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7.ツッコミどころ満載です!
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──まずい。非常にまずい。
陛下や王太子殿下に強く問いただされたことで焦り、ホルスト伯爵のサインを偽ってマグノリア嬢の婚約を仕立て上げたことをつい口にしてしまうなど、わたしとしては痛恨のミスだった。
しかし、そのホルスト伯爵家との婚約をまさかサバスが王家のパーティで破棄するとは思わなかった。
そのおかげでホルスト家を財布代わりにするという、わたしの計画が台無しではないか!
おまけに婚約は実はされていなかったとは、いったいどういうことだ。
そして、陛下は大審議でそのことを明らかにするという。あのパーティ会場ではなんとかごまかしたが、このままではわたしの不正がばれてしまうかもしれない。どうにかしなくては──
「父上、落ち着かれてください。あの無礼なホルスト家の者どもに憤るのはわかりますが」
脂汗を流しながら右往左往していたパーカー侯爵をことの原因のサバスがなだめにかかってきた。
侯爵は一瞬、誰のせいだと怒鳴りかけたが、すぐに考え直して言葉を飲み込んだ。──この状況で、息子までも敵に回してしまうのはまずすぎる。
「大審議でホルスト伯爵家の不正は明らかにされますし、正義はこちらにあります。ぜひともあの忌々しいマグノリアとともにあの家を地獄へと堕としてやろうではありませんか!」
「……ホルスト伯爵家の不正?」
いったいなにを言ってるんだと一瞬惚けた侯爵に、サバスは胸を張って答えた。
「わがパーカー家がホルスト伯爵家のような無礼な家とわざわざ婚約など結ぶわけはありませんし、父上はホルスト伯爵がサインを偽造と言い間違えただけですよね?」
「……そっ、そうだ!」
息子がどうやらうまいこと勘違いしてくれているようだと理解した侯爵は、好機とばかりに大きくうなずいた。それに対して、サバスもそうでしょう! と得意げにうなずく。
「あの女狐は明らかに嫉妬してビッチをいじめていたくせに、僕をあのような場で侮辱するなどとうてい許されない!!」
マグノリアに顔が普通、そして性格が受けつけないと言われているも同然と国王に指摘されたことを思いだしたのか、サバスは顔を憤怒の色に染める。
「しかし、僕に婚約破棄を宣言されたことで、あの薄汚い女に婚約を申し込む酔狂な者も今後現れないでしょう! 浅ましくも僕と婚約しようなどと大それたことをたくらむから、このような目に遭うのだ! まったくいい気味だな!!」
「そ、そうだな!」
そうなれば、マグノリアを自分の後添いにできるかもしれないと思いついた侯爵は、嬉々としてうなずいた。
──マグノリア嬢は、髪は高貴なプラチナブロンド。手足は細く、かつ長いと社交界で評判だ。そのくせ、胸は人並以上にある。
あのように若く美しい娘と結婚すれば、それはもう愉しめるだろう。
わたしを見下して出て行った妻の鼻を明かしてやれるし、ホルスト伯爵家から持参金ももらえるしで一石三鳥だ。
こちらが偽造した書類は、ホルスト伯爵がやったものと主張すれば、爵位はこちらが上なのだから、どうとでもなる。
ツッコミどころ満載なことを考えながら、だらしなくにやにやする侯爵に、サバスがさらに言い募る。
「あの悪徳な家に、どうやら陛下と王太子様はだまされているようですし、それを正すのも臣下の役目! お二人が真実に目覚められれば、我がパーカー侯爵家をこれまで以上に珍重し、あの無礼なハウアー侯爵家と代わってわが家が筆頭侯爵家となることでしょう!!」
「そそそ、そうだなっ!!」
サバスの主張に乗せられた侯爵は、音がするくらいに首を縦に振った。この時にはもう、自分たちが王家主催のパーティを滅茶苦茶にしたことなど侯爵の頭からは綺麗さっぱり消え失せていた。
……しかしなぜサバスは、評判のすこぶるよいマグノリア嬢ではなくて、あの派手な髪以外なんの特徴もないような娘を選んだんだ?
パーティ会場での言動を顧みると、特に性格が優れているわけでもないようだが。
侯爵は息子をたぶらかし、図々しくも侯爵家の嫁になる気でいる男爵令嬢に思いをめぐらせる。
──まあいい。どうせ、サバスの一時の気の迷いかなにかだろう。
男爵家ごときの娘と侯爵家嫡男が婚姻など、こちらに旨みもなにもないし、ことが落ち着いたら、適当な理由をつけて二人を引き離してしまえばよい。
あちらが文句を言ってきたら、その時は適当に処分すればいいだけだ。
陛下や王太子殿下に強く問いただされたことで焦り、ホルスト伯爵のサインを偽ってマグノリア嬢の婚約を仕立て上げたことをつい口にしてしまうなど、わたしとしては痛恨のミスだった。
しかし、そのホルスト伯爵家との婚約をまさかサバスが王家のパーティで破棄するとは思わなかった。
そのおかげでホルスト家を財布代わりにするという、わたしの計画が台無しではないか!
おまけに婚約は実はされていなかったとは、いったいどういうことだ。
そして、陛下は大審議でそのことを明らかにするという。あのパーティ会場ではなんとかごまかしたが、このままではわたしの不正がばれてしまうかもしれない。どうにかしなくては──
「父上、落ち着かれてください。あの無礼なホルスト家の者どもに憤るのはわかりますが」
脂汗を流しながら右往左往していたパーカー侯爵をことの原因のサバスがなだめにかかってきた。
侯爵は一瞬、誰のせいだと怒鳴りかけたが、すぐに考え直して言葉を飲み込んだ。──この状況で、息子までも敵に回してしまうのはまずすぎる。
「大審議でホルスト伯爵家の不正は明らかにされますし、正義はこちらにあります。ぜひともあの忌々しいマグノリアとともにあの家を地獄へと堕としてやろうではありませんか!」
「……ホルスト伯爵家の不正?」
いったいなにを言ってるんだと一瞬惚けた侯爵に、サバスは胸を張って答えた。
「わがパーカー家がホルスト伯爵家のような無礼な家とわざわざ婚約など結ぶわけはありませんし、父上はホルスト伯爵がサインを偽造と言い間違えただけですよね?」
「……そっ、そうだ!」
息子がどうやらうまいこと勘違いしてくれているようだと理解した侯爵は、好機とばかりに大きくうなずいた。それに対して、サバスもそうでしょう! と得意げにうなずく。
「あの女狐は明らかに嫉妬してビッチをいじめていたくせに、僕をあのような場で侮辱するなどとうてい許されない!!」
マグノリアに顔が普通、そして性格が受けつけないと言われているも同然と国王に指摘されたことを思いだしたのか、サバスは顔を憤怒の色に染める。
「しかし、僕に婚約破棄を宣言されたことで、あの薄汚い女に婚約を申し込む酔狂な者も今後現れないでしょう! 浅ましくも僕と婚約しようなどと大それたことをたくらむから、このような目に遭うのだ! まったくいい気味だな!!」
「そ、そうだな!」
そうなれば、マグノリアを自分の後添いにできるかもしれないと思いついた侯爵は、嬉々としてうなずいた。
──マグノリア嬢は、髪は高貴なプラチナブロンド。手足は細く、かつ長いと社交界で評判だ。そのくせ、胸は人並以上にある。
あのように若く美しい娘と結婚すれば、それはもう愉しめるだろう。
わたしを見下して出て行った妻の鼻を明かしてやれるし、ホルスト伯爵家から持参金ももらえるしで一石三鳥だ。
こちらが偽造した書類は、ホルスト伯爵がやったものと主張すれば、爵位はこちらが上なのだから、どうとでもなる。
ツッコミどころ満載なことを考えながら、だらしなくにやにやする侯爵に、サバスがさらに言い募る。
「あの悪徳な家に、どうやら陛下と王太子様はだまされているようですし、それを正すのも臣下の役目! お二人が真実に目覚められれば、我がパーカー侯爵家をこれまで以上に珍重し、あの無礼なハウアー侯爵家と代わってわが家が筆頭侯爵家となることでしょう!!」
「そそそ、そうだなっ!!」
サバスの主張に乗せられた侯爵は、音がするくらいに首を縦に振った。この時にはもう、自分たちが王家主催のパーティを滅茶苦茶にしたことなど侯爵の頭からは綺麗さっぱり消え失せていた。
……しかしなぜサバスは、評判のすこぶるよいマグノリア嬢ではなくて、あの派手な髪以外なんの特徴もないような娘を選んだんだ?
パーティ会場での言動を顧みると、特に性格が優れているわけでもないようだが。
侯爵は息子をたぶらかし、図々しくも侯爵家の嫁になる気でいる男爵令嬢に思いをめぐらせる。
──まあいい。どうせ、サバスの一時の気の迷いかなにかだろう。
男爵家ごときの娘と侯爵家嫡男が婚姻など、こちらに旨みもなにもないし、ことが落ち着いたら、適当な理由をつけて二人を引き離してしまえばよい。
あちらが文句を言ってきたら、その時は適当に処分すればいいだけだ。
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