13 / 42
13.お花畑にもほどがある!
しおりを挟む
「サバス様ぁっ! お会いしたかったですぅっ!」
どこかで見たような光景が、再び学園で繰り広げられている。
お花畑達の停学期間が明けたのだ。
「ビッチ、久しぶりだな! 少しやつれたんじゃないか?」
「そ、そうかもしれません。今回の学園長の処分に打ちのめされて……」
やつれたどころか、ビッチは部屋にこもって暴飲暴食を繰り返していたので、多少ふくよかになってしまっている。
それをサバスに気づかれずに済んで、ビッチはほっとした。
──まったく、このわたしが太ったなんて、あの侍女失礼しちゃうわ。家に帰ったら、鞭打ちにでもしたらいいかしら?
かわいそうなその侍女は、ビッチを着替えさせている最中に、制服のウエストのホックが閉まりませんと事実を伝えただけだ。だが、太ったという現実を受け入れられないビッチは、今回の生け贄である侍女に狙いを定めたようである。
ビッチの邪悪な内心に気づかずに、サバスは脳天気に叫んだ。
「そうか! 君にそんな苦痛を与えるなんて、学園長はなんて人非人なんだろうか! それに、栄えあるパーカー侯爵家の次期当主であるこの僕に停学処分などという恥辱にまみれさせるなど、とうてい許しがたい! あの忌々しい両家におもねる恥知らずな学園長は、今すぐ罷免するべきだ!!」
「そうですね! さすがサバス様、妙案です!」
飽きもせずに前回と同じことを繰り返すお花畑たちに、周囲の者達があきれ返る。
前は王妃だったが、彼らが今侮辱している学園長も実は王族である。無知とは恐ろしいな、とギャラリーは思った。
そこでようやく周囲の冷ややかな目に気がついた二人は、ギャラリーを威嚇した。
「なによ、見せ物じゃないわよ!」
「ふん、想い合っている僕とビッチがうらやましいからって、のぞきとはなんとも浅ましい者たちだ」
……まるで当たり屋である。
別に彼らはこんな茶番を見たくて見たわけではない。通学時の往来でこんなことをやっているサバスとビッチが悪いのだ。
そもそもうらやましくもなんともないし、むしろ強制的に見せられた上に、二人の言動が胸糞悪いのでやめてほしいとまで周囲の者は願っていた。
「サバス様ぁ、それを言ったら彼らがかわいそうですよー。きっと出来心だったんです。許してあげましょうよ!」
「そうだな! もてないやつらは放っておくか。しかし、崇高な僕たちがこんな下賤なやつらの目にさらされるのはごめんだな。場所を変えるか」
「はい! ぜひ、そうしましょう!」
実に勝手なことを言い置いて、サバスとビッチは手に手を取って衆人環視の場から去っていった。
「ビッチ、こっちだ」
「わあ、なんて素敵なお花畑!」
ビッチが内心でお花畑イベント来たーっ! と叫んでいるのをサバスは知る由もない。
「くだらない教師のしゃべりを聞くのが苦痛でな。息抜きに散歩していたら見つけたんだ。誰にも知られていない、僕しか知らない花畑だ」
……誰にも知られていないどころか、学園で管理している花畑ですが? と学園関係者がここにいたら全力で突っ込んでいただろう。
そして、教師のしゃべりを聞くのが苦痛とは、なんのことはないただのサボリである。
「秘密の花園ですね! なんて素敵!」
「ビッチは芸術的なことを言うな。さすが、僕が選んだ女性だ」
「きゃっ、サバス様ったら、恥ずかしいですぅっ」
ビッチがはにかむ振りをして、花畑に向かって走り出す。それをサバスがにやにやしながら追いかけた。
うふふあははとお花畑で追いかけっこする恋人たちの図の完成である。
……ただ、これが美男美女なら絵になるだろうが、特に容姿が優れているわけでもない、学園でも一、二を争う嫌われ者たちが繰り広げている光景は、本人たち以外にはただただ不気味でしかない。
現に彼らを呼びに来て、うっかりお花畑で追いかけっこしているのを目撃してしまった教師は、その異様さにうげっと叫んでしまった。
「君たち、学園の花畑でなにをやってるんだ! 植えられている花を踏みつけるのはやめなさい!」
二人の世界を突然邪魔されて、サバスたちがえっ? と振り返る。
