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第一章:喪女ですが異世界で結婚する予定です
第3話 とりあえず着替える
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「お願いです。どうか殺さないでください」
「……俺は、なにもそんなことは一言も言ってないぞ」
わたしが王様に必死になって頼むと、彼は唖然とした顔になった。
……あれ、違うの?
いや、だってさ。
わたしはこの婚礼の契約で生まれるはずだった国と国の利益をぶち壊したんだから、展開的にはその場で殺されてもおかしくない立場だ。
だったら、全くその可能性がないとは言えないじゃない。
「でもわたし、大事な誓約書を駄目にしてしまったし」
「だから、おまえが代わりに俺の花嫁になれと言っているだろうが」
わたしの言葉に対して、カレヴィ王は面倒くさそうに答えた。
いや、でもそれはいくらなんでも投げやりすぎない?
こんな地味で、政略的価値もないわたしを花嫁になんて、きっと国民も納得しないよ。
「国王の花嫁なんてわたしには無理ですって!」
それにわたしには王妃にふさわしい気品もなにもない。むしろがさつという言葉がふさわしい。
わたしは必死で訴えたけど、カレヴィ王の反応は冷たかった。
「無理でもやれ。自分のしたことの責任は取れ」
「えええええ~……」
わたしは情けない顔でカレヴィ王を見る。
一般庶民のわたしには、王様の伴侶なんて重すぎる。
それにわたしは美人でもなんでもないし。
わたしが困り果てて、近くにいたおじさんとカレヴィ王の顔を見回してたら、王様におもむろに言われた。
「とりあえず、タダノハルカ」
「あ、名前ははるかです。名字が只野で」
わたしが説明すると、カレヴィ王は納得したように頷いた。
「そうか分かった、ハルカ」
そして、カレヴィ王がわたしのよれよれのジャージ姿を見下ろして一言。
「その格好を今すぐどうにかしろ」
王様にどうにかしろと言われて、わたしはとりあえずこちらの衣装に着替えることになった。
それに当たって、わたしはお風呂に入れてもらうことになってしまった。
そしたら侍女の一人に大事に持っていた原稿一式を奪われて、わたしはちょっと気が動転してしまった。
「そっ、それ、すごく大事なものだから、絶対捨てないで! ぜったい、絶対だよ!!」
「か、かしこまりました」
侍女達はどん引きしていたけれど、間違えて捨てられでもしたら困る。
とりあえず、原稿の安全だけは確保したわけだけど、次にはわたしが侍女達に身ぐるみ剥がされるというピンチが待ち受けていた。
「おとなしくお湯に浸かられてくださいませ」
年甲斐もなく少々暴れてしまったものだから、年かさの侍女から呆れたように言われてしまった。
……まあ、着るものがなければ、素直にそうするしかないし、わたしは半ば自棄になって一個目の湯船に浸かった。
湯殿を見渡すと、泡風呂とか薬草風呂とかあるみたい。
ちょっとした温泉施設だね。
侍女達は湯船に浸かっておとなしくなったわたしに安堵の溜息をついていた。
……おかしいなあ。そんなに暴れたつもりはないんだけど。
そして、泡風呂へ移動すると彼女達は一斉にわたしの体を洗い始めた。
「えええっ、ちょっと、ちょっと!」
自分の体ぐらい自分で洗えますってと主張したが、侍女達には聞き届けてもらえず、わたしは体の隅々まで彼女達に洗われてしまった。
……なんというかちょっと犯された気分。ほとんどが若い女の子達だけど。
シャワーで全身に付いた泡を落とされて、今度はわたしは薬草風呂というか、ハーブ風呂に連れて行かれた。
ハーブ風呂はラベンダーが主体らしく、リラックスできるようないい匂いがしていた。ついでに浴槽にバラの花びらも浮いていた。
わたしに似合わねえぇと思ったが、口に出すと無粋なのでやめておく。うん、賢明だ。
そんなこんなでお風呂から上がったら、侍女の一人に台の上へ横になってくださいと言われて、すでにやけくそになっていたわたしはその通りにする。
そこで、いい匂いのするオイルを擦り込みながらの全身マッサージを受けた。
あー、肩と首のこりがちょっと酷いんだよね、と言ったらそこを重点的にマッサージしてくれた。うへへ、極楽極楽。
さっきまでの羞恥もどこへやらで、わたしはご満悦になる。
そうしている間にも、他の侍女達がムダ毛の処理とか、手足の爪磨きとかしてくれた。
一度も行ったことないけど、エステってこんななのかなあ。
まあ、たまにはこんな体験もいいよね。なんといってもタダだし。
……ここが異世界ってんじゃないなら、もっといいんだけどね。
「それにしても、大きいのに形のよい素敵なお胸ですのね」
侍女の一人が感心したように言う。
うん、その点だけはみんなに褒められるよ。ありがとう。
「それに色白で、肌のきめも細やかで素晴らしいですわ」
まあ、日本人としては確かに白い方だけど、ここには白人の侍女もいるし、これはお世辞だろうなあ。
それに、肌のきめ云々はわたしにはよく分からない。みんなこんなものじゃないの?
