王様と喪女

舘野寧依

文字の大きさ
上 下
91 / 148
第八章:怒濤のモテ期

第91話 想定外

しおりを挟む
    課長のもと、5日間指導を受けただけだったが、元々課長は管理職でありながら成績トップの営業マンでもあった為、そろそろ本来の職に戻したいと、今日の朝礼で部長からお達しがあった。

「私は今日から外回りだ。鈴原、分からない事があったら小川さんに聞いて。それでも解決しない時は私に電話して。」

「…はい。承知しました。」

「…どうした?不安か。」

「…はい、正直言って不安です…。」

「鈴原、5日間しかお前を見ていないが、大丈夫だと思うぞ。自信を持てよ。」

「…え?」

「何回も言わすなよ。鈴原、分からないければ聞けばいいんだ。自信を持ってやれ。」

「課長…。はい!」

    優しく微笑んで…はくれなかったが、自信を持てと励ましてくれた。課長の貴重な時間を5日間も貰って勉強したのだ。期待に応える為にやってみよう、と頷いた。

・・・

    課長は、外回りに出るともう、その日に成果を持ってきた。大口の運送業者の新規契約だ。

(すごい…。前から追っていたにしても。)

    私は、というと、電話応対や見積書の作成、会議の資料作りに、一日奮闘する事になった。
    これはどうだったっけ、と思い、ノートを見ると、的確な回答が自分の字で書き込んであった。そういう事が何度かあり、実践に役立つ事を教えてくれていたのだな…と感嘆した。

(スーパーマンみたいな人だな…。面接の時みたいにまた笑いかけて欲しいよ。)

    ふぅ。と伸びをしてデスクを片付けた。

・・・
    
   独り立ちして数日たち、いつもの業務をこなしていると、電話が鳴った。

「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」

「もしもし?今アウディで事故っちゃってさ、うちの担当、誰だっけ?電話するように言って?」

「かしこまりました。大変でございましたね。それではお電話番号を…」「頼むね。」
ガチャ。ツーツーツー…

「お客様?…お客様?」

    自分の顔色がサーっと青くなるのを感じた。ナンバーディスプレイには電話番号の表示はない。

(どうしようー?お客様の名前も担当者の名前も何も分からない…。)

    小川さんに事情を話してはみたが、何も分からないのではお手上げだと言う。お客様は待っているというのに。

    怒られそうだが、課長に指示を仰ぐ事にした。

「お疲れ様です、課長、今お電話大丈夫ですか?」

「ああ、平気だが?」

「実はアウディで事故を起こしたと電話が入ったのですが、担当者の名前もお客様の名前も仰らず切ってしまわれて…。どうしたらいいでしょう?」

「…。鈴原?アウディでって言ったのか?」

「はい。それだけしか…。」

「もしかしたら、向田運送の向田社長かもしれない。1年前に私から神谷に担当をかえたから神谷に連絡するように伝えてみる。少しそのまま待っていてくれ。」

「課長…、ありがとうございます。」

「いや、切るぞ。」

    待っている時間は1時間にも2時間にも感じたが、実際は25分程で、神谷さんから電話が入った。

「鈴原さん、さっきの電話、向田社長で間違いなかった。近くにいたから顔を出したら、すぐ来てくれたって感謝されたよ。」

「本当ですかっ?〰️〰️、良かったですぅ。」

    へにゃっと力が抜けてホッとした。地獄で仏、課長さま様、本当に助かりました。
    以前の担当の顧客とはいえ、アウディだけでピンとくるなんて、どれだけ頭に入ってるんですか…!
…だけど、これ以上素敵な所を見せないで欲しいです…本当に。私に恋愛脳は、禁止なんですから。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

処理中です...