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20.友人からの便り
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「姉上、お帰りなさい」
皇宮から屋敷に帰りましたら、弟のユージーンが出迎えてくれました。
「皇太子様とのお茶会はどうでしたか?」
なぜかわくわくした様子で、ユージーンが尋ねてきました。
最近わたしが皇宮のお茶会から帰るとこうなんですけど、特におもしろいことはないですよ。レンブラント様のお茶会に参加することは光栄ですけれど。
「そうね。いつものとおりよ。お茶をしながらフェルナンド様からの書状を皆で批評して終わりよ」
わたしがそう言いますと、目に見えてユージーンががっかりというような顔になりました。
「……あのヘタレ、まだ姉上になにも言ってないのか……」
「ヘタレ? ユージーン、なんのこと? なにか重要なことがあったの?」
「い、いや、こっちのこと!」
わたしが首をかしげますと、ユージーンは慌てたように両手を胸の前で振りました。……なにか怪しいですね。
「あっ、そうだ。リーン様から手紙が届いてましたよ!」
「まあ、リーン様から? ちょうどよかったわ。お茶会でも彼女のことが話題になってたの」
リーン様……、手紙の差出人はリーン・ベインズとなっていますが、実はマデリーン様の仮の名で、わたしと手紙のやりとりをする時だけ使用する名前なのです。……もうおわかりでしょうが、マデリーン様とわたしはお友達です。
仮名を使うなら、まったく違う名を使えばいいと思う方もいるでしょうが、それだとわかりにくいですしね。それに、リーンならよくある名ですし、万が一手紙が王家に渡っても、他の名の愛称では? などと、とぼけられますから。
……まあ、あの馬鹿王子のありえない内容の書状が検閲されずに帝国まで届けられているのを考えると、マデリーン様の手紙が引っかかるとも思えないですけどね。今現在のギルモア王国内部はだいぶ混乱しているようです。
わたしはとりあえず自室に戻ると、部屋着に着替えてから、おもむろにマデリーン様の手紙を開きました。
『親愛なるロクサーナ様
環境も変わり、いろいろと大変かと思いますが、変わらずお元気で過ごされていらっしゃいますでしょうか。
こちらも変わりないと申したいところですが、周囲もだいぶ慌ただしくなってまいりました。』
……まあ、そうですよね。アサートン侯爵家の方々は一晩で王都の屋敷を引き払ったそうですから。
慌ただしくなっているのは、間違いなくフェルナンド様のせいだと思います。
『ロクサーナ様のことですから、もうお知りになられているかもしれませんが、わたくし田舎に帰ることになりました。
なぜ急にこんなことになったのかと言いますと、とある身分の高いお方がわたくしを日陰の身として囲おうとしたからなのです。
……ですが、わたくしには決まった方が既におりますし、第一、わたくしはその身分しかとりえのない方が大嫌いですの。あんな男の愛人になるくらいなら、わたくし迷わず死を選びますわ! ……あら、淑女らしくもなく取り乱してしまいました。お恥ずかしゅうございます。
ですが、今回の件については家人も「馬鹿にするにもほどがある」と憤っておりますし、怒っているのはわたくしだけではないのです。あの方、わたくしのお友達にも愛人にしてやると侮辱したのですから。
ただ、わたくしの婚約者様だけは、いきさつを聞いて「あの男のやりそうなことだな」とどこか遠い目をしておりましたが、彼らの間にいったいなにがあったのでしょうね。今度詳しく聞いておきますわ。』
ああ、それはわたしも気になりますね。
ギルモア王国の軍隊が解体されたことまでは聞き及んでいたのですが、うっかりリーケリー辺境伯様に帝国を滅ぼすと言ってしまうようなあのフェルナンド様が、三将軍のうちの誰かに突っかからないわけもないような気がしてきました。考えるだけでもお気の毒ですね。
……それにしても、フェルナンド様は馬鹿なことをしたものです。いえ、彼にとっては通常運転なのかもしれませんが、既に敵認定しているわたしでも、この方大丈夫なのかと心配になるようなありさまです。さぞかし両陛下も胃が痛いことでしょう。
