喪女と野獣

舘野寧依

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第七章:これからのこと

第75話 回答

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「事業のことはあい分かったが、ナンジョーがハルカの求婚者になることは反対だ。……そもそもハルカは後半月余りでこちらに帰ってくることになっている」

 こう言えばナンジョーも諦めるだろうとカレヴィは踏んだ。
 すると、ハルカがそのことを今思い出したというような顔をした。

「そうですか……、それではあまりはるかさんに会えなくなるのですね」

 思った通りにがっかりというようにナンジョーが言う。
 しかしナンジョーは図太かった。

「しかし、この期間に攻勢をかければいいだけの話です。それに、今後も全く縁が切れるというわけではないようですし」
「ええ、それはお約束しますよ」
「ティカ殿!」

 ティカがしれっと言ったことで、ハルカと求婚者達が非難の目でティカを見る。だが、ティカは全く動じていないようだった。

「文句があるなら正攻法で南條さんに勝てばいいんです。それとも、みなさんはその自信がおありにならないんですか?」
「そんなわけはない」

 ティカの挑むような問いにカレヴィは思わず答えた。

「もちろん、あるに決まってるよ」
「実力でハルカをもぎとればいいんだろう」
「残りの期間を考えれば、こちらの方が有利ですからね」

 見るとハルカが頭を抱えている。求婚者達がティカの挑発に簡単に乗ってしまったからだろうか。
 すると、ナンジョーがニッと笑って言った。

「それでは決まりですね」
「ああ、望むところだ」

 ティカに乗せられたのは痛かったが、元よりカレヴィはハルカを手放す気はなかった。

「それでは商談相手としてはナンジョーのことを歓迎しよう。すぐに支度を」
「かしこまりました」

 カレヴィがゼシリアに命ずると、すぐに彼女は見本のような礼をして退出していった。

 そして、すぐに別室にナンジョーの歓待の儀のための用意がされて、カレヴィ達全員がそちらに移動した。

「個人的には気に入らないが、我が国の利益のためならば仕方ない。一応は歓迎してやる」
「……あまり歓迎されている気はしないですけれども、まあいいでしょう。今日は多少のことは目を瞑りますよ」

 カレヴィとナンジョーは睨み合い、激しい火花を散らした。

「ま、まあまあ。南條さん、ルルア酒はいかがです?」

 ハルカが焦ったように近くにあったデカンターを掴むと、二人の間に無理矢理割り込んだ。

「ありがとうございます。いただきます」

 南條さんが笑顔で空のグラスをハルカに差し出すと、彼女はすかさずルルア酒でそれを満たした。
 ──なんだ、ハルカは侍女のようなことをやって。少しは自分の身分を考えろ。

「ハルカはそんなことをしなくともいい。侍女にやらせろ」
「え、でも主賓にお酒を注ぐくらいしないと」

 カレヴィはナンジョーに彼女が関わるのが嫌だった。

「それくらいなら俺達がやる。おまえはおとなしくしていろ」
「……分かったよ」

 ハルカは頷くと、自分の席におとなしく戻った。
 すると、ハルカの隣に陣取ったナンジョーの子供達ががくいくいと彼女の袖を引っ張った。

「ねーねー、ゆうきとまなには~?」
「これはお酒だから二人には駄目だよ。ジュースで我慢してね」

 ハルカがそう言うと、待機していた侍女達が二人のグラスに果汁をついだ。

「わたしもジュースでお願い」

 ハルカが侍女にそう頼むと、すかさず果汁の満たされたグラスが運ばれてくる。

「なんだ、ハルカは呑まないのか?」
「うん、昼間だしちょっと止めとく」

 その返事にカレヴィはがっかりした。

「いつかのようにナンジョーにも説教してやれば良かったのにな」

 カレヴィはハルカの両親を連れて来た時のことを思いだして言った。

「いや、それはまずいでしょ」

 婚約者がいると分かっていて、ちょっかいをかけようとする輩なぞ、遠慮することはないのにハルカは渋った。
 ……ナンジョーの子供達がここにいるのが悪いのか?
 すると、ナンジョーが面白そうに尋ねてきた。

「はるかさん酒癖が悪いんですか?」
「いや、ちょっとタガが外れるくらいですよ」

 ――それは聞き捨てならないぞ、ハルカ。

「あれがちょっとか? 国王の俺を床に正座させて説教はありえないだろうが」
「う……」

 カレヴィの鋭いつっこみを受けてハルカは黙り込む。

「では、お酒は程々にした方が良さそうですね」
「え、ええ、そうですね……」

 ナンジョーの言葉に、ハルカは小さくなって頷いた。

「まあ、あれはあれで面白くはあるんだけどね。ハルカの男の品定めは非常に興味深かったよ」
「男の品定め?」

 それはハルカにあまり似つかわしくない言葉に思えた。
 アーネスの言葉に反応したナンジョーがぽかんとしてハルカを見る。
 するとハルカは困ったような顔をした。

「求婚者の中で誰が一番まともそうとか、誰と子供作ったら一番可愛いかとかわたし達の顔を凝視しながらだね……」
「ア、アーネス」

 ハルカがアーネスの口を止めようとする。
 そういえば、アーネスは確かその時に、タラシと言われていたか。

「まあ、酔った魔術師の攻撃魔法の応酬よりは可愛いものじゃありませんか。そのくらい多めに見ませんとはるかの評価も低くなりますよ」

 ティカは過激なことを口にして男達を黙らせた。

「……それは困るな。ハルカ、気を悪くしたなら許せ」
「いや別に……気を悪くなんてしてないけど」

 するとカレヴィはほっとして息を付いた。

「お気にされなくても、ハルカの兄王への評価はどん底でしょう」
「なんだと」

 シルヴィの攻撃にカレヴィが気色ばむ。

「ああ、もう。子供達の前でいい大人が喧嘩しないの」

 その子供達は、目の前の料理に夢中だ。
 ハルカはそれを確認してほっとしたような顔になる。
 しかし、カレヴィは先程のシルヴィの言葉が気にかかっていた。
 評価はどん底かもしれないが、愛情はどうだろうか。

「だが、ハルカはまだ俺のことが好きだろう?」

 すると、ハルカはかーっと頬を染めた後、頷いた。
 本当は『好き』だという回答が欲しかったが、照れて赤くなっているハルカは可愛らしいので、カレヴィは我慢することにした。
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