23 / 24
第23話 星座トラベラーズチェック(前編)
しおりを挟む
※この話は、前編と後編があります。各5分ほどです。
【明野 空美(アケノ ソラミ)様
ご当選おめでとうございます。
賞品の「星座トラベラーズチェック」をお送りします。
貴殿のご来訪を心よりお待ちしております。
宇宙州 双子座連邦国】
一生に一度でも当選が難しいとされる、「星座トラベラーズチェック」(往復二名分の計4枚)が、宇宙から私宛に届いた。
トラベラーズチェックとは、地球での旅行用小切手に当たる。
クレジットカードの小冊子版のようなものだ。
厳密に言うと、この小冊子は「星座旅行券」と言うべきなのだろうが、宇宙人が書いたものなので多少の誤訳は大目に見ることにした。
同伴予定の夫とともに、私は出発の日を指折り数えて待った。
星座トラベラーズチェックは、特殊な技術で天の川のようにキラキラと輝いていた。
☆**☆**☆
「空美オバちゃん! まだ着かないの? ボクもう飽きたよ!」
宇宙船の座席に座る私の隣で、夫の甥っ子が足をばたつかせて声を張り上げた。
私は舌打ちしたい気持ちをこらえて、無理に笑顔を作った。
「ガイアくん、オバちゃん言ったよね? 双子座まで片道1ヶ月はかかるって。
それでも我慢するって約束だったよね?」
「えー! そんなの聞いてないよー! オバちゃんの嘘つき! キライ!」
7歳になる甥っ子のガイアは、両手両足をブンブン振り回して暴れた。
出発間近に夫が仕事で行けなくなったと聞いた姑が、夫の妹の子どもである、ガイアを代わりに連れて行くよう私に頼んできたのだ。
ガイアは「わんぱく小僧」どころではない、隕石落下並みの破壊力を持つ男の子だ。トイレを汚す、食べ散らかすのは朝飯前。どこでも暴れまくった挙句、嘘をついて周りをかく乱させるのが常だった。
「あなた達夫婦には子どもがいないから、ガイアを本当の子どもだと思って可愛がってね」
姑からそう言われると、初老の私には笑顔でガイアを預かるしか術はなかった。
義妹も普段から手を焼いていたので、快く承諾したとのことだった。
丸窓から見える宇宙の景色にも、ガイアは一日で飽きた。
座席に着かずうろちょろと走り回り、機長室にも入ろうとしたときはさすがに冷や汗をかいた。旅行なのにまったく楽しむ余裕がない。
「千載一遇のチャンスに、とんだ悪魔がついてきたもんだ」
個室トイレに腰を下ろして一人、やっとの思いで溜息をついた。
「空美オバちゃん! うんこ? 早く出てよー!」
ガイアの大声とともに、ドンドン、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえくる。
双子座に着く前から、私はもう我慢の限界だった。
☆**☆**☆
「ようこそ明野さま。お待ち申し上げておりました。長旅でさぞお疲れのことでしょう。早速ホテルにご案内します」
双子座連邦国に着いた私とガイアを出迎えてくれたのは、スパルタという名前の、美しい女性の姿をした宇宙人だった。ギリシャ神話に出てくる都市国家の名前からつけられたそうだ。
スパルタさんは名前のイメージとは程遠い、優雅な雰囲気と丁重な言葉遣いのツアーコンダクターだった。
「遊園地行こうよー! ぼくジェットコースター乗りたいよー」
「ガイアくん! 旅行なんだから、スパルタさんの言うことを聞いて!」
私がガイアをたしなめると、彼女は優しく微笑んでしゃがみこんだ。
「ガイアさま、私たちの国で一番人気の流星コースターはいかがでしょう。
オリオン座とこいぬ座を見下ろしながら味わうスリルは、ジェットコースターより何倍もお楽しみいただけると思います」
「やったー! スパルタさん大好きー! オバちゃんキライ!」
ガイアはスパルタさんに抱きついて、さりげなく胸に触っている。
「ガイアさまは星屑クッキーがお好きでしたね。今お持ちします」
スパルタさんは怒ることなくガイアの頭をなでて、一旦去った。
私にはもう、宇宙人というより、仏にしか見えなかった。
ガイアの傍若無人ぶりに振り回されつつ、スパルタさんのおもてなしのおかげで、私はそれなりに滞在を楽しむことが出来た。
スパルタさんにガイアの家庭教師を頼もうと思ったぐらい、彼女はガイアをあやすのが上手かった。
滞在期間の一ヶ月は飛ぶように過ぎて、やがて地球へと帰る日がやって来た。
(続く)
◎前編をお読みくださり、誠にありがとうございます。
明日、後編を更新いたします。よろしければお付き合いいただけると幸いです。
【明野 空美(アケノ ソラミ)様
ご当選おめでとうございます。
賞品の「星座トラベラーズチェック」をお送りします。
貴殿のご来訪を心よりお待ちしております。
宇宙州 双子座連邦国】
一生に一度でも当選が難しいとされる、「星座トラベラーズチェック」(往復二名分の計4枚)が、宇宙から私宛に届いた。
トラベラーズチェックとは、地球での旅行用小切手に当たる。
クレジットカードの小冊子版のようなものだ。
厳密に言うと、この小冊子は「星座旅行券」と言うべきなのだろうが、宇宙人が書いたものなので多少の誤訳は大目に見ることにした。
同伴予定の夫とともに、私は出発の日を指折り数えて待った。
星座トラベラーズチェックは、特殊な技術で天の川のようにキラキラと輝いていた。
☆**☆**☆
「空美オバちゃん! まだ着かないの? ボクもう飽きたよ!」
宇宙船の座席に座る私の隣で、夫の甥っ子が足をばたつかせて声を張り上げた。
私は舌打ちしたい気持ちをこらえて、無理に笑顔を作った。
「ガイアくん、オバちゃん言ったよね? 双子座まで片道1ヶ月はかかるって。
それでも我慢するって約束だったよね?」
「えー! そんなの聞いてないよー! オバちゃんの嘘つき! キライ!」
7歳になる甥っ子のガイアは、両手両足をブンブン振り回して暴れた。
出発間近に夫が仕事で行けなくなったと聞いた姑が、夫の妹の子どもである、ガイアを代わりに連れて行くよう私に頼んできたのだ。
ガイアは「わんぱく小僧」どころではない、隕石落下並みの破壊力を持つ男の子だ。トイレを汚す、食べ散らかすのは朝飯前。どこでも暴れまくった挙句、嘘をついて周りをかく乱させるのが常だった。
「あなた達夫婦には子どもがいないから、ガイアを本当の子どもだと思って可愛がってね」
姑からそう言われると、初老の私には笑顔でガイアを預かるしか術はなかった。
義妹も普段から手を焼いていたので、快く承諾したとのことだった。
丸窓から見える宇宙の景色にも、ガイアは一日で飽きた。
座席に着かずうろちょろと走り回り、機長室にも入ろうとしたときはさすがに冷や汗をかいた。旅行なのにまったく楽しむ余裕がない。
「千載一遇のチャンスに、とんだ悪魔がついてきたもんだ」
個室トイレに腰を下ろして一人、やっとの思いで溜息をついた。
「空美オバちゃん! うんこ? 早く出てよー!」
ガイアの大声とともに、ドンドン、ガチャガチャと鍵を回す音が聞こえくる。
双子座に着く前から、私はもう我慢の限界だった。
☆**☆**☆
「ようこそ明野さま。お待ち申し上げておりました。長旅でさぞお疲れのことでしょう。早速ホテルにご案内します」
双子座連邦国に着いた私とガイアを出迎えてくれたのは、スパルタという名前の、美しい女性の姿をした宇宙人だった。ギリシャ神話に出てくる都市国家の名前からつけられたそうだ。
スパルタさんは名前のイメージとは程遠い、優雅な雰囲気と丁重な言葉遣いのツアーコンダクターだった。
「遊園地行こうよー! ぼくジェットコースター乗りたいよー」
「ガイアくん! 旅行なんだから、スパルタさんの言うことを聞いて!」
私がガイアをたしなめると、彼女は優しく微笑んでしゃがみこんだ。
「ガイアさま、私たちの国で一番人気の流星コースターはいかがでしょう。
オリオン座とこいぬ座を見下ろしながら味わうスリルは、ジェットコースターより何倍もお楽しみいただけると思います」
「やったー! スパルタさん大好きー! オバちゃんキライ!」
ガイアはスパルタさんに抱きついて、さりげなく胸に触っている。
「ガイアさまは星屑クッキーがお好きでしたね。今お持ちします」
スパルタさんは怒ることなくガイアの頭をなでて、一旦去った。
私にはもう、宇宙人というより、仏にしか見えなかった。
ガイアの傍若無人ぶりに振り回されつつ、スパルタさんのおもてなしのおかげで、私はそれなりに滞在を楽しむことが出来た。
スパルタさんにガイアの家庭教師を頼もうと思ったぐらい、彼女はガイアをあやすのが上手かった。
滞在期間の一ヶ月は飛ぶように過ぎて、やがて地球へと帰る日がやって来た。
(続く)
◎前編をお読みくださり、誠にありがとうございます。
明日、後編を更新いたします。よろしければお付き合いいただけると幸いです。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる