王様と喪女

舘野寧依

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第十一章:障害に囲まれて

第137話 戻ってきた日

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「ん……っ、カレ、ヴィ」

 わたしはカレヴィからの口づけを何度も受け続けていた。
 いきなりの彼のその行為に、わたしは混乱するやら嬉しいやらで、でもやっぱり混乱していた。

「お待ちなさいカレヴィ。それ以上はあなた達の部屋でおやりなさい」

 ……それ以上って……。
 ニーニア様、止めてくれるのはいいのですけど、カレヴィを焚きつけるような言葉は過激すぎます。

「──分かりました」
「カレヴィ?」

 ええっ、カレヴィ本当にキス以上のことをするつもりでいるわけ!?
 焦ってニーニア様と彼を交互に見つめていたら、わたしはカレヴィにふわりとお姫様だっこされてしまった。

「カカカレヴィ」

 カレヴィはそのままニーニア様に会釈して歩き出してしまった。それをニーニア様が笑顔で手を振って送り出してくれる。
 お願いです。カレヴィの暴走を止めてください~っ!

「黙れと言ったのに可愛いことを言ってくるおまえが悪い」
「えええっ、だってカレヴィわたしのこと……」

 あんなにはっきり嫌いだって言ってたじゃない。
 すると、カレヴィは顔を歪めた。

「……すまない。あれは嘘だ」
「嘘って……」

 なにそれ。
 わたしはそれで凄く傷ついたのに。
 そんな思いは言葉にならずに、わたしの瞳にみるみる涙が溜まる。

「泣くな、ハルカ。つまらない意地を張った俺が悪かった」

 焦ったようにカレヴィが言ってくる。
 それでもわたしの涙腺は止まらずに涙を流し始めた。

「勝手だよ~。わたしは凄くショック受けたんだからね。それでわたしのことは好きなの、嫌いなの?」
「もちろん、好きだ。愛している」

 そう言いつつ、カレヴィはわたしの部屋のドアを近衛に開けさせた。
 そこにはもちろんというか、千花がいた。

「やせ我慢もとうとう終了ですか、カレヴィ王」

 千花は優雅にティーカップを持ち上げつつ、艶やかな笑顔でわたし達を迎えた。
 すると、カレヴィはわたしを抱えながら急に方向転換した。

「……邪魔をした。ティカ殿はここでゆっくりとくつろいでくれ」

 むっ、これはカレヴィ自身の部屋に行く気でいるな。
 それでわたしを寝室に連れ込む気でいるんだ。……でも、そうはいかない。わたしは忘れかけていた言葉をここぞとばかりに紡いだ。

「──カレヴィ、待て」

 すると、カレヴィは一瞬硬直し、わたしはその隙に彼の腕から逃れようとした。……けれど、思いの外がっちりと抱き寄せられていてわたしはカレヴィから逃れられない。

「……千花っ、助けて」

 仕方なく、わたしは千花に救いの手を求めた。

「まかせて」

 千花が頼もしくそう言うと、わたしは彼女の魔法によってカレヴィの腕から逃れ、応接セットの千花の対面に移動した。

「ハルカ、おまえは俺を愛しているのではなかったか。それとももう愛想を尽かしたのか?」

 腕から逃れたわたしをカレヴィは切なそうに見てきた。
 それでわたしは思わずきゅんとしちゃったんだけど、それどころの話じゃなかったね。

「もちろん愛してるよ。……でも今カレヴィ、わたしを寝室に連れ込もうとしていなかった?」

 すると、カレヴィは少々気まずそうにした。……当たりか。

「今は習いの月ではないのですから、その点は我慢していただかないと困ります」

 千花が抗議しても、カレヴィはしつこく食い下がってきた。

「俺とハルカに処方されている薬はもちろん飲む。……それでも駄目か?」
「駄目」
「駄目に決まっています」

 わたしと千花にダメ出しされて、見る間にカレヴィはがっかりした顔になる。
 ああ、カレヴィすっかり元に戻っちゃったよ。
 ちょっと前まではつれなくてかっこよかったのに。
 ……でも、そんな彼に戻ってほしいとは思わない。わたしはこの、わたしを愛してくれているカレヴィに会いたかった。

「カレヴィ、疲れてるみたいなのに無謀だよ。……膝枕くらいならここでしてもいいけど」

 ん、千花がいるのにちょっと大胆か。
 そう思ってる内に、カレヴィが嬉しそうな顔をしていそいそと長椅子の隣に座ってきた。
 しょうがないなあと思って千花を見ると、仕方なさそうに肩を竦めた。

「それでは邪魔者は退散します。……わたしがいないからといって、はるかに不埒な真似はしないようにお願いいたします」
「ああ、約束する」

 ちょっと残念そうだけど、カレヴィは素直に頷いた。
 千花はそれに頷いて、移動魔法で素早くその場から消えた。
 ……いつもいつも千花には気を使ってもらってすまないなあ。本当に近々彼女にお礼しなきゃ。

「……膝枕してくれるのだろう?」

 カレヴィが色気のある目で見てきて、わたしは思わずどきまぎしてしまった。なんで、そんなアーネスみたいな真似するんだ。心臓に悪い。
 わたしは長椅子の端に座り直すと、ぽんぽんと膝を叩いた。

「いいよ、カレヴィ頭を乗せて」

 すると、カレヴィは素直にわたしの膝に頭を乗せてきた。
 カレヴィの身長が高いため、彼に横を向いてもらって膝から下を長椅子からおろしてもらっているのが、ちょっと申し訳ない。

「──ハルカは良い匂いがするな。それに柔らかい」
「そ、そう。それは良かった」

 カレヴィの褒め言葉に、わたしは思わずかーっと赤くなる。

「照れているのか? 相変わらずおまえは可愛らしいな」

 ……バレてる。
 それでわたしは強行作戦に出ることにした。

「ごちゃごちゃいってないで、カレヴィはさっさと休む! なんなら、子守歌でも歌ってあげるから」
「ああ、頼む」

 それで、わたしはカレヴィのさらさらの銀髪に何度も指を通しながら、子守歌を歌いだす。
 ──なんだか新婚みたいでいい感じだ。
 今回元老院ならびにイアス達にはしてやられたけれど、こうやってカレヴィがわたしの元に戻ってきたんだから、少しは彼らを大目に見てもいいかな、そう思えた。
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