王様と喪女

舘野寧依

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第九章:これからの展望

第94話 歓待の席で

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「事業のことはあい分かったが、ナンジョーがハルカの求婚者になることは反対だ。……そもそもハルカは後半月余りでこちらに帰ってくることになっている」

 あ、そういえばそうだった。
 わたしはカレヴィのその言葉で日本に帰るのが期限付きだということを思い出した。

「そうですか……、それではあまりはるかさんに会えなくなるのですね」

 がっかりというように南條さんが言う。
 出来れば、これで諦めてくれないかなあ。
 わたしがそう期待したのははっきり言って甘かった。

「しかし、この期間に攻勢をかければいいだけの話です。それに、今後も全く縁が切れるというわけではないようですし」
「ええ、それはお約束しますよ」
「ティカ殿!」

 千花がなんでもないように言ったことで、わたしとわたしの求婚者達が一斉に非難の目で千花を見る。けれど、千花はそれには全く動じていないようだった。

「文句があるなら正攻法で南條さんに勝てばいいんです。それとも、みなさんはその自信がおありにならないんですか?」
「そんなわけはない」
「もちろん、あるに決まってるよ」
「実力でハルカをもぎとればいいんだろう」
「残りの期間を考えれば、こちらの方が有利ですからね」

 うわあ、みんな千花の挑発に簡単に乗っちゃってるよ。
 思わず頭を抱えたところで、南條さんがニッと笑って言った。

「それでは決まりですね」
「ああ、望むところだ」

 ……なんというか、単純だなあ。と言うより、ただの戦闘好きのような気もする。わたしはカレヴィが好きだし、穏やかに過ごしたいんだけど。
 これからみんなの攻勢が激しくなるのかと思うと、それだけで頭が痛くなってくる。

「それでは商談相手としてはナンジョーのことを歓迎しよう。すぐに支度を」
「かしこまりました」

 カレヴィがゼシリアに命ずると、すぐに彼女は全て分かったようにお辞儀をして退出していった。


 そして、すぐに別室に南條さん歓待の儀のための用意がされて、わたし達全員そちらに移動した。

「個人的には気に入らないが、我が国の利益のためならば仕方ない。一応は歓迎してやる」
「……あまり歓迎されている気はしないですけれども、まあいいでしょう。今日は多少のことは目を瞑りますよ」

 カレヴィと南條さんはそんな会話をすると、睨み合い、激しい火花を散らした気がした。
 うわ、二人とも殺気立っちゃって怖いよ。

「ま、まあまあ。南條さん、ルルア酒はいかがです?」

 わたしは焦って近くにあったデカンターを掴むと、二人の間に無理矢理割り込んだ。

「ありがとうございます。いただきます」

 南條さんが笑顔で空のグラスを差し出したので、わたしはすかさずルルア酒でそれを満たした。
 するとカレヴィはそれが気に入らなかったみたいで、すかさず文句を付けてきた。

「ハルカはそんなことをしなくともいい。侍女にやらせろ」
「え、でも主賓しゅひんにお酒をぐくらいしないと」
「それくらいなら俺達がやる。おまえはおとなしくしていろ」
「……分かったよ」

 まあ、カレヴィ達が接待するならいいか。
 わたしはそう納得すると、自分の席におとなしく戻った。
 すると、わたしの隣に陣取ったゆうき君とまなちゃんがくいくいとわたしの袖を引っ張った。

「ねーねー、ゆうきとまなには~?」
「これはお酒だから二人には駄目だよ。ジュースで我慢してね」

 わたしがそう言うと、待機していた侍女達が二人のグラスにジュースをついだ。うん、この対応の良さはさすが宮廷侍女だ。

「わたしもジュースでお願い」

 どうやら酒癖が悪いらしいわたしは、お子様二人に醜態を見せるわけにはいかないので、侍女にそう頼む。するとすかさずジュースのグラスが運ばれてくる。

「なんだ、ハルカは呑まないのか?」
「うん、昼間だしちょっと止めとく」

 すると、カレヴィががっかりとした顔になった。

「いつかのようにナンジョーにも説教してやれば良かったのにな」

 あー、おとんとおかんを連れてきたときのことか。

「いや、それはまずいでしょ」

 いい加減、南條さんにもわたしのことを諦めて欲しいけど、ここで酔ったらそのことで説教癖が発動する可能性大だ。
 だからわたしは、今日はどうあっても酔いつぶれるようなことがあっちゃいけない。
 なんと言っても、ゆうき君とまなちゃんに嫌われるようなことは避けたかった。
 すると、南條さんが面白そうに尋ねてきた。

「はるかさん酒癖が悪いんですか?」
「いや、ちょっとタガが外れるくらいですよ」
「あれがちょっとか? 国王の俺を床に正座させて説教はありえないだろうが」
「う……」

 カレヴィの鋭いつっこみを受けてわたしはもう黙り込むしかなかった。

「では、お酒は程々にした方が良さそうですね」
「え、ええ、そうですね……」

 南條さんの正論にわたしは小さくなって頷くしかない。

「まあ、あれはあれで面白くはあるんだけどね。ハルカの男の品定めは非常に興味深かったよ」
「男の品定め?」

 アーネスの言葉に反応した南條さんがぽかんとしてわたしを見る。
 うう、でもそんなに見られてもわたしは覚えてないんだ。

「求婚者の中で誰が一番まともそうとか、誰と子供作ったら一番可愛いかとかわたし達の顔を凝視しながらだね……」
「ア、アーネス」

 わたしは変な汗をかきながら彼を止めようとする。
 どうやらわたしがその時にタラシと言ったらしいのを根に持っているらしい。

「まあ、酔った魔術師の攻撃魔法の応酬よりは可愛いものじゃありませんか。そのくらい多めに見ませんとはるかの評価も低くなりますよ」

 千花、攻撃魔法の応酬なんて、そんな過激なものと一緒に並べないで欲しい。
 それにこんなことくらいで評価下げたりなんてしないよ。元々喪女でそんな立場でもないし。

「……それは困るな。ハルカ、気を悪くしたなら許せ」

 カレヴィ、千花に乗せられすぎ。王様としてこれで大丈夫か?

「いや別に……気を悪くなんてしてないけど」

 するとカレヴィはあからさまにほっとしたような顔になる。

「お気にされなくても、ハルカの兄王への評価はどん底でしょう」
「なんだと」

 あああ、シルヴィ、カレヴィを攻撃し始めちゃったよ。
 案の定カレヴィはそれに食いついちゃうし。

「ああ、もう。子供達の前でいい大人が喧嘩しないの」

 シルヴィはわたし達の世界では高校生の歳だけど、こちらではもうりっぱな成人だ。
 運の良かったことに、当のゆうき君とまなちゃんは目の前の料理に夢中だ。
 そのことにほっとしていたら、カレヴィから非常に答えづらい質問をされた。

「だが、ハルカはまだ俺のことが好きだろう?」

 うん、好きだよ。好きだけど……、この衆人環視しゅうじんかんしの中で告白するのは非常に恥ずかしい。
 なので、わたしはそれに対して頷くだけに留めておくことにした。
 カレヴィは若干不満そうだけど、このくらいでどうか許して欲しい。
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