのよ! それで王妃様の今の暴言はチャラですよね?」
「……本当に何様のつもりなのだ……」
デシリーのその発言を聞いた国王と王妃は頭を抱える。そして、王妃は息を整えると、デシリーを見据えた。
「……わたくしの実家のミドルトン侯爵家は、滞っていた軍の給金を立て替えたことで、もう支援はしないと宣言しました。ですから、どうしても衣装を新調したいと言うならば、あなたのご実家のエカピット男爵家からかかる費用を出しなさい。持参金すらなかったのですもの、当然できますわよね?」
王妃が辛辣に皮肉ると、デシリーはさもしくも泣きまねをした。
「ひっ、ひどい! わたしの花嫁衣装より、軍の給金を優先させるなんて! それに、わたしの家の経済状況を知っていてそんなことを言うなんてひどすぎるわ!」
「経済状況もなにも、エカピット男爵家が貧しくなったのは、そなたの贅沢三昧のせいだろう。被害者づらするのもいい加減にするのだな」
デシリーに苦言を呈する国王をフェルナンドが咎めたてる。
「父上! それに母上もひどいです。既に解体した軍に給金を渡すなど無駄もいいところです! そんなところに使うのならば、未来の国王とその妃であるわたしたちの衣装に使ったほうがよほど有意義です! すぐに軍から金を回収してください!」
フェルナンドの主張に、国王夫妻が大仰なため息をつく。ややして、国王が重々しく口を開いた。
「……滞っていた給金を軍に出すのが無駄? おまえは軍に給金を払わぬことの恐ろしさを分かっていないようだな。軍部の不満がたまりクーデターなど起こされたら、おまえはどうするつもりなのだ?」
「そ、それは……っ、近衛がどうにか……っ」
「……おまえは馬鹿なのか?」
なにを言われたのか分からずに、フェルナンドがぽかんと父である国王を見返す。
「おまえの行いを目にして、近衛ですらやめていっている者が多いのに、どうやって戦慣れしている軍に立ち向かうというのだ。妄想ばかりしていないで、少しは現実を見ろ」
「な、な……っ」
ようやく自分がなにを言われたのか理解したフェルナンドは、屈辱から顔を赤く染めた。
「とにかく、軍に払った金を回収するつもりはない。後ろ盾のないわが王家は慎ましく過ごすしかないのだ。王妃の衣装が気に入らないのならば、既製の物から選ぶか、妃の言ったとおり、エカピット男爵家から金を用立てるのだな」
「そんな……! うちからは出せないのを知っていてひどい! こんなのってあんまりよ! せっかく一世一代の晴れ舞台なのに!」
デシリーがきゃんきゃんと噛みつくのを国王夫妻は冷ややかな視線で受け止めた。
「身分が違いすぎて結ばれるということは、こういう弊害もあると知りなさい。せめてあなたのご実家に商才があれば良かったのですけれどね。……ああ、ロクサーナ嬢は商才もおありでしたから、本当に惜しいことをしました」
「……妃、それ以上は申すな」
「あら、失礼しました。つい愚痴が出てしまいましたわ」
王妃は片手で口元を押さえると、気を取り直したようにナイフとフォークを取り、食事を再開した。
「……おまえ達も冷めないうちに食べるがいい。これ以上無駄口をたたくな」
これ以上の反論は許さないとばかりに国王がフェルナンドとデシリーを睨めつける。それに気圧された二人は、内容が変わった時から段々質素になっていく料理に慌てて取りかかるのだった。
晩餐室にデシリーの声が響く。
不作法なそれに、国王と王妃は眉をひそめた。
「……食事中ですよ。静かになさい」
「でも! なぜ婚礼衣装が王妃様のお古なんですか!? 国を挙げての式なんですから、ちゃんと新しく作るべきです!」
王妃への口調もなっていないデシリーをかばうようにフェルナンドが口を挟んだ。
「そうです! 何度も申しますが、王太子であるわたしとデシリーの結婚は、王家の威光を示すものでなくてはなりません! それを古着で済ますなど愚の骨頂です!」
そのもののおまえに言われたくないと、国王夫妻がフェルナンドに剣呑な目を向ける。
