上 下
17 / 42

17.なんでそうなる!

しおりを挟む
「な、なんだサバス、学園に行ったのにまたすぐに帰ってきて……」

 ──王都のパーカー侯爵邸。
 不機嫌そうに顔を歪めながら帰宅したサバスをパーカー侯爵が落ち着かなげに出迎えた。

「学園長に帰されたのです。不当にも、今度は停学七日間を言い渡されて……!」
「なっ、なんだと! 前よりも期間が長いじゃないか! またなにかしでかしたのか!?」

 目をむいて侯爵がサバスを問いただす。
 王妃を侮辱して停学三日の処分よりもさらに重い七日間だ。侯爵でなくともなにかあったと思うだろう。

「……しでかす? ビッチと花畑でデートしていたら、花畑の花を踏んだとかで強制的に学園長室に連れて行かれたのです。たかが花くらい植え替えればいいものをそんなことで侯爵家嫡男である僕に乱暴な扱いをするなど許されません!」

 彼らが連行されたのは、往来で学園長を侮辱し、罷免するなどと騒いだからであるが、それに思い至らないサバスは大声でわめきたてた。

「えっ、花を踏んだだけで停学になるのか?」
「そうですよね、それだけで停学にするのはおかしいですよね!!」

 我が意を得たりと、サバスが嬉々とした顔になる。

「あ、これは、あの忌々しい学園長から預かってきた書状です」
「はあ……」

 思い出したかのように、サバスが制服の胸ポケットから白い封筒を取り出した。
 わけが分からないながらも、侯爵は書状を開くと、そこに書かれていた事柄に目を見開いた。
 そこには、サバスが往来で学園長への侮辱をしたことに加え、彼の罷免を叫んだこと、さらには学園が管理する花畑を荒らしたことを注意したら、学園長を老いぼれ、死に損ないなどと呼ばわったことなどが記載してあった。

「なっ、学園長を死に損ないなどと言ったのか!? まずいではないか!」
「はあ……? ですが……」

 慌てる侯爵に、サバスが不満そうな顔をする。

「相手は王族だぞ! なぜそのようなことを言ったのだ!」
「ですが、あの学園長は本当に王族なのですか? なんとなく納得できないのですが」
「納得もなにも、王家の長老だぞ! さすがにこれはまずすぎる!」

 慌てふためく侯爵と違って、サバスはまだ得心がいかないようだ。

「ですが、あの学園長はやたらと花を踏んだことで僕とビッチを責め立てたのです。仮にも王族が、たかがそのくらいで騒ぐほうがおかしいかと」

 おかしいもなにも、サバス達がしたことは立派な器物損壊に当たる。だが学生ということもあり、素直に謝罪さえすれば、そのことで懇々と説教されることもなかっただろう。

「はあ……? 学園長は花が好きなのかな?」

 サバスと同じく、花など植え替えればいいという考えの持ち主である侯爵は、不思議そうな顔をした。

「僕が思うには、実はあれは学園長ではなくて庭師なのかと! だから、あれ程までに花ごときにこだわったのでしょう!」
「はあ……?」

 いったいどこの庭師が王族である学園長のふりをするというのか。平民の庭師がそんな不敬なことをしたら、普通は即処刑である。
 サバスのとんでも理論に、さすがの侯爵もわけが分からないというように、顔に?マークを貼りつけている。

「そうだとしたら、これは大問題ですよ! たかが庭師が王族をかたったのですから!」
「いや……、庭師が王族を騙るのは無理があるだろう……」

 なぜそんなおかしな結論に至るんだと続けようとした侯爵を遮って、サバスが嬉々として叫んだ。

「そうですよね! 庭師が王族を騙るなど大罪です! それに侯爵家の令息である僕をさんざん侮辱したのです。あの偽学園長には裁きが必要でしょう! ちょうど大審議があることですし、そこで王族に似つかわしくない王妃と一緒に断罪すべきです!!」
「いや、待て待て待て!」

 勝手に盛り上がるサバスに、侯爵が慌てて口を挟んだ。対するサバスは、自らの主張を邪魔されて若干不満そうだ。

「なんですか、父上」
「いや、王妃と一緒に断罪とはどういうことだ。王妃様のことは大審議では口に出すなと言っただろう!」
「ですが納得できません! その地位にふさわしくない王妃をなぜ断罪してはいけないのですか!?」

