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37.ある意味才能!

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「そなたはなにを言っておるのだ? これだけ王家を侮辱しておいて、未来の王妃などありえない」

 ……まあ、普通そうなりますよねー。
 あきれた目をしておっしゃった陛下に、わたしは心の中で頷いた。

「えっ? わたしは王家を侮辱なんてしてませんよ? わたしはサバス様の言ったことに従っただけですし!」

 ビッチちゃん、馬鹿なの? 暴走するサバス様を止めたならいざ知らず、一緒になって王族の方々に暴言吐いといてその言い分は通るわけもない。

「従っただけ? 率先して王族を侮辱していたではないか。そなたのしたことは、上位貴族でも処罰対象であるのに、男爵家の者であるそなたが許されるはずもない」
「そんな! 未来の義娘むすめに対して、王様冷たすぎません? もっと優しくしてくださいよー」

 うわああぁ……。ビッチちゃんの言葉を聞いて、わたしは思わず頭を抱えてしまった。
 陛下がありえないって、あれだけはっきりおっしゃったのに!

「そなたのような重罪人が義娘だなどと天と地がひっくり返ってもありえん」
「そんなひどい! わたしが重罪人なんて、なにかの間違いです! わたしをいじめた悪役令嬢のマグノリアなら分かりますけど!」
「まだ言うか、この無礼者めが。あれだけマグノリア嬢に嫌がらせしていたにもかかわらず、この期に及んで王家につぐ家格の彼女を悪者にしようとするなど、そなたの身分で許されるものではない」

 ……あーあ。ビッチちゃん、また陛下に無礼者と言われてしまったよ。
 その態度が罪状をさらに重くしているってなんで気がつかないのかな。

「ええー、なんでそんなこと言うんですかぁ? マグノリアが高い身分の家に生まれたのは、たまたまでしょう? わたしだって、好きでこんな貧乏男爵家に生まれたわけじゃないのに、そんな差別、ひどすぎます!」

 いや、ひどすぎるのはビッチちゃんだからね? 国家元首の陛下がこれだけおっしゃってるのに、その返しはなんなの? 普通はおびえたりするところじゃないの?
 まあ、ビッチちゃんが普通の精神を持ってるとは今さら思わないけど、それにしたって、ありえなさすぎる。

「あれだけ周囲を虐げておいて、差別もなにもない。そなたのくだらぬ虚言など、取り上げる価値もないわ」
「そんな、誤解です! 被害者のわたしが虐げるなんて、あるわけないです!」
「……ビッチ・スタインの今の発言は虚言である」

 にべもない陛下に食い下がるビッチちゃんに、容赦なくシダースさんの審が下りる。
 ……うーん、なんというかカオスだなあ。ビッチちゃんが混ぜっ返して、罪を逃れようとしてるとしか思えないけど、電波なビッチちゃんのことだから、ほんとにそう思いこんでいる可能性もある。ビッチちゃん、いい加減現実見なよ。

「──陛下、少しよいでしょうか」

 わたしがあきれながらビッチちゃんを見ていると、衝撃から立ち直ったらしいアーヴィン様が挙手した。

「よい。発言を許す」
「ありがとうございます。……ビッチ・スタイン、わたしはそなたのような邪悪な者を妃などにするつもりはない」
「ええーっ、わたしが邪悪なんてあるわけないです! むしろ聖女なのに、そんなつれないこと言わないでくださいよ! もしかして、照れてるんですかぁ?」

 脳内がお花畑すぎるビッチちゃんのその言葉に、アーヴィン様の顔がひきつった。

「照れていない。あれだけ周囲を虐げた証拠が挙がっているのに、なぜいまだにそんなことを言えるのか、わたしには理解不可能だ。第一、母や大叔父を公に貶めたのに、そのような対象に見られるわけもない」

 すると、ビッチちゃんはびっくりしたような顔をして、ありえない一言を放った。

「えっ、王太子様、もしかしてマザコンですか!? それってちょっと恥ずかしいですよ!」

 はあーっ!?
 アーヴィン様の正論に対して、ビッチちゃん、まさかのマザコン発言。あまりのことに、言われたアーヴィン様のみならず、会場中の人々も目を剥いた。
 ……いや、よほどの毒家族でもないかぎり、普通は身内を貶されたらむっとくるもんでしょ? それをマザコンって……。
 父親であるスタイン男爵に対する発言もアレだったし、ビッチちゃん、サイコパスかなにかなの?

「黙れ、無礼者が。これだけ不敬を重ねていて、未来の王妃もない。そもそも、下位貴族の娘では王太子の妃にはなれない。それなのに、なにを勘違いしているのだ」

 さすがにアーヴィン様もいらいらを隠せない様子で、それでもしっかりとビッチちゃんに説明している。……うん、穏やかな王家の方々をこれだけいらつかせるなんて、ある意味才能だよ、ビッチちゃん。
 けれど、空気読めないビッチちゃんはさらに馬鹿なことを言いだした。

「勘違いなんて! それに、無礼者なんてひどい! ……あっ、ツンデレってやつですね! それなら分かります!」
「いや、違う」

 速攻で返した真顔のアーヴィン様を気にもせず、ビッチちゃんが言い募る。

「身分なんて、わたしがパーカー侯爵家の養女になれば解決するじゃないですか! サバス様も愛するわたしの幸せのためなら、涙をのんで賛成してくれますよ!」
「な、なんだと!?」

 無駄にポジティブなビッチちゃんのありえない一言に、当然のごとくサバス様が反応して、わたしは思わずため息をついた。
 ……あー、これはまた痴話喧嘩が始まるかなあ。
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