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第一章:喪女ですが異世界で結婚する予定です
第10話 カレヴィとの両親の謁見
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千花に連れられて来たところは、今まで一度も見たことのない場所だった。
……まあ、もっともカレヴィの執務室と居室、その間の共同空間と王妃の部屋くらいしかまだ行ったことないんだけどね。
もう少しわたしもこの王宮の間取りを覚えた方がいいかもしれない。
とは言っても、この中はとんでもない部屋数らしいんだけどね。でも、主要な施設の場所くらいは覚えた方がいいだろう。
「来たな、ハルカ」
その声のした方を見ると、一段高くなったところにある豪華な椅子にカレヴィが悠々と腰掛けていた。ひょっとしてあれは玉座だろうか?
「ここは……?」
わたしが疑問を口にすると、おじさん改め、宰相のマウリスがそれに答えてくれた。
「ここは謁見の間ですよ、ハルカ様」
言われてみれば、確かにそれっぽい。わたしはなるほどと納得した。
この謁見の間は絢爛豪華ではあるんだけど、不思議と下品な感じはしない。それは所々置いてある品のある調度品のおかげかもしれない。
「ハルカ、そちらにいるのがおまえの父母か?」
玉座の上からカレヴィが声をかけてくる。それにわたしは頷いた。
「うん、そう」
うん。こうしてると、カレヴィ、確かに王様らしく見えるね。
なんというか、王様! というオーラみたいなものがある。
そこで初めておとんとおかんは我に返ったらしくて、見慣れない豪華絢爛な謁見の間と、若いけれど威厳のある人物を目の当たりにして、落ち着かなさげに視線をさまよわせていた。
「そうか。……俺はザクトアリア王国の国王カレヴィだ。この度ハルカを花嫁に迎えることになった。今後、よろしく頼む」
「は、はあ……」
威風堂々としたカレヴィに対し、おとんは気の抜けた返事をした。
……まあ、今まで一緒に暮らしていた娘が、突然異世界の王様の花嫁になるなんて訳の分からない状況になったわけだし、この反応は無理もないだろう。
一応反応したおとんはまだいい方で、おかんにいたっては呆然とカレヴィの端正な顔を見つめているだけだった。
「ハルカ、隣に座れ」
おとん達と一緒にいたわたしは、カレヴィに隣の席を示されてちょっと驚いてしまった。
だって、あれって王妃の席じゃない? わたしはまだ王妃になってないぞ。
「え、いいの?」
「構わない。おまえは一月後には俺の妃になる。遠慮するな」
そう、それじゃ遠慮なく。
わたしはカレヴィの言葉に従って、一段高くなったところに上がり、カレヴィの横の豪華な椅子に座った。
そしておとんとおかんの方に向くと、二人は信じられないものを目にするかのように、並んで座っているわたしとカレヴィを呆けて見ていた。
その様子を千花がちょっと離れたところで窺っている。
異世界に来てしまえばもうこっちのものだし、大体おとん達を説得できたも同じだから、千花には感謝だね。
「今言った通り、一月後にはハルカは俺の花嫁になる。そなたらもそのつもりでいてくれ」
「……はあ」
おとんとおかんは未だに信じられない様子で、間の抜けた返事をする。
「……そういうことですから、今現在はるかが勤めている会社は辞めてもらうことになります。その代わりと言ってはなんですが、わたしが新たに会社を設立して、はるかをその事務員とすることにしましたから、経済的な心配はいらないと思います」
「千花ちゃんが会社を……」
千花の説明にぽかんとするおとんとおかん。結婚しているといっても、まだ二十代の千花が会社設立っていうのは驚愕に値するのだろう。
でもこれは、わたしが異世界で王妃になるよりも現実的だと思うぞ。
「ティカ殿。そのことなんだが、ハルカにかかる費用はザクトアリアから出すことにしたいのだが」
「そうですね。はるかは王妃になるのですし、その方がいいかもしれませんね」
カレヴィの提案に千花は頷いて了承した。
そうか、わたしの給料はこの国から出るのか。まあ、それが一番妥当だろうな。
千花に余計な負担はかけたくないし。
でもそうなると、わたしも趣味だけにかまけてられないな。王妃の仕事も頑張らないと。……今のところ、どんなことをやらなければいけないのか全然分かってないけれど。
