21 / 24
第21話 兵、らっしゃい!
しおりを挟む
◎コント仕立てです。遅くなりましたが、新年の初笑いに少しでもお口に合えば幸いです。
一人のサラリーマン(治:20代前半)が寿司屋の前に立っている。
治「昼休みもまだ時間あるし、たまには高級寿司でも味わうか!」
治、寿司屋の戸を開けて入店。中はカウンター式で、店長らしき男(30代半ば)が立っている。
男「よく来たな、新人!早く入れ!」
治「は?」
治、驚いて男を見る。
男は割烹着の下にいかめしい軍服を着て、ミリタリーキャップをかぶっている。
男「グズグズするな!さっさと座れ!」
治「えっと、ここ寿司屋ですよね?」
男「新人が気安く話しかけるな!」
治「あなた、大将?」
男「大将じゃない。俺のことは、『隊長』と呼べ」
治「隊長?」
男「よし!今日もいいネタが入って来たな、バリバリ特訓してやろう」
治「特訓!?」
男「まずは好きなメニューを選べ」
治「よく分からないけど、寿司食えるんだよね?」
男「さっさと選べ!ネタの鮮度が落ちるぞ、バカ!」
治「優しいけど言葉遣いひでーな」
男「今日のメニューはこの二つだ。
カツオのたたき上げか、鉄火の軍艦巻きか。
好きな方を選べ」
治「なにココ、自衛隊の食堂なの?」
男「文句を言う奴に食わせる寿司はない!」
治「じゃあ、軍艦巻きで!」
隊長がカウンター内で酢飯を握り始める。治、その様子を見守る。
隊長「このシャリの白さ……むかし、ジャングルで散った仲間の骨のようだ」
治「すげえ客を無視した例えだな」
隊長「マイケル……陽気でいい奴だったのに……ちくしょぉ」
隊長がうつむき、気まずくなる治。
隊長「前線で倒れなきゃ、今ごろは家族と一緒に……ぐすっ」
治「早く寿司握ってほしいんだけどなー」
隊長「ったく、泣かせやがるぜ」
隊長、鼻水を拭き取った手でシャリを握る。
治「ちょっとぉ!手ぇ洗えよ!!」
隊長「ん?どうかしたか?」
治「汚ねぇだろーが、衛生的に!」
隊長「安心しろ。衛生兵なら、この奥で待機している」
治「そっちの衛生じゃねえ!」
隊長、手を洗ってシャリを握り直す。治、その様子を不安げに見つめる。
治「なんかやべーとこ来ちゃったなぁ」
隊長「よし、出来たぞ」
治「おっ、美味そう!じゃ早いとこ食っちゃお……って、どこ行くんだよ!?」
隊長、寿司を乗せた皿を持ってカウンターから出ると、裏口のドアに向かう。
隊長「ついてこい、こっちだ」
治「はあ!?どこで食わせる気だよ!」
隊長、治を連れて裏口を出る。空き地が二人の前に広がっている。
隊長「大佐!お食事をお持ちしました!大佐!」
治「誰だよ大佐って?」
空き地の隅からガサガサと音が聞こえる。何かが姿を現す。
猫「にゃあ~ん」
隊長「遅くなって申し訳ございません!おニャンコ大佐!」
治「いや、野良猫にやるのかよ!その寿司!」
隊長「貴様!おニャンコ大佐に向かって失礼だぞ!」
治「お前の呼び方のほうが失礼だわ」
隊長、猫に寿司をやり、食べる様子を愛おしそうに見つめる。
隊長「(ものすごく野太い声で)
おニャンコ大佐~、美味しいですか~?にゃあ~ん」
治「うわー、引くわー」
隊長「おニャンコ大佐~、可愛いですね~。にゃあ~ん」
そう言いながら、猫を抱っこする隊長。呆れ顔で眺める治。
隊長「よし、そろそろ戻るぞ」
治「今から握るとか、いつまで待たせんだよ」
隊長と治、野良猫をあとにして、裏口から店内に戻る。
隊長、猫の毛まみれの手をシャリに突っ込む。
治「手ぇ洗えや!!隊っ長おぉー!!」
隊長「また文句か」
治「衛生的にダメだって!!」
隊長「だから衛生兵なら、奥で待機してると」
治「繰り返すんじゃねー!!」
