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第一章:魔術師の弟子
第1話 どうやら異世界らしい
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千花がかき氷を食べていると、四十代ほどの男性が室内に現れた。なにか突然出てきたような気がするのだが、千花の気のせいだろうか。
『カイル、召喚魔法をやたらと使うなと言ったはずだが。またおまえは使ったのか』
千花のアイスを奪った男に文句を言っているようだが、なんとしゃべっているのか千花には理解できない。
「……誰?」
短い茶髪に青い瞳。また外国人だ。この人もファンタジー映画のような格好をしている。
いや、それ以前にここはどこなんだ。悠長にかき氷なんぞ食べている場合じゃなかった。
千花の疑問には二人は答えず、勝手に会話が続いていく。
「……師匠は弟子を取れと言った。だから、召喚魔法で魔力の強い者を喚び出した」
「はあ? 召喚魔法ってなによ? ファンタジー小説とかゲームじゃあるまいし」
いくら目の前の男の格好がファンタジーでも、言ってることまでそんなことってある? ……もしかして危ない人?
そんなことを考えて、千花が目の前の男から更に距離を取る。
『……なにを言ってるのか分からんな。ひょっとして異世界の者か?』
「そうだ。ここより科学が発達している世界の者だ」
千花の質問を無視して目の前の男と壮年の男の会話が進む。
『……おまえ、なんてことをしてくれたんだ。異世界の者を召喚しただと。今すぐ帰すんだ』
「そういうわけにはいかない。この娘には、俺の弟子になってもらわなければ」
「弟子ってなによ? なんでわたしがあんたの弟子にならなきゃいけないの?」
弟子って、なにかの伝統芸かなにかだろうか?
なんにせよ、アイスを奪われた恨みは深い。こんな男の弟子なんて、千花はまっぴらごめんだった。
「後で説明する。おまえは少し黙ってろ」
「なっ」
そっけなく男に一蹴されて、千花は気色ばむ。
『この娘にも家族や友人はいるだろう。それをこちらの勝手な事情で引き離す訳にはいかないだろう』
「しかし、たぐいまれな魔力の持ち主であることには変わりはない。もう決めたんだ。俺はこの娘を弟子にするぞ」
「魔力ってなによ? 勝手に人を弟子に認定しないでよ」
「黙れ」
男が千花に手のひらを向けると、なぜか彼女は話せなくなった。
な、な、なによこれーっ!?
千花は驚愕に口をパクパクさせる。
『……仕方ないな。おまえが言い出したらどんなに反対しても無駄だとは分かっている。だが、こんな大きな娘を弟子にするのはいろいろ問題があるぞ』
「とりあえず、この娘の部屋は用意する。それでいいだろう?」
『分かった、それでいい。……ああ、その娘の難民登録をするのを忘れるな』
「ああ、分かった」
よく分からないが話は付いたようだ。
それならわたしにも分かるように話して欲しいものだ。そう思って、千花は二人をじっと見る。
『言語疎通の指輪を渡した方が良さそうだな』
壮年の男が腕を掲げると、その手のひらに指輪が出現する。
なっ、なにあれ? なにかの手品?
壮年の男が千花に近寄って左手を取ろうとしたので、慌てて彼女は後ろに後ずさった。
しかし、男がなにかを呟いたとたん、体が動かなくなって千花は焦る。
な、な、なんだこれー!?
男は動けない千花の手を取ると、左手の中指に指輪をはめた。
「これで我々の言葉が分かるだろう。……カイル、この少女の沈黙魔法を解け」
あれっ? 話が分かる!
千花が驚いていると、カイルと呼ばれた青年が彼女に向かって短くなにかを呟く。
「……ちょっと、ここはどこなのよーっ!?」
話せるようになったとたん、カイルに千花は叫んだ。
「……もう少し、黙らせておいた方がよかったか?」
「そう言うわけにもいかないだろう。少なくとも我々には説明責任がある」
うんざりした口調のカイルに壮年の男がカイルの肩に腕を乗せて苦笑する。
「……ここは、オルデリード大陸、ガルディア王国。首都のルディアだ」
「は? 聞いたことない名前なんだけど」
「それはそうだろうな。おまえからしたらここは異世界だ」
いせかい。異世界。異世界!?