全身マッサージも終わって、ちょっと休憩と言うことで、出されたジュースを飲んでいたら、侍女達はキラキラした素材の衣装をいくつか出してきて、わたしは思わず噴き出しそうになってしまった。
まさかと思うけど、それをわたしが着るのか?
もうちょっと地味な素材はないの? せめて着る人に衣装は合わせて欲しい。
キラキラはやめて、キラキラは、と主張したけど、どうやらこれしかないらしい。ちえっ。
しかも、そのどれも胸元露わで、体の線を強調した衣装だった。
……つーか、これを着るのか? 普段ダラケきった生活をしているこのわたしが?
逃げ出したかったが、なんといってもわたしは裸。なのでそうするわけにもいかず、おとなしくわたしは侍女達にキラキラした衣装を着せられた。
お腹周りとか心配だったけど、それはなんとか帯を巻いてしのいだ。
衣装のスカート部分はくるぶしまでだけど、これが脚にまとわりついて非常に歩きにくい。
で、足には足首でとめる形の革サンダル。
ここの気候は少々暑いみたいでこれが基本だそうだ。
そして丹念に化粧をされて、わたしの支度は終了。
「まあっ、ハルカ様、とってもお美しいですわー」
「ありがとう」
侍女達が褒めてくれたけど、目の前の鏡で自分の姿を確認したわたしは、特に舞い上がりもせずに冷静だった。
確かに三割増しくらいで綺麗にはなっている。
さっきのよれよれのジャージ姿からしたら別人だろう。
だがしかし、元が平凡なわたしだ。
うん、やっぱり普通は普通だよねー。
わたしはそのことにむしろ安心しながらも、侍女達に先導されてまたカレヴィ王の前に連れて行かれた。
「……俺は、なにもそんなことは一言も言ってないぞ」
わたしが王様に必死になって頼むと、彼は唖然とした顔になった。
……あれ、違うの?
いや、だってさ。
わたしはこの婚礼の契約で生まれるはずだった国と国の利益をぶち壊したんだから、展開的にはその場で殺されてもおかしくない立場だ。
だったら、全くその可能性がないとは言えないじゃない。
「でもわたし、大事な誓約書を駄目にしてしまったし」
「だから、おまえが代わりに俺の花嫁になれと言っているだろうが」
わたしの言葉に対して、カレヴィ王は面倒くさそうに答えた。
いや、でもそれはいくらなんでも投げやりすぎない?
こんな地味で、政略的価値もないわたしを花嫁になんて、きっと国民も納得しないよ。
「国王の花嫁なんてわたしには無理ですって!」
それにわたしには王妃にふさわしい気品もなにもない。むしろがさつという言葉がふさわしい。
わたしは必死で訴えたけど、カレヴィ王の反応は冷たかった。
「無理でもやれ。自分のしたことの責任は取れ」
「えええええ~……」
わたしは情けない顔でカレヴィ王を見る。
一般庶民のわたしには、王様の伴侶なんて重すぎる。
それにわたしは美人でもなんでもないし。
わたしが困り果てて、近くにいたおじさんとカレヴィ王の顔を見回してたら、王様におもむろに言われた。
「とりあえず、タダノハルカ」
「あ、名前ははるかです。名字が只野で」
わたしが説明すると、カレヴィ王は納得したように頷いた。
「そうか分かった、ハルカ」
そして、カレヴィ王がわたしのよれよれのジャージ姿を見下ろして一言。
「その格好を今すぐどうにかしろ」
王様にどうにかしろと言われて、わたしはとりあえずこちらの衣装に着替えることになった。
それに当たって、わたしはお風呂に入れてもらうことになってしまった。
そしたら侍女の一人に大事に持っていた原稿一式を奪われて、わたしはちょっと気が動転してしまった。
「そっ、それ、すごく大事なものだから、絶対捨てないで! ぜったい、絶対だよ!!」
「か、かしこまりました」
侍女達はどん引きしていたけれど、間違えて捨てられでもしたら困る。
とりあえず、原稿の安全だけは確保したわけだけど、次にはわたしが侍女達に身ぐるみ剥がされるというピンチが待ち受けていた。
「おとなしくお湯に浸かられてくださいませ」
年甲斐もなく少々暴れてしまったものだから、年かさの侍女から呆れたように言われてしまった。
……まあ、着るものがなければ、素直にそうするしかないし、わたしは半ば自棄になって一個目の湯船に浸かった。
湯殿を見渡すと、泡風呂とか薬草風呂とかあるみたい。
ちょっとした温泉施設だね。
侍女達は湯船に浸かっておとなしくなったわたしに安堵の溜息をついていた。
……おかしいなあ。そんなに暴れたつもりはないんだけど。
そして、泡風呂へ移動すると彼女達は一斉にわたしの体を洗い始めた。
「えええっ、ちょっと、ちょっと!」
自分の体ぐらい自分で洗えますってと主張したが、侍女達には聞き届けてもらえず、わたしは体の隅々まで彼女達に洗われてしまった。
……なんというかちょっと犯された気分。ほとんどが若い女の子達だけど。
シャワーで全身に付いた泡を落とされて、今度はわたしは薬草風呂というか、ハーブ風呂に連れて行かれた。
ハーブ風呂はラベンダーが主体らしく、リラックスできるようないい匂いがしていた。ついでに浴槽にバラの花びらも浮いていた。
わたしに似合わねえぇと思ったが、口に出すと無粋なのでやめておく。うん、賢明だ。
そんなこんなでお風呂から上がったら、侍女の一人に台の上へ横になってくださいと言われて、すでにやけくそになっていたわたしはその通りにする。
そこで、いい匂いのするオイルを擦り込みながらの全身マッサージを受けた。
あー、肩と首のこりがちょっと酷いんだよね、と言ったらそこを重点的にマッサージしてくれた。うへへ、極楽極楽。
さっきまでの羞恥もどこへやらで、わたしはご満悦になる。
そうしている間にも、他の侍女達がムダ毛の処理とか、手足の爪磨きとかしてくれた。
一度も行ったことないけど、エステってこんななのかなあ。
まあ、たまにはこんな体験もいいよね。なんといってもタダだし。
……ここが異世界ってんじゃないなら、もっといいんだけどね。
「それにしても、大きいのに形のよい素敵なお胸ですのね」
侍女の一人が感心したように言う。
うん、その点だけはみんなに褒められるよ。ありがとう。
「それに色白で、肌のきめも細やかで素晴らしいですわ」
まあ、日本人としては確かに白い方だけど、ここには白人の侍女もいるし、これはお世辞だろうなあ。
それに、肌のきめ云々はわたしにはよく分からない。みんなこんなものじゃないの?
全身マッサージも終わって、ちょっと休憩と言うことで、出されたジュースを飲んでいたら、侍女達はキラキラした素材の衣装をいくつか出してきて、わたしは思わず噴き出しそうになってしまった。
まさかと思うけど、それをわたしが着るのか?
もうちょっと地味な素材はないの? せめて着る人に衣装は合わせて欲しい。
キラキラはやめて、キラキラは、と主張したけど、どうやらこれしかないらしい。ちえっ。
しかも、そのどれも胸元露わで、体の線を強調した衣装だった。
……つーか、これを着るのか? 普段ダラケきった生活をしているこのわたしが?
逃げ出したかったが、なんといってもわたしは裸。なのでそうするわけにもいかず、おとなしくわたしは侍女達にキラキラした衣装を着せられた。
お腹周りとか心配だったけど、それはなんとか帯を巻いてしのいだ。
衣装のスカート部分はくるぶしまでだけど、これが脚にまとわりついて非常に歩きにくい。
で、足には足首でとめる形の革サンダル。
ここの気候は少々暑いみたいでこれが基本だそうだ。
そして丹念に化粧をされて、わたしの支度は終了。
「まあっ、ハルカ様、とってもお美しいですわー」
「ありがとう」
侍女達が褒めてくれたけど、目の前の鏡で自分の姿を確認したわたしは、特に舞い上がりもせずに冷静だった。
確かに三割増しくらいで綺麗にはなっている。
さっきのよれよれのジャージ姿からしたら別人だろう。
だがしかし、元が平凡なわたしだ。
うん、やっぱり普通は普通だよねー。
わたしはそのことにむしろ安心しながらも、侍女達に先導されてまたカレヴィ王の前に連れて行かれた。
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