51 / 54
第四章:魔術師の師匠と弟子
第50話 召喚魔法
しおりを挟む
千花が昼食を取ってしばらくすると、カイルが迎えに来た。
千花はそれを聞いて真っ赤になった。
──どうしよう。カイルと顔を合わせるの恥ずかしいよ。
一瞬今日はカイルに魔法を教わるのをやめようかと頭の隅にかすめたが、それでもカイルに会いたい気持ちが勝って、千花は彼を迎え入れた。
「ティカ、迎えに来たぞ」
「う、うん。ありがとう」
千花は真っ赤になりながら頷いた。
カイルはそんな千花を愛おしそうに見ながらその髪を手で梳いた。
「それでは魔術師団の訓練所まで行くぞ」
「うん、分かった」
千花は頷くと、移動魔法を行使した。そしてカイルも同時に移動魔法を使った。
千花はカイルと一緒に訓練所まで出てきた。
そこには既にエドアルドやレイナルド、アラステアにダグラス、ルパートが勢ぞろいしていて、千花は思わずひきつった。
「ああ、ティカ。今朝はすまなかったね」
エドアルドがそう言うと、レイナルドも言ってきた。
「君が気を悪くしたなら謝るよ。ごめん」
「いや、別に怒ってはいないから……」
二人に下手に出られて、千花は戸惑った。
「ティカ、カイル・イノーセンと恋仲になったというのは本当なのか?」
アラステアが真剣な顔をして聞いてくる。
「そ、それは、……もしかしたらわたしはカイルのことが好きなのかも……」
千花は真っ赤になると、頬を両手で覆って俯いた。
「ティカ様……」
ダグラスがショックを受けた顔で千花を見る。
「ティカ……」
三人の王子も衝撃を隠せないようで千花を呆然と見てきた。
「ティカ、そうなのか? そうだとしたら俺にとっては喜ばしい限りだが」
カイルが微笑むと、千花は耳まで真っ赤になった。
「う、うん。そうかも……」
「しかし、カイルは君を家に帰れなくした張本人だろう。……君はそんな人物を好きになるのかい?」
エドアルドが厳しく言うと、レイナルドも頷いた。
「そうだよ。君はカイルのことを憎んでいたはずだよ。それなのに、そんなに簡単に好きになるなんておかしいよ」
「そんなにティカ様を責められないでください。なにが起こるか分からないのが恋愛ですよ」
ルパートが取りなしてくれたので、千花はほっと息をついた。
「ルパートさん、ありがとう」
「いいえ。わたしは当然の事を言ったまでです」
すると、レイナルドが不満そうに言った。
「ルパートはこんなところで点数を稼がないでほしいな」
千花をかばったルパートが非難されて、千花は慌てた。
「ルパートさんはそんなこと考えてないと思うよ。ただ空気が悪くなるのを防いだだけだと思う」
「ティカに文句を言いに来たのならもう帰ってくれ。魔術の練習の邪魔だ」
カイルがそう言うと、エドアルド達を移動魔法で排除した。
するとそこにはアレクセイしかいなくなった。
嫉妬を露わにする男達がいなくなったところで、千花はほっとした。
「それでは、自分以外を移動魔法で移す呪文を教える」
カイルはアレクセイがいるからか、それから恋云々については言ってこず、魔術を教えるのに集中しだしたようだ。
それで、千花も気を引き締めてカイルの授業を受ける。
カイルはコルクで封をした手頃な大きさの空の瓶を出してきた。
「……それってひょっとして召喚魔法?」
「そうだ。そのうちにこれも教える。とりあえずはこれをこの訓練所のどこかに移動させてみろ。この瓶に向かって移動魔法を唱えればいい」
千花はうんと頷くと、瓶に向かって移動魔法を唱える。すると、少し離れた場所に瓶が移動した。
「出来たよ」
「ああ。じゃあ、これも一緒に移動させてくれ」
カイルは再び二つの瓶を召喚させてきた。
「うん」
千花が再び移動魔法の呪文を唱えた。今度も成功した。
「……それでは瓶と同時におまえも移動してみろ」
千花は集中して呪文を唱える。すると千花と瓶は一緒になって移動した。そして、千花は瓶と一緒にカイルの元へと帰ってくる。
「さすがですね」
アレクセイが感嘆すると、千花が照れたように笑った。
「そうだな。今度は召喚魔法を覚えてもらうか」
それを聞いて、千花が嬉しそうに頷いた。
「うん、お願い」
そこでいったんカイルは瓶をどこかに移動させると言った。
「瓶は俺の部屋に戻した。これから座標を開く。俺が見本を見せるから、その後に繰り返して詠唱しろ」
「うん、分かった」
カイルが詠唱を始めた途端、カイルの部屋が空間に映し出される。
そして先程の瓶が映ると、その周りに魔法陣が描かれてカイルの手に移ってきた。
「ほらティカ、やってみろ」
「うん」
千花は真剣な顔で頷くと先程カイルが唱えた呪文を途切れ途切れだが口にした。
すると、カイルの部屋がまた映し出され、置かれていた瓶の底に魔法陣が描かれた。
そして、千花の手に瓶が移ってくる。
「出来たよ!」
千花が嬉しそうに言うと、カイルもまた嬉しそうに微笑んだ。
「よし、よく出来た。それを何回か繰り返すんだ。もちろん移動魔法で瓶を戻しつつな」
「うん、やってみる」
カイルに褒められて千花はにこにこしたが、次の瞬間には真剣な顔をして召喚魔法に挑戦した。
そしてそれがうまくいくと、召喚魔法で持ち出した瓶を移動魔法で元の場所に戻した。
「今度は自分の好きな場所からなにかを召喚してみろ」
そう言われて、千花は桜並木から桜の花を風魔法で切り取って召喚させた。
これにはカイルとアレクセイは感心した。
「風魔法もきちんと自分のものにしているな。後は魔法書で理論を学べばいいだろう」
「うん。カイル、この後時間ある? ちょっと話したいことがあるんだ」
カイルは少し瞳を見開いてから、笑顔で頷いた。
「ああ、空いているぞ」
「じゃあ、わたしの部屋で話そう。アレクセイさん、見ていてくださってありがとうございました」
「いえ、これほど見ていて爽快な授業もなかったですよ。また見させてくださいね」
「はい」
笑顔のアレクセイに千花は会釈すると、覚え立ての複数対象の移動魔法を行使した。
そして、それは当然のようにきちんと成功した。
千花はそれを聞いて真っ赤になった。
──どうしよう。カイルと顔を合わせるの恥ずかしいよ。
一瞬今日はカイルに魔法を教わるのをやめようかと頭の隅にかすめたが、それでもカイルに会いたい気持ちが勝って、千花は彼を迎え入れた。
「ティカ、迎えに来たぞ」
「う、うん。ありがとう」
千花は真っ赤になりながら頷いた。
カイルはそんな千花を愛おしそうに見ながらその髪を手で梳いた。
「それでは魔術師団の訓練所まで行くぞ」
「うん、分かった」
千花は頷くと、移動魔法を行使した。そしてカイルも同時に移動魔法を使った。
千花はカイルと一緒に訓練所まで出てきた。
そこには既にエドアルドやレイナルド、アラステアにダグラス、ルパートが勢ぞろいしていて、千花は思わずひきつった。
「ああ、ティカ。今朝はすまなかったね」
エドアルドがそう言うと、レイナルドも言ってきた。
「君が気を悪くしたなら謝るよ。ごめん」
「いや、別に怒ってはいないから……」
二人に下手に出られて、千花は戸惑った。
「ティカ、カイル・イノーセンと恋仲になったというのは本当なのか?」
アラステアが真剣な顔をして聞いてくる。
「そ、それは、……もしかしたらわたしはカイルのことが好きなのかも……」
千花は真っ赤になると、頬を両手で覆って俯いた。
「ティカ様……」
ダグラスがショックを受けた顔で千花を見る。
「ティカ……」
三人の王子も衝撃を隠せないようで千花を呆然と見てきた。
「ティカ、そうなのか? そうだとしたら俺にとっては喜ばしい限りだが」
カイルが微笑むと、千花は耳まで真っ赤になった。
「う、うん。そうかも……」
「しかし、カイルは君を家に帰れなくした張本人だろう。……君はそんな人物を好きになるのかい?」
エドアルドが厳しく言うと、レイナルドも頷いた。
「そうだよ。君はカイルのことを憎んでいたはずだよ。それなのに、そんなに簡単に好きになるなんておかしいよ」
「そんなにティカ様を責められないでください。なにが起こるか分からないのが恋愛ですよ」
ルパートが取りなしてくれたので、千花はほっと息をついた。
「ルパートさん、ありがとう」
「いいえ。わたしは当然の事を言ったまでです」
すると、レイナルドが不満そうに言った。
「ルパートはこんなところで点数を稼がないでほしいな」
千花をかばったルパートが非難されて、千花は慌てた。
「ルパートさんはそんなこと考えてないと思うよ。ただ空気が悪くなるのを防いだだけだと思う」
「ティカに文句を言いに来たのならもう帰ってくれ。魔術の練習の邪魔だ」
カイルがそう言うと、エドアルド達を移動魔法で排除した。
するとそこにはアレクセイしかいなくなった。
嫉妬を露わにする男達がいなくなったところで、千花はほっとした。
「それでは、自分以外を移動魔法で移す呪文を教える」
カイルはアレクセイがいるからか、それから恋云々については言ってこず、魔術を教えるのに集中しだしたようだ。
それで、千花も気を引き締めてカイルの授業を受ける。
カイルはコルクで封をした手頃な大きさの空の瓶を出してきた。
「……それってひょっとして召喚魔法?」
「そうだ。そのうちにこれも教える。とりあえずはこれをこの訓練所のどこかに移動させてみろ。この瓶に向かって移動魔法を唱えればいい」
千花はうんと頷くと、瓶に向かって移動魔法を唱える。すると、少し離れた場所に瓶が移動した。
「出来たよ」
「ああ。じゃあ、これも一緒に移動させてくれ」
カイルは再び二つの瓶を召喚させてきた。
「うん」
千花が再び移動魔法の呪文を唱えた。今度も成功した。
「……それでは瓶と同時におまえも移動してみろ」
千花は集中して呪文を唱える。すると千花と瓶は一緒になって移動した。そして、千花は瓶と一緒にカイルの元へと帰ってくる。
「さすがですね」
アレクセイが感嘆すると、千花が照れたように笑った。
「そうだな。今度は召喚魔法を覚えてもらうか」
それを聞いて、千花が嬉しそうに頷いた。
「うん、お願い」
そこでいったんカイルは瓶をどこかに移動させると言った。
「瓶は俺の部屋に戻した。これから座標を開く。俺が見本を見せるから、その後に繰り返して詠唱しろ」
「うん、分かった」
カイルが詠唱を始めた途端、カイルの部屋が空間に映し出される。
そして先程の瓶が映ると、その周りに魔法陣が描かれてカイルの手に移ってきた。
「ほらティカ、やってみろ」
「うん」
千花は真剣な顔で頷くと先程カイルが唱えた呪文を途切れ途切れだが口にした。
すると、カイルの部屋がまた映し出され、置かれていた瓶の底に魔法陣が描かれた。
そして、千花の手に瓶が移ってくる。
「出来たよ!」
千花が嬉しそうに言うと、カイルもまた嬉しそうに微笑んだ。
「よし、よく出来た。それを何回か繰り返すんだ。もちろん移動魔法で瓶を戻しつつな」
「うん、やってみる」
カイルに褒められて千花はにこにこしたが、次の瞬間には真剣な顔をして召喚魔法に挑戦した。
そしてそれがうまくいくと、召喚魔法で持ち出した瓶を移動魔法で元の場所に戻した。
「今度は自分の好きな場所からなにかを召喚してみろ」
そう言われて、千花は桜並木から桜の花を風魔法で切り取って召喚させた。
これにはカイルとアレクセイは感心した。
「風魔法もきちんと自分のものにしているな。後は魔法書で理論を学べばいいだろう」
「うん。カイル、この後時間ある? ちょっと話したいことがあるんだ」
カイルは少し瞳を見開いてから、笑顔で頷いた。
「ああ、空いているぞ」
「じゃあ、わたしの部屋で話そう。アレクセイさん、見ていてくださってありがとうございました」
「いえ、これほど見ていて爽快な授業もなかったですよ。また見させてくださいね」
「はい」
笑顔のアレクセイに千花は会釈すると、覚え立ての複数対象の移動魔法を行使した。
そして、それは当然のようにきちんと成功した。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
私、異世界で監禁されました!?
星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。
暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。
『ここ、どこ?』
声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。
今、全ての歯車が動き出す。
片翼シリーズ第一弾の作品です。
続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ!
溺愛は結構後半です。
なろうでも公開してます。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる