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3.火に油を注いだだけ!
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誰かと思って見てみれば、サバス様の父親のパーカー侯爵だった。
「息子はただ正義感にかられただけなのです! ですから、悪いのは息子の想い人をいじめるようなホルスト家の令嬢なのです!」
場を収めるために出てきたのかと思ったら、まさかの火に油を注ぐ発言。
でっぷりとした体躯の侯爵が、汗をだらだら流しながらしたその主張に、さすがのわたしもドン引いた。
「……ほう」
ややして、王太子様が目をすがめながらそうつぶやいた。
王太子様の誕生日パーティを壊しておいて、謝罪の一つもしないのだからあきれるよね。
この親子、謝ると死んじゃう病かなんかなの? 馬鹿なの?
「その虐げたと主張する内容自体が稚拙すぎて、国の行事を妨げてまで糾弾するものではないと思うのだが?」
「そんな! わたしがいじめられたのに!」
「いじめ? あのおかしな主張が? わたしとしては、君に侮辱されたというマグノリア嬢の証言のほうが正しいと思っているけどね」
「そっ、そんなっ、マグノリアをひいきするんですか! 仮にも王太子なのに!!」
……うわあ……。
仮にも王太子って、不敬にもほどがあるんだけど。
場を読まないどころか、無礼すぎるビッチちゃんに、王太子様についてる近衛騎士が剣呑な空気を発してるよ。
「先程わたしは、君に身分をわきまえろと伝えたはずだが、まだ分かっていないようだな」
「王太子様! 被害者のビッチがなぜそのように貶められなければならないのですか!? 悪いのはマグノリアです!」
「わたしの質問にも答えられなかったのだから、君は少し黙っててくれるかな」
王太子様に冷然と切り捨てられ、サバス様が真っ赤になって身を震わせている。……まあ、質問されて答えられない無能と暗に言われたのも同じだからねえ。はたしてそこまで気づいているかどうか疑問だけど。
「スタイン男爵令嬢、君はディアナ・ハウアー侯爵令嬢に侮辱を行っただろう。状況は、先程マグノリア嬢がした証言と同じものだ」
「わ、わたし、そんなことしません! 悪役令嬢なマグノリアの仲間であるディアナが、一緒になってわたしを陥れようとしているんです!!」
……うわあうわあうわあ。
一男爵令嬢が、これ以上敵増やしてどうするんだろう。おまけに相手は筆頭侯爵家。命が惜しくないのかな?
「──君はわたしの従妹まで侮辱するのか?」
「えっ、従妹!?」
初耳だとばかりにビッチちゃんがびっくりする。いやいや、貴族なら知っていておかしくないことだからね?
「母上がハウアー家の出だ。母上の茶会でディアナ嬢が身分をわきまえない無礼な男爵令嬢がいるとこぼしていたので覚えていたが、あれはまぎれもない真実なのだと今日確信したよ」
「そんな! それはディアナとマグノリアの画策で!」
「スタイン嬢、なぜディアナ嬢まで呼び捨てにしている? わたしの従妹は、君が呼び捨てにするような身分ではないが?」
「え、えっと、ディアナもわたしの友達で!」
懲りもせず、同じ過ちを繰り返すビッチちゃんに、王太子様はさげすみの視線を返した。
「また、そのような虚言を吐くか。真実友人なら、ディアナ嬢がこぼすことなどないだろう。一男爵令嬢に無理につきあう必要もない身分なのだから」
「王太子様! あなたはディアナ・ハウアー侯爵令嬢にだまされています! あの女は非常に無礼な輩なのです!!」
わあー……。侯爵家としてはペーペーの子息が、筆頭侯爵家の令嬢をあの女とか輩呼ばわりとか、頭大丈夫なの?
現に王太子様の周りの空気がブリザードみたいになってるよ。
「筆頭侯爵家だかなんだか知らないが、僕の婚約者の座を蹴るなど許されない! 何様のつもりなのだか!」
……いやいや、あんたこそ何様だよ。
それに、まぎれもない私怨だよね? 会場中の人々があきれ返ってるのがわからないのだろうか。
「だが、ディアナ嬢は僕がビッチと仲良くしているのを見て浅ましくも嫉妬したのでしょう。そして、そこの女狐と共謀してビッチをいじめたのです!!」
「そうです! これは、ハウアー家がわがパーカー侯爵家を貶めようとする罠なのです!」
パーカー侯爵は、馬鹿を黙らせるどころか、便乗して叫んだ。
とうとう陰謀論まで出してきたか。はたから見たら単なる自爆でしかないけど。
「そして、そんなハウアー家の令嬢と共謀して、わが息子の恋人を虐げたホルスト家の令嬢はとても許されるものではありません! これは、もらっていた持参金を慰謝料としなければ、こちらとしてはやっていられませんな! いや、もっともらわなくては割に合わない!」
「……はあ?」
いきなりありえない単語が出てきたので、わたしは思わず気の抜けた声を出してしまった。
え、いやだって、この馬鹿と結婚もしてないのに、なんで持参金なの?