治、息切れで肩を上下させる。隊長、手を洗ってシャリを手に取る。
治「つーか、こんなとこで衛生兵なにやってんだよ」
隊長「それより貴様、腹ごしらえに時間がかかりすぎだ」
治「お前のせいだろ」
隊長、シャリを握り始めた途端、顔をしかめる。
隊長「うっ、しまったぁ!」
治「どうした!?」
隊長「さっき、おニャンコ大佐を担ぎ上げていたせいで……指に力が入らない!」
治「ネコ抱っこしてただけだろーが!」
隊長「こうなったら仕方がない。俺の兵糧食を分けてやろう」
治「大丈夫かよ」
隊長、冷蔵庫から寿司の乗った皿を取り出して、治の前に出す。
治「まあ、ネタは美味しそうだな……いただきます」
治、寿司を口に入れる。
治「うん、これは美味い……って、辛い!」
隊長「迷彩柄と言えば、ワサビだからな。
たっぷり仕込んでおいた。これも訓練だ」
治、激しくせき込む。
治「水、水をくれ!」
隊長「ダメだ!メニュー完遂まで水分補給は認めん!」
治「ウッ、米が喉に!き、気管に入った!」
隊長「俺のことか?それなら大丈夫だ」
治「その『貴官』じゃねーよ!バカ!」
治、苦悶の末になんとかやり過ごす。隊長、腕組みをしてうなずく。
隊長「新人にしては、よく頑張ったな」
治、隊長をにらみつける。
治「くっそぉ!生まれて初めて寿司職人を殴りたくなったぜぇ」
そのとき、寿司屋の戸が開いて人が入ってくる。
調理用白衣を着た中年男性が、入るなり隊長に目を留める。
男性「やい、てめえ!俺の許可なくカウンター入るなっつっただろう!」
隊長「いやあの、これはですね、その」
男性「自衛隊3日で辞めたくせに、軍人みたいな格好しやがって。
ちょっとは新人らしく掃除でもしたらどうだ!」
治「お前も新人やったんかい!」
(了)
◎おニャンコ大佐は特殊な訓練を受けています。
人間の食べ物を猫にあげるのは、猫の健康上良くないので控えましょう。
一人のサラリーマン(治:20代前半)が寿司屋の前に立っている。
治「昼休みもまだ時間あるし、たまには高級寿司でも味わうか!」
治、寿司屋の戸を開けて入店。中はカウンター式で、店長らしき男(30代半ば)が立っている。
男「よく来たな、新人!早く入れ!」
治「は?」
治、驚いて男を見る。
男は割烹着の下にいかめしい軍服を着て、ミリタリーキャップをかぶっている。
男「グズグズするな!さっさと座れ!」
治「えっと、ここ寿司屋ですよね?」
男「新人が気安く話しかけるな!」
治「あなた、大将?」
男「大将じゃない。俺のことは、『隊長』と呼べ」
治「隊長?」
男「よし!今日もいいネタが入って来たな、バリバリ特訓してやろう」
治「特訓!?」
男「まずは好きなメニューを選べ」
治「よく分からないけど、寿司食えるんだよね?」
男「さっさと選べ!ネタの鮮度が落ちるぞ、バカ!」
治「優しいけど言葉遣いひでーな」
男「今日のメニューはこの二つだ。
カツオのたたき上げか、鉄火の軍艦巻きか。
好きな方を選べ」
治「なにココ、自衛隊の食堂なの?」
男「文句を言う奴に食わせる寿司はない!」
治「じゃあ、軍艦巻きで!」
隊長がカウンター内で酢飯を握り始める。治、その様子を見守る。
隊長「このシャリの白さ……むかし、ジャングルで散った仲間の骨のようだ」
治「すげえ客を無視した例えだな」
隊長「マイケル……陽気でいい奴だったのに……ちくしょぉ」
隊長がうつむき、気まずくなる治。
隊長「前線で倒れなきゃ、今ごろは家族と一緒に……ぐすっ」
治「早く寿司握ってほしいんだけどなー」
隊長「ったく、泣かせやがるぜ」
隊長、鼻水を拭き取った手でシャリを握る。
治「ちょっとぉ!手ぇ洗えよ!!」
隊長「ん?どうかしたか?」
治「汚ねぇだろーが、衛生的に!」