「お、おまえは誰だ! なぜこんなところにいる!」
「そうよ! ここは誰も知らない場所のはずよ!」
食ってかかる二人に、彼らの捕獲を頼まれた教師が目を見開いた。
「誰も知らない……? いったいなにを言っているんだ。ここは学園の敷地内だぞ」
「えっ、うそっ!」
「貴様、適当なことを言ったら許さんぞ!」
自分しか知らないと思い込んでいたのを否定されて、サバスが真っ赤になって叫んだ。
それをあきれたような目をして、教師が見やる。
「適当もなにも、わたしはここの教師だ。学園で管理している花を踏みつけておきながら、怒鳴り返してくるとは、どういう了見なのだ」
「えっ、でもこれだけ咲いてるんだから、少しくらい大丈夫でしょ?」
「そうだ! まったく心が狭いな! まるでここの学園長のようだ」
植えられている花を駄目にしておきながら、盗人猛々しいとはこのことである。
教師は内心煮えくり返りながらも、努めて冷静に対処した。
「……その学園長が、君たちを呼んでいる。至急とのことだ」
「なぜ、僕たちが学園長のところに行かねばならないんだ! 学園長が僕たちのところまで足を運ぶのが筋だろう!」
「そうよそうよ! サバス様は侯爵家の嫡男よ! いったい何様のつもりなの!?」
どちらが何様のつもりなのだかと言いたくなるのを抑えて教師は言った。
「……そうか。同意しない場合は、彼らに連行してもらうことになるが、それでもいいか」
教師が振り返ると、そこには屈強な学園の警備員が二人たたずんでいた。
──そして、お花畑たちはお花畑から連行された。
どこかで見たような光景が、再び学園で繰り広げられている。
お花畑達の停学期間が明けたのだ。
「ビッチ、久しぶりだな! 少しやつれたんじゃないか?」
「そ、そうかもしれません。今回の学園長の処分に打ちのめされて……」
やつれたどころか、ビッチは部屋にこもって暴飲暴食を繰り返していたので、多少ふくよかになってしまっている。
それをサバスに気づかれずに済んで、ビッチはほっとした。
──まったく、このわたしが太ったなんて、あの侍女失礼しちゃうわ。家に帰ったら、鞭打ちにでもしたらいいかしら?
かわいそうなその侍女は、ビッチを着替えさせている最中に、制服のウエストのホックが閉まりませんと事実を伝えただけだ。だが、太ったという現実を受け入れられないビッチは、今回の生け贄である侍女に狙いを定めたようである。
ビッチの邪悪な内心に気づかずに、サバスは脳天気に叫んだ。
「そうか! 君にそんな苦痛を与えるなんて、学園長はなんて人非人なんだろうか! それに、栄えあるパーカー侯爵家の次期当主であるこの僕に停学処分などという恥辱にまみれさせるなど、とうてい許しがたい! あの忌々しい両家におもねる恥知らずな学園長は、今すぐ罷免するべきだ!!」
「そうですね! さすがサバス様、妙案です!」
飽きもせずに前回と同じことを繰り返すお花畑たちに、周囲の者達があきれ返る。
前は王妃だったが、彼らが今侮辱している学園長も実は王族である。無知とは恐ろしいな、とギャラリーは思った。
そこでようやく周囲の冷ややかな目に気がついた二人は、ギャラリーを威嚇した。
「なによ、見せ物じゃないわよ!」
「ふん、想い合っている僕とビッチがうらやましいからって、のぞきとはなんとも浅ましい者たちだ」
……まるで当たり屋である。
別に彼らはこんな茶番を見たくて見たわけではない。通学時の往来でこんなことをやっているサバスとビッチが悪いのだ。
そもそもうらやましくもなんともないし、むしろ強制的に見せられた上に、二人の言動が胸糞悪いのでやめてほしいとまで周囲の者は願っていた。
「サバス様ぁ、それを言ったら彼らがかわいそうですよー。きっと出来心だったんです。許してあげましょうよ!」
「そうだな! もてないやつらは放っておくか。しかし、崇高な僕たちがこんな下賤なやつらの目にさらされるのはごめんだな。場所を変えるか」
「はい! ぜひ、そうしましょう!」
実に勝手なことを言い置いて、サバスとビッチは手に手を取って衆人環視の場から去っていった。
「ビッチ、こっちだ」
