王様と喪女

舘野寧依

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第三章:王の婚約者として

第26話 野獣への対策

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 婚礼衣装の採寸も無事に終わったわたしは、早速千花にはっきりと「精力減退の薬ない?」と手紙を書いて送ると、彼女はしばらくしてやってきた。

「一瞬なにかと思ったよ。……カレヴィ王のことだね」

 いくら親しい仲でも、いきなり一言だけアレな手紙を送りつけたのはまずかったかなあ。千花、ごめん。

「うん、そう。カレヴィ、程々ってのが出来ないみたいだからどうにかしたくて。わたしも体力的にそろそろきついし」

 なんだかんだ言って、夜の習いの終わった後は、治癒魔法とか湿布とか痛み止め使い放題だし、いくらなんでもカレヴィはやりすぎだ。
 おまけに、わたしへの愛(!)に目覚めてしまったカレヴィはやたら行為を引き延ばしたがるし、わたしとしては死活問題だ。

「ふうん、カレヴィ王はかなり落ちるのが早かったんだね」

 訳知り顔で千花が一人頷く。……意味が分からない。

「? なんのこと、千花」
「ううん、こっちのこと」

 ……? 笑ってごまかされたような気もするけど、まあいいか。
 それよりも重要なこと確認したいし。

「それで、例の薬はあるかなあ?」

 期待でどきどきしながら聞いたら、千花にあっさりと突き落とされた。

「うーん、そういう方面の需要はないから、はっきり言っちゃうとない」

 そうか、やっぱりないか。
 そうだよね。あっちの世界でも精力が欲しいっていう人の方が多いみたいだし。
 わたしがしょんぼりしていると、千花が慰めるように肩を叩いてきた。

「まあ、作ることはできるから、はるかはそう気を落とさないで」
「えっ、本当? 千花、作ってくれる?」

 それで現金にもわたしは色めきたってしまった。
 カレヴィのアレが抑えられるなんて素敵すぎる。

「それはいいけど。……でも、カレヴィ王がそんな薬飲むかなあ?」

 千花が首を傾げながら疑問を投げかけたけど、わたしの体力がかかってるんだもの、絶対にカレヴィには認めさせてみせる!
 ……とは思ったものの。


 執務室に行って、カレヴィにそのことを伝えると、思い切り拒否された。

「俺は、そんなものは飲まんぞ」
「えええ、だってカレヴィ、程度ってものを知らないんだもの。わたし、このままじゃ体が続かないよ」

 結果的に体力を落とすから、治癒魔法をかけ続ける訳にもいかないしさ。
 わたしがそう言うと、カレヴィがちょっと動揺した。

「……それは、悪いとは思っている。だが、実際におまえを前にすると抑えがきかないんだ」
「だから、薬で抑えようって話じゃない。カレヴィ、お願いだから了承してよ」

 カレヴィは気持ちが揺れてたみたいだけど、結局うんとは言わなかった。

「それだけは、男として嫌だ。ハルカ、すまない」

 ええーっ、じゃあ、これからも夜はこのまま野獣の餌食なわけ?
 わたしはそれからもさんざんごねたけど、「駄目なものは駄目だ」とついには執務室を追い出されてしまった。

 ……カレヴィってわたしを好きなんじゃないの? やっぱりあの言葉は嘘だったんだねっ!

 そうわたしが憤ってると、なぜか千花までがカレヴィのフォローを入れてきた。

「……まあ、カレヴィ王にも男のプライドってものがあるんだろうし、了承させるのはそう簡単にはいかないと思うよ」
「でも、千花。男のプライドって言ったって限度があるよ。このままじゃわたし死んじゃうよ」

 趣味三昧で快適生活と思ってたら、こんなところにとんでもない魔が潜んでいたなんて思ってもいなかった。
 やっぱり、そうそううまい話はないよね。
 このまま過労死コースかと、わたしが落ち込んでいると、千花が顎に指を当てて考え込む。

「……それなら、魔法で時間制限するっていうのはどう? 魔法自体ははるかにかけるから、カレヴィ王に薬を盛るわけでもないし」

 ──時間制限!!

「えっ、そんなこと出来るの、千花!」

 わたしは藁にも縋りつく思いで、千花を見てしまった。

「うん、出来るよ。たとえば真夜中になったらカレヴィ王ははるかに手を出せないってことにしたりとか」
「そっ、それっ、ぜひお願い! 千花、わたしの体調管理のためにも協力して!」
「うん、分かった」

 わたしは千花と話し合って、カレヴィがわたしに手を出せる時間は夜の習いの始まりから真夜中までとした。もちろん、朝はなし。
 ……まあ、これだけあれば普通大丈夫だろう。

 千花によると、これは防御壁魔法の改変版らしい。
 ということはその時間以外は、わたしはカレヴィを拒絶するってことになるのかな。

 ……ひょっとしたら、カレヴィ傷つくかも。
 でも、カレヴィだってわたしの体のこと考えてくれないんだから、おあいこだよね。
 わたしはちょっと後ろめたかったけれど、千花にその魔法をかけて貰った。
 うん、これで過労死は免れたぞ。

「千花、ありがとね」
「うん……。心配だから、明後日くらいにまた様子見にくるね」

 上機嫌のわたしとは対照的に、千花はなぜか心配そうだ。
 千花は心配性だなあ。
 千花の魔法のおかげで、カレヴィの無茶が減るんだから、心配することなんてなにもないって!



 ──結果から言うと、千花の魔法は効果抜群だった。

 夜の習いの最中、本当にあらかじめ決めた時間になったら、カレヴィはわたしに手を出せなくなった。

 千花、マジで凄すぎる。

 焦っている彼にわたしがにんまりしていると、カレヴィがものすごく不機嫌そうに聞いてきた。

「どういうことだ、ハルカ。まさか、なにかしたのか?」
「うん、千花に時間制限の魔法をかけて貰ったの。だからカレヴィ、わたしに手を出せないでしょ。カレヴィがわたしの体のこと考えてくれないからいけないんだよ」

 いくらわたしが丈夫だからっていっても、ものには限度ってものがあるんだからね。
 わたしの再三の願いを聞かなかった罰をカレヴィは受ければいいんだよ。

「考えていないことはない! ハルカ、ティカ殿に言ってすぐに解いてもらえ」
「えー、やだよ。カレヴィ、たまには我慢することも覚えなきゃ。……じゃあね、お休みカレヴィ」

 わたしは寝間着を着込むとさっさとシーツを引き被って眠りに入った。

「ハルカーッ!」

 うるさいなあ、もう。
 近衛とか侍女がなにかと思って見に来るじゃないよ。
 ……でも、千花が事前に事情を話してあったらしく、彼らは現れなかった。
 よし、これで安眠できるぞ。

「俺にこの状態でいろというのか。酷すぎるぞ、ハルカ」

 そう言うカレヴィはいわゆる寸止め状態。
 だから可哀想は可哀想だけど、ここはあえて心を鬼にしなきゃね。
 カレヴィが男のプライドをちょっとくらい捨ててくれれば、わたしだってこんなことしなくて済んだんだよ?

「わたしが好きなら、このくらい耐えられるよね、カレヴィ?」

 シーツから顔だけだしてわたしはにっこり笑う。
 するとカレヴィが心底悔しそうに唸った。

 そして、してやったりと満足したわたしは、カレヴィを置いてきぼりにして、久しぶりに朝まで安眠したのだった。
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