魔法の国のティカ

舘野寧依

文字の大きさ
上 下
49 / 54
第四章:魔術師の師匠と弟子

第48話 花園にて

しおりを挟む
 次の日、千花はエドアルドに朝食の誘いを受けた。
 一瞬千花はどうしようかと迷ったが、レイナルドも一緒だということで、これを無下に断るのもなんだか悪いと思ったので、結局はそれを受けた。

 ……しかしである。
 招かれていったものの、エドアルドもレイナルドもなんだかぴりぴりしている。
 それでもしっかり朝食は平らげて(最近は結構食べられるようになってきた)食後のコーヒーを飲んでいると、エドアルドが爆弾発言をしてきた。

「……なんでもティカはカイルと恋仲になったとか。本当なのかい」

 それで思わずコーヒーを噴き出しそうになったのを慌てて飲み込んで、千花は盛大にむせてしまった。

「だ、大丈夫かい、ティカ」

 レイナルドが慌てて席を立とうとするのを千花は手で制して、もう片方の手を自分の喉に当てる。
 そして無詠唱で治癒魔法を発動させると、千花の咳がようやく治まった。

「大丈夫だよ。……それにしてもいきなりなんなの」

 千花が抗議するとエドアルドが難しい顔をして言った。

「違うのかい? 報告では君とカイルが口づけを交わしたと聞いたが」
「──な」

 それを聞いて、千花は一気に赤くなった。

「なななんで、そのこと知ってるの」
「……やっぱり本当なんだね」

 相当ショックを受けた顔でレイナルドがつぶやく。エドアルドもさらに難しい顔つきになった。

「わたしがカイルと恋仲なんて嘘だよっ。だって、カイルはわたしを家に帰れなくした張本人なんだよ!」

 思わず席から立ち上がってしまいながら、千花は真っ赤な顔で言う。

「けど、口づけを許したんだ」
「あ、あれは、どうかしてたとしか……」

 責めるような口調のレイナルドに対して、千花はしどろもどろになる。

「ティカはカイルを憎んでいたはずだろ。君はその時の気分で、そんな相手を受け入れるのか」

 まるで浮気を責められるように言われ、千花は思わずむっとしてしまう。

「そんな言い方失礼だよ。わたしはカイルを受け入れた訳じゃないよ」
「……しかし、カイルと口づけを交わしたのは本当だろう。これは変えられない事実だ」

 眉間にしわを寄せながらエドアルドが言う。

「そのことが許せないというなら、嫌いになってくれても構わないよ。……わたしはいずれ家に帰るんだから」

 すると、二人は急に慌てだした。

「嫌いになったわけではないよ。ただこれは嫉妬なだけで」
「そうそう」
「……わたしは二人の気持ちに応えることは出来ないよ。それじゃあ、ごちそうさま。わたしはこれで失礼するから」

 千花がかたくなにそう言うと、二人は顔を歪めた。

「ティカ……」

 二人がなにか言いたそうなのを見ないふりをして、千花は略式の礼をして素早くエドアルドの部屋から出た。
 すると目の前に問題のカイルがいて、千花は思わず叫びそうになってしまった。
 途端にカイルとのキスが脳裏に浮かび、千花は真っ赤になって移動魔法で逃げようとする。

「ティカ、待て……!」

 しかし、それよりもカイルが千花の手を掴む方が早かった。
 そしてカイルは千花と一緒に魔法で移動したのである。



 千花とカイルが出たのは、花々が咲き乱れる庭園だった。
 千花は一瞬それに見惚れた後、すぐにのっぴきならない自分の状況に気がついた。

「は、離してよ」
「逃げないと約束するなら、離してやる」

 それで千花は諦めて叫んだ。……カイルが触れているところがとても熱く感じたからである。

「逃げない、逃げないよ! だから離して!」

 カイルは真っ赤な顔の千花をまじまじと見つめながら、その手を離した。
 すると千花はカイルが掴んでいた手首を押さえて涙目になっていた。

「……そんな顔をするな」

 そんなカイルの言葉に答えずに千花が懇願する。

「昨日はわたしどうかしてた。お願いだから、昨日のことは忘れて」
「……それは無理だ。おまえが逃げずに俺を受け入れたことを忘れるなんて到底出来ない」
「どうして忘れてくれないの? わたしは家族のためにもカイルを憎み続けなきゃいけないの。お願いだから、忘れてよ!」

 すると、千花の瞳から涙が零れ落ちた。

「ティカ、泣くな」

 思わずといったように、カイルが千花を抱きしめる。
 すると、逃げ出したいような感じと、とてつもない心地よさが襲い、千花は混乱する。
 離して、と言いたいがなぜか声が出ない。
 カイルの思ったよりも逞しい胸に抱かれて、千花は全身が心臓になった感じがした。

「ティカ……好きだ」

 カイルのその言葉に、千花の心臓が跳ね上がる。
 逃げることも可能なはずだが、もはや千花にはそれすらも考えつかなかった。
 それどころか、カイルの告白に大きな喜びが襲い、千花は困惑した。

 もしかして、カイルは自分に魅了魔法を施したのではないかと千花は思い、彼の腕から顔を上げる。
 すると、千花の唇にカイルのキスが降ってきた。

「カ、イル……」

 千花が思わずカイルの服を掴むと、さらにカイルにキスされる。


 ──駄目だよ。こんなことは駄目。
 カイルは家族からわたしを引き離した張本人なんだよ。


 そうは思うものの、体は動かず、千花はカイルのキスを受け入れるままだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。

aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。 生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。 優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。 男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。 自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。 【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。 たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...