24 / 24
第24話 星座トラベラーズチェック(後編)
しおりを挟む
※この話は第23話の後編です。
「オバちゃん! 見てみてー! 飛ばすよー!」
出発当日の夜明け前、ホテルの部屋で寝ていた私はガイアの元気すぎる声で目を覚ました。眠い目をこすって声のする方を見た私は、思わず叫んだ。
「それはダメ!!」
部屋の大窓を開けたガイアが、手中の物を飛ばすべく大きく振りかぶった。その手にはキラキラと光る紙飛行機。間違いない、星座トラベラーズチェックの一枚だった。
「それー!」
私の言葉を無視して、ガイアは紙飛行機を窓の外に放った。
紙飛行機はたちまち綺麗な弧を描いて、流れ星のように星座の中へと吸い込まれていった。
駆け寄った私は、ガイアの手から残りのトラベラーズチェックをむしり取った。
「オバちゃんひどいよー! おばあちゃんに言いつけてやるー!」
寝転がって駄々をこねるガイアを無視して残りを確認すると、私の復路の券は無事だと分かった。
「スパルタさんにお願いして、ガイアくんの分を再発行してもらおう」
あの優しいスパルタさんなら、愛想よく応じてもらえるだろうと思った。
☆**☆**☆
「星座トラベラーズチェックの再発行は、弊社に瑕疵のない限り認められません」
スパルタさんは、にこやかだが厳しい口調で言い切った。
「そこをなんとか。まだ7歳の子どもがしたことなんです」
「……大変失礼ですが、あなた方地球人は、特に日本人の方は子どもを甘やかしすぎかと思います」
「え?」
スパルタさんの目は笑っていなかった。
「子どもと言えども立派な生命体です。自ら取った行動には責任を取る義務があります。双子座連邦国では、未成年も大人と等しい扱いを受けます」
「じゃあ、トラベラーズチェックの代金を支払うことで解決できませんか?」
「あのトラベラーズチェックは、生命体の『一生分の労働力』が対価となります。よってガイアさまには、この国に残って対価分の労働をしていただきます」
スパルタさんの口調から、冗談とは到底思えなかった。
「そんなこと、地球の家族が知ったら大変なことになりますよ!」
「ご心配には及びません。既にスペアをご用意いたしました」
スパルタさんはそう言うと、ホテルのロビーのスタッフに合図をした。
「こちらをどうぞ」
スタッフが連れて来たのは、ガイアそっくりの子どもだった。
慌てて後ろを振り返ると、ロビーのソファで眠りこけているガイアの姿が目に入った。
「この子は一体?」
私が目の前を指さして聞くと、スパルタさんは白い歯を見せて笑った。
「双子座と名がつく以上、同じものを作り出すことは他愛もないことです。
遺伝上も同じですから、DNA鑑定をしても問題ありません。
性格は、明野さまに従うようにインプットさせていただきました」
スパルタさんがスペアのガイアの背中に手をやり、私の方に押しやった。スペアは無邪気に笑って口を開いた。
「空美オバちゃん、ボクこれからは我がまま言わないで、良い子になるね」
これまでのガイアの暴れん坊ぶりとは、似ても似つかぬ従順さだった。
「本物のガイアさまのことは、私どもにお任せください。
双子座連邦国の誇りにかけて、立派な人格者に育てましょう」
「……よろしくお願いします」
ガイアそっくりの声と笑顔を前にして、後ろの子どもを振り返る気持ちは、私の中から宇宙の塵となって消えていた。
(了)
◎前編からお読みくださり、誠にありがとうございます。
わんぱくな子がある日とつぜん良い子になったら、宇宙帰りかもしれません。
「オバちゃん! 見てみてー! 飛ばすよー!」
出発当日の夜明け前、ホテルの部屋で寝ていた私はガイアの元気すぎる声で目を覚ました。眠い目をこすって声のする方を見た私は、思わず叫んだ。
「それはダメ!!」
部屋の大窓を開けたガイアが、手中の物を飛ばすべく大きく振りかぶった。その手にはキラキラと光る紙飛行機。間違いない、星座トラベラーズチェックの一枚だった。
「それー!」
私の言葉を無視して、ガイアは紙飛行機を窓の外に放った。
紙飛行機はたちまち綺麗な弧を描いて、流れ星のように星座の中へと吸い込まれていった。
駆け寄った私は、ガイアの手から残りのトラベラーズチェックをむしり取った。
「オバちゃんひどいよー! おばあちゃんに言いつけてやるー!」
寝転がって駄々をこねるガイアを無視して残りを確認すると、私の復路の券は無事だと分かった。
「スパルタさんにお願いして、ガイアくんの分を再発行してもらおう」
あの優しいスパルタさんなら、愛想よく応じてもらえるだろうと思った。
☆**☆**☆
「星座トラベラーズチェックの再発行は、弊社に瑕疵のない限り認められません」
スパルタさんは、にこやかだが厳しい口調で言い切った。
「そこをなんとか。まだ7歳の子どもがしたことなんです」
「……大変失礼ですが、あなた方地球人は、特に日本人の方は子どもを甘やかしすぎかと思います」
「え?」
スパルタさんの目は笑っていなかった。
「子どもと言えども立派な生命体です。自ら取った行動には責任を取る義務があります。双子座連邦国では、未成年も大人と等しい扱いを受けます」
「じゃあ、トラベラーズチェックの代金を支払うことで解決できませんか?」
「あのトラベラーズチェックは、生命体の『一生分の労働力』が対価となります。よってガイアさまには、この国に残って対価分の労働をしていただきます」
スパルタさんの口調から、冗談とは到底思えなかった。
「そんなこと、地球の家族が知ったら大変なことになりますよ!」
「ご心配には及びません。既にスペアをご用意いたしました」
スパルタさんはそう言うと、ホテルのロビーのスタッフに合図をした。
「こちらをどうぞ」
スタッフが連れて来たのは、ガイアそっくりの子どもだった。
慌てて後ろを振り返ると、ロビーのソファで眠りこけているガイアの姿が目に入った。
「この子は一体?」
私が目の前を指さして聞くと、スパルタさんは白い歯を見せて笑った。
「双子座と名がつく以上、同じものを作り出すことは他愛もないことです。
遺伝上も同じですから、DNA鑑定をしても問題ありません。
性格は、明野さまに従うようにインプットさせていただきました」
スパルタさんがスペアのガイアの背中に手をやり、私の方に押しやった。スペアは無邪気に笑って口を開いた。
「空美オバちゃん、ボクこれからは我がまま言わないで、良い子になるね」
これまでのガイアの暴れん坊ぶりとは、似ても似つかぬ従順さだった。
「本物のガイアさまのことは、私どもにお任せください。
双子座連邦国の誇りにかけて、立派な人格者に育てましょう」
「……よろしくお願いします」
ガイアそっくりの声と笑顔を前にして、後ろの子どもを振り返る気持ちは、私の中から宇宙の塵となって消えていた。
(了)
◎前編からお読みくださり、誠にありがとうございます。
わんぱくな子がある日とつぜん良い子になったら、宇宙帰りかもしれません。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる