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16.恥ずかしい王子
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それから、わたしは皇宮を訪ねる度に毎回のように届いているフェルナンド様の手紙を開いてみました。
レンブラント様は最近はそうでもないのですが、マリアムは相変わらずわくわくした様子が隠せてません。……もしかしたら、隠す気もないのかもしれませんが。
『ロクサーナ
わざわざわたしが貴様などにこうして手紙を送っているのに、なぜ慰謝料と料理人を送ってこない。
わたしに捨てられた当てつけのつもりか? まったく浅ましいな。』
……はあ? なにを寝ぼけたことをのたまっているのでしょうか、この馬鹿王太子は。
エヴァンジェリスタ家はプラカシュ王家と二度と関わらないと宣言したのですから、返事をしないのは当然でしょうに。
第一、あちらの陛下がプラカシュ家もこちらに関わらないと約定したのですから、あなたもそれを守っていただかないと困りますよ。
陛下はたぶんフェルナンド様がエヴァンジェリスタ家にせびっているのを知らないのでしょうけれど、バレたらどうする気なのでしょうか。
『それはそうと、最近デシリーがよそよそしいのだ。貴様が裏でなにかしているのではあるまいな? だが、わたし達の愛は貴様のえげつない工作などには揺らぎはしないぞ』
……デシリー嬢にはあの婚約破棄の場から一度もお会いしておりませんが?
そもそも裏工作していたのは、わたしを陥れようとしたあなたたちですよね? よくもいけしゃあしゃあとこんなことが書けるものです。
……それにしても、デシリー嬢の心はフェルナンド様から離れてきているのですかね。
公爵家で調べたところによると、デシリー嬢は浪費癖があるようですから、内情火の車の王家の嫁は嫌なのかもしれませんね。贅沢できませんから。今頃他に粉をかけていた男性をつかまえればよかったと後悔しているところかもしれません。
フェルナンド様は真実の愛だのなんだのとたわけたことをおっしゃっていましたが、そのお妃様になられる方はそうは思っていないようですね。
……ああそうそう、もしかしたらフェルナンド様がう○こを漏らしたことがデシリー嬢の耳に入ったのかもしれません。
さすがにう○こたれ王太子は乙女の結婚相手としては嫌ですよね。全然うらやましくないというか、ご愁傷様ですといった感じです。でもまあ、これは彼女の自業自得ですし、こちらの知ったことではないですけどね。
『わたしが嫌々貴様のような醜女を婚約者としてやっていたのだ。これまでの恩に報いるためにもすぐにも金と料理人をよこせ。豚のような貴様は、それくらいしか取りえがないのだからな。
ギルモア王国王太子 フェルナンド・プラカシュ』
「…………」
フェルナンド様、相変わらず人をいらつかせる天才です。喧嘩を売っているとしか思えません。
どうしてこの文面で、相手が素直に言うことを聞くと思うのでしょうか。実はお金や人材はほしくなくて、単にわたしへの嫌がらせでやっているんですかね?
眉間にしわを寄せていると、レンブラント様が心配そうにわたしをのぞきこみました。
「……ロクサーナ嬢、大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしてしまってすみません」
「いや、いいけど。……その書状見せてもらっても?」
「あ、はい、どうぞ」
わたしが素直にレンブラント様にフェルナンド様の手紙をお渡しすると、彼はわずかに眉を寄せて読んでいましたが、やがて不快そうに吐き捨てました。
「……まったく何様のつもりなのだか。大恩あるロクサーナ嬢に、あだで返したのはそちらだろうに」
レンブラント様がわたしのために憤ってくださるのはうれしいのですが、一応あの方は王太子様ですよ。今はもうほとんど名ばかりですが。
「ああ、これは本当にむかつきますねえ。嫌々婚約をしていたのはロクサーナ様のほうでしょうに」
「勘違い男って恥ずかしいですわねえ」
レンブラント様から受け取った手紙をマリアムとエリック様の姉弟がのぞきこみながらこき下ろしました。
「ああ、そういえば、ギルモア王城に放っていた間諜から報告がありましたが、侍女長が辞めてしまったらしく、王太子の身の回りの世話をする者がいないようですね。あの王太子は自分で身だしなみをろくに整えることもできないようで、鼻毛が出ているのを目撃した元男爵令嬢が大騒ぎしていたらしいですよ」
「……はあ?」
楽しそうなエリック様の言葉に、わたしは思わずぽかんとしてしまいました。
鼻毛……ですか? 新たな婚約者のデシリー嬢の前で? それはなんというか……。
「顔だけが取りえでしたのに、本当に残念な王太子ですわねえ。彼がう○こ漏らしたことをお妃様になる方もようやくそうだと気がついたようですし、これはおもしろくなってきましたわね!」
うれしそうにマリアムはそう言いますが、わたしは少しデシリー嬢が気の毒になってしまいました。
マリアムの言うとおり、王妃様に少し似た顔だけがフェルナンド様の唯一の取りえでしたので、それが台無しになっているのはデシリー嬢にはきついでしょうね。鼻毛が出ている王子なんて、乙女の夢を壊すにも程があります。まさか、鼻毛ボーボーだったわけではないですよね?
……ですが、フェルナンド様が衆人環視の場でう○こ漏らしたことのほうがインパクトは大きいかもしれないですね。
いったいどこの世界にこんな恥ずかしい王子がいるというのでしょう。
一瞬フェルナンド様にそのことを伝えてやろうかという考えが頭をもたげましたが、ここでわたしが反応してしまってはいけませんね。
わたしは首を横に振ると、小さくため息をつきました。
──わたしたちエヴァンジェリスタ家の者は、二度とプラカシュ家に関わらない。そう、初志貫徹です。
レンブラント様は最近はそうでもないのですが、マリアムは相変わらずわくわくした様子が隠せてません。……もしかしたら、隠す気もないのかもしれませんが。
『ロクサーナ
わざわざわたしが貴様などにこうして手紙を送っているのに、なぜ慰謝料と料理人を送ってこない。
わたしに捨てられた当てつけのつもりか? まったく浅ましいな。』
……はあ? なにを寝ぼけたことをのたまっているのでしょうか、この馬鹿王太子は。
エヴァンジェリスタ家はプラカシュ王家と二度と関わらないと宣言したのですから、返事をしないのは当然でしょうに。
第一、あちらの陛下がプラカシュ家もこちらに関わらないと約定したのですから、あなたもそれを守っていただかないと困りますよ。
陛下はたぶんフェルナンド様がエヴァンジェリスタ家にせびっているのを知らないのでしょうけれど、バレたらどうする気なのでしょうか。
『それはそうと、最近デシリーがよそよそしいのだ。貴様が裏でなにかしているのではあるまいな? だが、わたし達の愛は貴様のえげつない工作などには揺らぎはしないぞ』
……デシリー嬢にはあの婚約破棄の場から一度もお会いしておりませんが?
そもそも裏工作していたのは、わたしを陥れようとしたあなたたちですよね? よくもいけしゃあしゃあとこんなことが書けるものです。
……それにしても、デシリー嬢の心はフェルナンド様から離れてきているのですかね。
公爵家で調べたところによると、デシリー嬢は浪費癖があるようですから、内情火の車の王家の嫁は嫌なのかもしれませんね。贅沢できませんから。今頃他に粉をかけていた男性をつかまえればよかったと後悔しているところかもしれません。
フェルナンド様は真実の愛だのなんだのとたわけたことをおっしゃっていましたが、そのお妃様になられる方はそうは思っていないようですね。
……ああそうそう、もしかしたらフェルナンド様がう○こを漏らしたことがデシリー嬢の耳に入ったのかもしれません。
さすがにう○こたれ王太子は乙女の結婚相手としては嫌ですよね。全然うらやましくないというか、ご愁傷様ですといった感じです。でもまあ、これは彼女の自業自得ですし、こちらの知ったことではないですけどね。
『わたしが嫌々貴様のような醜女を婚約者としてやっていたのだ。これまでの恩に報いるためにもすぐにも金と料理人をよこせ。豚のような貴様は、それくらいしか取りえがないのだからな。
ギルモア王国王太子 フェルナンド・プラカシュ』
「…………」
フェルナンド様、相変わらず人をいらつかせる天才です。喧嘩を売っているとしか思えません。
どうしてこの文面で、相手が素直に言うことを聞くと思うのでしょうか。実はお金や人材はほしくなくて、単にわたしへの嫌がらせでやっているんですかね?
眉間にしわを寄せていると、レンブラント様が心配そうにわたしをのぞきこみました。
「……ロクサーナ嬢、大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしてしまってすみません」
「いや、いいけど。……その書状見せてもらっても?」
「あ、はい、どうぞ」
わたしが素直にレンブラント様にフェルナンド様の手紙をお渡しすると、彼はわずかに眉を寄せて読んでいましたが、やがて不快そうに吐き捨てました。
「……まったく何様のつもりなのだか。大恩あるロクサーナ嬢に、あだで返したのはそちらだろうに」
レンブラント様がわたしのために憤ってくださるのはうれしいのですが、一応あの方は王太子様ですよ。今はもうほとんど名ばかりですが。
「ああ、これは本当にむかつきますねえ。嫌々婚約をしていたのはロクサーナ様のほうでしょうに」
「勘違い男って恥ずかしいですわねえ」
レンブラント様から受け取った手紙をマリアムとエリック様の姉弟がのぞきこみながらこき下ろしました。
「ああ、そういえば、ギルモア王城に放っていた間諜から報告がありましたが、侍女長が辞めてしまったらしく、王太子の身の回りの世話をする者がいないようですね。あの王太子は自分で身だしなみをろくに整えることもできないようで、鼻毛が出ているのを目撃した元男爵令嬢が大騒ぎしていたらしいですよ」
「……はあ?」
楽しそうなエリック様の言葉に、わたしは思わずぽかんとしてしまいました。
鼻毛……ですか? 新たな婚約者のデシリー嬢の前で? それはなんというか……。
「顔だけが取りえでしたのに、本当に残念な王太子ですわねえ。彼がう○こ漏らしたことをお妃様になる方もようやくそうだと気がついたようですし、これはおもしろくなってきましたわね!」
うれしそうにマリアムはそう言いますが、わたしは少しデシリー嬢が気の毒になってしまいました。
マリアムの言うとおり、王妃様に少し似た顔だけがフェルナンド様の唯一の取りえでしたので、それが台無しになっているのはデシリー嬢にはきついでしょうね。鼻毛が出ている王子なんて、乙女の夢を壊すにも程があります。まさか、鼻毛ボーボーだったわけではないですよね?
……ですが、フェルナンド様が衆人環視の場でう○こ漏らしたことのほうがインパクトは大きいかもしれないですね。
いったいどこの世界にこんな恥ずかしい王子がいるというのでしょう。
一瞬フェルナンド様にそのことを伝えてやろうかという考えが頭をもたげましたが、ここでわたしが反応してしまってはいけませんね。
わたしは首を横に振ると、小さくため息をつきました。
──わたしたちエヴァンジェリスタ家の者は、二度とプラカシュ家に関わらない。そう、初志貫徹です。
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