王様と喪女

舘野寧依

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第九章:これからの展望

第93話 ザクトアリア商社?

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「それはとても良い案ですね」

 千花の案に南條さんは嬉しげに微笑んだ。……けど、異世界メンバーの顔は何か言いたげに歪んでいる。

「ティカ殿、それでは話が違う。ハルカが我が国へ嫁することが約束だったはずだ」

 そうカレヴィが抗議したけれど、千花はどこ吹く風だった。

「……ようするに、わたしがザクトアリアに貢献すれば問題はないのですよね。ハルカにも選ぶ権利がありますし」

 千花の言葉を受けて猛然と抗議しだした男達にわたしは焦って首を横に振った。

「ち、千花っ、選ぶとか、わたし、そんなたいそうな者じゃないしっ」
「はるか、そんなこと言っちゃ駄目だよ。充分はるかはたいそうな者なんだから」
「そ、そんなこと……」

 千花みたいな美人だったらともかく、化粧を取ったら中の中、悪くしたら中の下のわたしがそんな自信持てるわけがない。

「カレヴィ王ははるかを深く愛しているかもしれません。……ですが、今までの経緯をふまえると、自己中心的な愛にしか見えません。わたしはまたはるかが傷つくのを見るのは嫌なんです。それなら、はるかがより幸せになる方向を模索したいです」

 そうか、それで千花がこんなこと言い出したんだ。
 でも、わたしは……。

「でもわたしはカレヴィが好きだよ。いくら千花でも物事をかき回しすぎだよ」

 千花がわたしのことを思って行動してくれているのはよく分かっている。だけど、南條さんのことは断るためにこっちに来たんだよ?
 わたしがそう言うと、千花は困ったような顔をした。

「うん、そうなんだけど……。ここに来て、あちらでもまともそうな人が出て来たから候補にするのも悪くないかなと思って。同じ日本人だし」
「千花のその気持ちは嬉しいけど……ザクトアリアの人達にあそこまで世話になっておきながら、今更のこのこと南條さんを求婚者として見ることはできないよ」

 すると、それまで謁見の間ではしゃいでいたゆうき君とまなちゃんがとことことわたしに近づいてきた。

「おねえちゃんはぱぱのこと、きらい?」

 二人に両手を取られ、純真な目で見られてわたしはかなり動揺してしまった。

「……嫌いじゃないけど、好きでもないよ。……お願いだから困らせないで」

 すると、二人の大きな瞳にみるみる涙が溜まっていってわたしは焦った。

「じゃあ、おねえちゃん、ゆうきとまなのこと、すきじゃないの?」
「二人のことは好きだよ。でも、それとこれとでは話が違うんだよ。ごめんね」

 あああ、またもやゆうき君とまなちゃんを泣かせてしまった。どうしよう。
 おろおろしていたら、南條さんが傍にやってきて、二人に視線を合わせて言った。

「ゆうき、まな、パパはもうふられたんだ。だからはるかさんを困らせるのはやめなさい」

 あ、南條さん、分かってくれたの?
 わたしがほっとしていると、けれど南條さんは全く違うことを言ってきた。

「でも、はるかさん。希望がある限りわたしはまだ諦めませんよ」

 えええ、希望がある限りって……。

「王様は確か求婚者の末席なんですよね? それならわたしにも希望はあると思いますから」

 すると、カレヴィはぐっと言葉につまっていた。その代わりにシルヴィが答える。

「確かに一番の権利があるのは今現在兄王ではなく、俺です。あなたの出番はありません」
「まあまあ。そんなに角を立てないでくださいよ。結局選ぶのははるかさん自身ですから。まだ猶予期間もあるようですし、ゆっくりと攻略させていただきますよ」

 ……攻略って……、南條さん全然懲りてない!

「本当に図々しいな、ナンジョー」
「図々しいのは承知で聞きますが、ではあなたがはるかさんの婚約者から外れたらしいのはなぜですか?」
「そっ、それは……っ」

 まずい話を振られたとばかりにカレヴィが明らかに動揺している。

「それは、カレヴィが嫉妬からハルカを酷く傷つけたからだよ」

 ちょっ、アーネス、ゆうき君やまなちゃんもいるのに!

「おじちゃんがおねえちゃんをいじめたの? ひどぉい」

 すかさず反応した二人がカレヴィをひどい、いじめっことぽかぽか叩いた。
 お子様二人には詳細は分からないだろうけれど、南條さんにはさすがに分かってしまったみたいで、「へえ、そうなんですか。それは許し難いですね」とか笑顔で言ってきた。でも、南條さん目が全然笑ってなくて怖いよ。
 そんな中で、わたしとカレヴィは妙な汗をだらだら流していた。

「兄上、子供の前で言うことではないですよ。陛下が許し難いのは、ナンジョーさんに同意ですが」

 イアスがアーネスを諌めながらも、半眼でカレヴィを見つめている。
 さらに居心地の悪くなったカレヴィはわたしに目で救いを求めてきた。
 ええい、自分のまいた種くらい自分で回収しろ。……けど、仕方ない。

「ゆうき君、まなちゃん。わたしなら大丈夫だからそんなことしないで?」

 わたしは二人の目線に合わせてひざまずくと、彼らを抱きしめた。

「……おねえちゃん、かわいそう」

 まなちゃんの言葉に、思わずわたしは泣きそうになってしまう。
 いやでも、二人に引きずられてたらいけない。
 そう思い返して、わたしはなんとか涙をこらえた。

「……はるか……」

 千花が心配そうに見てくるけど、わたしは大丈夫。
 周りを見渡せば、カレヴィは渋い顔、その他のみんなはやっぱり心配そうにわたしを見ていた。

 ああ、こんなんじゃいけないな。
 わたしはもっと強くならないと。
 わたしがそう密かに決意していると、カレヴィが非常に言いにくそうにわたしに話しかけてきた。

「その……、すまなかったな、ハルカ」
「……もう済んだことだよ。もうこの件でカレヴィは気に病まないで」

 あ、いや、少しは気にしてくれないとまずいか。過去の例もあることだし。

「でも、一応気には止めといてもらえると助かる。二度とあんなことがないためにも」
「……分かった」

 それでカレヴィはしょんぼりしちゃって少し言い過ぎたかなあとわたしも心配になってきちゃった。

「……それで話は戻しますが、わたしはこの国と経済協力を直接結べることができるのですか?」

 南條さんがそう言ったことで、わたしは当初の千花と彼の会話を思い出した。

「いえ、この場合、わたしを通じての方がよいでしょう。カレヴィ王との軋轢あつれきもあるでしょうし」

 うん、そうだね。その方がよさそう。
 カレヴィと南條さんが仲良くするなんて、万に一つもなさそうだし。

「……それで、我が国に利益はあるのか?」
「ええ、この国の特産品で充分それはあると思いますよ。逆に南條さんは精密機械等は遠慮していただきたいですが、日本固有の産物をこちらに持ってくることで儲けが出ると思いますし」
「ああ、そうだね。わたしもいいと思いますよ」

 和柄小物なんて女の子に人気そうだし、日本固有の食器やら織物はそこそこ売れそうだ。

「それなら、早いところ我が社と契約を結んで欲しいですね」
「そうですね、出来ましたら明日にでも。あ、カレヴィ王、事後報告ですけどザクトアリアからも会社を設立させることにしましたから、よろしく。カレヴィ王が代表ですから」

 ってことは、代表取締役社長がカレヴィってこと?
 ……なんだかいよいよおかしなことになってきた。
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