まあ、それは後でカレヴィとか侍女長のゼシリアに聞けばいいか。
「……ハルカの父母はなにか言いたいことはないか? あれば答えるが」
カレヴィのその言葉に、おとんははっとして言った。
「お、恐れながら、どうしてはるかが王妃に選ばれたのでしょうか? この娘は容姿は普通ですし、性格も決して気の回る方ではない。友人には恵まれていますが、そう社交的でもない。それなのに、なぜですか」
すると、今まで呆然としていたおかんもそれに便乗するように言った。
「そ、そうです。王様ならもっと若くて綺麗な方を選び放題でしょう。それなのに、なぜよりによってこんな娘なんです? わたし共にはとても理解できません」
……二人とも、ここぞとばかりに言いたい放題だな。二人が普段わたしのことをどう思ってるかよく分かったよ。
わたしが思わずむっとしてると、カレヴィが椅子の肘掛けに置いてあったわたしの手にその手を重ねてきた。
「王である俺が、ハルカを選んだのだ。それに文句があるのか」
カレヴィが威圧的にそう言うと、おとんとおかんはかなりびびったようだった。そして、それ以上言う気もなくなったようで、口を噤んでしまった。
「……もうこのことに対する意見はないな。それでは、これで謁見は終了とする。ハルカの父母は別の間で休むように。……ハルカ、来い」
わたしは席を立ったカレヴィに手を取られて立ち上がると、彼にぐいぐいと引っ張られた。
彼の表情をそっと窺うと、顔が険しい。
……なんか、カレヴィ結構怒ってるみたいなんだけど。
ひょっとして、おとんとおかんの話を聞いて、変な女を掴まされたとでも思っているのかなあ……?
それだと、王妃業の傍らに趣味三昧の生活が泡になって消えそうな気もしたけど、でもわたしが千花とザクトアリアの繋ぎということがあるから、カレヴィも王の立場からしたら簡単には婚約は取り消せないはずだ、……けど。
……うーん、困ったなあ。
一ヶ月後の婚礼については早すぎると思ってたけど、でもここでカレヴィにやっぱり気が変わったとか言われたら、それはそれで困る。
それこそ、おとんとおかんに後でなんと言われるか分からないしね。
わたしは困惑しながらも、市場に売られていく子牛のごとく、複雑な気分でカレヴィに手を引かれて行った。
……まあ、もっともカレヴィの執務室と居室、その間の共同空間と王妃の部屋くらいしかまだ行ったことないんだけどね。
もう少しわたしもこの王宮の間取りを覚えた方がいいかもしれない。
とは言っても、この中はとんでもない部屋数らしいんだけどね。でも、主要な施設の場所くらいは覚えた方がいいだろう。
「来たな、ハルカ」
その声のした方を見ると、一段高くなったところにある豪華な椅子にカレヴィが悠々と腰掛けていた。ひょっとしてあれは玉座だろうか?
「ここは……?」
わたしが疑問を口にすると、おじさん改め、宰相のマウリスがそれに答えてくれた。
「ここは謁見の間ですよ、ハルカ様」
言われてみれば、確かにそれっぽい。わたしはなるほどと納得した。
この謁見の間は絢爛豪華ではあるんだけど、不思議と下品な感じはしない。それは所々置いてある品のある調度品のおかげかもしれない。
「ハルカ、そちらにいるのがおまえの父母か?」
玉座の上からカレヴィが声をかけてくる。それにわたしは頷いた。
「うん、そう」
うん。こうしてると、カレヴィ、確かに王様らしく見えるね。
なんというか、王様! というオーラみたいなものがある。
そこで初めておとんとおかんは我に返ったらしくて、見慣れない豪華絢爛な謁見の間と、若いけれど威厳のある人物を目の当たりにして、落ち着かなさげに視線をさまよわせていた。
「そうか。……俺はザクトアリア王国の国王カレヴィだ。この度ハルカを花嫁に迎えることになった。今後、よろしく頼む」
「は、はあ……」
威風堂々としたカレヴィに対し、おとんは気の抜けた返事をした。
……まあ、今まで一緒に暮らしていた娘が、突然異世界の王様の花嫁になるなんて訳の分からない状況になったわけだし、この反応は無理もないだろう。
一応反応したおとんはまだいい方で、おかんにいたっては呆然とカレヴィの端正な顔を見つめているだけだった。
「ハルカ、隣に座れ」
おとん達と一緒にいたわたしは、カレヴィに隣の席を示されてちょっと驚いてしまった。
