ショートショートのお茶漬け

rara33

文字の大きさ
上 下
13 / 24

第13話 トンネルの悲劇

しおりを挟む
※外見のことで嫌な思いをされた方は、閲覧にご注意願います。

 今もひどいトラウマになっている思い出がある。

「夏休みで学校ないのはいいけど、毎日暑いよね~」
「肝試しで涼みません?」
「じゃあ、今夜あそこ行く?」

 そんな会話がきっかけで、当時中学2年生だった私は、女友達2人と連れだって、近所にある「出る」と噂のトンネルに行った。

 それは廃線の高架下にある、横幅が人2人分くらいの小さなトンネルだった。


 夜遅くに家を抜け出した私たちが集合したとき、あたりはもう真っ暗だった。

「出たらどうする?」
「絶対置いてかないでよ!」

 どこか弾むような口調で、友達2人は臆することなくトンネルの闇の中に入っていった。

 非モテ陰キャな私と違って、「モテる女」を自認する彼女たちは、どこへ行ってもグイグイ進むのだ。

 私はそんな2人の後を、気後れしながらついていった。

 3人の靴音が、ピチャピチャと暗いトンネル内に響く。

「ひやぁ!」
「どうしたの!? ……イヤァ!」

 友達2人が立て続けに悲鳴を上げた。

「首筋にペロッてされた!」
「腕つかまれた!」

 彼女たちは悲鳴を上げながら、元来た方へと疾走しっそうした。

 何にもされなかった私も、つられて一緒に走った。

 そのあとは、みんな入り口まで無事に戻ってこられた。

「さっきのヤバかったよね!」と青ざめた顔で手を取り合う2人をよそに、私は黙ってトンネルを振り返った。

「ねえ! 見てあれ!」

 私がトンネルの入り口の壁を指さすと、友達2人はまた悲鳴を上げた。


 ――楽しかった また来てね――

 その壁に書かれた文字は、真っ赤な血の色だった。

 彼女たちは、大きな叫び声を響かせて一目散に逃げ帰った。


 でも、一人残された私は、なんだか納得が出来なかった。

「よし、もう一回入ろう」

 私はさっきと同じように、一人でトンネルの中へと歩を進めた。

 真っ暗な中、濡れた地面に自分の靴音だけが響いた。

 ピチャピチャ
 ……

 ピチャピチャ
 ……

 歩き続けて、とうとうトンネルの一番奥まで来てしまった。

 そのまましばらく突っ立っていたけど、やっぱり何も起こらない。

 仕方がないので、私は入口へと引き返し始めた。

 ピチャピチャ
 ……

 結局、何かされることもなく、無事に入口にたどり着いてしまった。

「さっきのは、2人の芝居だったのかな?」

 私は一人でつぶやくと、さっき文字が書かれていた壁の場所に目をやった。
 
 するとそこには、また同じように真っ赤な文字が浮かんでいた。


 ――ブスは帰れ――

 私の心は血まみれになった。

 (了)

◎この話はフィクションです。
お読みくださり、誠にありがとうございます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ひとり

田中葵
現代文学
ちょっとここらで人生語り、とか

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男性作家と同姓同名の人シリーズ

田中葵
現代文学
悲喜こもごも……

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

処理中です...