「あはははは、冗談きっついわ~」
千花は笑い飛ばしたが、目の前の二人はいたって真面目な表情だ。
「……すぐには信じられないのも仕方ないだろうな」
壮年の男がなにごとかを呟くと、景色が一変した。煉瓦色の屋根が遙か下に見える。
「ちょ、うそっ! 足、体浮いてるっ」
「ここがルディア市内中央だ。……おまえ、うるさいぞ」
カイルが眉をひそめるが、地に足が着いていない状態というのは不安なものだ。
「し、仕方ないでしょ。この状態で静かに出来るかっての!」
「まあ、そうかもしれないな。だが、落ちないから大丈夫だ」
壮年の男が苦笑すると、一点を指さした。
そこには立派な白い城。その城を中心としてヨーロッパのような古い町並みが円を描くように取り囲んでいた。
「なにあれ、もしかしてお城? ここはヨーロッパかなにか?」
「もしかしなくても城だが、おまえの言うようなヨーロッパというところではない」
カイルが千花の疑問を軽く否定する。
「それじゃ、新しいテーマパークかなにか出来たの?」
それにしてはすごい規模だ。千葉にあるのに東京と名のっている某テーマパークを軽く上回る。
「あれはガルディア城だ。この国の中心。魔法大国の顔でもある」
壮年の男が真面目に説明してくれるが、どうしても違和感が残る。
「さっきから魔法、魔法って……、おかしいんじゃないの、あなた達」
「じゃあ、今浮いているのはなんだ? さっき室内から移動してきたのは?」
「えー……、手品?」
千花が苦し紛れにそう言うと二人は頭を抱えた。
「ここまで見せて理解できないとはおまえは馬鹿か?」
カイルが心底呆れたように言った。
「なっ、失礼なこと言わないでよね!」
「待て、二人ともとりあえず戻るとしようか。これでは埒があかない」
「……ああ、そうする」
カイルが手を振ると、さっきの場所に戻ってきた。
「あ、あれ?」
「これが移動魔法だ。いい加減理解しろ」
千花が首を傾げているとカイルが冷たく言い放つ。
「この娘の場合、理解したくないというのが正解のようだがな」
「……ならば、理解させてやるまでだ。おいおまえ、名はなんという」
偉そうに言われて、千花はカチンとくる。
「人に名を尋ねるのなら、まず自分から名乗ったらどうよ?」
「……なんだと。──まあ、いい。俺はカイル。カイル・イノーセン。魔術師だ。こちらにいるのは俺の師匠でシモン・ガーランドだ」
魔術師? やっぱり鳩とか出すあれじゃないの?
「わたしは千花。佐藤千花だよ。そちら風に言えば、千花・佐藤かな」
「ティカ・サトー?」
「ティカじゃなくて、千花! ちゃんと発音してよね」
「……悪いが君の名前は、この大陸の人間には発音しにくい。良ければティカと呼ばせてもらっていいかな?」
カイルに比べれば大分人当たりのいいシモンに言われて、千花は不承不承頷く。
なにか納得できないが、発音できないのならば仕方ない。
「まあ、それならしょうがないけど」
「弟子のくせに偉そうだな、ティカ」
「あんたに言われたくないし! 第一弟子ってなんのことよ」
「おまえには俺の話は聞こえていたと思ったが。おまえの頭はスポンジか?」
「……そこまであんたに言われる筋合いはないんだけど?」
ビキビキと千花の周囲の空気が凍る中、シモンが慌てて言い繕った。
「カイル、おまえは口が悪すぎるぞ。ティカ、この男は言葉は悪いが腕だけは超一流だ。弟子としてそれだけは安心していい」
「とりあえず、おまえが俺の弟子になることはもう決定事項だ。おまえは家に自力では帰れないしな」
「……なんですって?」
到底看過できないことを言われて、千花は挑戦的にカイルを見上げた。
「召喚魔法でおまえをかの世界から喚び寄せた。どうしても帰りたいなら召喚魔法を習得してから帰れ。俺ですら習得に何年もかかった高等魔法だがな」
「ちょっと、勝手なこと言わないでよ! わたしはあんたの弟子になるなんて一言も言ってないよ! わたしの意思はどうなっちゃうわけ!?」
「はっきり言えばない」
きっぱりとカイルが言うと、シモンが肩を竦めた。
「……こんな男だから、この際、諦めてくれ」
「第一、師匠が城に仕官できなければ弟子を取れと言わなければこんな面倒なことせずにすんだんだ」
「俺のせいか? まさか召喚魔法で弟子を喚びだすなんて普通思わんだろう」
シモンが少し情けない顔になる。
千花は今までの二人の話を思い返しつつ、なんとか話を理解しようと努めた。
「……えーと、話をまとめると、ここは異世界でカイルがわたしを召喚魔法とやらで喚びだしたわけね? それで、その理由は弟子を取ることだったと」
「ああ、そうだ」
千花の確認に、カイルがあっさりと頷く。
「それで、わたしが召喚魔法を習得しないことには家には帰れないってことだよね?」
「そういうことになるな。まあ、諦めろ」
──諦めろと言われて、そう簡単に諦められるかっての!
「そうなんだー。ふふふ」
千花はやたらとふふふと笑うと、不気味がるカイルにおもむろに近寄る。そして彼に往復ビンタを思い切りお見舞いした。
『カイル、召喚魔法をやたらと使うなと言ったはずだが。またおまえは使ったのか』
千花のアイスを奪った男に文句を言っているようだが、なんとしゃべっているのか千花には理解できない。
「……誰?」
短い茶髪に青い瞳。また外国人だ。この人もファンタジー映画のような格好をしている。
いや、それ以前にここはどこなんだ。悠長にかき氷なんぞ食べている場合じゃなかった。
千花の疑問には二人は答えず、勝手に会話が続いていく。
「……師匠は弟子を取れと言った。だから、召喚魔法で魔力の強い者を喚び出した」
「はあ? 召喚魔法ってなによ? ファンタジー小説とかゲームじゃあるまいし」
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そんなことを考えて、千花が目の前の男から更に距離を取る。
『……なにを言ってるのか分からんな。ひょっとして異世界の者か?』
「そうだ。ここより科学が発達している世界の者だ」
千花の質問を無視して目の前の男と壮年の男の会話が進む。
『……おまえ、なんてことをしてくれたんだ。異世界の者を召喚しただと。今すぐ帰すんだ』
「そういうわけにはいかない。この娘には、俺の弟子になってもらわなければ」
「弟子ってなによ? なんでわたしがあんたの弟子にならなきゃいけないの?」
弟子って、なにかの伝統芸かなにかだろうか?
なんにせよ、アイスを奪われた恨みは深い。こんな男の弟子なんて、千花はまっぴらごめんだった。
「後で説明する。おまえは少し黙ってろ」
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そっけなく男に一蹴されて、千花は気色ばむ。
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「魔力ってなによ? 勝手に人を弟子に認定しないでよ」
「黙れ」
男が千花に手のひらを向けると、なぜか彼女は話せなくなった。
な、な、なによこれーっ!?
千花は驚愕に口をパクパクさせる。
『……仕方ないな。おまえが言い出したらどんなに反対しても無駄だとは分かっている。だが、こんな大きな娘を弟子にするのはいろいろ問題があるぞ』
「とりあえず、この娘の部屋は用意する。それでいいだろう?」
『分かった、それでいい。……ああ、その娘の難民登録をするのを忘れるな』
「ああ、分かった」
よく分からないが話は付いたようだ。
それならわたしにも分かるように話して欲しいものだ。そう思って、千花は二人をじっと見る。
『言語疎通の指輪を渡した方が良さそうだな』
壮年の男が腕を掲げると、その手のひらに指輪が出現する。
なっ、なにあれ? なにかの手品?
壮年の男が千花に近寄って左手を取ろうとしたので、慌てて彼女は後ろに後ずさった。
しかし、男がなにかを呟いたとたん、体が動かなくなって千花は焦る。
な、な、なんだこれー!?
男は動けない千花の手を取ると、左手の中指に指輪をはめた。
「これで我々の言葉が分かるだろう。……カイル、この少女の沈黙魔法を解け」
あれっ? 話が分かる!
千花が驚いていると、カイルと呼ばれた青年が彼女に向かって短くなにかを呟く。
「……ちょっと、ここはどこなのよーっ!?」
話せるようになったとたん、カイルに千花は叫んだ。
「……もう少し、黙らせておいた方がよかったか?」
「そう言うわけにもいかないだろう。少なくとも我々には説明責任がある」
うんざりした口調のカイルに壮年の男がカイルの肩に腕を乗せて苦笑する。
「……ここは、オルデリード大陸、ガルディア王国。首都のルディアだ」
「は? 聞いたことない名前なんだけど」
「それはそうだろうな。おまえからしたらここは異世界だ」
いせかい。異世界。異世界!?