「……わたくしもあなたのような方に思い出の品を譲りたくはないのですよ。ですが、新たに衣装を作る余裕はないのです。諦めなさい」
「ひ、ひどい! 王妃様、嫁ぐ前から嫁いびりですか!?」
「母上! いくらなんでもひどすぎます!」
抗議するフェルナンドたちに、国王夫妻はため息を隠せなかった。
「ひどいのはあなたたちの所業でしょう。そもそもの原因のあなたたちが文句を言うなど、何様のつもりですか?」
「そんな! そ、そうだわ、王妃様のご実家に支援してもらえばいいのよ! それで王妃様の今の暴言はチャラですよね?」
「……本当に何様のつもりなのだ……」
デシリーのその発言を聞いた国王と王妃は頭を抱える。そして、王妃は息を整えると、デシリーを見据えた。
「……わたくしの実家のミドルトン侯爵家は、滞っていた軍の給金を立て替えたことで、もう支援はしないと宣言しました。ですから、どうしても衣装を新調したいと言うならば、あなたのご実家のエカピット男爵家からかかる費用を出しなさい。持参金すらなかったのですもの、当然できますわよね?」
王妃が辛辣に皮肉ると、デシリーはさもしくも泣きまねをした。
「ひっ、ひどい! わたしの花嫁衣装より、軍の給金を優先させるなんて! それに、わたしの家の経済状況を知っていてそんなことを言うなんてひどすぎるわ!」
「経済状況もなにも、エカピット男爵家が貧しくなったのは、そなたの贅沢三昧のせいだろう。被害者づらするのもいい加減にするのだな」
デシリーに苦言を呈する国王をフェルナンドが咎めたてる。
「父上! それに母上もひどいです。既に解体した軍に給金を渡すなど無駄もいいところです! そんなところに使うのならば、未来の国王とその妃であるわたしたちの衣装に使ったほうがよほど有意義です! すぐに軍から金を回収してください!」
フェルナンドの主張に、国王夫妻が大仰なため息をつく。ややして、国王が重々しく口を開いた。
「……滞っていた給金を軍に出すのが無駄? おまえは軍に給金を払わぬことの恐ろしさを分かっていないようだな。軍部の不満がたまりクーデターなど起こされたら、おまえはどうするつもりなのだ?」
「そ、それは……っ、近衛がどうにか……っ」
「……おまえは馬鹿なのか?」
なにを言われたのか分からずに、フェルナンドがぽかんと父である国王を見返す。
「おまえの行いを目にして、近衛ですらやめていっている者が多いのに、どうやって戦慣れしている軍に立ち向かうというのだ。妄想ばかりしていないで、少しは現実を見ろ」
「な、な……っ」
ようやく自分がなにを言われたのか理解したフェルナンドは、屈辱から顔を赤く染めた。
「とにかく、軍に払った金を回収するつもりはない。後ろ盾のないわが王家は慎ましく過ごすしかないのだ。王妃の衣装が気に入らないのならば、既製の物から選ぶか、妃の言ったとおり、エカピット男爵家から金を用立てるのだな」
「そんな……! うちからは出せないのを知っていてひどい! こんなのってあんまりよ! せっかく一世一代の晴れ舞台なのに!」
デシリーがきゃんきゃんと噛みつくのを国王夫妻は冷ややかな視線で受け止めた。
「身分が違いすぎて結ばれるということは、こういう弊害もあると知りなさい。せめてあなたのご実家に商才があれば良かったのですけれどね。……ああ、ロクサーナ嬢は商才もおありでしたから、本当に惜しいことをしました」
「……妃、それ以上は申すな」
「あら、失礼しました。つい愚痴が出てしまいましたわ」
王妃は片手で口元を押さえると、気を取り直したようにナイフとフォークを取り、食事を再開した。
「……おまえ達も冷めないうちに食べるがいい。これ以上無駄口をたたくな」
これ以上の反論は許さないとばかりに国王がフェルナンドとデシリーを睨めつける。それに気圧された二人は、内容が変わった時から段々質素になっていく料理に慌てて取りかかるのだった。
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