ショートショートのお茶漬け

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第12話 時代遅れな時代

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「なあみんな、ペリー来航から何を学べると思うかい?」

「先生、僕は優れたパフォーマンスだと思います」
「どうしてだい?」
「島国日本にアメリカの軍事力を見せつけるために、蒸気船じょうきせんを含む4隻の軍艦で来たからです」

「そうだね。大きな脅威を感じさせるには有効だ。他には?」

「先生、私は日本人の好奇心の強さだと思います」
「どうしてかな?」
「黒船から発射されたのが空砲だと分かった江戸市民たちは、花火の代わりに楽しんだと言われているからです」
「そうだね。日本人はお祭り騒ぎが好きな人種だからね」

「先生。これから僕たちがすることと、ペリー来航と、いったい何の関係があるのですか?」
「いいかい。これは、現代社会に住む日本人へのアピールなんだ。
君たちが一生懸命頑張ることで、彼らが再び私たちに注目するようになるからね」

「分かりました! 頑張ります!」

「よし、じゃあ全員位置について!

よーい、始め!」


 ドーン

 ドーン

 ピュー

 ピュー


 ある者は、背中の輪に通した太鼓たちを力いっぱい鳴らし、

 ある者は、頭上に膨らませた袋を精一杯あおぎ、

 彼らの足元のはるか下の世界にて、

 雷がとどろき、雨風が強く吹き荒れる。


「やあ風神先生、順調ですか?」
「やあ雷神先生、おかげさまで」

「これで日本人たちに、私たちの脅威がよく伝わるでしょう」
「そうすれば、我々への畏敬の念が再び芽生え、祀られている神社に足が向く。
 やがて神社で祭りが始まれば、さらに人が集まるでしょう」

「神が人間に啓示ばかりするのも、もう時代遅れですからな」
「ええ、我々も人間の歴史から学ぶ時代が来ましたね」

 二柱の神々は、いかつい形相で雲の上から見下ろし続けた。

 *

 そのころ、日本のある家庭にて。
 老夫婦がリビングでくつろいでいた。

「あなた、見て! すごい暴風雨だわ! 雷も鳴ってる!」
 妻が窓の外を見て、思わず声を上げた。

「ああ、この週末も出かけられそうにないな」
 夫は、ちらりと見ただけで、すぐに広げていた新聞紙に視線を戻した。

「そういえば、今年に入ってから神社にお参りに行ったことがないわね」
 妻が手を頬に当てて言うと、夫は顔を上げずに答えた。

「仕方ないだろう。このご時世なんだから」
「でも、神様の罰が当たらないかしら?」

 妻の問いかけに、夫は笑った。

「そんな、時代遅れだな。今は信仰より、命の安全を優先させないと。
もう時代は令和なんだ。神様だってそのくらい、分かってるはずさ」

 夫はそう言うと、上喜撰じょうきせんの注がれたティーカップに手を伸ばした。

 (了)

◎小学生の作家様もいらっしゃるかもしれないので、念のために補足します:

上喜撰じょうきせんとは、緑茶の銘柄の一種。
黒船来航時の「蒸気船」(じょうきせん)とかけた狂歌
「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たつた四杯で夜も寝られず」で有名。
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