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第四章:魔術師の師匠と弟子
第50話 召喚魔法
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千花が昼食を取ってしばらくすると、カイルが迎えに来た。
千花はそれを聞いて真っ赤になった。
──どうしよう。カイルと顔を合わせるの恥ずかしいよ。
一瞬今日はカイルに魔法を教わるのをやめようかと頭の隅にかすめたが、それでもカイルに会いたい気持ちが勝って、千花は彼を迎え入れた。
「ティカ、迎えに来たぞ」
「う、うん。ありがとう」
千花は真っ赤になりながら頷いた。
カイルはそんな千花を愛おしそうに見ながらその髪を手で梳いた。
「それでは魔術師団の訓練所まで行くぞ」
「うん、分かった」
千花は頷くと、移動魔法を行使した。そしてカイルも同時に移動魔法を使った。
千花はカイルと一緒に訓練所まで出てきた。
そこには既にエドアルドやレイナルド、アラステアにダグラス、ルパートが勢ぞろいしていて、千花は思わずひきつった。
「ああ、ティカ。今朝はすまなかったね」
エドアルドがそう言うと、レイナルドも言ってきた。
「君が気を悪くしたなら謝るよ。ごめん」
「いや、別に怒ってはいないから……」
二人に下手に出られて、千花は戸惑った。
「ティカ、カイル・イノーセンと恋仲になったというのは本当なのか?」
アラステアが真剣な顔をして聞いてくる。
「そ、それは、……もしかしたらわたしはカイルのことが好きなのかも……」
千花は真っ赤になると、頬を両手で覆って俯いた。
「ティカ様……」
ダグラスがショックを受けた顔で千花を見る。
「ティカ……」
三人の王子も衝撃を隠せないようで千花を呆然と見てきた。
「ティカ、そうなのか? そうだとしたら俺にとっては喜ばしい限りだが」
カイルが微笑むと、千花は耳まで真っ赤になった。
「う、うん。そうかも……」
「しかし、カイルは君を家に帰れなくした張本人だろう。……君はそんな人物を好きになるのかい?」
エドアルドが厳しく言うと、レイナルドも頷いた。
「そうだよ。君はカイルのことを憎んでいたはずだよ。それなのに、そんなに簡単に好きになるなんておかしいよ」
「そんなにティカ様を責められないでください。なにが起こるか分からないのが恋愛ですよ」
ルパートが取りなしてくれたので、千花はほっと息をついた。
「ルパートさん、ありがとう」
「いいえ。わたしは当然の事を言ったまでです」
すると、レイナルドが不満そうに言った。
「ルパートはこんなところで点数を稼がないでほしいな」
千花をかばったルパートが非難されて、千花は慌てた。
「ルパートさんはそんなこと考えてないと思うよ。ただ空気が悪くなるのを防いだだけだと思う」
「ティカに文句を言いに来たのならもう帰ってくれ。魔術の練習の邪魔だ」
カイルがそう言うと、エドアルド達を移動魔法で排除した。
するとそこにはアレクセイしかいなくなった。
嫉妬を露わにする男達がいなくなったところで、千花はほっとした。
「それでは、自分以外を移動魔法で移す呪文を教える」
カイルはアレクセイがいるからか、それから恋云々については言ってこず、魔術を教えるのに集中しだしたようだ。
それで、千花も気を引き締めてカイルの授業を受ける。
カイルはコルクで封をした手頃な大きさの空の瓶を出してきた。
「……それってひょっとして召喚魔法?」
「そうだ。そのうちにこれも教える。とりあえずはこれをこの訓練所のどこかに移動させてみろ。この瓶に向かって移動魔法を唱えればいい」
千花はうんと頷くと、瓶に向かって移動魔法を唱える。すると、少し離れた場所に瓶が移動した。
「出来たよ」
「ああ。じゃあ、これも一緒に移動させてくれ」
カイルは再び二つの瓶を召喚させてきた。
「うん」
千花が再び移動魔法の呪文を唱えた。今度も成功した。
「……それでは瓶と同時におまえも移動してみろ」
