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第三章:魔術師見習いの少女と周囲の人々
第36話 魔法道具屋にて
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それから千花は重い気分を吹き飛ばすかのように、ルディア観光に出かけた。
まずは、先週見ると約束したアルフレッドの魔法道具を見に行くのだ。
「いらっしゃいませ。ようこそ、お越しくださいました」
アルフレッドはエドアルドを見てすぐさま王子だと分かってしまったようだった。
やっぱり見る人が見れば分かるものなんだなと千花が思っていたら、なんのことはない。アルフレッドは過去に城で魔術師として勤めていたらしい。
千花達は華やかなアクセサリーショップの脇にある、魔法道具の置いてある方の店に入った。
その中に調理器具が置いてあるのを見つけて、千花はどんなふうにあっちの世界と違うんだろうと思って近寄った。
アルフレッドの説明によると、これは火を使うまではいかないから危険は少ないそうで、魔法の力で温めているらしい。
ガスレンジぽいのやら、オーブンは分かるけど、電子レンジみたいなものもあって、千花はちょっと驚く。
ここの文化も、魔法を使うことによって随分進化を遂げているらしい。
あとは半永久的に使える照明道具などもあって、売り上げ的にそれで大丈夫なのかと、余計なことまで千花は聞いてしまった。
大抵はそれより新しい機能の商品が出ることと、デザインに飽きることで買い換える人はそれなりにいるらしい。
あと、ラヴィニア達が使っていた映像を金属板に保存する機械もしっかりあった。
あっちでいうとなんなんだろうと千花は考える。
ビデオ? カメラ? 機能的には両方の機能を備えた、ポラロイド的ビデオというのが一番しっくりくる。
あとはなぜか、眼鏡がいくつもおいてあった。
これは普通の眼鏡ではなくて、遠くまで見渡せる双眼鏡みたいなものなのだそうだ。
もっと進んだものだと、音声まで拾えるものまであるらしいとか。
もっともこれは使用目的が限られていて、主に諜報用に使われているらしい。
アルフレッドの店でも、それをお城に卸しているとのことだった。
それを聞いて、平和そうに見えて、なんだかここも殺伐としているなあと千花は思う。
諜報というからには、他国とかに忍び込んで情報を集めているということだろう。
それから、なんの用途かか分からない薬類なども置いてあって、それを専門に処方している人もいるらしい。
あっちの世界でいう漢方みたいなものかと思ったが、これはれっきとした魔法薬らしい。効き目の方はカイルのお墨付きだ。
別に薬草をすり下ろしたり、乾燥したものを煎じて飲むのは薬湯として扱うらしい。
なるほど、と感心しながら、千花は店のあちこちを見て回った。
しかし、やはりあちらの電化製品に近いものに惹かれてしまい、千花はしばらくその辺りをうろうろしていた。
一番気になったものといったら、ラヴィニア達が使っていた映像を保存する装置だが、買うには圧倒的に小遣いが足りない値段だ。
携帯を持っていれば動画ぐらいいつでも録画できるが、あいにく千花は持たずに出かけて召喚されてしまったので、それは無理だ。
それにこれは、薄い金属片に立体的にその人物を映すことが出来るので、この技術は素直にすごいと思う。
そんなことを思って千花が装置をじっと見ていたら、三人に声をかけられた。
「欲しいのか?」
「君が欲しいのなら僕が買うけど」
