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35.いじめのリスト……って、これが!?
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ホルスト家の陞爵騒ぎがようやく収まった頃、陛下は静かに話し始められる。
「──さて、話はそれたが、本来の議題に再び入ろうか。サバス・パーカーの話はもうよいな。それでは、ビッチ・スタインが行ったいじめについて移る」
あー……、ビッチちゃん、他の子もいじめてたもんね。確かにお花畑たちが主張していたわたしとディアナの件だけ挙げていたら不公平か。
いや、もしかしたら陛下は、もうここでビッチちゃんの罪状をすべて出される気なのかもしれない。
すると、ビッチちゃんが手を挙げて発言することを求めた。
「ビッチ・スタイン、発言を許可する」
「わたしが行ったいじめってなんのことですか!? むしろわたしがいじめられたほうなんですよ!」
ビッチちゃん、お馬鹿だなあ……。わたしとディアナに嫌がらせしてるのがあんなにはっきりバレたのに、同じことを繰り返すとか、無駄に鋼の精神だな。
アーヴィン様の生誕パーティで陛下が精査するとおっしゃった以上、丸裸になるくらいあらゆる手段をもって調べ上げられるのに、そんな主張が通るわけもないけどね。
「……ビッチ・スタインの言うことは虚言である」
「虚言じゃないですよ! ほらっ、証拠の品だってここにあります!」
シダースさんが断言する以上、周囲には嘘だと丸分かりなんだけど、へこたれないビッチちゃんは、なおも茶番を繰り広げるつもりのようだ。
わたしがあきれて見ていると、ビッチちゃんは再び書類入れから折り畳んだ便せんのようなものを出してきた。
「わたしをいじめた人のリストです! もちろんマグノリアやディアナの名前もあります!」
アホか、ビッチちゃん! それはさっき、ビッチちゃんがいじめたほうだって陛下がおっしゃっていただろ!
教科書も自作自演だったし、罪をでっち上げてやると宣言したことが記録石にごまかしようもないほどはっきりと映っていたのに、それが証拠になると思ってんのか?
「……確認する。ビッチ・スタインの証拠の品とやらをここへ」
既にビッチちゃんをさげすみきった目で見ておられる陛下が冷ややかな声でおっしゃる。
そして、騎士からビッチちゃんの持っていた文書が陛下へと渡った。それをビッチちゃんはドヤ顔で見ているけど、この期に及んでなんでそんな得意げになれるのか分からない。
「……ビッチ・スタイン。本当にこれが証拠になると思っているのか?」
しばらくビッチちゃんの文書に目を通していた陛下が、凍りそうな声でそうおっしゃった。
それにも気づかず、ビッチちゃんは脳天気にも笑顔で言った。
「えっ、どうしてです? これ以上にない証拠ですよね?」
「いや、いじめた者の名だとしても、なぜ各家の当主の名前が載っているのだ? 唯一の例外は、エディル・ホルスト公爵令息だけだが」
「えっ!? なんで、エディル様の名前が!? えっ、えっ、どういうこと?」
思ってもいない展開だったのか、ビッチちゃんがびっくりしたような顔をした。
……うん、わたしもびっくりだ。
ビッチちゃんのいじめリストに、彼女が言っていたわたしやディアナの名前がなくて、なぜかお兄様の名前が載っているって、いったいどういうこと?
「それを聞きたいのはこちらのほうだ。なぜ、そなたがいじめたと主張しているリストに、そなたに抗議文を送った者の名が載っているのだ」
「えっ、えっ、えっ?」
そこでようやく、わたしもピンときた。
ビッチちゃん、誰だかが書いた抗議文送付者リストを令嬢の名前が載っていると勘違いして、それを証拠として持ってきたんだな。
……だけど、普通は提出する前に一度くらいは確認するでしょ? ビッチちゃん、なにやってんの。
でも、あれがビッチちゃんが思っていたようなリストだとしても、彼女の主張が通るとはぜんぜん思わないけどね!
「ちょっと! どういうことよ! 抗議文を送ってきた馬鹿な令嬢のリストをくれって、わたし言ったでしょ!?」
鬼のような形相で、ビッチちゃんが父親のスタイン男爵に向かって叫んだ。
その男爵は、痛そうに胃の辺りを押さえている。
うーん、つらそうだね。ここで吐血されても困るし、徐々に回復する魔法でもかけとくかな。
わたしがひそかに男爵に回復魔法をかけると、シダースさんがおもしろそうにわたしを見てきた。……今のはシダースさんの属性でない魔法だけど、やっぱり精霊の彼には気づかれるよね。
「おまえにそんなものを与えたら、そのご令嬢方に見当違いな報復でもしかねない。そんなことになったら、それこそわが家は破滅だ」
あらまあビッチちゃん、実の父親からも歩く危険物扱い。でもまあ、あれだけ盛大にやらかしてたら、普通そうなるわな。
抗議した家がいったん静まったのは、ひとえにスタイン男爵の必死な謝罪があったからだ。それなのに、元凶のビッチちゃんによって、彼女らにさらに危害が加えられたとなったら、さすがにもう皆黙ってないだろうからね。
「よけいなことしやがって、この無能が! ちゃんと言われたとおりに動きなさいよ! あんたのおかげでいらない恥かいたじゃない!」
……うわぁ、実の父親にこの言いぐさ、まさか下僕かなにかだと思ってるのか? スタイン男爵の日頃の苦労が偲ばれる。そりゃ、胃も痛くもなるだろう。
しかしなんで、まともそうなスタイン男爵家で、こんなビッチちゃんみたいな鬼娘が育ったんだろう。不思議だなあ。
「ビッチ・スタイン、そなたの父親への言動、とても見ていられぬ。もう黙るがよい」
心底不快そうに陛下がそうおっしゃると、ビッチちゃんは再び声を出せなくなる。
それを確認された陛下は少し息をつかれると、ややしておっしゃった。
「──ビッチ・スタインが提出した、いじめを行ったという人物のリストは、本人が確認もしていないことが判明した。これではとうてい証拠にもならぬ」
父親の苦労を踏みにじるようなビッチちゃんの言動に、今や陛下は嫌悪の表情を隠すこともなく、冷ややかな声でそうおっしゃった。
「──さて、話はそれたが、本来の議題に再び入ろうか。サバス・パーカーの話はもうよいな。それでは、ビッチ・スタインが行ったいじめについて移る」
あー……、ビッチちゃん、他の子もいじめてたもんね。確かにお花畑たちが主張していたわたしとディアナの件だけ挙げていたら不公平か。
いや、もしかしたら陛下は、もうここでビッチちゃんの罪状をすべて出される気なのかもしれない。
すると、ビッチちゃんが手を挙げて発言することを求めた。
「ビッチ・スタイン、発言を許可する」
「わたしが行ったいじめってなんのことですか!? むしろわたしがいじめられたほうなんですよ!」
ビッチちゃん、お馬鹿だなあ……。わたしとディアナに嫌がらせしてるのがあんなにはっきりバレたのに、同じことを繰り返すとか、無駄に鋼の精神だな。
アーヴィン様の生誕パーティで陛下が精査するとおっしゃった以上、丸裸になるくらいあらゆる手段をもって調べ上げられるのに、そんな主張が通るわけもないけどね。
「……ビッチ・スタインの言うことは虚言である」
「虚言じゃないですよ! ほらっ、証拠の品だってここにあります!」
シダースさんが断言する以上、周囲には嘘だと丸分かりなんだけど、へこたれないビッチちゃんは、なおも茶番を繰り広げるつもりのようだ。
わたしがあきれて見ていると、ビッチちゃんは再び書類入れから折り畳んだ便せんのようなものを出してきた。
「わたしをいじめた人のリストです! もちろんマグノリアやディアナの名前もあります!」
アホか、ビッチちゃん! それはさっき、ビッチちゃんがいじめたほうだって陛下がおっしゃっていただろ!
教科書も自作自演だったし、罪をでっち上げてやると宣言したことが記録石にごまかしようもないほどはっきりと映っていたのに、それが証拠になると思ってんのか?
「……確認する。ビッチ・スタインの証拠の品とやらをここへ」
既にビッチちゃんをさげすみきった目で見ておられる陛下が冷ややかな声でおっしゃる。
そして、騎士からビッチちゃんの持っていた文書が陛下へと渡った。それをビッチちゃんはドヤ顔で見ているけど、この期に及んでなんでそんな得意げになれるのか分からない。
「……ビッチ・スタイン。本当にこれが証拠になると思っているのか?」
しばらくビッチちゃんの文書に目を通していた陛下が、凍りそうな声でそうおっしゃった。
それにも気づかず、ビッチちゃんは脳天気にも笑顔で言った。
「えっ、どうしてです? これ以上にない証拠ですよね?」
「いや、いじめた者の名だとしても、なぜ各家の当主の名前が載っているのだ? 唯一の例外は、エディル・ホルスト公爵令息だけだが」
「えっ!? なんで、エディル様の名前が!? えっ、えっ、どういうこと?」
思ってもいない展開だったのか、ビッチちゃんがびっくりしたような顔をした。
……うん、わたしもびっくりだ。
ビッチちゃんのいじめリストに、彼女が言っていたわたしやディアナの名前がなくて、なぜかお兄様の名前が載っているって、いったいどういうこと?
「それを聞きたいのはこちらのほうだ。なぜ、そなたがいじめたと主張しているリストに、そなたに抗議文を送った者の名が載っているのだ」
「えっ、えっ、えっ?」
そこでようやく、わたしもピンときた。
ビッチちゃん、誰だかが書いた抗議文送付者リストを令嬢の名前が載っていると勘違いして、それを証拠として持ってきたんだな。
……だけど、普通は提出する前に一度くらいは確認するでしょ? ビッチちゃん、なにやってんの。
でも、あれがビッチちゃんが思っていたようなリストだとしても、彼女の主張が通るとはぜんぜん思わないけどね!
「ちょっと! どういうことよ! 抗議文を送ってきた馬鹿な令嬢のリストをくれって、わたし言ったでしょ!?」
鬼のような形相で、ビッチちゃんが父親のスタイン男爵に向かって叫んだ。
その男爵は、痛そうに胃の辺りを押さえている。
うーん、つらそうだね。ここで吐血されても困るし、徐々に回復する魔法でもかけとくかな。
わたしがひそかに男爵に回復魔法をかけると、シダースさんがおもしろそうにわたしを見てきた。……今のはシダースさんの属性でない魔法だけど、やっぱり精霊の彼には気づかれるよね。
「おまえにそんなものを与えたら、そのご令嬢方に見当違いな報復でもしかねない。そんなことになったら、それこそわが家は破滅だ」
あらまあビッチちゃん、実の父親からも歩く危険物扱い。でもまあ、あれだけ盛大にやらかしてたら、普通そうなるわな。
抗議した家がいったん静まったのは、ひとえにスタイン男爵の必死な謝罪があったからだ。それなのに、元凶のビッチちゃんによって、彼女らにさらに危害が加えられたとなったら、さすがにもう皆黙ってないだろうからね。
「よけいなことしやがって、この無能が! ちゃんと言われたとおりに動きなさいよ! あんたのおかげでいらない恥かいたじゃない!」
……うわぁ、実の父親にこの言いぐさ、まさか下僕かなにかだと思ってるのか? スタイン男爵の日頃の苦労が偲ばれる。そりゃ、胃も痛くもなるだろう。
しかしなんで、まともそうなスタイン男爵家で、こんなビッチちゃんみたいな鬼娘が育ったんだろう。不思議だなあ。
「ビッチ・スタイン、そなたの父親への言動、とても見ていられぬ。もう黙るがよい」
心底不快そうに陛下がそうおっしゃると、ビッチちゃんは再び声を出せなくなる。
それを確認された陛下は少し息をつかれると、ややしておっしゃった。
「──ビッチ・スタインが提出した、いじめを行ったという人物のリストは、本人が確認もしていないことが判明した。これではとうてい証拠にもならぬ」
父親の苦労を踏みにじるようなビッチちゃんの言動に、今や陛下は嫌悪の表情を隠すこともなく、冷ややかな声でそうおっしゃった。
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