千花は集中して呪文を唱える。すると千花と瓶は一緒になって移動した。そして、千花は瓶と一緒にカイルの元へと帰ってくる。
「さすがですね」
アレクセイが感嘆すると、千花が照れたように笑った。
「そうだな。今度は召喚魔法を覚えてもらうか」
それを聞いて、千花が嬉しそうに頷いた。
「うん、お願い」
そこでいったんカイルは瓶をどこかに移動させると言った。
「瓶は俺の部屋に戻した。これから座標を開く。俺が見本を見せるから、その後に繰り返して詠唱しろ」
「うん、分かった」
カイルが詠唱を始めた途端、カイルの部屋が空間に映し出される。
そして先程の瓶が映ると、その周りに魔法陣が描かれてカイルの手に移ってきた。
「ほらティカ、やってみろ」
「うん」
千花は真剣な顔で頷くと先程カイルが唱えた呪文を途切れ途切れだが口にした。
すると、カイルの部屋がまた映し出され、置かれていた瓶の底に魔法陣が描かれた。
そして、千花の手に瓶が移ってくる。
「出来たよ!」
千花が嬉しそうに言うと、カイルもまた嬉しそうに微笑んだ。
「よし、よく出来た。それを何回か繰り返すんだ。もちろん移動魔法で瓶を戻しつつな」
「うん、やってみる」
カイルに褒められて千花はにこにこしたが、次の瞬間には真剣な顔をして召喚魔法に挑戦した。
そしてそれがうまくいくと、召喚魔法で持ち出した瓶を移動魔法で元の場所に戻した。
「今度は自分の好きな場所からなにかを召喚してみろ」
そう言われて、千花は桜並木から桜の花を風魔法で切り取って召喚させた。
これにはカイルとアレクセイは感心した。
「風魔法もきちんと自分のものにしているな。後は魔法書で理論を学べばいいだろう」
「うん。カイル、この後時間ある? ちょっと話したいことがあるんだ」
カイルは少し瞳を見開いてから、笑顔で頷いた。
「ああ、空いているぞ」
「じゃあ、わたしの部屋で話そう。アレクセイさん、見ていてくださってありがとうございました」
「いえ、これほど見ていて爽快な授業もなかったですよ。また見させてくださいね」
「はい」
笑顔のアレクセイに千花は会釈すると、覚え立ての複数対象の移動魔法を行使した。
そして、それは当然のようにきちんと成功した。
千花はそれを聞いて真っ赤になった。
──どうしよう。カイルと顔を合わせるの恥ずかしいよ。
一瞬今日はカイルに魔法を教わるのをやめようかと頭の隅にかすめたが、それでもカイルに会いたい気持ちが勝って、千花は彼を迎え入れた。
「ティカ、迎えに来たぞ」
「う、うん。ありがとう」
千花は真っ赤になりながら頷いた。
カイルはそんな千花を愛おしそうに見ながらその髪を手で梳いた。
「それでは魔術師団の訓練所まで行くぞ」
「うん、分かった」
千花は頷くと、移動魔法を行使した。そしてカイルも同時に移動魔法を使った。
千花はカイルと一緒に訓練所まで出てきた。
そこには既にエドアルドやレイナルド、アラステアにダグラス、ルパートが勢ぞろいしていて、千花は思わずひきつった。
「ああ、ティカ。今朝はすまなかったね」
エドアルドがそう言うと、レイナルドも言ってきた。
「君が気を悪くしたなら謝るよ。ごめん」
「いや、別に怒ってはいないから……」
二人に下手に出られて、千花は戸惑った。
「ティカ、カイル・イノーセンと恋仲になったというのは本当なのか?」
アラステアが真剣な顔をして聞いてくる。
「そ、それは、……もしかしたらわたしはカイルのことが好きなのかも……」
千花は真っ赤になると、頬を両手で覆って俯いた。
「ティカ様……」
ダグラスがショックを受けた顔で千花を見る。
「ティカ……」
三人の王子も衝撃を隠せないようで千花を呆然と見てきた。
「ティカ、そうなのか? そうだとしたら俺にとっては喜ばしい限りだが」
カイルが微笑むと、千花は耳まで真っ赤になった。
「う、うん。そうかも……」
「しかし、カイルは君を家に帰れなくした張本人だろう。……君はそんな人物を好きになるのかい?」
エドアルドが厳しく言うと、レイナルドも頷いた。
「そうだよ。君はカイルのことを憎んでいたはずだよ。それなのに、そんなに簡単に好きになるなんておかしいよ」
