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2.王太子様の言うことはもっともです!

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「この期に及んでまだ言うか。このパーティはわたしの誕生日を祝うもので、国の行事だとわからないのか? 婚約を破棄するならするで、もっとふさわしい場所を選ぶべきだ。君は国の行事を私事で滅茶苦茶にするつもりか?」
「え……、いや、そんな……」

 案の定王太子様に説教を食らったサバス様は、しどろもどろになりながらもわたしを睨みつけてきた。

「なにをよそ見している。わたしが質問しているのだ。答えろ」
「は、あ、あの……っ」

 普段は穏やかな王太子様が詰問調になっているだけでも珍しい。でも、確かに王太子様が問いただしているのに、他に意識を向けているのは不敬と取られてもおかしくない。
 そして、そんな中に空気を読まない子が入ってきた。

「あのっ、王太子様、サバス様は悪くないんです! 悪いのはマグノリアで!!」
「……君には聞いていないが。それに、なぜ男爵令嬢の君が、伯爵令嬢のマグノリア嬢を呼び捨てにしているのだ」
「えっ、それは、マグノリアが悪役令じょ……じゃなかった、マグノリアとわたしは友達なんです!」

 明らかにバレバレのビッチちゃんのうそに、王太子様が氷点下の視線を彼女に送った。

「……そうなのか? マグノリア嬢」
「初耳です」

 わたしの答えに、会場中の非難の視線が彼女に集中する。

「そ、そんなひどい! いくらわたしが憎いからって、こんな仕打ちひどすぎるわ!」
「ビッチ!! マグノリア、貴様あぁっ! このような場でもビッチをいじめるとは!」

 浅ましく泣きまねをするビッチちゃんにころりとだまされた馬鹿が、性懲りもなくがなりたてた。

「口を開けば侮辱ばかりの方をどうして友人などと呼べるのです? 彼女とは学園では同級生ではありますが、それだけのことです」
「貴様っ! ビッチに言いがかりをつけるつもりか!!」
「──君は少し黙っていてくれないかな。騒がしくて下品だ」
「な……っ」

 王太子様に断じられ、サバス様が屈辱感からか真っ赤になって絶句する。

「本当に友人であったなら、公の場でこのような侮辱はしないだろうな。……一応聞いておくが、マグノリア嬢、この令嬢に呼び捨てにする許可は出したのだろうか?」
「いいえ、許可はしておりません。それどころか、敬称を付けるようにお願いしていたほどです」
「そんな、うそよ!」
「マグノリア、貴様は何様なのだ! せっかく心優しいビッチが貴様のような薄汚い心根の女と友人になってやろうとしていたというのに!」

 ええ……? 友人ならこんな侮辱しないって王太子様の言葉、聞いてなかったの? 
 何様って、傲岸不遜なあんたにだけは言われたくないわ。
 王太子様のみならず、会場中からあきれた視線がサバス様に注がれるけど、この馬鹿はまったく気づいてないようだ。
 それに、王太子様に黙ってろって言われたの、もう忘れちゃったの? 鳥頭かなんかなの?

「王太子様! このように、このマグノリア・ホルスト伯爵令嬢は心卑しき女なのです! それにビッチが嫌がってるのに、ビッチと名前を呼んで……!」
「……君も先程から何度もそう呼んでいるが?」
「……っ! そ、それは、僕はよいのです!」
「そうです! あ、王太子様もビッチのこと、そう呼んでもいいですよ!」

 ……うわあ。
 ビッチちゃん、王太子様に向かってその発言はありえない。
 上位貴族ならまだ目こぼしはあるかもしれないけど、せいぜい町長レベルの一男爵令嬢が衆人環視の場でやっちゃ駄目なやつだから。下手すりゃ一族郎党の首が飛ぶぞ。

「わたしは男爵令嬢の君になれなれしくされるような身分ではない。マグノリア嬢のこともそうだが、少しは身分をわきまえたらどうだ」
「そんな……っ!」

 王太子様に冷たくされて、いかにもショックですというような顔を作ったビッチちゃんはわざとらしくよろめいた。

「それに、名を呼んでなにが悪いのだ? なにか不都合な点でもあるのか?」
「そ、それは……っ」

 王太子様のその疑問はもっともで、この世界ではビッチという名は別に変名でもなんでもない。
 あまり見ない名前なのは確かだけど、男性でも女性でも使える名として辞書にも載っている。まあ、日本でいう薫くらいの扱いだろうか。あれは、もともとは男性名だけどね。
 でも、彼女もわたしと同じ日本からの転生者であるらしいので、本当のことは言えないよねえ。ビッチというのはふしだらな女性のことですなんて。
 わたしは彼女の心情を予想して、扇子で顔を隠しながらぷるぷるしていた。
 だけど、そこまでその名前が嫌なら、普通は婚約者がいる男性を複数追いかけ回さないと思うんだけど、電波系の人間の考えることは本当にわからないなあ。

「なぜ理由を言えぬ。それでは、先程の騒ぎは、不当にマグノリア嬢をおとしめようとせん、君たちの謀略と判断するが、それでよいか」
「──お、お待ちを王太子様!」

 厳しい目でお花畑二人を見つめながら言う王太子様に向かって、慌てたような声が上がった。
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