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前編
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「ユーリーン様、ご卒業おめでとうございます。未来の皇妃様と一緒に学ぶことができて嬉しゅうございましたわ」
「まあ、皆様もご卒業おめでとうございます。皆様のおかげで、誠に楽しい学園生活を送ることができました。よい思い出になりましたわ」
学園の卒業パーティにて、社交界の華と呼ばれるユーリーン・ヴァルガス公爵令嬢は、仲の良い学友達と歓談していた。だがその時、その和やかな空気は学園の問題児達によって打ち破られた。
「ユーリーン・ヴァルガス! わたしは貴様の婚約を解消する!」
不作法にも指を突きつけて宣言したのは、この国の第一皇子ジュリアーノ。その背後には取り巻きの高位貴族の子息達と、最近ジュリアーノと仲が良いと噂されるモナという子爵令嬢がいた。
ユーリーンはぱちぱちと睫毛をしばたかせた後、扇子を口元で開いて小さく溜息をついた。
「まあ、ジュリアーノ様。このような場で、いきなりなにをおっしゃいますの? 第一皇子様たるもの、よく考えて行動なさってくださいませ」
「だ、黙れ! 貴様は公爵令嬢という身分を笠に着て、子爵令嬢のモナをいじめただろう! そのような心根の卑しい者は、未来の皇妃にふさわしくない!」
すると、恐る恐る彼らのやりとりを見守っていたパーティ会場の学生や招待客らが息を呑む。
それを自分達に都合の良いものと受け取ったらしいジュリアーノは、ニヤリと嗤った。
「そんなこと、するわけがありませんわ。それにその必要がありません」
「なにを言う! モナに我らに近づくなと言ったそうじゃないか!」
「近づくな……? ああ、婚約者のいる方々に近づきすぎるのはよろしくないとは苦言致しましたね」
意外と素直に認めるユーリーンに、ジュリアーノ達は嬉々として「浅ましい」「なんて恐ろしい女だ」などと彼女を責め立てた。
それを氷のような視線で見やると、ユーリーンは言った。
「ですが、あなた方と仲良くなりすぎて困るのはモナ嬢ですよ? 浮気を理由にあなた方の婚約者の家から婚約破棄されたら、どうなさるおつもりですか?」
「そんなのは望むところだ!!」
ジュリアーノとその取り巻き達が同時に叫んだ。会場では呆れたような溜息が零されている。
「……そうですか。非は当然あなた方にありますので、各婚約者の家から慰謝料が請求されますわね。……もちろん、モナ嬢にも」
「なっ、なぜ、そんなものを払わなければならない!」
「そうよ、なぜわたしがそんなもの払わなければならないの!」
驚愕する彼らに、会場内からなぜこんなことを知らないのかという生温かい視線が浴びせられる。
「……決まりごとですので。子爵家は支払いが大変だと思いますよ。なにせ、あなた方の婚約者全員の家から慰謝料が請求されるんですものね」
「そ、それなら、皇家から金を出せばいい。それなら問題はない!」
取り繕うように言ったジュリアーノに、ユーリーンは呆れたような目つきになる。
「そんなことを陛下がお許しになるわけがありませんわ。殿下以外の方との不貞の慰謝料を払えだなんて、どの口がおっしゃいますか。……それに、この状態をよく許していらっしゃいますのね。これでは後々、モナ嬢が殿下に嫁して懐妊されても、他の方の種ではないかと噂されますよ」
「そんな酷い! わたしが嫌いだからって、いくらなんでも酷すぎるわ!」
モナがわっと顔を覆ったが、その頬に涙は流れていなかった。
「貴様、公然とモナをいじめるとは! このような心根の汚い女など、皇家にはふさわしくない! やはり婚約破棄しかないようだな!」
怒鳴るジュリアーノの言葉に、ユーリーンの美しい眉が不快そうに歪められた。
「わたくしは常識を申しただけですが。先程からわたくしのことを汚い、卑しいとおっしゃっておりますが、一対多の状況で暴言を吐くあなた方の方がよほど卑怯です。……それに、わたくしの婚約は陛下が決められたことです。文句があるというなら、陛下に話をお通しください」
「だっ、黙れ、黙れぇっ! 諦めの悪い奴め、成敗してくれる!!」
ユーリーンに正論を吐かれて、ジュリアーノの顔が屈辱に赤く染まる。
そして腰に穿いた剣を抜くと、ユーリーンに振りかぶった。
「まあ、皆様もご卒業おめでとうございます。皆様のおかげで、誠に楽しい学園生活を送ることができました。よい思い出になりましたわ」
学園の卒業パーティにて、社交界の華と呼ばれるユーリーン・ヴァルガス公爵令嬢は、仲の良い学友達と歓談していた。だがその時、その和やかな空気は学園の問題児達によって打ち破られた。
「ユーリーン・ヴァルガス! わたしは貴様の婚約を解消する!」
不作法にも指を突きつけて宣言したのは、この国の第一皇子ジュリアーノ。その背後には取り巻きの高位貴族の子息達と、最近ジュリアーノと仲が良いと噂されるモナという子爵令嬢がいた。
ユーリーンはぱちぱちと睫毛をしばたかせた後、扇子を口元で開いて小さく溜息をついた。
「まあ、ジュリアーノ様。このような場で、いきなりなにをおっしゃいますの? 第一皇子様たるもの、よく考えて行動なさってくださいませ」
「だ、黙れ! 貴様は公爵令嬢という身分を笠に着て、子爵令嬢のモナをいじめただろう! そのような心根の卑しい者は、未来の皇妃にふさわしくない!」
すると、恐る恐る彼らのやりとりを見守っていたパーティ会場の学生や招待客らが息を呑む。
それを自分達に都合の良いものと受け取ったらしいジュリアーノは、ニヤリと嗤った。
「そんなこと、するわけがありませんわ。それにその必要がありません」
「なにを言う! モナに我らに近づくなと言ったそうじゃないか!」
「近づくな……? ああ、婚約者のいる方々に近づきすぎるのはよろしくないとは苦言致しましたね」
意外と素直に認めるユーリーンに、ジュリアーノ達は嬉々として「浅ましい」「なんて恐ろしい女だ」などと彼女を責め立てた。
それを氷のような視線で見やると、ユーリーンは言った。
「ですが、あなた方と仲良くなりすぎて困るのはモナ嬢ですよ? 浮気を理由にあなた方の婚約者の家から婚約破棄されたら、どうなさるおつもりですか?」
「そんなのは望むところだ!!」
ジュリアーノとその取り巻き達が同時に叫んだ。会場では呆れたような溜息が零されている。
「……そうですか。非は当然あなた方にありますので、各婚約者の家から慰謝料が請求されますわね。……もちろん、モナ嬢にも」
「なっ、なぜ、そんなものを払わなければならない!」
「そうよ、なぜわたしがそんなもの払わなければならないの!」
驚愕する彼らに、会場内からなぜこんなことを知らないのかという生温かい視線が浴びせられる。
「……決まりごとですので。子爵家は支払いが大変だと思いますよ。なにせ、あなた方の婚約者全員の家から慰謝料が請求されるんですものね」
「そ、それなら、皇家から金を出せばいい。それなら問題はない!」
取り繕うように言ったジュリアーノに、ユーリーンは呆れたような目つきになる。
「そんなことを陛下がお許しになるわけがありませんわ。殿下以外の方との不貞の慰謝料を払えだなんて、どの口がおっしゃいますか。……それに、この状態をよく許していらっしゃいますのね。これでは後々、モナ嬢が殿下に嫁して懐妊されても、他の方の種ではないかと噂されますよ」
「そんな酷い! わたしが嫌いだからって、いくらなんでも酷すぎるわ!」
モナがわっと顔を覆ったが、その頬に涙は流れていなかった。
「貴様、公然とモナをいじめるとは! このような心根の汚い女など、皇家にはふさわしくない! やはり婚約破棄しかないようだな!」
怒鳴るジュリアーノの言葉に、ユーリーンの美しい眉が不快そうに歪められた。
「わたくしは常識を申しただけですが。先程からわたくしのことを汚い、卑しいとおっしゃっておりますが、一対多の状況で暴言を吐くあなた方の方がよほど卑怯です。……それに、わたくしの婚約は陛下が決められたことです。文句があるというなら、陛下に話をお通しください」
「だっ、黙れ、黙れぇっ! 諦めの悪い奴め、成敗してくれる!!」
ユーリーンに正論を吐かれて、ジュリアーノの顔が屈辱に赤く染まる。
そして腰に穿いた剣を抜くと、ユーリーンに振りかぶった。
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