 あれだけ言ったにもかかわらず、サバスはまだ王妃を断罪する気満々である。
 侯爵は脱力しながらも、なんとか口を開いた。

「……そんなことをしたら、我が侯爵家が王家に罰せられるからだ。頼むからそれはやめてくれ。あと学園長を断罪するのも駄目だ」
「父上! 父上は悪に屈するというのですか! ですが僕は……!」
「まだ分からんのか!! わが家が罰せられると言っただろう! ハウアー侯爵家やホルスト伯爵家のみならず、王家まで敵に回しては身の破滅だ!!」

 さすがにここまで来ると黙ってはいられずに、侯爵は息子を怒鳴りつける。
 サバスは侯爵の剣幕に驚いたように瞠目どうもくしていたが、みるみるうちに怒りで顔を赤く染めた。

「父上! 父上を見損ないました! 父上まで権力におもねるとは! こうなったら、僕は僕で勝手にします!!」
「まっ、待て、サバス!」

 そして、侯爵が慌てて引きとめようとするのを無視したサバスは、足音も荒く自室へと引きこもった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく

ヒンメル
恋愛
公爵家嫡男と婚約中の公爵令嬢オフィーリア・ノーリッシュ。学園の卒業パーティーで婚約破棄を言い渡される。そこに助け舟が現れ……。   初投稿なので、おかしい所があったら、(打たれ弱いので)優しく教えてください。よろしくお願いします。 ※本編はR15ではありません。番外編の中でR15になるものに★を付けています。  番外編でBLっぽい表現があるものにはタイトルに表示していますので、苦手な方は回避してください。  BL色の強い番外編はこれとは別に独立させています。  「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」  (https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/974304595) ※表現や内容を修正中です。予告なく、若干内容が変わっていくことがあります。(大筋は変わっていません。) ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  完結後もお気に入り登録をして頂けて嬉しいです。(増える度に小躍りしてしまいます←小物感出てますが……) ※小説家になろう様でも公開中です。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】

仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。 「嘘、私、王子の婚約者?」 しかも何かゲームの世界??? 私の『宝物』と同じ世界??? 平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子? なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ? それが認められる国、大丈夫なの? この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。 こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね? 性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。 乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が…… ご都合主義です。 転生もの、初挑戦した作品です。 温かい目で見守っていただければ幸いです。 本編97話・乙女ゲーム部15話 ※R15は、ざまぁの為の保険です。 ※他サイトでも公開してます。 ※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)  それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。  昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。 ※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。

完璧ヒロインに負けたので平凡令嬢は退場します

琴吹景
ファンタジー
【シュプレイム王国貴族学院伝統の卒業生祝賀会『プロムナード』の会場のど真ん中で、可憐な少女と側近の令息数人を従えた我が国の王太子、エドモンド・シャルル・ド・シュプレイム殿下が、婚約者であるペネロペ・ド・ロメイユ公爵令嬢と対峙していた。】 テンプレのような断罪、婚約破棄のイベントが始まろうとしている。  でも、ヒロインも悪役令嬢もいつもとはかなり様子が違うようで………  初投稿です。異世界令嬢物が好きすぎて書き始めてしまいました。 まだまだ勉強中です。  話を早く進める為に、必要の無い視覚描写(情景、容姿、衣装など)は省いています。世界観を堪能されたい方はご注意下さい。  間違いを見つけられた方は、そーっと教えていただけると有り難いです。  どうぞよろしくお願いいたします。

要らない、と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜

あげは
恋愛
アリストラ国、侯爵令嬢。 フィオラ・ドロッセルが私の名前です。 王立学園に在籍する、十六歳でございます。 このお話についてですが、悪役令嬢なるものがいないこの時代、私の周りの方々は、どうやら私をそのポジションに据えたいらしいのです。 我が婚約者のクズ男といい、ピンクの小娘といい…、あの元クズインといい、本当に勘弁していただけるかしら? と言うか、陛下!どう言う事ですの! ーーーーー ※結末は決めてますが、執筆中です。 ※誤字脱字あるかと。 ※話し言葉多め等、フランクに書いてます。 読みにくい場合は申し訳ないです。 ※なるべく書き上げたいですが、、、(~_~;) 以上、許せましたらご覧ください笑

処理中です...