──すると、わたしの疑問を代弁するかのように、王太子様ではない、重々しい声が辺りに響いた。
「……持参金だと? なぜホルスト伯爵家が、そなたの家にそんなものを払う必要があるのだ」
「息子はただ正義感にかられただけなのです! ですから、悪いのは息子の想い人をいじめるようなホルスト家の令嬢なのです!」
場を収めるために出てきたのかと思ったら、まさかの火に油を注ぐ発言。
でっぷりとした体躯の侯爵が、汗をだらだら流しながらしたその主張に、さすがのわたしもドン引いた。
「……ほう」
ややして、王太子様が目をすがめながらそうつぶやいた。
王太子様の誕生日パーティを壊しておいて、謝罪の一つもしないのだからあきれるよね。
この親子、謝ると死んじゃう病かなんかなの? 馬鹿なの?
「その虐げたと主張する内容自体が稚拙すぎて、国の行事を妨げてまで糾弾するものではないと思うのだが?」
「そんな! わたしがいじめられたのに!」
「いじめ? あのおかしな主張が? わたしとしては、君に侮辱されたというマグノリア嬢の証言のほうが正しいと思っているけどね」
「そっ、そんなっ、マグノリアをひいきするんですか! 仮にも王太子なのに!!」
……うわあ……。
仮にも王太子って、不敬にもほどがあるんだけど。
場を読まないどころか、無礼すぎるビッチちゃんに、王太子様についてる近衛騎士が剣呑な空気を発してるよ。
「先程わたしは、君に身分をわきまえろと伝えたはずだが、まだ分かっていないようだな」
「王太子様! 被害者のビッチがなぜそのように貶められなければならないのですか!? 悪いのはマグノリアです!」
「わたしの質問にも答えられなかったのだから、君は少し黙っててくれるかな」
王太子様に冷然と切り捨てられ、サバス様が真っ赤になって身を震わせている。……まあ、質問されて答えられない無能と暗に言われたのも同じだからねえ。はたしてそこまで気づいているかどうか疑問だけど。
「スタイン男爵令嬢、君はディアナ・ハウアー侯爵令嬢に侮辱を行っただろう。状況は、先程マグノリア嬢がした証言と同じものだ」
「わ、わたし、そんなことしません! 悪役令嬢なマグノリアの仲間であるディアナが、一緒になってわたしを陥れようとしているんです!!」
……うわあうわあうわあ。
一男爵令嬢が、これ以上敵増やしてどうするんだろう。おまけに相手は筆頭侯爵家。命が惜しくないのかな?
「──君はわたしの従妹まで侮辱するのか?」
「えっ、従妹!?」
初耳だとばかりにビッチちゃんがびっくりする。いやいや、貴族なら知っていておかしくないことだからね?
「母上がハウアー家の出だ。母上の茶会でディアナ嬢が身分をわきまえない無礼な男爵令嬢がいるとこぼしていたので覚えていたが、あれはまぎれもない真実なのだと今日確信したよ」
「そんな! それはディアナとマグノリアの画策で!」
「スタイン嬢、なぜディアナ嬢まで呼び捨てにしている? わたしの従妹は、君が呼び捨てにするような身分ではないが?」
「え、えっと、ディアナもわたしの友達で!」
懲りもせず、同じ過ちを繰り返すビッチちゃんに、王太子様はさげすみの視線を返した。
「また、そのような虚言を吐くか。真実友人なら、ディアナ嬢がこぼすことなどないだろう。一男爵令嬢に無理につきあう必要もない身分なのだから」
「王太子様! あなたはディアナ・ハウアー侯爵令嬢にだまされています! あの女は非常に無礼な輩なのです!!」
わあー……。侯爵家としてはペーペーの子息が、筆頭侯爵家の令嬢をあの女とか輩呼ばわりとか、頭大丈夫なの?
現に王太子様の周りの空気がブリザードみたいになってるよ。
「筆頭侯爵家だかなんだか知らないが、僕の婚約者の座を蹴るなど許されない! 何様のつもりなのだか!」
……いやいや、あんたこそ何様だよ。
それに、まぎれもない私怨だよね? 会場中の人々があきれ返ってるのがわからないのだろうか。
「だが、ディアナ嬢は僕がビッチと仲良くしているのを見て浅ましくも嫉妬したのでしょう。そして、そこの女狐と共謀してビッチをいじめたのです!!」
「そうです! これは、ハウアー家がわがパーカー侯爵家を貶めようとする罠なのです!」
パーカー侯爵は、馬鹿を黙らせるどころか、便乗して叫んだ。
とうとう陰謀論まで出してきたか。はたから見たら単なる自爆でしかないけど。
「そして、そんなハウアー家の令嬢と共謀して、わが息子の恋人を虐げたホルスト家の令嬢はとても許されるものではありません! これは、もらっていた持参金を慰謝料としなければ、こちらとしてはやっていられませんな! いや、もっともらわなくては割に合わない!」
「……はあ?」
いきなりありえない単語が出てきたので、わたしは思わず気の抜けた声を出してしまった。
え、いやだって、この馬鹿と結婚もしてないのに、なんで持参金なの?
──すると、わたしの疑問を代弁するかのように、王太子様ではない、重々しい声が辺りに響いた。
「……持参金だと? なぜホルスト伯爵家が、そなたの家にそんなものを払う必要があるのだ」
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