「そんなにティカ様を責められないでください。なにが起こるか分からないのが恋愛ですよ」
ルパートが取りなしてくれたので、千花はほっと息をついた。
「ルパートさん、ありがとう」
「いいえ。わたしは当然の事を言ったまでです」
すると、レイナルドが不満そうに言った。
「ルパートはこんなところで点数を稼がないでほしいな」
千花をかばったルパートが非難されて、千花は慌てた。
「ルパートさんはそんなこと考えてないと思うよ。ただ空気が悪くなるのを防いだだけだと思う」
「ティカに文句を言いに来たのならもう帰ってくれ。魔術の練習の邪魔だ」
カイルがそう言うと、エドアルド達を移動魔法で排除した。
するとそこにはアレクセイしかいなくなった。
嫉妬を露わにする男達がいなくなったところで、千花はほっとした。
「それでは、自分以外を移動魔法で移す呪文を教える」
カイルはアレクセイがいるからか、それから恋云々については言ってこず、魔術を教えるのに集中しだしたようだ。
それで、千花も気を引き締めてカイルの授業を受ける。
カイルはコルクで封をした手頃な大きさの空の瓶を出してきた。
「……それってひょっとして召喚魔法?」
「そうだ。そのうちにこれも教える。とりあえずはこれをこの訓練所のどこかに移動させてみろ。この瓶に向かって移動魔法を唱えればいい」
千花はうんと頷くと、瓶に向かって移動魔法を唱える。すると、少し離れた場所に瓶が移動した。
「出来たよ」
「ああ。じゃあ、これも一緒に移動させてくれ」
カイルは再び二つの瓶を召喚させてきた。
「うん」
千花が再び移動魔法の呪文を唱えた。今度も成功した。
「……それでは瓶と同時におまえも移動してみろ」
千花は集中して呪文を唱える。すると千花と瓶は一緒になって移動した。そして、千花は瓶と一緒にカイルの元へと帰ってくる。
「さすがですね」
アレクセイが感嘆すると、千花が照れたように笑った。
「そうだな。今度は召喚魔法を覚えてもらうか」
それを聞いて、千花が嬉しそうに頷いた。
「うん、お願い」
そこでいったんカイルは瓶をどこかに移動させると言った。
「瓶は俺の部屋に戻した。これから座標を開く。俺が見本を見せるから、その後に繰り返して詠唱しろ」
「うん、分かった」
カイルが詠唱を始めた途端、カイルの部屋が空間に映し出される。
そして先程の瓶が映ると、その周りに魔法陣が描かれてカイルの手に移ってきた。
「ほらティカ、やってみろ」
「うん」
千花は真剣な顔で頷くと先程カイルが唱えた呪文を途切れ途切れだが口にした。
すると、カイルの部屋がまた映し出され、置かれていた瓶の底に魔法陣が描かれた。
そして、千花の手に瓶が移ってくる。
「出来たよ!」
千花が嬉しそうに言うと、カイルもまた嬉しそうに微笑んだ。
「よし、よく出来た。それを何回か繰り返すんだ。もちろん移動魔法で瓶を戻しつつな」
「うん、やってみる」
カイルに褒められて千花はにこにこしたが、次の瞬間には真剣な顔をして召喚魔法に挑戦した。
そしてそれがうまくいくと、召喚魔法で持ち出した瓶を移動魔法で元の場所に戻した。
「今度は自分の好きな場所からなにかを召喚してみろ」
そう言われて、千花は桜並木から桜の花を風魔法で切り取って召喚させた。
これにはカイルとアレクセイは感心した。
「風魔法もきちんと自分のものにしているな。後は魔法書で理論を学べばいいだろう」
「うん。カイル、この後時間ある? ちょっと話したいことがあるんだ」
カイルは少し瞳を見開いてから、笑顔で頷いた。
「ああ、空いているぞ」
「じゃあ、わたしの部屋で話そう。アレクセイさん、見ていてくださってありがとうございました」
「いえ、これほど見ていて爽快な授業もなかったですよ。また見させてくださいね」
「はい」
笑顔のアレクセイに千花は会釈すると、覚え立ての複数対象の移動魔法を行使した。
そして、それは当然のようにきちんと成功した。
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