「いや、ここはわたしが払うよ」
三人に一斉にそう言われて、千花は戸惑う。
確かにあの装置は欲しい。
けど、三人のうちの誰かにそれを買って貰うのはためらわれた。
下手すればいがみ合いの原因にもなりかねない。
「ううん、興味があるのは確かだけど、わたしには高すぎる買いものだし遠慮しておく」
千花が首を振ると、三人が面白くなさそうな顔をした。
「こういう時にねだってくれれば、男は嬉しいものなのに」
「……そうなの?」
レイナルドに少し不満そうに言われて、千花は首を傾げる。
でもどんなふうにねだるものかすら想像も付かない。
わたし、これが欲しいけど、お金が足りないの。……までは想像が付くがその後が続かない。
どうやら千花にはそういうことは不得手のようである。
それに、そんな借りを作るくらいなら、お金を貯めて自分で買った方がよほどいい。
「……まあ、気にはなるけど、いつかお金を貯めて自分で買うことにする。気遣かってくれてありがとう」
ちなみに、エドアルドが街に付いてくるといった時から、彼にも敬語はなしでアルドと呼んでいる。
「……それなら、うちに中古があるからおまえに譲るが」
カイルが思わぬことを言ってきたので、千花は思わず飛び上がって喜んでしまった。
「えっ、本当!? それならぜひ譲ってほしい!」
しかし、中古にしても、あれだけの機能のものだ。それなりの値段はするだろう。
それで千花はなるべく譲歩することにした。
「でも、それでも売ればいい値段するよね? やっぱりわたしお金払うよ。……分割でいいかなあ」
「そんなことはおまえは気にしなくていい。それに俺はまだおまえに弟子就任の祝いをしていない」
「ええ……!?」
カイルにそう言われて、千花は驚いた。
あの可愛い部屋を用意してくれただけでも、充分と思っていたが、カイルにはどうやらそうでなかったらしい。
「他にも魔法道具や、関連の本も渡したいしな」
……それは魔法を覚える上で大変有意義だけれど、そんなに貰ってしまっていいのだろうか。
「え、そんなにいいの?」
千花はカイルが自分をこの世界に誘拐してきたこともすっかり忘れ果てて、申し訳なさそうにカイルを見上げる。
「ああ、構わない。どちらにしろ俺にはもう必要のないものだしな」
それはぶっきらぼうな口調だったが、千花はカイルの気遣いが嬉しく微笑んだ。
「うん。じゃあ、遠慮なく貰うね。ありがと、カイル」
するとカイルの頬が赤くなって、彼はそっぽを向く。
「別におまえに感謝されるようなことではない」
少し態度は悪いが、千花は既にカイルがツンデレだと気づいていたので、気にすることもなかった。
「カイルばかり、いい思いをしてずるいな」
めずらしく、エドアルドがその感情を露わにしてカイルに言う。
「本当だよ。職権乱用だよね」
レイナルドも不満そうに口を尖らせる。
「ま、まあ、今回はたまたまカイルが中古を持っていたので……。そういうことで、勘弁してください」
なんで自分が謝らなければいけないんだと千花は思ったが、そうしなければこの場は収まりそうもない。
「……まあ、ティカがそう言うならしかたないか」
「確かに、この件を引きずっていてもいけないしね」
レイナルドとエドアルドが渋々了承したので、千花はほっとした。
すると、それまで控えていたアルフレッドが楽しそうに言ってきた。
「実はこの奥に珍しい魔法書もあるんですよ。ティカさんは市内を回るのに忙しいでしょうから、それは次回にでも案内しますね。この店は少し入り組んでますから」
……魔法書!
