王様と喪女

舘野寧依

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第十一章:障害に囲まれて

第123話 訪問客

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「君ばかりハルカを独り占めするのはずるいね」

 再びわたしとカレヴィはアーネスによって引き裂かれた。

「ハルカッ」

 アーネスは見かけによらず馬鹿力だから困る。
 そんなことを思う間もなく、わたしはアーネスに抱きしめられてしまった。

「ずるいですよ、兄上」

 その横からイアスが手を出してきて、わたしはあれよと言う間に彼にも抱きしめられてしまう。

「おいっ」
「ちょっと……!」

 カレヴィの見ている前でこんなこと冗談じゃないよっ。

「ハルカは渡さない」

 焦るわたしを更に別の手が攫う。──シルヴィだ。

「いい加減に……!」

 わたしは物じゃない。それに、さっきのシルヴィの所業もわたしは頭に来ていた。

「ハルカ、愛している」

 すると、カレヴィがわたしをシルヴィから奪い返してくれた。

「ハルカ」
「カレヴィ」

 わたしとカレヴィが抱き合うと、あちこちから呻きのような声があがった。
 それにわたしは向き合って言う。……特にシルヴィに。

「婚約もしているわたしにこんなことしても無駄だよ。わたしの愛してるのはカレヴィだけなんだから」

 すると、シルヴィがカレヴィからわたしを奪おうとする。
 けれど、今度はカレヴィがしっかりガードしてくれてシルヴィの出した手は空振りに終わった。

「……それでも、愛している」

 するとそこで、ゼシリアが忠言してきた。

「ハルカ様は物ではありません。皆様で奪い合うのも大概になさってください」

 ──ゼシリア、ありがとう。
 わたしの言いたいことを言ってくれた彼女に感謝の視線を送る。

「それから皆様、着替えをなさってください。酷い有様ですわ」

 それでわたしは自分が結構血を流したことに気がついた。
 一番酷いのがイアスで、今人を殺してきたと言ったら信じちゃう人もいるかもしれない。

「あと、ハルカ様は休息が必要ですわ。血をかなり流されましたもの」
「そうだな、ハルカは少し休め。なんだったら午後の礼儀作法の授業はなしにするが」

 ええ、それは大袈裟だよ。

「ううん、それは大丈夫だよ、ありがとう。授業にはきちんと出るよ」

 なんといっても王妃業には欠かせない授業だもの。さぼるわけにはいかない。……なんといっても久しぶりだしね。

「それでは貧血に効く薬湯を作ってきます。今は治癒魔法でお元気ですが、後で目眩等起こされると大変ですから」
「うん、お願い」

 わたしは大事をとってイアスのその言葉に甘えることにした。

「それじゃ、これでお開きということでお願いね」

 みんなは頷いて、それぞれ了承した。

「ハルカに付いていたい」

 シルヴィがそう言ってきたけれど、わたしは遠慮して貰った。
 それに、シルヴィにはカレヴィから貰った花を駄目にされたしね。
 それにみんなに強硬に反対されたからってのもある。

 ……そういえば、わたし彼に寝てくださいとか言われたんだよね。
 これでOKしたら、シルヴィに襲われても構わないって言っているのと同じことになる。
 それはカレヴィという婚約者がいる身としては是非とも避けたいことだ。

 とにかく、それでみんなに退室して貰った。
 わたしは寝間着に着替えると、イアスに調合して貰った薬湯を飲み、ベッドに横になる。
 すると、眠くなる成分でも入っていたのか、わたしはすぐに眠りに入った。



 イヴェンヌに起こされてわたしはまた着替えた。
 それから昼食になったけれど、カレヴィは手が離せないとのことで来られなくなったそうだ。
 さっき飛び込んできたのが時間のロスにつながったらしい。

 ……でも、二人きりで昼食取りたかったな。

 けど、それを口に出すのはわがままだ。
 晩餐は一緒にとの伝言は入ってたし、それで我慢しなきゃ罰が当たる。
 わたしは溜息を押し殺すと、一人きりで昼食を済ませた。



 それでもって礼儀作法の時間。

「お久しぶりです、シレネ先生」

 わたしが正式な礼で挨拶すると、シレネ先生もそれで返してきた。
 うん、相変わらず綺麗な礼だ。

「本当にお久しぶりですね。ハルカ様と離れていた期間、なんだか寂しかったですわ」

 それは社交辞令でも嬉しいな。
 でも、簡単にお礼を言うと怒られちゃうんだよね。どうしよう。

「それは嬉しいお言葉ですね、シレネ先生」

 それに対してシレネ先生はにっこり笑った。
 よかった、どうやら合格点貰えたみたい。

「それと、陛下との再婚約おめでとうございます」

 やっぱりシレネ先生にもその話は行っていたみたいだ。そこでわたしはここぞとばかりにお礼を言った。

「ありがとうございます。嬉しいです」

 するとシレネ先生はにっこり笑って頷いてくれた。

「それでは、本日は綺麗な声の出し方について学びましょう」
「はい」

 それでわたしは挨拶の発声の仕方からチェックされた。その結果として、おっとりとしているけれども上品な挨拶がわたしにも出来るようになった。

「ハルカ様は本当に飲み込みが良くていらっしゃいますね」
「嬉しいです、シレネ先生」

 わたしはにっこりと穏やかに微笑んだ。
 うん、そうは言うけれど、シレネ先生の教え方がいいんだと思う。

「少し休憩をいたしましょうか」
「はい」

 一時間ばかり声を出しっぱなしだったから、この申し出は渡りに船だった。
 すると、そのタイミングで、王太后陛下がわたしに面会を求めているとゼシリアが伝えてきた。

「え……、どうしましょう」
「王太后陛下が面会をお求めになられているのを無下にするわけには参りませんわ。ここは授業を切り上げますから、ハルカ様は王太后陛下をお迎えになってください」
「はい、分かりました」

 わたしはシレネ先生の対処に感謝しながら、それでは、と退出する彼女を見送った。

 王太后陛下かあー、お一人でなにしにいらしたんだろ。
 ひょっとして、シルヴィのことで息子を誘惑するなとか文句を言いにいらしたとかだったらどうしよう。
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