フェルナンド様は、マデリーンさまのみならず他のご令嬢も侮辱してしまったようですし、もうこれは、内乱待ったなしの状態なのではないでしょうか。
皇宮から屋敷に帰りましたら、弟のユージーンが出迎えてくれました。
「皇太子様とのお茶会はどうでしたか?」
なぜかわくわくした様子で、ユージーンが尋ねてきました。
最近わたしが皇宮のお茶会から帰るとこうなんですけど、特におもしろいことはないですよ。レンブラント様のお茶会に参加することは光栄ですけれど。
「そうね。いつものとおりよ。お茶をしながらフェルナンド様からの書状を皆で批評して終わりよ」
わたしがそう言いますと、目に見えてユージーンががっかりというような顔になりました。
「……あのヘタレ、まだ姉上になにも言ってないのか……」
「ヘタレ? ユージーン、なんのこと? なにか重要なことがあったの?」
「い、いや、こっちのこと!」
わたしが首をかしげますと、ユージーンは慌てたように両手を胸の前で振りました。……なにか怪しいですね。
「あっ、そうだ。リーン様から手紙が届いてましたよ!」
「まあ、リーン様から? ちょうどよかったわ。お茶会でも彼女のことが話題になってたの」
リーン様……、手紙の差出人はリーン・ベインズとなっていますが、実はマデリーン様の仮の名で、わたしと手紙のやりとりをする時だけ使用する名前なのです。……もうおわかりでしょうが、マデリーン様とわたしはお友達です。
仮名を使うなら、まったく違う名を使えばいいと思う方もいるでしょうが、それだとわかりにくいですしね。それに、リーンならよくある名ですし、万が一手紙が王家に渡っても、他の名の愛称では? などと、とぼけられますから。
……まあ、あの馬鹿王子のありえない内容の書状が検閲されずに帝国まで届けられているのを考えると、マデリーン様の手紙が引っかかるとも思えないですけどね。今現在のギルモア王国内部はだいぶ混乱しているようです。
わたしはとりあえず自室に戻ると、部屋着に着替えてから、おもむろにマデリーン様の手紙を開きました。
『親愛なるロクサーナ様
環境も変わり、いろいろと大変かと思いますが、変わらずお元気で過ごされていらっしゃいますでしょうか。
こちらも変わりないと申したいところですが、周囲もだいぶ慌ただしくなってまいりました。』
……まあ、そうですよね。アサートン侯爵家の方々は一晩で王都の屋敷を引き払ったそうですから。
慌ただしくなっているのは、間違いなくフェルナンド様のせいだと思います。
『ロクサーナ様のことですから、もうお知りになられているかもしれませんが、わたくし田舎に帰ることになりました。
なぜ急にこんなことになったのかと言いますと、とある身分の高いお方がわたくしを日陰の身として囲おうとしたからなのです。
……ですが、わたくしには決まった方が既におりますし、第一、わたくしはその身分しかとりえのない方が大嫌いですの。あんな男の愛人になるくらいなら、わたくし迷わず死を選びますわ! ……あら、淑女らしくもなく取り乱してしまいました。お恥ずかしゅうございます。
ですが、今回の件については家人も「馬鹿にするにもほどがある」と憤っておりますし、怒っているのはわたくしだけではないのです。あの方、わたくしのお友達にも愛人にしてやると侮辱したのですから。
ただ、わたくしの婚約者様だけは、いきさつを聞いて「あの男のやりそうなことだな」とどこか遠い目をしておりましたが、彼らの間にいったいなにがあったのでしょうね。今度詳しく聞いておきますわ。』
ああ、それはわたしも気になりますね。
ギルモア王国の軍隊が解体されたことまでは聞き及んでいたのですが、うっかりリーケリー辺境伯様に帝国を滅ぼすと言ってしまうようなあのフェルナンド様が、三将軍のうちの誰かに突っかからないわけもないような気がしてきました。考えるだけでもお気の毒ですね。
……それにしても、フェルナンド様は馬鹿なことをしたものです。いえ、彼にとっては通常運転なのかもしれませんが、既に敵認定しているわたしでも、この方大丈夫なのかと心配になるようなありさまです。さぞかし両陛下も胃が痛いことでしょう。
フェルナンド様は、マデリーンさまのみならず他のご令嬢も侮辱してしまったようですし、もうこれは、内乱待ったなしの状態なのではないでしょうか。
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