それは実に魅力的だと千花は瞳を輝かせてアルフレッドを見た。
「……ティカ、アルフレッドをそんな目で見るのはよせ」
カイルが眉を寄せて抗議してきたが、千花はただ期待を込めて彼を見ただけだ。
どうも、この師匠は千花本人に関与しすぎるところがある。
「ただ、魔法書の存在が嬉しくてアルフレッドさんを見ただけでしょ。カイル、気にしすぎ」
「……カイルはティカさんが好きなのですね。とてもよく分かりましたよ」
笑顔でアルフレッドがカイルの肩を叩いてうんうん、というように頷いて言った。
「い、いや、俺は……」
反論しようとするカイルの口調にも勢いはない。これではそうだと認めてしまっているようなものだ、
千花がたった二度会った人にも見破られているカイルってどうなんだろうと思う。
ちらりと彼を窺うと、目元を染めてカイルが慌てて千花から顔を逸らす。
「……カイルは、分かりやすすぎだね。ティカがほだされないといいけれど」
「ティカ、カイルに流されないでね」
レイナルドにがしっと肩を掴まれて千花は困惑する。
二人の説得を聞いていて、千花は頭が痛くなって来たような気がした。
ああ、このお二方もカイルと同じようにばれてるし。
──それに、カイルとそんなことにはならないから、そんな心配は全く不要だ。
まずは、先週見ると約束したアルフレッドの魔法道具を見に行くのだ。
「いらっしゃいませ。ようこそ、お越しくださいました」
アルフレッドはエドアルドを見てすぐさま王子だと分かってしまったようだった。
やっぱり見る人が見れば分かるものなんだなと千花が思っていたら、なんのことはない。アルフレッドは過去に城で魔術師として勤めていたらしい。
千花達は華やかなアクセサリーショップの脇にある、魔法道具の置いてある方の店に入った。
その中に調理器具が置いてあるのを見つけて、千花はどんなふうにあっちの世界と違うんだろうと思って近寄った。
アルフレッドの説明によると、これは火を使うまではいかないから危険は少ないそうで、魔法の力で温めているらしい。
ガスレンジぽいのやら、オーブンは分かるけど、電子レンジみたいなものもあって、千花はちょっと驚く。
ここの文化も、魔法を使うことによって随分進化を遂げているらしい。
あとは半永久的に使える照明道具などもあって、売り上げ的にそれで大丈夫なのかと、余計なことまで千花は聞いてしまった。
大抵はそれより新しい機能の商品が出ることと、デザインに飽きることで買い換える人はそれなりにいるらしい。
あと、ラヴィニア達が使っていた映像を金属板に保存する機械もしっかりあった。
あっちでいうとなんなんだろうと千花は考える。
ビデオ? カメラ? 機能的には両方の機能を備えた、ポラロイド的ビデオというのが一番しっくりくる。
あとはなぜか、眼鏡がいくつもおいてあった。
これは普通の眼鏡ではなくて、遠くまで見渡せる双眼鏡みたいなものなのだそうだ。
もっと進んだものだと、音声まで拾えるものまであるらしいとか。
もっともこれは使用目的が限られていて、主に諜報用に使われているらしい。
アルフレッドの店でも、それをお城に卸しているとのことだった。
それを聞いて、平和そうに見えて、なんだかここも殺伐としているなあと千花は思う。
諜報というからには、他国とかに忍び込んで情報を集めているということだろう。
それから、なんの用途かか分からない薬類なども置いてあって、それを専門に処方している人もいるらしい。
あっちの世界でいう漢方みたいなものかと思ったが、これはれっきとした魔法薬らしい。効き目の方はカイルのお墨付きだ。
別に薬草をすり下ろしたり、乾燥したものを煎じて飲むのは薬湯として扱うらしい。
なるほど、と感心しながら、千花は店のあちこちを見て回った。
しかし、やはりあちらの電化製品に近いものに惹かれてしまい、千花はしばらくその辺りをうろうろしていた。
一番気になったものといったら、ラヴィニア達が使っていた映像を保存する装置だが、買うには圧倒的に小遣いが足りない値段だ。
携帯を持っていれば動画ぐらいいつでも録画できるが、あいにく千花は持たずに出かけて召喚されてしまったので、それは無理だ。
それにこれは、薄い金属片に立体的にその人物を映すことが出来るので、この技術は素直にすごいと思う。
そんなことを思って千花が装置をじっと見ていたら、三人に声をかけられた。
「欲しいのか?」
「君が欲しいのなら僕が買うけど」
「いや、ここはわたしが払うよ」
三人に一斉にそう言われて、千花は戸惑う。
確かにあの装置は欲しい。
けど、三人のうちの誰かにそれを買って貰うのはためらわれた。
