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22.n度目かの大失態
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──話はさかのぼって、フェルナンドが何度目かの大失態を演じたのちのことである。
「なんということをしてくれたのだ! おまえはこの国を内乱状態にするつもりか!」
慌てて謝罪に向かったが、まんまとアサートン侯爵家の者たちに逃げられてしまった国王は、城に戻るなりフェルナンドを呼び出し、どやしつけた。
よりにもよって反王家筆頭、おまけに三将軍のうちの一人を婚約者に持つ令嬢を侮辱してしまったのだ。国王が激怒するのも当然である。
その国王のそばで、王妃は息子である王太子を冷ややかに見つめている。
「な、なぜ内乱などになるというのですか!? わたしは王家にとってよかれと思って……っ」
「なにがよかれと思ってだ。おまえのやったことは、むしろ破滅させることではないか! おまえは筆頭侯爵のアサートン家に喧嘩を売ったのだぞ!」
「それは誤解です! わたしは喧嘩を売るなどしていません! むしろ、アサートン侯爵家に恩を売ったくらいです!」
いまだにことの重大さを理解していないフェルナンドに、国王はこめかみに血管を浮き上がらせ怒鳴った。
「このうつけが! 高位貴族の令嬢に、正妃ならともかく愛人になれなど、侮辱以外の何物でもないわ! その上、王家を支援しろなどと、よく言えたものだ。むしろ、こちらが補償金を出さねばならぬくらいだ!」
「そ、そんな馬鹿な! なぜわが王家が金を出さねばいけないのです!?」
思ってもみない言葉だったのか驚いて飛び上がるフェルナンドに、国王ははらわたが煮えくり返りながらもさらに言い募った。
「馬鹿なのはおまえだ! 貴族最下位の男爵家の娘が妃になるのに、筆頭侯爵家の令嬢が日陰者の愛人になどなりたがるわけもない。その親もまたしかりだ。おまえのやったことは、彼らにそんな屈辱を強いて金をむしり取ろうとする、乞食よりも浅ましい行為だ」
「こっ、乞食……!? わたしは王家のためを思ってやったのですよ! それをいたわるどころか、このような侮辱、父上とはいえひどすぎます!」
「なにが王家のためだ、おまえは自分にためにやったのだろう! その証拠に、おまえはマデリーン嬢の体つきが好みであるとまで言ったそうではないか!」
すると、それまで我関せずと傍観していたデシリーがすかさず反応した。
「ええっ、フェルナンド様、わたしというものがありながら浮気してたんですか!? 不潔です!」
……デシリーも他の貴族令息にさんざん粉をかけていたのだから、フェルナンドと同罪であるのだが。
自分を棚に上げたデシリーの非難に、それを知らないフェルナンドはうろたえ弁解する。
「うっ、こここれはだなっ、ごご誤解だデシリー!」
「なにが誤解だ。おまえがやったことは、大勢の目撃者がいる。それも貴族子息、子女の前でだ。彼らの家もアサートン家と同じように王都から逃亡するだろう。この失態、どう回復するつもりだ!」
「な、なぜ、彼らが逃亡するのですか!? わけが分かりません!」
フェルナンドが驚愕したように言うと、国王は心底あきれたような顔になった。
「おまえが衆目の前でアサートン家に浅ましいたかり方をしたのだ。次は自分の番かと彼らが恐れて逃げるのも当然だろう」
「ぶっ、無礼な! わたしの愛人という名誉から逃げようとするとは!」
「おまえはなんど言ったら分かるのだ! おまえのしたことは、侮辱でしかないわ!」
「でっ、ですが! このわたしの愛人になれるのですよ!? 喜んで従うのが当然ではありませんか!」
この期に及んでたわけたことを言うフェルナンドに、国王は怒りとあきれを含んだ視線を投げた。
「……おまえは馬鹿か?」
「ば……っ!」
愚かにも同意してくれるものと思っていたらしいフェルナンドが、顔を真っ赤にして絶句する。
このような状況においても相変わらずなその自信は、いったいどこから出てくるのだろうか。
「おまえとデシリーは学園で嫌われまくっていたではないか。嫌悪している男に愛人になれなどと言われたら、当然嫌がるに決まっている」
「なあっ、け、嫌悪!? それに、わたしが嫌われまくっていたなどと! いくら父上でも、ひどすぎます!」
見当違いの怒りから身を震わせるフェルナンドに、国王はあきれた果てたような顔になった。
以前にも国王から聞いていたはずなのだが、フェルナンドはそのことをすっかり忘れてしまっているようだ。おめでたい頭である。
「マデリーン嬢に逃げられたのが、その証明ではないか。おまえはもしや、皆に愛されているとでも思っていたのか?」
「当然です! 今回はたまたまマデリーンが不敬な輩だっただけで……っ」
「各家からあれだけの抗議状をもらっておいて、よくそんなことが言えるものだ。……フェルナンド、いい加減に現実を見ろ」
「しっ、しかし!」
あきらめも悪くしつこく食い下がるフェルナンドをさえぎるように、国王はにべもなく首を横に振った。
「……話はもう終わりだ。今後、おまえが学園に赴くことはまかりならん。それから、おまえはしばらく部屋で謹慎していろ。──連れて行け」
国王がそう言った途端、控えていた近衛二人が愕然としているフェルナンドの両脇を抱える。すると、それまで愕然と立ち尽くしていたフェルナンドがわめいた。
「……無礼者! わたしを誰と心得るか! 父上っ、わたしの話を聞いてくださいっ、父上ーっ!!」
問答無用で引きずられていくフェルナンドを見やりながら、顔に疲れをにじませた国王は、深いため息をつく。それを王妃が沈痛な面もちで見守っていた。
「なんということをしてくれたのだ! おまえはこの国を内乱状態にするつもりか!」
慌てて謝罪に向かったが、まんまとアサートン侯爵家の者たちに逃げられてしまった国王は、城に戻るなりフェルナンドを呼び出し、どやしつけた。
よりにもよって反王家筆頭、おまけに三将軍のうちの一人を婚約者に持つ令嬢を侮辱してしまったのだ。国王が激怒するのも当然である。
その国王のそばで、王妃は息子である王太子を冷ややかに見つめている。
「な、なぜ内乱などになるというのですか!? わたしは王家にとってよかれと思って……っ」
「なにがよかれと思ってだ。おまえのやったことは、むしろ破滅させることではないか! おまえは筆頭侯爵のアサートン家に喧嘩を売ったのだぞ!」
「それは誤解です! わたしは喧嘩を売るなどしていません! むしろ、アサートン侯爵家に恩を売ったくらいです!」
いまだにことの重大さを理解していないフェルナンドに、国王はこめかみに血管を浮き上がらせ怒鳴った。
「このうつけが! 高位貴族の令嬢に、正妃ならともかく愛人になれなど、侮辱以外の何物でもないわ! その上、王家を支援しろなどと、よく言えたものだ。むしろ、こちらが補償金を出さねばならぬくらいだ!」
「そ、そんな馬鹿な! なぜわが王家が金を出さねばいけないのです!?」
思ってもみない言葉だったのか驚いて飛び上がるフェルナンドに、国王ははらわたが煮えくり返りながらもさらに言い募った。
「馬鹿なのはおまえだ! 貴族最下位の男爵家の娘が妃になるのに、筆頭侯爵家の令嬢が日陰者の愛人になどなりたがるわけもない。その親もまたしかりだ。おまえのやったことは、彼らにそんな屈辱を強いて金をむしり取ろうとする、乞食よりも浅ましい行為だ」
「こっ、乞食……!? わたしは王家のためを思ってやったのですよ! それをいたわるどころか、このような侮辱、父上とはいえひどすぎます!」
「なにが王家のためだ、おまえは自分にためにやったのだろう! その証拠に、おまえはマデリーン嬢の体つきが好みであるとまで言ったそうではないか!」
すると、それまで我関せずと傍観していたデシリーがすかさず反応した。
「ええっ、フェルナンド様、わたしというものがありながら浮気してたんですか!? 不潔です!」
……デシリーも他の貴族令息にさんざん粉をかけていたのだから、フェルナンドと同罪であるのだが。
自分を棚に上げたデシリーの非難に、それを知らないフェルナンドはうろたえ弁解する。
「うっ、こここれはだなっ、ごご誤解だデシリー!」
「なにが誤解だ。おまえがやったことは、大勢の目撃者がいる。それも貴族子息、子女の前でだ。彼らの家もアサートン家と同じように王都から逃亡するだろう。この失態、どう回復するつもりだ!」
「な、なぜ、彼らが逃亡するのですか!? わけが分かりません!」
フェルナンドが驚愕したように言うと、国王は心底あきれたような顔になった。
「おまえが衆目の前でアサートン家に浅ましいたかり方をしたのだ。次は自分の番かと彼らが恐れて逃げるのも当然だろう」
「ぶっ、無礼な! わたしの愛人という名誉から逃げようとするとは!」
「おまえはなんど言ったら分かるのだ! おまえのしたことは、侮辱でしかないわ!」
「でっ、ですが! このわたしの愛人になれるのですよ!? 喜んで従うのが当然ではありませんか!」
この期に及んでたわけたことを言うフェルナンドに、国王は怒りとあきれを含んだ視線を投げた。
「……おまえは馬鹿か?」
「ば……っ!」
愚かにも同意してくれるものと思っていたらしいフェルナンドが、顔を真っ赤にして絶句する。
このような状況においても相変わらずなその自信は、いったいどこから出てくるのだろうか。
「おまえとデシリーは学園で嫌われまくっていたではないか。嫌悪している男に愛人になれなどと言われたら、当然嫌がるに決まっている」
「なあっ、け、嫌悪!? それに、わたしが嫌われまくっていたなどと! いくら父上でも、ひどすぎます!」
見当違いの怒りから身を震わせるフェルナンドに、国王はあきれた果てたような顔になった。
以前にも国王から聞いていたはずなのだが、フェルナンドはそのことをすっかり忘れてしまっているようだ。おめでたい頭である。
「マデリーン嬢に逃げられたのが、その証明ではないか。おまえはもしや、皆に愛されているとでも思っていたのか?」
「当然です! 今回はたまたまマデリーンが不敬な輩だっただけで……っ」
「各家からあれだけの抗議状をもらっておいて、よくそんなことが言えるものだ。……フェルナンド、いい加減に現実を見ろ」
「しっ、しかし!」
あきらめも悪くしつこく食い下がるフェルナンドをさえぎるように、国王はにべもなく首を横に振った。
「……話はもう終わりだ。今後、おまえが学園に赴くことはまかりならん。それから、おまえはしばらく部屋で謹慎していろ。──連れて行け」
国王がそう言った途端、控えていた近衛二人が愕然としているフェルナンドの両脇を抱える。すると、それまで愕然と立ち尽くしていたフェルナンドがわめいた。
「……無礼者! わたしを誰と心得るか! 父上っ、わたしの話を聞いてくださいっ、父上ーっ!!」
問答無用で引きずられていくフェルナンドを見やりながら、顔に疲れをにじませた国王は、深いため息をつく。それを王妃が沈痛な面もちで見守っていた。
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