隊長「安心しろ。衛生兵なら、この奥で待機している」
治「そっちの衛生じゃねえ!」
隊長、手を洗ってシャリを握り直す。治、その様子を不安げに見つめる。
治「なんかやべーとこ来ちゃったなぁ」
隊長「よし、出来たぞ」
治「おっ、美味そう!じゃ早いとこ食っちゃお……って、どこ行くんだよ!?」
隊長、寿司を乗せた皿を持ってカウンターから出ると、裏口のドアに向かう。
隊長「ついてこい、こっちだ」
治「はあ!?どこで食わせる気だよ!」
隊長、治を連れて裏口を出る。空き地が二人の前に広がっている。
隊長「大佐!お食事をお持ちしました!大佐!」
治「誰だよ大佐って?」
空き地の隅からガサガサと音が聞こえる。何かが姿を現す。
猫「にゃあ~ん」
隊長「遅くなって申し訳ございません!おニャンコ大佐!」
治「いや、野良猫にやるのかよ!その寿司!」
隊長「貴様!おニャンコ大佐に向かって失礼だぞ!」
治「お前の呼び方のほうが失礼だわ」
隊長、猫に寿司をやり、食べる様子を愛おしそうに見つめる。
隊長「(ものすごく野太い声で)
おニャンコ大佐~、美味しいですか~?にゃあ~ん」
治「うわー、引くわー」
隊長「おニャンコ大佐~、可愛いですね~。にゃあ~ん」
そう言いながら、猫を抱っこする隊長。呆れ顔で眺める治。
隊長「よし、そろそろ戻るぞ」
治「今から握るとか、いつまで待たせんだよ」
隊長と治、野良猫をあとにして、裏口から店内に戻る。
隊長、猫の毛まみれの手をシャリに突っ込む。
治「手ぇ洗えや!!隊っ長おぉー!!」
隊長「また文句か」
治「衛生的にダメだって!!」
隊長「だから衛生兵なら、奥で待機してると」
治「繰り返すんじゃねー!!」
治、息切れで肩を上下させる。隊長、手を洗ってシャリを手に取る。
治「つーか、こんなとこで衛生兵なにやってんだよ」
隊長「それより貴様、腹ごしらえに時間がかかりすぎだ」
治「お前のせいだろ」
隊長、シャリを握り始めた途端、顔をしかめる。
隊長「うっ、しまったぁ!」
治「どうした!?」
隊長「さっき、おニャンコ大佐を担ぎ上げていたせいで……指に力が入らない!」
治「ネコ抱っこしてただけだろーが!」
隊長「こうなったら仕方がない。俺の兵糧食を分けてやろう」
治「大丈夫かよ」
隊長、冷蔵庫から寿司の乗った皿を取り出して、治の前に出す。
治「まあ、ネタは美味しそうだな……いただきます」
治、寿司を口に入れる。
治「うん、これは美味い……って、辛い!」
隊長「迷彩柄と言えば、ワサビだからな。
たっぷり仕込んでおいた。これも訓練だ」
治、激しくせき込む。
治「水、水をくれ!」
隊長「ダメだ!メニュー完遂まで水分補給は認めん!」
治「ウッ、米が喉に!き、気管に入った!」
隊長「俺のことか?それなら大丈夫だ」
治「その『貴官』じゃねーよ!バカ!」
治、苦悶の末になんとかやり過ごす。隊長、腕組みをしてうなずく。
隊長「新人にしては、よく頑張ったな」
治、隊長をにらみつける。
治「くっそぉ!生まれて初めて寿司職人を殴りたくなったぜぇ」
そのとき、寿司屋の戸が開いて人が入ってくる。
調理用白衣を着た中年男性が、入るなり隊長に目を留める。
男性「やい、てめえ!俺の許可なくカウンター入るなっつっただろう!」
隊長「いやあの、これはですね、その」
男性「自衛隊3日で辞めたくせに、軍人みたいな格好しやがって。
ちょっとは新人らしく掃除でもしたらどうだ!」
治「お前も新人やったんかい!」
(了)
◎おニャンコ大佐は特殊な訓練を受けています。
人間の食べ物を猫にあげるのは、猫の健康上良くないので控えましょう。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる