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23.黙ってろって言われたのに!

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「お……っ、お待ちください! なぜホルスト家やハウアー家ではなく、僕たちが被告なのですか!? これはなにかの間違いだ。こちらが被害者のはずです!!」

 サバス様は、陛下の宣言に懲りもせず再び食ってかかっている。さっき陛下に黙れと言われたばかりなのに馬鹿なの?

「……国賓を招いた王家主催のパーティで、王族が再三注意をしたのにもかかわらず騒ぎ立てた者がなにを言っておるのだ? この大審議は、かのパーティでそなたらが王家を侮辱したことに端を発しているのに、侮辱された側のホルスト家やハウアー家が裁かれる立場になるわけがない」
「ぶっ、侮辱なら僕もされました! ディアナ・ハウアーは生意気にも僕との婚約を断りましたし、マグノリアにいたっては、僕の顔が普通などとひどい侮辱を……!」
「……そなたは馬鹿か?」

 それまで顔をしかめていた陛下があきれたようにサバス様におっしゃった。……うん、それは被告席以外の人たちの総意だと思います。

「なっ、なっ!?」
「そなたが言っておるのは、まるきりの私怨ではないか。ディアナ嬢は十の歳から婚約しているし、そなたが婚約を申し込んで受けるはずもなかろう」
「しっ、私怨などっ! 僕は……っ!」

 陛下にはっきりと断じられて、サバス様が顔を歪ませて叫んだ。けれど、陛下はそれを黙殺して続けられた。

「マグノリア嬢もしかりだ。そもそもマグノリア嬢はそなたに見当違いな侮辱をされたので、そなたの思い違いを指摘したにすぎない。そして、その前にもそなたが同様の態度をマグノリア嬢にしてきたことは既に調査済みだ。……なぜ、あのようなひどい態度で、二人がそなたに惚れていると思うのかわたしには理解不能だ」

 そうそう、陛下そうなんですよ! それが普通の思考回路ですよね!
 けれど、陛下のしごくもっともな正論に、サバス様は怒りからか顔を真っ赤にして叫んだ。

「なっなっなっ! 陛下までわたしをこのような公の場で侮辱されるとは! 従順な臣下であるこのわたしに、このようなむごい仕打ち、ひどすぎます!!」
「……それを言うなら、従順な臣下は王族を公の場で侮辱しない。第一、そなたは裁かれる立場であるのに、なんの世迷いごとを言っておるのだ?」

 ……ですよね!
 サバス様、自分の立場をまるで分かってない。いくらお花畑でも、程度ってものがあると思うの。

「しっ、しかしっ、学園長は庭師のくせに王族と偽っております! ビッチを嫉妬からいじめたディアナ・ハウアーの身内の王妃も、処分するべきかと!」

 それを聞いて、わたしは人ごとながらも頭を抱えたくなってしまった。
 うっわー、サバス様お馬鹿すぎる! さっき陛下に無礼と言われたばかりなのに!
 そもそも、まったく非のない王妃様を処分ってなんなの? 刑に処せってこと? ……サバス様の思考回路がやばすぎる!

「……そなたは馬鹿か?」

 再び、陛下の口から先程と同じ言葉がこぼれた。
 ……大事なことだから二度言ったわけじゃなくて、陛下の心からのお言葉なんだろうな。この大審議の場にいるほとんどの人たちの総意というか、心の叫びでもあるかもしれない。

「庭師がなぜ、王族として公の場に出てくるのだ。ここにおるのは、正真正銘わたしの叔父だ」
「し、しかしっ、学園長はやたら花のことに詳しかったのです! ですから、庭師が成り代わっているのかと! ……ああ! もしかしたら、既に本来の学園長は、その卑劣なジジイに殺されているのかもしれません!!」
「…………」

 サバス様のトンデモ理論に、大審議の場が一気に静寂に包まれた。
 それを自分に都合のいい展開ととらえたのか、サバス様がドヤ顔で陛下を見やった。……うっわ、めちゃめちゃ不敬やん。

「……そなたは馬鹿か?」

 おおう、陛下の三度目のそなたは馬鹿か来ました! というか、わたしもそれしか言えないので陛下のお気持ちがとても分かる気がする。

「なっ! いくら陛下でも、侯爵家である僕にこのような侮辱は……!」

 自分のことしか考えられないサバス様は、顔を屈辱に染め、的外れな抗議を陛下にしている。

「なぜ花に詳しいだけで庭師だと思うのだ? そもそも叔父の趣味は薔薇を育てることだ。詳しくて当然だ」

 あきれたように陛下がそうおっしゃった途端、サバス様がなぜか我が意を得たりというように叫んだ。

「ですから、庭師が王族として成り代わっているというのです! 薔薇を育てるのが趣味というのがなによりの証拠!」
「……薔薇の育成は、王侯貴族としての典雅な趣味であるが? 貴族籍にありながら、そのようなことも知らぬのか?」

 ほとほとあきれ果てた様子で陛下がおっしゃった。……うん、お気持ちはよくわかります。馬鹿を相手にすると疲れますよね。

「な……っ、ですが!」
「それから王妃を処分と言ったな? 仮にディアナ嬢がいじめを行ったとして、なぜ王妃が処分されなければならぬのだ?」
「僕の愛するビッチがディアナ・ハウアーに虐げられたのです! ハウアー家出身の王妃が処分されるのは当然です!!」

 うわー、この馬鹿言い切っちゃったよ。陛下がサバス様をコロコロしちゃいそうな凄まじい殺気を発してるけど、全然気づいてないのはある意味幸せかもしれない。

「……筆頭侯爵家の者であるディアナ嬢がそこの無礼な男爵令嬢をいじめたとしても、罪には問われない。両者の間には明らかな身分差がある。そもそも、いじめていたのはディアナ嬢ではなくて、そこの無礼な男爵令」「ひっ、ひどい! わたしがいじめられたんですよ! サバス様の言うとおり、ディアナみたいな胸だけ女の身内の王妃が処分されるのは妥当だと思います!」

 陛下がまだ話されているのに、それにかぶせるようにしてビッチちゃんが泣きマネをしながら突然訴えてきた。
 ……うわあうわあ。ビッチちゃん、空気読めないどころか、もはや死にたがっているとしか思えない。
 国王陛下の言葉を貴族最下位の男爵令嬢がさえぎるという明らかな不敬に、傍聴席がざわめいた。
 その様子を見て、勘違い娘のビッチちゃんは、なぜかドヤァというような顔で胸を反らせたけど、いや違うからね? 傍聴席の人たちはビッチちゃんの非常識さに驚いているだけだから。
 他人のことながら、冷や汗をかく思いでふと見れば、ビッチちゃんの近くでスタイン男爵の顔色が青を通り越して土気色になり、その奥方が白目を剥いて今にも倒れそうになっていた。
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