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14.無礼千万!
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「──ああ、来たのか」
警備員に連行されてきたサバスとビッチを好々爺然とした学園長が席に座って迎えた。
「いったいどういうつもりだ! 侯爵家の嫡男である僕に対してこのような狼藉、とうてい許されないぞ!」
「そうよ! ふざけないで!」
少しは萎れているかと思ったら、さすがは学園の問題児、なんの反省もないようである。
「ふざけているのは君たちだろう。学園で管理している花を踏みつけて駄目にしたのに、なにをえらそうにしているんだ」
警備員とともにサバスたちを連行してきた教師が、不快そうに顔を歪めて言った。
「そんなもの、僕たちがこの学園に出している金からしたら微々たるものだろう! たかが花ぐらい、なんてことはない!」
「……君ね。たかが花と言うが、種から苗を作って花を咲かせるのに、どれだけの手間がかかると思ってるんだね。まさか、植えただけで勝手にあれだけの花が咲くとでも? 毎日の水まきのみならず、肥料をやったり、薬剤を散布したりするんだよ。花つきをよくするために、花殻を取り除いたり、茎を切り戻したりもする。ああ、枯れた葉や雑草を取り除いたり、周りの掃除をしたりもあるな。庭師が手間暇かけて育てた花をそんなふうに言うなんて、君は随分と傲慢な思考の持ち主のようだな」
生徒たちでは言いづらかったことを学園長がずばりと指摘する。
それに対して、サバスが目をむいて怒鳴った。
「なあっ!? ぼ、僕が傲慢だと!? ぶっ、無礼な、わがパーカー侯爵家から金をもらっている分際で!!」
「そうよ、どっちが傲慢よ! どうせうちからも寄付金をもらってるんだから、お花くらい、苗を植え替えればいいでしょ! なんてケチなの!」
すると、学園長が不思議そうな顔をした。
「寄付金……? 先代ならまだともかく、今代ではいっさいパーカー家からは受け取っていないが? 困窮しているスタイン男爵家からももちろん受け取ってはいないが」
「えっ、うちってそんなに貧乏なの!?」
「うっ、うそをつくな! 僕の家は侯爵家だぞ! 学園に寄付をしていないわけがない!」
学園長の言葉を受けて、ほとんど同時にお花畑たちが叫んだ。
「いやいや、本当だよ。それに、パーカー侯爵家は王太子殿下の生誕パーティで、ホルスト伯爵家から借金をしていることが明らかになっていたじゃないか。たびたび無心をしていたようだし、君の家の実状は火の車じゃないのかね」
「ななな、なんという侮辱だ! 学園長というが、たかが公僕のくせに、侯爵家嫡男である僕にこのような非礼は許されない!!」
おまえの家は貧乏と言われて、屈辱感からかサバスは真っ赤になって学園長を指差す。
「そもそも、わがパーカー侯爵家から金を借りているのはホルスト家だ! そんなことも知らないのか、この老いぼれが!!」
サバスのありえない暴言に、今まで様子を見守っていた教師は息をのむ。
そして、凍りついたその場の空気にもかまわずにビッチが続けた。
「そうよ! 伯爵位のマグノリアの家よりもサバス様の侯爵家のほうがお金持ってるに決まってるでしょ!」
「──君たちは、本当に救いようのない愚か者らしいな」
ため息を一つ付いたあとに学園長が言う。そのあきれ果てた様子に、サバスたちは「な……っ」と、たじろいだ。
「わたしもあのパーティに主催者側として参加していたが、国王陛下はホルスト伯爵家を国一番の財力を持つと君に伝えていたではないか。サバス・パーカー、今の発言は、君が陛下直々の言葉を聞き流していたと言ったも同然なのだがよいのかな?」
「なっ、侯爵家の僕を呼び捨てなど、無礼にもほどがあるぞ! この死に損ないが!」
「そうよ、そうよ! 棺桶に片足突っ込んでるくせに、サバス様に失礼すぎるわ!」
厚顔無恥な二人の言葉に、今や不快を隠そうともせずに、学園長がサバス達を睨んだ。
「……無礼なのは君たちのほうだが? わたしは王太子殿下の生誕パーティに主催者側で参加したと言ったのに、まだ分からないのか? あのパーティの主催は誰だ? まさか、パーカー侯爵家などという、馬鹿げたことは言うまいな?」
「ばっ、馬鹿にするな! あのパーティは王家主催で──」
「えっ、えっ、うそっ!?」
そこでようやく目の前にいる老人がただ者ではない可能性に思い当たったのか、お花畑たちが慌て出す。
「……わたしは、現国王の叔父に当たる王族だ。無礼、無礼と君たちは言うが、狼藉を働いたのはまぎれもない君たちのほうだ。……それともなにか? 君たちは侯爵家のほうが王家よりえらいとでも言うのかね?」
絶句する二人の前で、学園長は据わった目をしてゆっくりと椅子から立ち上がり、そして宣言した。
「度重なる王族への侮辱、反省がみじんも感じられない。学園の秩序を乱したサバス・パーカー、ビッチ・スタイン両名を停学七日間に処す」
警備員に連行されてきたサバスとビッチを好々爺然とした学園長が席に座って迎えた。
「いったいどういうつもりだ! 侯爵家の嫡男である僕に対してこのような狼藉、とうてい許されないぞ!」
「そうよ! ふざけないで!」
少しは萎れているかと思ったら、さすがは学園の問題児、なんの反省もないようである。
「ふざけているのは君たちだろう。学園で管理している花を踏みつけて駄目にしたのに、なにをえらそうにしているんだ」
警備員とともにサバスたちを連行してきた教師が、不快そうに顔を歪めて言った。
「そんなもの、僕たちがこの学園に出している金からしたら微々たるものだろう! たかが花ぐらい、なんてことはない!」
「……君ね。たかが花と言うが、種から苗を作って花を咲かせるのに、どれだけの手間がかかると思ってるんだね。まさか、植えただけで勝手にあれだけの花が咲くとでも? 毎日の水まきのみならず、肥料をやったり、薬剤を散布したりするんだよ。花つきをよくするために、花殻を取り除いたり、茎を切り戻したりもする。ああ、枯れた葉や雑草を取り除いたり、周りの掃除をしたりもあるな。庭師が手間暇かけて育てた花をそんなふうに言うなんて、君は随分と傲慢な思考の持ち主のようだな」
生徒たちでは言いづらかったことを学園長がずばりと指摘する。
それに対して、サバスが目をむいて怒鳴った。
「なあっ!? ぼ、僕が傲慢だと!? ぶっ、無礼な、わがパーカー侯爵家から金をもらっている分際で!!」
「そうよ、どっちが傲慢よ! どうせうちからも寄付金をもらってるんだから、お花くらい、苗を植え替えればいいでしょ! なんてケチなの!」
すると、学園長が不思議そうな顔をした。
「寄付金……? 先代ならまだともかく、今代ではいっさいパーカー家からは受け取っていないが? 困窮しているスタイン男爵家からももちろん受け取ってはいないが」
「えっ、うちってそんなに貧乏なの!?」
「うっ、うそをつくな! 僕の家は侯爵家だぞ! 学園に寄付をしていないわけがない!」
学園長の言葉を受けて、ほとんど同時にお花畑たちが叫んだ。
「いやいや、本当だよ。それに、パーカー侯爵家は王太子殿下の生誕パーティで、ホルスト伯爵家から借金をしていることが明らかになっていたじゃないか。たびたび無心をしていたようだし、君の家の実状は火の車じゃないのかね」
「ななな、なんという侮辱だ! 学園長というが、たかが公僕のくせに、侯爵家嫡男である僕にこのような非礼は許されない!!」
おまえの家は貧乏と言われて、屈辱感からかサバスは真っ赤になって学園長を指差す。
「そもそも、わがパーカー侯爵家から金を借りているのはホルスト家だ! そんなことも知らないのか、この老いぼれが!!」
サバスのありえない暴言に、今まで様子を見守っていた教師は息をのむ。
そして、凍りついたその場の空気にもかまわずにビッチが続けた。
「そうよ! 伯爵位のマグノリアの家よりもサバス様の侯爵家のほうがお金持ってるに決まってるでしょ!」
「──君たちは、本当に救いようのない愚か者らしいな」
ため息を一つ付いたあとに学園長が言う。そのあきれ果てた様子に、サバスたちは「な……っ」と、たじろいだ。
「わたしもあのパーティに主催者側として参加していたが、国王陛下はホルスト伯爵家を国一番の財力を持つと君に伝えていたではないか。サバス・パーカー、今の発言は、君が陛下直々の言葉を聞き流していたと言ったも同然なのだがよいのかな?」
「なっ、侯爵家の僕を呼び捨てなど、無礼にもほどがあるぞ! この死に損ないが!」
「そうよ、そうよ! 棺桶に片足突っ込んでるくせに、サバス様に失礼すぎるわ!」
厚顔無恥な二人の言葉に、今や不快を隠そうともせずに、学園長がサバス達を睨んだ。
「……無礼なのは君たちのほうだが? わたしは王太子殿下の生誕パーティに主催者側で参加したと言ったのに、まだ分からないのか? あのパーティの主催は誰だ? まさか、パーカー侯爵家などという、馬鹿げたことは言うまいな?」
「ばっ、馬鹿にするな! あのパーティは王家主催で──」
「えっ、えっ、うそっ!?」
そこでようやく目の前にいる老人がただ者ではない可能性に思い当たったのか、お花畑たちが慌て出す。
「……わたしは、現国王の叔父に当たる王族だ。無礼、無礼と君たちは言うが、狼藉を働いたのはまぎれもない君たちのほうだ。……それともなにか? 君たちは侯爵家のほうが王家よりえらいとでも言うのかね?」
絶句する二人の前で、学園長は据わった目をしてゆっくりと椅子から立ち上がり、そして宣言した。
「度重なる王族への侮辱、反省がみじんも感じられない。学園の秩序を乱したサバス・パーカー、ビッチ・スタイン両名を停学七日間に処す」
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