下手すればいがみ合いの原因にもなりかねない。
「ううん、興味があるのは確かだけど、わたしには高すぎる買いものだし遠慮しておく」
千花が首を振ると、三人が面白くなさそうな顔をした。
「こういう時にねだってくれれば、男は嬉しいものなのに」
「……そうなの?」
レイナルドに少し不満そうに言われて、千花は首を傾げる。
でもどんなふうにねだるものかすら想像も付かない。
わたし、これが欲しいけど、お金が足りないの。……までは想像が付くがその後が続かない。
どうやら千花にはそういうことは不得手のようである。
それに、そんな借りを作るくらいなら、お金を貯めて自分で買った方がよほどいい。
「……まあ、気にはなるけど、いつかお金を貯めて自分で買うことにする。気遣かってくれてありがとう」
ちなみに、エドアルドが街に付いてくるといった時から、彼にも敬語はなしでアルドと呼んでいる。
「……それなら、うちに中古があるからおまえに譲るが」
カイルが思わぬことを言ってきたので、千花は思わず飛び上がって喜んでしまった。
「えっ、本当!? それならぜひ譲ってほしい!」
しかし、中古にしても、あれだけの機能のものだ。それなりの値段はするだろう。
それで千花はなるべく譲歩することにした。
「でも、それでも売ればいい値段するよね? やっぱりわたしお金払うよ。……分割でいいかなあ」
「そんなことはおまえは気にしなくていい。それに俺はまだおまえに弟子就任の祝いをしていない」
「ええ……!?」
カイルにそう言われて、千花は驚いた。
あの可愛い部屋を用意してくれただけでも、充分と思っていたが、カイルにはどうやらそうでなかったらしい。
「他にも魔法道具や、関連の本も渡したいしな」
……それは魔法を覚える上で大変有意義だけれど、そんなに貰ってしまっていいのだろうか。
「え、そんなにいいの?」
千花はカイルが自分をこの世界に誘拐してきたこともすっかり忘れ果てて、申し訳なさそうにカイルを見上げる。
「ああ、構わない。どちらにしろ俺にはもう必要のないものだしな」
それはぶっきらぼうな口調だったが、千花はカイルの気遣いが嬉しく微笑んだ。
「うん。じゃあ、遠慮なく貰うね。ありがと、カイル」
するとカイルの頬が赤くなって、彼はそっぽを向く。
「別におまえに感謝されるようなことではない」
少し態度は悪いが、千花は既にカイルがツンデレだと気づいていたので、気にすることもなかった。
「カイルばかり、いい思いをしてずるいな」
めずらしく、エドアルドがその感情を露わにしてカイルに言う。
「本当だよ。職権乱用だよね」
レイナルドも不満そうに口を尖らせる。
「ま、まあ、今回はたまたまカイルが中古を持っていたので……。そういうことで、勘弁してください」
なんで自分が謝らなければいけないんだと千花は思ったが、そうしなければこの場は収まりそうもない。
「……まあ、ティカがそう言うならしかたないか」
「確かに、この件を引きずっていてもいけないしね」
レイナルドとエドアルドが渋々了承したので、千花はほっとした。
すると、それまで控えていたアルフレッドが楽しそうに言ってきた。
「実はこの奥に珍しい魔法書もあるんですよ。ティカさんは市内を回るのに忙しいでしょうから、それは次回にでも案内しますね。この店は少し入り組んでますから」
……魔法書!
それは実に魅力的だと千花は瞳を輝かせてアルフレッドを見た。
「……ティカ、アルフレッドをそんな目で見るのはよせ」
カイルが眉を寄せて抗議してきたが、千花はただ期待を込めて彼を見ただけだ。
どうも、この師匠は千花本人に関与しすぎるところがある。
「ただ、魔法書の存在が嬉しくてアルフレッドさんを見ただけでしょ。カイル、気にしすぎ」
「……カイルはティカさんが好きなのですね。とてもよく分かりましたよ」
笑顔でアルフレッドがカイルの肩を叩いてうんうん、というように頷いて言った。
「い、いや、俺は……」
反論しようとするカイルの口調にも勢いはない。これではそうだと認めてしまっているようなものだ、
千花がたった二度会った人にも見破られているカイルってどうなんだろうと思う。
ちらりと彼を窺うと、目元を染めてカイルが慌てて千花から顔を逸らす。
「……カイルは、分かりやすすぎだね。ティカがほだされないといいけれど」
「ティカ、カイルに流されないでね」
レイナルドにがしっと肩を掴まれて千花は困惑する。
二人の説得を聞いていて、千花は頭が痛くなって来たような気がした。
ああ、このお二方もカイルと同じようにばれてるし。
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