「わあ、なんて素敵なお花畑!」
ビッチが内心でお花畑イベント来たーっ! と叫んでいるのをサバスは知る由もない。
「くだらない教師のしゃべりを聞くのが苦痛でな。息抜きに散歩していたら見つけたんだ。誰にも知られていない、僕しか知らない花畑だ」
……誰にも知られていないどころか、学園で管理している花畑ですが? と学園関係者がここにいたら全力で突っ込んでいただろう。
そして、教師のしゃべりを聞くのが苦痛とは、なんのことはないただのサボリである。
「秘密の花園ですね! なんて素敵!」
「ビッチは芸術的なことを言うな。さすが、僕が選んだ女性だ」
「きゃっ、サバス様ったら、恥ずかしいですぅっ」
ビッチがはにかむ振りをして、花畑に向かって走り出す。それをサバスがにやにやしながら追いかけた。
うふふあははとお花畑で追いかけっこする恋人たちの図の完成である。
……ただ、これが美男美女なら絵になるだろうが、特に容姿が優れているわけでもない、学園でも一、二を争う嫌われ者たちが繰り広げている光景は、本人たち以外にはただただ不気味でしかない。
現に彼らを呼びに来て、うっかりお花畑で追いかけっこしているのを目撃してしまった教師は、その異様さにうげっと叫んでしまった。
「君たち、学園の花畑でなにをやってるんだ! 植えられている花を踏みつけるのはやめなさい!」
二人の世界を突然邪魔されて、サバスたちがえっ? と振り返る。
「お、おまえは誰だ! なぜこんなところにいる!」
「そうよ! ここは誰も知らない場所のはずよ!」
食ってかかる二人に、彼らの捕獲を頼まれた教師が目を見開いた。
「誰も知らない……? いったいなにを言っているんだ。ここは学園の敷地内だぞ」
「えっ、うそっ!」
「貴様、適当なことを言ったら許さんぞ!」
自分しか知らないと思い込んでいたのを否定されて、サバスが真っ赤になって叫んだ。
それをあきれたような目をして、教師が見やる。
「適当もなにも、わたしはここの教師だ。学園で管理している花を踏みつけておきながら、怒鳴り返してくるとは、どういう了見なのだ」
「えっ、でもこれだけ咲いてるんだから、少しくらい大丈夫でしょ?」
「そうだ! まったく心が狭いな! まるでここの学園長のようだ」
植えられている花を駄目にしておきながら、盗人猛々しいとはこのことである。
教師は内心煮えくり返りながらも、努めて冷静に対処した。
「……その学園長が、君たちを呼んでいる。至急とのことだ」
「なぜ、僕たちが学園長のところに行かねばならないんだ! 学園長が僕たちのところまで足を運ぶのが筋だろう!」
「そうよそうよ! サバス様は侯爵家の嫡男よ! いったい何様のつもりなの!?」
どちらが何様のつもりなのだかと言いたくなるのを抑えて教師は言った。
「……そうか。同意しない場合は、彼らに連行してもらうことになるが、それでもいいか」
教師が振り返ると、そこには屈強な学園の警備員が二人たたずんでいた。
──そして、お花畑たちはお花畑から連行された。
28
お気に入りに追加
7,702
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
傍観している方が面白いのになぁ。
志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」
とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。
その彼らの様子はまるで……
「茶番というか、喜劇ですね兄さま」
「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」
思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。
これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。
「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる