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第四章:魔術師の師匠と弟子
第48話 花園にて
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次の日、千花はエドアルドに朝食の誘いを受けた。
一瞬千花はどうしようかと迷ったが、レイナルドも一緒だということで、これを無下に断るのもなんだか悪いと思ったので、結局はそれを受けた。
……しかしである。
招かれていったものの、エドアルドもレイナルドもなんだかぴりぴりしている。
それでもしっかり朝食は平らげて(最近は結構食べられるようになってきた)食後のコーヒーを飲んでいると、エドアルドが爆弾発言をしてきた。
「……なんでもティカはカイルと恋仲になったとか。本当なのかい」
それで思わずコーヒーを噴き出しそうになったのを慌てて飲み込んで、千花は盛大にむせてしまった。
「だ、大丈夫かい、ティカ」
レイナルドが慌てて席を立とうとするのを千花は手で制して、もう片方の手を自分の喉に当てる。
そして無詠唱で治癒魔法を発動させると、千花の咳がようやく治まった。
「大丈夫だよ。……それにしてもいきなりなんなの」
千花が抗議するとエドアルドが難しい顔をして言った。
「違うのかい? 報告では君とカイルが口づけを交わしたと聞いたが」
「──な」
それを聞いて、千花は一気に赤くなった。
「なななんで、そのこと知ってるの」
「……やっぱり本当なんだね」
相当ショックを受けた顔でレイナルドがつぶやく。エドアルドもさらに難しい顔つきになった。
「わたしがカイルと恋仲なんて嘘だよっ。だって、カイルはわたしを家に帰れなくした張本人なんだよ!」
思わず席から立ち上がってしまいながら、千花は真っ赤な顔で言う。
「けど、口づけを許したんだ」
「あ、あれは、どうかしてたとしか……」
責めるような口調のレイナルドに対して、千花はしどろもどろになる。
「ティカはカイルを憎んでいたはずだろ。君はその時の気分で、そんな相手を受け入れるのか」
まるで浮気を責められるように言われ、千花は思わずむっとしてしまう。
「そんな言い方失礼だよ。わたしはカイルを受け入れた訳じゃないよ」
「……しかし、カイルと口づけを交わしたのは本当だろう。これは変えられない事実だ」
眉間にしわを寄せながらエドアルドが言う。
「そのことが許せないというなら、嫌いになってくれても構わないよ。……わたしはいずれ家に帰るんだから」
すると、二人は急に慌てだした。
「嫌いになったわけではないよ。ただこれは嫉妬なだけで」
「そうそう」
「……わたしは二人の気持ちに応えることは出来ないよ。それじゃあ、ごちそうさま。わたしはこれで失礼するから」
千花がかたくなにそう言うと、二人は顔を歪めた。
「ティカ……」
二人がなにか言いたそうなのを見ないふりをして、千花は略式の礼をして素早くエドアルドの部屋から出た。
すると目の前に問題のカイルがいて、千花は思わず叫びそうになってしまった。
途端にカイルとのキスが脳裏に浮かび、千花は真っ赤になって移動魔法で逃げようとする。
「ティカ、待て……!」
しかし、それよりもカイルが千花の手を掴む方が早かった。
そしてカイルは千花と一緒に魔法で移動したのである。
千花とカイルが出たのは、花々が咲き乱れる庭園だった。
千花は一瞬それに見惚れた後、すぐにのっぴきならない自分の状況に気がついた。
「は、離してよ」
「逃げないと約束するなら、離してやる」
それで千花は諦めて叫んだ。……カイルが触れているところがとても熱く感じたからである。
「逃げない、逃げないよ! だから離して!」
カイルは真っ赤な顔の千花をまじまじと見つめながら、その手を離した。
すると千花はカイルが掴んでいた手首を押さえて涙目になっていた。
「……そんな顔をするな」
そんなカイルの言葉に答えずに千花が懇願する。
「昨日はわたしどうかしてた。お願いだから、昨日のことは忘れて」
「……それは無理だ。おまえが逃げずに俺を受け入れたことを忘れるなんて到底出来ない」
「どうして忘れてくれないの? わたしは家族のためにもカイルを憎み続けなきゃいけないの。お願いだから、忘れてよ!」
すると、千花の瞳から涙が零れ落ちた。
「ティカ、泣くな」
思わずといったように、カイルが千花を抱きしめる。
すると、逃げ出したいような感じと、とてつもない心地よさが襲い、千花は混乱する。
離して、と言いたいがなぜか声が出ない。
カイルの思ったよりも逞しい胸に抱かれて、千花は全身が心臓になった感じがした。
「ティカ……好きだ」
カイルのその言葉に、千花の心臓が跳ね上がる。
逃げることも可能なはずだが、もはや千花にはそれすらも考えつかなかった。
それどころか、カイルの告白に大きな喜びが襲い、千花は困惑した。
もしかして、カイルは自分に魅了魔法を施したのではないかと千花は思い、彼の腕から顔を上げる。
すると、千花の唇にカイルのキスが降ってきた。
「カ、イル……」
千花が思わずカイルの服を掴むと、さらにカイルにキスされる。
──駄目だよ。こんなことは駄目。
カイルは家族からわたしを引き離した張本人なんだよ。
そうは思うものの、体は動かず、千花はカイルのキスを受け入れるままだった。
一瞬千花はどうしようかと迷ったが、レイナルドも一緒だということで、これを無下に断るのもなんだか悪いと思ったので、結局はそれを受けた。
……しかしである。
招かれていったものの、エドアルドもレイナルドもなんだかぴりぴりしている。
それでもしっかり朝食は平らげて(最近は結構食べられるようになってきた)食後のコーヒーを飲んでいると、エドアルドが爆弾発言をしてきた。
「……なんでもティカはカイルと恋仲になったとか。本当なのかい」
それで思わずコーヒーを噴き出しそうになったのを慌てて飲み込んで、千花は盛大にむせてしまった。
「だ、大丈夫かい、ティカ」
レイナルドが慌てて席を立とうとするのを千花は手で制して、もう片方の手を自分の喉に当てる。
そして無詠唱で治癒魔法を発動させると、千花の咳がようやく治まった。
「大丈夫だよ。……それにしてもいきなりなんなの」
千花が抗議するとエドアルドが難しい顔をして言った。
「違うのかい? 報告では君とカイルが口づけを交わしたと聞いたが」
「──な」
それを聞いて、千花は一気に赤くなった。
「なななんで、そのこと知ってるの」
「……やっぱり本当なんだね」
相当ショックを受けた顔でレイナルドがつぶやく。エドアルドもさらに難しい顔つきになった。
「わたしがカイルと恋仲なんて嘘だよっ。だって、カイルはわたしを家に帰れなくした張本人なんだよ!」
思わず席から立ち上がってしまいながら、千花は真っ赤な顔で言う。
「けど、口づけを許したんだ」
「あ、あれは、どうかしてたとしか……」
責めるような口調のレイナルドに対して、千花はしどろもどろになる。
「ティカはカイルを憎んでいたはずだろ。君はその時の気分で、そんな相手を受け入れるのか」
まるで浮気を責められるように言われ、千花は思わずむっとしてしまう。
「そんな言い方失礼だよ。わたしはカイルを受け入れた訳じゃないよ」
「……しかし、カイルと口づけを交わしたのは本当だろう。これは変えられない事実だ」
眉間にしわを寄せながらエドアルドが言う。
「そのことが許せないというなら、嫌いになってくれても構わないよ。……わたしはいずれ家に帰るんだから」
すると、二人は急に慌てだした。
「嫌いになったわけではないよ。ただこれは嫉妬なだけで」
「そうそう」
「……わたしは二人の気持ちに応えることは出来ないよ。それじゃあ、ごちそうさま。わたしはこれで失礼するから」
千花がかたくなにそう言うと、二人は顔を歪めた。
「ティカ……」
二人がなにか言いたそうなのを見ないふりをして、千花は略式の礼をして素早くエドアルドの部屋から出た。
すると目の前に問題のカイルがいて、千花は思わず叫びそうになってしまった。
途端にカイルとのキスが脳裏に浮かび、千花は真っ赤になって移動魔法で逃げようとする。
「ティカ、待て……!」
しかし、それよりもカイルが千花の手を掴む方が早かった。
そしてカイルは千花と一緒に魔法で移動したのである。
千花とカイルが出たのは、花々が咲き乱れる庭園だった。
千花は一瞬それに見惚れた後、すぐにのっぴきならない自分の状況に気がついた。
「は、離してよ」
「逃げないと約束するなら、離してやる」
それで千花は諦めて叫んだ。……カイルが触れているところがとても熱く感じたからである。
「逃げない、逃げないよ! だから離して!」
カイルは真っ赤な顔の千花をまじまじと見つめながら、その手を離した。
すると千花はカイルが掴んでいた手首を押さえて涙目になっていた。
「……そんな顔をするな」
そんなカイルの言葉に答えずに千花が懇願する。
「昨日はわたしどうかしてた。お願いだから、昨日のことは忘れて」
「……それは無理だ。おまえが逃げずに俺を受け入れたことを忘れるなんて到底出来ない」
「どうして忘れてくれないの? わたしは家族のためにもカイルを憎み続けなきゃいけないの。お願いだから、忘れてよ!」
すると、千花の瞳から涙が零れ落ちた。
「ティカ、泣くな」
思わずといったように、カイルが千花を抱きしめる。
すると、逃げ出したいような感じと、とてつもない心地よさが襲い、千花は混乱する。
離して、と言いたいがなぜか声が出ない。
カイルの思ったよりも逞しい胸に抱かれて、千花は全身が心臓になった感じがした。
「ティカ……好きだ」
カイルのその言葉に、千花の心臓が跳ね上がる。
逃げることも可能なはずだが、もはや千花にはそれすらも考えつかなかった。
それどころか、カイルの告白に大きな喜びが襲い、千花は困惑した。
もしかして、カイルは自分に魅了魔法を施したのではないかと千花は思い、彼の腕から顔を上げる。
すると、千花の唇にカイルのキスが降ってきた。
「カ、イル……」
千花が思わずカイルの服を掴むと、さらにカイルにキスされる。
──駄目だよ。こんなことは駄目。
カイルは家族からわたしを引き離した張本人なんだよ。
そうは思うものの、体は動かず、千花はカイルのキスを受け入れるままだった。
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