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18.くるんくるん!
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「おお~っ、すごい、丸くなった!」
「姫、まるで職人のようだな!」
再び、生徒会室。
わたしは王太子のアーヴィン様とお兄様と昔馴染みのあと一名とでたこ焼きパーティをしているよ。
もっとも焼くのはわたしで、他のみんなは食べる専門。わたしは鍋奉行ならぬたこ焼き奉行で、日頃の修行(?)の成果を三人の前で披露している。
「しかし、マギーのカセットコンロのアイデアはすごいな。わが妹ながら変人だが、これだけは素直に感心するよ」
ちょっ、変人って失敬だな、チミィ!
妹の前で婚約者の胸揉んだって宣言する人には言われたくないよ!
「世界的な大ヒットだからねえ。それに本体を廉価に設定して普及させ、使い捨ての魔法燃料をホルスト家の商会で売るなんて商売上手だなあ」
「うーん、ですが、前世の記憶にあったものですし、あんまり褒められたものでもないと思うんですよね……」
このカセットコンロも要するに前世の世界にあったものの模造なわけで、手放しに褒められたりすると背中がむずむずしてくる。
ちなみに魔法道具で、かなりの長期間使えるIHっぽい卓上コンロは、既にこの世界にあったことはあった。けど、めちゃくちゃ高価な上、火力がちょっと頼りなかったからカセットコンロもどきを試しに作ってみたんだよね。それが周囲に大好評で、商会で販売するに至ったわけだけど。
わたしはアーヴィン様に返事をしつつ、コンロにのったたこ焼きプレートから、焼き上がったたこ焼き第一段をピックを使って皿に移していく。
「それを製品化したのは姫だろう。姫は慎み深いな」
金の髪と琥珀の瞳をしたとんでもない美形のシダースさんが、わたしを持ち上げた。
彼に姫って柄じゃないからそう呼ぶのはやめてほしいとは言ってみたんだけど、「だって姫だろう?」という謎理論で却下され、今に至る。……まあ確かに領地では姫様って呼ばれてるけどね。
「いや、そうなんですけどね。慎み深いのとはまた違う気も……」
アイデア自体は前世のカセットコンロメーカーのものだし、それをさも大発明かのように売り出すのはさすがに気が引けるんだよね。
そんなことを思いながら、わたしはたこ焼きに特製ソースを塗る。このソースは、ケチャップとウスターソース、砂糖で作ったもの。お好み焼きソースに近い味になるので、かなり重宝する。
わたしはたこ焼きにさらに青のりを振り、かつお節をのせた。
「おお~っ、紙みたいなのが動いてる!」
アーヴィン様、さっきから「おお~」ばっかりですよ。かつお節が熱に反応してうねうねしてるのが珍しいのは分かりますけど。そういや、具材の天かすや紅生姜にも反応してましたね。
「マヨネーズかけますか?」
「もちろんかける」
「マギーにまかせるよ」
「姫のおすすめで」
「……じゃあ、かけますね」
三人にきらっきらした目で見られたわたしは、素直にたこ焼きにマヨネーズをさささっとかけていく。
「……本当に料理人みたいだなあ。マギーすごい」
「慣れですよ、慣れ。しょっちゅう作っていれば、これくらい当たり前です」
アーヴィン様、うちの領でたこ焼きの屋台出してる売り子さんはもっと手早いですよ。
……あ、この国ではたこ焼き見かけなかったので、売り子さんを教育して領で売り出してみたら大繁盛したんだよね。だから、今度王都でも店を出す予定なんだ。売れるといいなあ。
「熱いですから気をつけてくださいね」
わたしは三人に注意しながらその前にたこ焼きの皿を置いた。特にこれは中がとろとろなので、よけいに熱いんだよね。
さっそくおのおのの取り皿にたこ焼きを取っていく彼らを確認してから、わたしも自分の皿に三個ほど取り分ける。
「あつっ!」
「はは、姫が言っている傍から」
舌をやけどしたらしいアーヴィン様を笑いながらもシダースさんが彼に治癒魔法を行使した。
「ああ、ありがとう。熱かったけど、これはおいしいな!」
「うん、たこの食感もよくて、とても美味だ。姫のおかげでまた美食リストが増えた」
シダースさん、そんなもの作ってたのか。でもまあ、おいしいものは生活に潤いをもたらすよね。
「ああ、この味ひさしぶりだなあ」
「この間うちでお好み焼きしたじゃないですか」
「お好み焼きってなにそれ!?」
たこ焼きを味わっているお兄様のつぶやきにわたしが返すと、すかさずアーヴィン様が反応してくる。もはや王太子の威厳形無しなんですけど。
「このソースとトッピングを使う平たい小麦粉料理です。具材はたこ焼きよりも自由度がありますけど」
「へえー、食べてみたいな!」
「じゃあ、間を開けて作りますね。同じ味が続くのもなんですし」
まあ、ソースを変えればいいんだろうけど、わたしの中では似たようなものって感覚があるから連続は避けたい。
「ああ、楽しみにしているよ!」
「そういやマギー、ごまドレッシングはあるかな?」
アーヴィン様と入れ替わるように、お兄様がわたしに言ってきた。
「ああ、今日は持ってきてませんよ」
今回は定番の味で行くつもりだったから、そんな変化球は投げません。
意外に思うかもしれないけど、たこ焼きにごまドレッシングかけてもおいしいよ。
前世でお好み焼き作ったときにソース切らしてたことあったんだけど、ごまドレッシングで代用してみたら結構イケたので、それをたこ焼きにも応用してみたんだよね。
それ以外にも、たこ焼きにホワイトソースやシチューもおいしいよね。これはお店で購入したことあるから、そこまで「えっ」と思うような味じゃないと思う。
「そうか……、ひさしぶりにたこ焼きにかけたかったんだけどな」
「はいはい、次は忘れずに持ってきますよ」
さすがにわたしの空間魔法でも、用もないのに入れてないしな。あれって便利だけど、計画性もなくどんどん入れてると、収拾つかなくなるし。
マヨラーならぬごまドレラーのお兄様をなだめながら、わたしはたこ焼きを口にする。んんっ、おいしいっ! 自画自賛だけど、このとろとろがたまらない! しっかり熱が通ったたこ焼きもいいけど、わたしは断然ナカトロ派だなあ。……あ、いけない。次の焼かなくちゃ。
おいしいおいしいという三人の絶賛を受けつつ、わたしは再びたこ焼きを焼くべく、プレートに向き直る。──そして、本来の議題はこの後すぐ!
「姫、まるで職人のようだな!」
再び、生徒会室。
わたしは王太子のアーヴィン様とお兄様と昔馴染みのあと一名とでたこ焼きパーティをしているよ。
もっとも焼くのはわたしで、他のみんなは食べる専門。わたしは鍋奉行ならぬたこ焼き奉行で、日頃の修行(?)の成果を三人の前で披露している。
「しかし、マギーのカセットコンロのアイデアはすごいな。わが妹ながら変人だが、これだけは素直に感心するよ」
ちょっ、変人って失敬だな、チミィ!
妹の前で婚約者の胸揉んだって宣言する人には言われたくないよ!
「世界的な大ヒットだからねえ。それに本体を廉価に設定して普及させ、使い捨ての魔法燃料をホルスト家の商会で売るなんて商売上手だなあ」
「うーん、ですが、前世の記憶にあったものですし、あんまり褒められたものでもないと思うんですよね……」
このカセットコンロも要するに前世の世界にあったものの模造なわけで、手放しに褒められたりすると背中がむずむずしてくる。
ちなみに魔法道具で、かなりの長期間使えるIHっぽい卓上コンロは、既にこの世界にあったことはあった。けど、めちゃくちゃ高価な上、火力がちょっと頼りなかったからカセットコンロもどきを試しに作ってみたんだよね。それが周囲に大好評で、商会で販売するに至ったわけだけど。
わたしはアーヴィン様に返事をしつつ、コンロにのったたこ焼きプレートから、焼き上がったたこ焼き第一段をピックを使って皿に移していく。
「それを製品化したのは姫だろう。姫は慎み深いな」
金の髪と琥珀の瞳をしたとんでもない美形のシダースさんが、わたしを持ち上げた。
彼に姫って柄じゃないからそう呼ぶのはやめてほしいとは言ってみたんだけど、「だって姫だろう?」という謎理論で却下され、今に至る。……まあ確かに領地では姫様って呼ばれてるけどね。
「いや、そうなんですけどね。慎み深いのとはまた違う気も……」
アイデア自体は前世のカセットコンロメーカーのものだし、それをさも大発明かのように売り出すのはさすがに気が引けるんだよね。
そんなことを思いながら、わたしはたこ焼きに特製ソースを塗る。このソースは、ケチャップとウスターソース、砂糖で作ったもの。お好み焼きソースに近い味になるので、かなり重宝する。
わたしはたこ焼きにさらに青のりを振り、かつお節をのせた。
「おお~っ、紙みたいなのが動いてる!」
アーヴィン様、さっきから「おお~」ばっかりですよ。かつお節が熱に反応してうねうねしてるのが珍しいのは分かりますけど。そういや、具材の天かすや紅生姜にも反応してましたね。
「マヨネーズかけますか?」
「もちろんかける」
「マギーにまかせるよ」
「姫のおすすめで」
「……じゃあ、かけますね」
三人にきらっきらした目で見られたわたしは、素直にたこ焼きにマヨネーズをさささっとかけていく。
「……本当に料理人みたいだなあ。マギーすごい」
「慣れですよ、慣れ。しょっちゅう作っていれば、これくらい当たり前です」
アーヴィン様、うちの領でたこ焼きの屋台出してる売り子さんはもっと手早いですよ。
……あ、この国ではたこ焼き見かけなかったので、売り子さんを教育して領で売り出してみたら大繁盛したんだよね。だから、今度王都でも店を出す予定なんだ。売れるといいなあ。
「熱いですから気をつけてくださいね」
わたしは三人に注意しながらその前にたこ焼きの皿を置いた。特にこれは中がとろとろなので、よけいに熱いんだよね。
さっそくおのおのの取り皿にたこ焼きを取っていく彼らを確認してから、わたしも自分の皿に三個ほど取り分ける。
「あつっ!」
「はは、姫が言っている傍から」
舌をやけどしたらしいアーヴィン様を笑いながらもシダースさんが彼に治癒魔法を行使した。
「ああ、ありがとう。熱かったけど、これはおいしいな!」
「うん、たこの食感もよくて、とても美味だ。姫のおかげでまた美食リストが増えた」
シダースさん、そんなもの作ってたのか。でもまあ、おいしいものは生活に潤いをもたらすよね。
「ああ、この味ひさしぶりだなあ」
「この間うちでお好み焼きしたじゃないですか」
「お好み焼きってなにそれ!?」
たこ焼きを味わっているお兄様のつぶやきにわたしが返すと、すかさずアーヴィン様が反応してくる。もはや王太子の威厳形無しなんですけど。
「このソースとトッピングを使う平たい小麦粉料理です。具材はたこ焼きよりも自由度がありますけど」
「へえー、食べてみたいな!」
「じゃあ、間を開けて作りますね。同じ味が続くのもなんですし」
まあ、ソースを変えればいいんだろうけど、わたしの中では似たようなものって感覚があるから連続は避けたい。
「ああ、楽しみにしているよ!」
「そういやマギー、ごまドレッシングはあるかな?」
アーヴィン様と入れ替わるように、お兄様がわたしに言ってきた。
「ああ、今日は持ってきてませんよ」
今回は定番の味で行くつもりだったから、そんな変化球は投げません。
意外に思うかもしれないけど、たこ焼きにごまドレッシングかけてもおいしいよ。
前世でお好み焼き作ったときにソース切らしてたことあったんだけど、ごまドレッシングで代用してみたら結構イケたので、それをたこ焼きにも応用してみたんだよね。
それ以外にも、たこ焼きにホワイトソースやシチューもおいしいよね。これはお店で購入したことあるから、そこまで「えっ」と思うような味じゃないと思う。
「そうか……、ひさしぶりにたこ焼きにかけたかったんだけどな」
「はいはい、次は忘れずに持ってきますよ」
さすがにわたしの空間魔法でも、用もないのに入れてないしな。あれって便利だけど、計画性もなくどんどん入れてると、収拾つかなくなるし。
マヨラーならぬごまドレラーのお兄様をなだめながら、わたしはたこ焼きを口にする。んんっ、おいしいっ! 自画自賛だけど、このとろとろがたまらない! しっかり熱が通ったたこ焼きもいいけど、わたしは断然ナカトロ派だなあ。……あ、いけない。次の焼かなくちゃ。
おいしいおいしいという三人の絶賛を受けつつ、わたしは再びたこ焼きを焼くべく、プレートに向き直る。──そして、本来の議題はこの後すぐ!
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