「あはははは、冗談きっついわ~」
千花は笑い飛ばしたが、目の前の二人はいたって真面目な表情だ。
「……すぐには信じられないのも仕方ないだろうな」
壮年の男がなにごとかを呟くと、景色が一変した。煉瓦色の屋根が遙か下に見える。
「ちょ、うそっ! 足、体浮いてるっ」
「ここがルディア市内中央だ。……おまえ、うるさいぞ」
カイルが眉をひそめるが、地に足が着いていない状態というのは不安なものだ。
「し、仕方ないでしょ。この状態で静かに出来るかっての!」
「まあ、そうかもしれないな。だが、落ちないから大丈夫だ」
壮年の男が苦笑すると、一点を指さした。
そこには立派な白い城。その城を中心としてヨーロッパのような古い町並みが円を描くように取り囲んでいた。
「なにあれ、もしかしてお城? ここはヨーロッパかなにか?」
「もしかしなくても城だが、おまえの言うようなヨーロッパというところではない」
カイルが千花の疑問を軽く否定する。
「それじゃ、新しいテーマパークかなにか出来たの?」
それにしてはすごい規模だ。千葉にあるのに東京と名のっている某テーマパークを軽く上回る。
「あれはガルディア城だ。この国の中心。魔法大国の顔でもある」
壮年の男が真面目に説明してくれるが、どうしても違和感が残る。
「さっきから魔法、魔法って……、おかしいんじゃないの、あなた達」
「じゃあ、今浮いているのはなんだ? さっき室内から移動してきたのは?」
「えー……、手品?」
千花が苦し紛れにそう言うと二人は頭を抱えた。
「ここまで見せて理解できないとはおまえは馬鹿か?」
カイルが心底呆れたように言った。
「なっ、失礼なこと言わないでよね!」
「待て、二人ともとりあえず戻るとしようか。これでは埒があかない」
「……ああ、そうする」
カイルが手を振ると、さっきの場所に戻ってきた。
「あ、あれ?」
「これが移動魔法だ。いい加減理解しろ」
千花が首を傾げているとカイルが冷たく言い放つ。
「この娘の場合、理解したくないというのが正解のようだがな」
「……ならば、理解させてやるまでだ。おいおまえ、名はなんという」
偉そうに言われて、千花はカチンとくる。
「人に名を尋ねるのなら、まず自分から名乗ったらどうよ?」
「……なんだと。──まあ、いい。俺はカイル。カイル・イノーセン。魔術師だ。こちらにいるのは俺の師匠でシモン・ガーランドだ」
魔術師? やっぱり鳩とか出すあれじゃないの?
「わたしは千花。佐藤千花だよ。そちら風に言えば、千花・佐藤かな」
「ティカ・サトー?」
「ティカじゃなくて、千花! ちゃんと発音してよね」
「……悪いが君の名前は、この大陸の人間には発音しにくい。良ければティカと呼ばせてもらっていいかな?」
カイルに比べれば大分人当たりのいいシモンに言われて、千花は不承不承頷く。
なにか納得できないが、発音できないのならば仕方ない。
「まあ、それならしょうがないけど」
「弟子のくせに偉そうだな、ティカ」
「あんたに言われたくないし! 第一弟子ってなんのことよ」
「おまえには俺の話は聞こえていたと思ったが。おまえの頭はスポンジか?」
「……そこまであんたに言われる筋合いはないんだけど?」
ビキビキと千花の周囲の空気が凍る中、シモンが慌てて言い繕った。
「カイル、おまえは口が悪すぎるぞ。ティカ、この男は言葉は悪いが腕だけは超一流だ。弟子としてそれだけは安心していい」
「とりあえず、おまえが俺の弟子になることはもう決定事項だ。おまえは家に自力では帰れないしな」
「……なんですって?」
到底看過できないことを言われて、千花は挑戦的にカイルを見上げた。
「召喚魔法でおまえをかの世界から喚び寄せた。どうしても帰りたいなら召喚魔法を習得してから帰れ。俺ですら習得に何年もかかった高等魔法だがな」
「ちょっと、勝手なこと言わないでよ! わたしはあんたの弟子になるなんて一言も言ってないよ! わたしの意思はどうなっちゃうわけ!?」
「はっきり言えばない」
きっぱりとカイルが言うと、シモンが肩を竦めた。
「……こんな男だから、この際、諦めてくれ」
「第一、師匠が城に仕官できなければ弟子を取れと言わなければこんな面倒なことせずにすんだんだ」
「俺のせいか? まさか召喚魔法で弟子を喚びだすなんて普通思わんだろう」
シモンが少し情けない顔になる。
千花は今までの二人の話を思い返しつつ、なんとか話を理解しようと努めた。
「……えーと、話をまとめると、ここは異世界でカイルがわたしを召喚魔法とやらで喚びだしたわけね? それで、その理由は弟子を取ることだったと」
「ああ、そうだ」
千花の確認に、カイルがあっさりと頷く。
「それで、わたしが召喚魔法を習得しないことには家には帰れないってことだよね?」
「そういうことになるな。まあ、諦めろ」
──諦めろと言われて、そう簡単に諦められるかっての!
「そうなんだー。ふふふ」
千花はやたらとふふふと笑うと、不気味がるカイルにおもむろに近寄る。そして彼に往復ビンタを思い切りお見舞いした。
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