だって、あれって王妃の席じゃない? わたしはまだ王妃になってないぞ。
「え、いいの?」
「構わない。おまえは一月後には俺の妃になる。遠慮するな」
そう、それじゃ遠慮なく。
わたしはカレヴィの言葉に従って、一段高くなったところに上がり、カレヴィの横の豪華な椅子に座った。
そしておとんとおかんの方に向くと、二人は信じられないものを目にするかのように、並んで座っているわたしとカレヴィを呆けて見ていた。
その様子を千花がちょっと離れたところで窺っている。
異世界に来てしまえばもうこっちのものだし、大体おとん達を説得できたも同じだから、千花には感謝だね。
「今言った通り、一月後にはハルカは俺の花嫁になる。そなたらもそのつもりでいてくれ」
「……はあ」
おとんとおかんは未だに信じられない様子で、間の抜けた返事をする。
「……そういうことですから、今現在はるかが勤めている会社は辞めてもらうことになります。その代わりと言ってはなんですが、わたしが新たに会社を設立して、はるかをその事務員とすることにしましたから、経済的な心配はいらないと思います」
「千花ちゃんが会社を……」
千花の説明にぽかんとするおとんとおかん。結婚しているといっても、まだ二十代の千花が会社設立っていうのは驚愕に値するのだろう。
でもこれは、わたしが異世界で王妃になるよりも現実的だと思うぞ。
「ティカ殿。そのことなんだが、ハルカにかかる費用はザクトアリアから出すことにしたいのだが」
「そうですね。はるかは王妃になるのですし、その方がいいかもしれませんね」
カレヴィの提案に千花は頷いて了承した。
そうか、わたしの給料はこの国から出るのか。まあ、それが一番妥当だろうな。
千花に余計な負担はかけたくないし。
でもそうなると、わたしも趣味だけにかまけてられないな。王妃の仕事も頑張らないと。……今のところ、どんなことをやらなければいけないのか全然分かってないけれど。
まあ、それは後でカレヴィとか侍女長のゼシリアに聞けばいいか。
「……ハルカの父母はなにか言いたいことはないか? あれば答えるが」
カレヴィのその言葉に、おとんははっとして言った。
「お、恐れながら、どうしてはるかが王妃に選ばれたのでしょうか? この娘は容姿は普通ですし、性格も決して気の回る方ではない。友人には恵まれていますが、そう社交的でもない。それなのに、なぜですか」
すると、今まで呆然としていたおかんもそれに便乗するように言った。
「そ、そうです。王様ならもっと若くて綺麗な方を選び放題でしょう。それなのに、なぜよりによってこんな娘なんです? わたし共にはとても理解できません」
……二人とも、ここぞとばかりに言いたい放題だな。二人が普段わたしのことをどう思ってるかよく分かったよ。
わたしが思わずむっとしてると、カレヴィが椅子の肘掛けに置いてあったわたしの手にその手を重ねてきた。
「王である俺が、ハルカを選んだのだ。それに文句があるのか」
カレヴィが威圧的にそう言うと、おとんとおかんはかなりびびったようだった。そして、それ以上言う気もなくなったようで、口を噤んでしまった。
「……もうこのことに対する意見はないな。それでは、これで謁見は終了とする。ハルカの父母は別の間で休むように。……ハルカ、来い」
わたしは席を立ったカレヴィに手を取られて立ち上がると、彼にぐいぐいと引っ張られた。
彼の表情をそっと窺うと、顔が険しい。
……なんか、カレヴィ結構怒ってるみたいなんだけど。
ひょっとして、おとんとおかんの話を聞いて、変な女を掴まされたとでも思っているのかなあ……?
それだと、王妃業の傍らに趣味三昧の生活が泡になって消えそうな気もしたけど、でもわたしが千花とザクトアリアの繋ぎということがあるから、カレヴィも王の立場からしたら簡単には婚約は取り消せないはずだ、……けど。
……うーん、困ったなあ。
一ヶ月後の婚礼については早すぎると思ってたけど、でもここでカレヴィにやっぱり気が変わったとか言われたら、それはそれで困る。
それこそ、おとんとおかんに後でなんと言われるか分からないしね。
わたしは困惑しながらも、市場に売られていく子牛のごとく、複雑な気分でカレヴィに手を引かれて行った。
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